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「やっ・・・紫龍、恥ずかしい・・・」
紫龍の指に後ろの蕾を解され
そしてその唇は紫苑の勃ち上がったペニスに絡み付いている。
何度されても、恥ずかしくて、そして気持ちいいこの行為に紫苑は全身を震わせながらも、
心では抗い、そして体はもっとと求めていた。
そんな自分が恥ずかしくて、いつまでたっても慣れはしない。

舌先で尿道口を突付かれると、それだけで射精感がつのり足の指に力が入る。
「あん紫龍・・そんなにしたら駄目ぇ・・・」
今にも達してしまいそうなのに紫龍の左手が根元を掴みそれを阻んでいた。
「あぁっ紫龍ぅ・・・あぁぁ」
指が3本に増やされたのだろう、孔が拡げられる感覚に自然と力が入ってしまう。

「紫苑、力抜いて」
3本の指が体の中でバラバラに動き、敏感な部分も掠めてしまう。
もう少し強く触れて欲しいと自然と腰が浮き、それに気づきまた息を吐き出す。
達しそうで達しない苦痛の中、紫龍の指が去り、唇も去った。

ごそごそと、取り出した物にローションを塗っている気配を感じ紫苑は更に体を強張らせた。
「大丈夫だよ、そう大きな物じゃないから」
紫龍はそう言うが、以前使われた事のあるピンクの蚕みたいなのに比べたら、
それは充分に大きく小ぶりながらも、しっかりとペニスの形をしているのだ・・・
ぐいっと入り口に当てられた。指とも紫龍とも違う形状を紫苑の体は受け付けない。

再び紫龍が紫苑のペニスを咥え紫苑が「あっ」と小さく喘いだ瞬間に
その異物は紫苑の中に頭を沈めた。
「やぁっ・・・」
解された孔はローションの力も借りて、ゆっくりと中に異物を受け入れる。
そして玩具の太い部分が紫苑の敏感な部分に当たる所で止った。
当たっているだけでかなり刺激が強い「あぁっ・・あぁ紫龍・・」

「どう?気持ちいい?」
左手で紫苑のペニスを扱きながら、右手はその玩具をゆっくりと挿送させている。
何度かそれを繰り返した後、それはもう一度前立腺の辺りで動きを止めた。
だがその瞬間にスィッチが入れられモーター音と共に内側から激しく前立腺が揺さぶられた。

「やぁぁぁあぁぁぁぁっだめぇ・・・紫龍イっちゃう」
「いいぞイっても、もう少し強くするぞ」
紫龍がそう言うとその異物は紫苑の中を掻き回すように暴れだした。
「あああぁぁっだめっ・・・イっちゃう・・あぁぁ・・紫龍イッ・・」

四肢を強張らせ小さく開いた唇の隙間から甘い吐息が漏れている。
初めての経験に紫苑も興奮してしまったのか、普段よりも艶かしく見えてしまう。
『くそっ』そんな紫苑を見て自分で使っておきながら、こんな玩具にも嫉妬を覚えてしまった紫龍は、紫苑に負担にならないようにそっと抜き電源を切った。
「はぁ・・はぁ・・」そしてまだ息の整わぬ紫苑の膝裏を抱え上げ、ひくひくと震える孔に己をぐぐっと埋めて行った。

「あぁっ紫龍まだ・・駄目」
「駄目じゃない、もう紫苑の中絡みついてきているから」
熱く潤んだ孔から出て行けと言われてもそれは到底無理な話だ。
「凄い、紫苑の中凄いよ」
「やっ・・恥ずかしい事ばかり・・・言ったら駄目ぇ」
「あぁ紫苑の中最高だ・・・」
「紫龍のも熱い・・・凄い・・あっ奥に当たる・・・」
紫苑も最大限の紫龍を体いっぱいに感じていた。

「紫龍・・・愛してる?」淫らに喘ぎながらも愛を確かめる紫苑をきつく抱きしめ
「ああ、愛してる紫苑だけだ」と囁く。
そう囁きながら紫苑の色に染まった顔を覗きこみ、
その桃色に染まる頬に唇に何度も唇を重ねる紫龍だった。

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「なあ紫苑俺のクリスマスプレゼント気に入った」
「気に入りません!」
「どうして?俺は3日3晩考えてやっと決めたのに、種類が多いから選ぶの大変なんだ」
「それを無駄な努力って言うんですっ!」
珍しく語気の強い紫苑に、それ以上掛ける言葉もなく紫龍はうな垂れる。

「今夜から寝室を別にします、僕は和室で寝ますから、絶対入って来ないで下さいね。
もし入って来たら・・・」
「入ってきたら?」
「・・・実家に帰らせて頂きます」
そう宣言すると紫苑は自分の枕だけを抱えて、二人の寝室を出て行った。

「はぁ・・・」深い溜息を洩らしながら紫龍は小さく舌打ちをする。
こんな筈じゃなかったのに・・・何処で間違ってしまったんだろう?


「はぁ・・っ」
「溜息吐いている暇があったら、書類に目を通して下さいよ」
社長室で浅田に再三小言をくらってしまい、また溜息を零す。
「クリスマスプレゼントに大人の玩具なんか贈るお前が悪い」
「紫苑に何が欲しいか聞いても、何も要らないって言うばかりで・・・
ネットで色々探していたら、つい・・・・喜ぶと思ったんだよ」
「本当にお前の脳みそは・・・呆れて物も言えない」
ついに浅田は秘書室長という立場から長年の友人の口調に戻った。

「紫苑が物を欲しがらないのが悪いんだ」
「あの子は一番欲しかった家族ってのをお前から貰ったから、
もう何も望む物は無いって以前言ってたぞ」
「えっ・・・浅田ぁそれを早く言ってくれよ」
この情けない男が、何度も言うようだがここ株式会社DOMOTOの社長、堂本紫龍だ。

「明日から正月休みに入るって言うのに、このままじゃ家庭内別居だ」
もう3日もまともに口を聞いてもらえない紫龍だったのだ。
「何、まだ寝室は別のままか?」
本当は浅田はおかしくて笑い出したかったが、必死に堪えていた。
切れ者と社内外で名が通っている堂本が紫苑を前にすると歯が立たない。
「2・3日他所に泊まったらどうだ?」浅田の斬新な提案に驚き顔を上げた。

「お前が折れて謝り倒すか、意地を貫くかどっちかだな?」
「・・・意地を貫き通す!」
堂本の単純さに浅田は内心『拗れるだけなのに、馬鹿め』
と思っていたのを紫龍は気付いていない。

「では私から紫苑君には連絡を入れておきましょう」
平然とそう言う浅田に紫龍も平静を装って
「ああ、宜しく頼む」と張らなくていい意地を張ってしまった。

早速浅田は総務部福利厚生課を内線で呼び出した。
タイミングの良い事に紫苑が電話に出る。
「あ堂本君、浅田だけど、今日から2日ばかり社長は私用でホテルにお泊りです」
「え、ホテル・・私用ですか・・?」
「そのようですので、お帰りを待つ必要はありませんから、では」
あっさりと浅田に電話を切られ、紫苑は呆然としていた。

「おい浅田、何だかややこしい事にならないか?」
「そうですか?どうせマンションに帰っても家庭内別居なんでしょう?
さぁそれよりも、こちらの稟議書先に目を通して下さいよ」
一瞬にして秘書の顔に戻れる浅田が羨ましくもあった。
「おい、浅田、紫苑一人で帰れるか?」
「もうりっぱな社会人です、帰れない方がおかしいでしょう?」
「おい、晩飯はどうするんだ?」
「い・い・か・げ・ん・にして下さいっ!!」
「ちっ・・・・」
諦めて紫龍も渡された稟議書に目を通すが、内容なんか頭に入っては来ない。

一方浮かない顔で電話を切った紫苑を見て沖田が声を掛けた。
「どうしましたか?」
「いえ・・・すみません私用です」
「何か悩みがありそうな顔をしていますが?私でよければ相談に乗りますよ?」
「いえ・・・あの・・いいです、すみません」
こんな事を他人に話せる訳は無かった。

自分も意地を張りすぎてしまったのだろうか?
紫苑は内心そう思ったが、逆に2日も外泊するという紫龍に小さな怒りも隠せなかった。
紫龍さえあんな物を寄越さなければ、こんな事にはならなかったのに・・
『はっ?』もしかして、紫龍は自分との行為に満足していない?
だからあんな物で刺激を得ようとしているのかもしれない・・・

結局1日憂鬱な気分で過ごす羽目になってしまった。
帰り際「飲みに行きましょうか?」
と沖田に誘われたが、また飲んでしまうと大変な事になりそうだと思い、沖田の誘いを断った。
「そうですか、残念ですね、では良いお年を」
本当に残念そうに言う沖田に恐縮しながら紫苑は会社を後にした。

久しぶりに一人で電車で帰らなければならないのだ。
そして部屋に帰っても今夜は紫龍はマンションには帰っては来ない・・・
定期を持たない紫苑は携帯電話の機能を使って改札を通り抜けほっと一息吐いた。
便利な機能だ・・・切符の購入に戸惑う事も無く電車に乗れた事を少し嬉しく思った。
考えてみれば大学時代は電車で通学していたのだ、
どれだけ今の自分が紫龍に甘やかされているのか?
通勤ラッシュよりも少し早い時間だったから、紫苑はもみくちゃにされる事も痴漢にあう事も無く最寄の駅で電車を下りる事が出来た。

『僕だってもう立派な社会人なんだ・・・』
だがそんな紫苑から少し離れた所に立つ一人の中年がいた事に紫苑は気付かなかった。
紫苑が会社を出た時からずっと紫苑の後を付けていたのは、紫龍の運転手の黒木だ。
「もしもし、はい紫苑さまは無事駅に到着されました」
その電話の相手は言わずもがな・・・
「あ、何だか駅ビルの中に入って行かれました、はい、はいでは又後で」
そう報告すると黒木は電話を切り紫苑の姿を見失わないように後を付けた。

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やはり、紫苑も仲間に入れましょう、と思ってのおまけのSSです・・・
が通常文字数1話では終わりませんでした^^;
続きます(笑)

紫苑が行ったのは駅ビルの中にあるデパートの生活雑貨売り場だった。
そしてそこで紫苑が何度も手に取り、
値段を確認しながら色々考えた挙句結局棚に戻した物があった。
そのタジン鍋を買うのを諦めた紫苑は今度は紳士服売り場に移動する。

「何だそのタジン鍋っていうのは?」
紫苑が場所を移動するたびに黒木から連絡をもらう紫龍が尋ねた。
「モロッコの鍋でとんがり帽子みたいな蓋の鍋ですよ、ご存知じゃないんですか?」

「そんなの知るわけないだろう?黒木はよく知ってるな?」
「はい、家も先日家内が買って参りまして・・」黒木の声が嬉しそうなトーンに変わった。
「ふ・・ん、それでその鍋って紫苑が手が出ないほど高い物なのか?」
「いえ、紫苑さまが手に取り何度もご覧になってたのは、6000円程の物でした」

「悪いがあとでそれ買っておいてくれないか?」
「畏まりました」
30分もその鍋の前で悩んでいた紫苑に買えない価格ではない。
代用出来る物がある場合は紫苑にとってみな贅沢品なのだ。

黒木は紫苑に気づかれないように、その様子を伺っていた。
紫苑が手に取ったのは黒地にモスグリーンの細いストライプが入ったシャツだった。
どう見ても紫苑に似合いそうな雰囲気のシャツでは無い。

そのシャツを広げて見ていた紫苑は迷わずにそれを持ってレジに向かった。
黒木がその商品の所に行き値段を確認すると、
さっき紫苑が迷った鍋が4つ程買えそうな物だった。
だがその件は紫龍に報告される事は無かった。

買い物を済ますと紫苑は真っ直ぐマンションに向かい、その豪華な建物の中に消えて行った。
「紫苑さまは今マンションにお入りになりました」
「そうか、手間をとらせたな、ありがとう」
紫龍に報告してから、黒木はさっきのタジン鍋を買いに駅ビルに向かって、
その鍋を持ち会社に戻った。
社長室で待つ紫龍にそれを渡しながら「愛されていますね」
と告げると紫龍が驚いた顔をし、そして紫龍が口を開く前に黒木は社長室を辞した。

『愛されてますね』か・・・
何を根拠に黒木がそう言ったのかは判らなかったが、それを否定するつもりも無かった。
だが今、自分がホテルになど泊まってはならない事だけは確かなような気がした。
内線で、秘書課に戻った浅田に連絡を取った。
「浅田、ホテルはキャンセルしてくれ」
「ホテル?貴方は本当に外泊するつもりだったのですか?」
「え・・っ?」
「そんなの最初っから予約などしていませんので」
『くそっ、遊ばれたか・・・』内心舌打ちしながら受話器を置いた。

仕事を片付けて紫龍がマンションに戻ったのはそれから2時間後だった。
もう10時を過ぎている、まだ寝てはいないと思うが紫龍はドアを音がしないようにそっと閉めた。
リビングに紫苑の姿は見えない、ダイニングに行き不覚にも紫龍は胸が熱くなった。
そこにはテーブルの上に2人分の食事の用意がしてあり、
待ち疲れたのだろうか?紫苑がテーブルに顔を伏せ眠っていた。

そのテーブルの端にタジン鍋が入った箱を置き紫苑の肩をそっと揺さぶった。
「紫苑、こんな所で寝ていたら風邪ひくぞ」
「ん・・ん・・あ・あれっ?」紫苑は状況が把握できないって顔でぽかんとしている。

「えっ・・あぁ・・し・・ああーーっ!」
紫龍の名を呼ぶ前に視線の先にある箱に気づいた紫苑は驚いた声を上げた。
「ああぁタジン鍋だぁ、どうしたのこれ?」
箱を抱えて不思議そうな、嬉しそうな顔で紫苑は聞いてきた。
「最近流行ってるって聞いて・・・」まさか黒木に尾行させて買ったとは言えない。
「ねぇこれ貰ってもいいの?」
「ああ・・・」
「嬉しいっ!これずっと欲しかったんだぁ。でもちょっと手が出なくて・・」
その手が出ない感覚が紫龍には少し判らない気がしたが・・・

「あのクリスマスプレゼントと交換してもいいか?」
「えっ?あ・・・・」途端に紫苑の顔が真っ赤になってしまう。
これで良かったんだと紫龍は内心安堵のため息を吐いた。
「でも・・」
「ん・・?」
「あれはあれで頂いててもいいですか?」
タジン鍋の箱を抱えた紫苑が俯いたままそう尋ねてきた、項まで染まっている。

「あ・あれ・・使ってくれるのか?」
「タ・タ・タジン鍋のお礼です・・だからいつかそのうちに」
『くそっ、なんで鍋1個しか買って来ないんだ黒木!』

「紫苑、怒らないで聞いてくれる?」
「ん?」何って顔で下から見上げる紫苑に思い切って駄目もとで言ってみた。
「その・・いつかそのうちっては今夜じゃ駄目か?」
「・・・・」
『やばい・・又実家って言うのか?』そう思った時に紫苑が黙って頷いた。
「紫苑本当に?」
「はい・・・でもその前に夕飯とお風呂ですから」

その言葉に紫龍はさっさと立ち塞がる2つの壁をクリアして
紫苑が風呂から出てくるのをベッドで待った。
湯上り玉子肌紫苑はいつにも増して艶やかな肌をしている。
その体を抱きすくめようとした時に「あ、僕もプレゼントあるんです」
そう言われ身をかわされた。
紫苑から包みを受け取ると、中からは洒落たシャツが出てきた。
「クリスマスプレゼントなら、もう貰ったのに」
「これは、悩んでやめた方なんですけど、やっぱり気になって買ってしまいました」

そんな紫苑の気持ちが嬉しくて「紫苑はもしかして俺の事ばかり考えてる?」とからかってみた。
「はい、紫龍の喜ぶ顔が好きだから」
「気が合うな、俺も紫苑の事ばかり考えてる、紫苑の喜ぶ顔が見たいから」

言葉を受けて微笑む紫苑にイブの夜からお預けになっていた紫龍が
沸き起こる内なる情欲を鎮めながらそっと紫苑の体に覆いかぶさって行った。


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ほら、耳を澄ましてごらん・・・
扉の奥からすすり泣くような声とくぐもった機械音が・・・・・

聞こえて来た方・・・それは空耳ですから^^






最後までお読み頂きありがとうございました。

今年2月に「天使の箱庭」を開設して、最初のお話「天使が啼いた夜」の
紫苑と紫龍のラブラブっぷりで今年の更新を〆たいと思います。

まだまだ書き手としては未熟者では御座いますが、沢山の方に読んで頂き、
ランキングでも上位に名前を並べる事が出来ました。
両方合わせると38万を超えるアクセス数になります。
自分でも驚く程の数字です。

多くのブロガー様と仲良くして頂き、
そして多くの読み手様に可愛がって頂いて幸せ者です。

本当に有難う御座いました。
そしてまた来年も宜しくお願い致します!!

2010・12・30 「天使の箱庭 eternity」kikyou




いや空耳じゃないって方はこちら(短めです)からどうぞ

堂本家の正月

 01, 2011 20:45
紫龍は昨夜の悪夢を思い出しながらそっと寝室の扉を開けてリビングを覗いた。
『いた・・・』
その姿を確認すると一呼吸してからリビングに入って行く。

パジャマ姿の紫龍に気づき「何だその格好は?だらし無い」
と紫龍は新年早々小言を喰らってしまった。
「すみません、それにしても早起きだな親父も、おふくろは?」
「紫苑君と一緒にお節の準備をしている」
「でもまさか本当に泊まるとは思わなかった・・」

「仕方ないじゃないか母さんが嫁と正月の用意するのが夢だったって言うんだから」
「嫁って・・・」一応戸籍上は紫苑は養子にはなってはいるが、
嫁と言われて果たして紫苑が喜ぶのか?
だがその疑問は紫龍の心の中に仕舞っておいた。

事の始まりは、紫苑の年越し蕎麦だった。
紫苑が蕎麦を打つ所を見てみたいと親父が言い出し、
結局はこのマンションで紫苑の蕎麦打ちの披露が始まった。
親父は張り切って紫苑に蕎麦打ちのコツなど習い、
お袋は海老の天麩羅を揚げるのに忙しかった。

その後豪勢な年越し蕎麦が振舞われ、4人で賑やかな年越しをしたのだった。
紫苑や両親の嬉しそうな顔を見ていたら、文句など言えるはずもなかった。
そして呑みすぎた親父と、お節の準備をしていたお袋がここに泊まる事も文句の言えない流れだった。

「紫龍、着替えてきて」
キッチンから顔を覗かせた紫苑に言われ、紫龍は素直に寝室に戻り着替えた。
着替えて戻る頃には、テーブルの上には重箱が広げられている。
「凄いな・・・これ紫苑が作ったのか?」
「はい、ママさんに手伝ってもらって」
「あら、殆ど昨日のうちに紫苑ちゃんが下ごしらえしていたのよ」

イキイキとした母親を見て「お袋、何だか今日は若く見えるな・・・」と言うと
「もう、楽しくて・・・紫苑ちゃん何でも良く知ってるし」
「そんな事ないです、ママさんに色々な事教えてもらって・・」
どっちの顔を見ても幸せ一杯の顔をしている。


「いい正月だ」親父がぽつりと呟いた。
去年の正月は紫苑の祖母である小山田咲の喪中だったために静かな正月だった。
堂本家はまだ関係なかったのだが、親父やお袋の意向で喪に服した。


「新年おめでとうございます」
みんなで挨拶をしてから食事が始まった。
「トキさんも呼べばよかったのに・・・」紫苑が寂しい顔をするが
「誘ったんだけどね、家族水入らずでどうぞって」と紫龍の母親が言う。
「トキさんも家族なのに・・・」
「そうね・・・来年は縄を着けてでも引っ張って来るわ」
『ら・来年も来るつもりなのか?!』

「正月早々来年の話か・・・」そんな紫龍のボヤキも皆の笑いを誘う。

紫苑が幸せそうに笑っているのがいい・・・
邪魔者がいなければ、このままベッドに連れて行きたいくらいだ。

ふっと気がつけば、紫苑の顔がほんのり色づいている。
「紫苑・・・飲んだのか?」
「はい、御屠蘇ですけど」
「も・もうそれ以上飲むな・・・」
「何言ってるのよ、家の中なんだから大丈夫でしょう」無責任な母親に紫龍は頭を抱える。

「こいつ本当に酒に弱いんだから・・・」
「全く過保護なヤツだ」父親も呆れたように紫龍を責める。
「そうそう、お正月なんですから」当の本人は・・・もう酔っている。

「ま、いいか正月だもんな、でもあとで具合悪くなっても知らないぞ」
「大丈夫ですっ!」『あぁやっぱり結構酔っ払ってる・・・』
それはそれで楽しもではあるが、残念なことに今日は邪魔者が居るのだ・・・

そして暫くすると、案の定紫苑が眠そうな目を必死に開けようとしている。
「紫苑、眠かったらちょっと休めば?」
「いえ、大丈夫ですっ・・・」
夕べも片付けや準備で寝るのが遅く、今朝も早くから起きているだろうに。
紫苑の体がふらふらとしているのを笑いを堪えて紫龍は見守っていた。



それから3時間後、リビングのソファの上で目覚めた紫苑は状況を理解できないようだ。
「あれ・・・・僕?」
「結局寝ちゃったんだよ」
「ええっ?ママさんとパパさんは?」
「起こすなって言って帰ったよ、ほらこれ預かった」
紫龍が紫苑に差し出したのは、『お年玉』と書かれたポチ袋だった。

寝ぼけていた紫苑の顔がぱあっと輝いた。
「わぁっ、お年玉?!開けてもいい?」
子供のようにはしゃぐ紫苑に「開けてみれば」と紫龍も答えた。
こんな小さな袋では、入っている金額も高が知れている。

「僕、お年玉貰うの何年ぶりだろう?」
「そうか、良かったな」
「凄い、1万円だ!」
紫龍は内心子供じゃないんだから、と思っていたが紫苑が喜ぶのならそれでいい。

「紫苑、今年も宜しくな」
バタバタしてて紫苑にちゃんと挨拶してないのを思い出し、紫龍はそう言った。
紫龍の言葉を受けて紫苑はソファから下り、ラグの上に正座して
「僕の方こそ、また1年宜しくお願いします」と頭を下げる。

「さぁて、お節も食ったし、お年玉も貰ったし・・あとは姫始めだな」
「ヒメハジメ?」キョトンとする紫苑ににやけた顔の紫龍が
「ああ、それは・・」と紫苑以外に聞こえないようにそっと耳元で囁いた。

真っ赤になる紫苑の手を取って、ベッドに連れて行った事は・・・言うまでもない。






今回は空耳は御座いません^^;

喪中につき新年のご挨拶は出来ませんが
私の代わりに紫苑がしてくれたと思います。

本年も宜しくお願い致します。
皆様が幸せな年になりますように願っております。



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バレンタインの囁き

 14, 2011 03:54
「紫苑・・何だその荷物は?」
日曜日の午後買い物に行くと出かけた紫苑が戻って来た時には、エコバッグに何やらの食材と、それとは別に大きめの紙の手提げ袋を大事そうに抱えていた。
「あぁこれ?明日皆さんにお配りするバレンタインのチョコです」
紫苑は満面の笑みを浮かべそう返事をしながら、その紙袋をテーブルの上に乗せた。

「チョコって・・こんなに沢山?」
「はいっ、いつもお世話になってる方に差し上げようと思って・・」
「それにしても・・・」20個以上は入っているだろう・・・
「パパさん、ママさん、千秋さんや山口さん・・」
紫苑がどんどん名前をあげて行くのをぼんやりと紫龍は聞いていた。
その中に沖田の名前もあり、少し気分を悪くはしたものの、今更紫苑にそんな事を言っても聞くはずもない。

「俺のは?」
「この中にはありません」
「え・・っ?」がっくり肩を落とす紫龍に向かって
「特別だから・・・自分で作ります」と紫苑は少し照れたような顔を向けた。
「しおーん♪」抱き締めようとする紫龍の体をかわして
「明日はパパさんの所に行けないから、これから行ってきます」などと紫苑は言う。

「これから?!」とは言ってもまだ3時くらいではあったが・・
「紫龍も一緒に行こう?」などと言われれば頬も緩むものだ。

結局紫龍の実家で夕飯までご馳走になり、マンションに戻って来たのは夜も8時を過ぎてからだった。
風呂にも入り、さてという所で紫苑は台所に戻りがさがさとチョコを作る準備をしている。
「リビングでテレビでも観てれば?」
「いや、ここで紫苑がどんだけ愛を込めてくれるか見てる」
「まったく・・・」
そう言いながらも紫苑は楽しそうに手際よくチョコを刻んで温めた生クリームと合わせている。

「それはどうするんだ?」
「よーく混ぜ合わせて、後は型に入れて冷蔵庫で冷やし固めるんです」
「ふーん、意外と簡単だなぁ」
「簡単だよ、でもひと手間かけることで愛情がこもるんだ・・」

「それ舐めていい?」
「えぇ?子供みたい・・もう少し冷めたらいいですよ」
そう言いながら紫苑は泡だて器でゆっくりと混ぜていた手を止めて
その先に付いたチョコを人差し指ですくって舐めてみせた。
「うん、美味しい・・舐める?」

そう言うと紫苑はもう一度指にチョコをつけて、その指を紫龍の前に差し出した。
紫龍はその指を一度ぺろっと舐めると、引こうとする手を掴んでその指を口深く咥えた。
「もうっチョコ付いてないよ」
擽ったそうにする紫苑の指の付け根までも紫龍は執拗に舐めている。
「し・しりゅう・・・」
紫苑の頬が染まったのを確認すると、今度は自分の指にチョコをつけた紫龍が、その指を紫苑の口元に持って行き「舐めて」と強請る。

紫龍の指に舌を這わせ、チョコを舐め取ると自然とその指の根元までも舐めたくなり、紫苑も深く咥えた。
紫龍はそんな紫苑をダイニングのテーブルにそっと貼り付けてしまった。
「あ・・っ紫龍」背中にテーブルの冷たさを感じで、やっと紫苑が慌てた。

紫龍はもう一度チョコをすくうと、それを紫苑の唇に塗りつけそっと唇を重ねた。
本当にチョコ味のキスだ。
もうチョコの味など全くしなくなった頃に、紫龍の手は紫苑のエプロンを捲り、パジャマの裾から手を差し込んだ。

「あっ・・紫龍だめっ」
もうすっかり紫龍の好みに開発された体だけど、明るいダイニングで素肌を見せるのはとても恥ずかしかった。
パジャマの中で紫龍の手の平がやさしく腿の内側を撫でている。
付け根まで届くかと思うと又膝まで下がってしまう手の動きに紫苑の瞳が潤んでしまう。

「紫苑・・パジャマの前が濡れてるよ」
シルクサテンの素材は軽くて、勃ち上がった紫苑の姿を隠さないばかりか、濡れた様子までもしっかりと見せ付けていた。
紫龍の言葉に首筋まで染めた紫苑が抵抗するように身を捩る。

「やだぁ・・」
「何がやだぁ?」
それでも紫龍は内腿以外は撫でようとはしない。
「あぁん・・紫龍だめ」
「だめって俺は何もしてないぞ」
「チョコが・・・もう冷蔵庫に入れないと・・・」
紫龍はこんなになってもチョコが気になるらしい紫苑をもっと苛めてみたくなる。

紫龍はエプロンの紐を解き、体から抜き取った。
そしてパジャマのボタンを外し紫苑の胸元を肌蹴た。
「あっ・・紫龍ここじゃいや・・」
「だめだ、チョコ食べたい」
「えっ?」紫龍の言ってる意味が判ったのは、肌蹴た胸の尖りに生温くなったチョコを塗られた時だった。

ダメと拒絶する前に尖りに唇が下りてきた。
「あぁ・・」チョコを舐める舌の動きはくすぐったいようだが、確実に紫苑の性感帯を攻めている。
舌で転がされ、吸われ紫苑はパジャマの前を更に濡らしてしまう。
「紫龍・・・お願い・・ベッドに連れてって・・」
「俺はここでもいいけど?」
「いやっ・・・お願い・・」
「じゃ何でも言う事聞く?」
「・・・・」さすがに紫苑も慣れてきたのか、簡単に「うん」とは言わない。

そんな紫苑の態度を見て紫龍の口角が上がった。
「じゃ決まりだな、明るいから紫苑の中までよーく見せてもらおうかな?」
そう言うと、ぱっとパジャマの裾を胸の辺りまで捲って、紫苑の下半身を明かりの元に晒した。
「やぁっ!お願い紫龍・・・恥ずかしい」
「どうして?恥ずかしくなんかないよ、紫苑凄い綺麗だよ」
実際黒いパジャマの中から伸びた紫苑の白い体はこのまま飾っておきたい程綺麗だと紫龍は思った。

「お願い紫龍、ベッドに行こう?」
可愛くお願いされてしまったら、もう紫龍もお手上げだ。
それに固いテーブルの上で本当に抱いてしまったら、明日仕事になぞ行けなくなり、紫苑に恨まれてしまうのは判りきっていた。

紫龍はそっと紫苑をテーブルから抱き上げた。
紫苑の体からふぁっとチョコの香りが漂う。
「ふふ、チョコの香りがするよ紫苑・・」
「食べたい?」ちょっとだけ大人っぽい顔で紫苑が口元を緩めた。
「ああ、食べたい・・全部」

そう言いながら紫苑の体をベッドに下ろすと、首に回した腕を紫苑は解かずにそのまま紫龍に唇を重ねてきた。
紫龍も唇を付けたまま、紫苑の下半身を弄ってそっと手の平に包んでやると、重なった紫苑の唇から小さな吐息が漏れた。

何も知らなかった紫苑も今はとても敏感に感じるようになり、潤んだ目で紫龍を誘ってくる。
どんどん成長する紫苑に紫龍も煽られて、毎回違う子を抱いているような気分になる。
抱くたびに紫苑への愛が深まるような気がする。
「紫苑、愛してるよ」唇を離して愛を囁くと縋るように唇に吸い付いてくる。
何度か角度を変えて深い口付けを交わした後、紫苑の髪を撫でながら
「紫苑、他の所もキスしたい」と囁くと、
「いっぱいキスして」と言う言葉のわりには言った自分に恥ずかしそうに俯く。

時間をかけて充分に解した紫苑の体と繋がる。
体が馴染むまでの間、負担をかけないように腕を突っ張ったままの紫龍が聞いた。
「紫苑・・俺が親父くらいの年になっても、毎年チョコくれるか?」
「勿論・・それに紫龍がオジサンになったら、僕だてもうオジサンだよ」
「紫苑がオジサン?あはっ考えられないな」
「僕はずっと紫龍と一緒に年を重ねていくんだよ・・・」

「あんまり可愛い事言うと、紫苑を壊すほど抱いてしまいそうだ・・」
そして紫龍はゆっくりと抽送を始めた。
「あぁぁっ・・はぁっ・・しりゅう・・」
紫苑の内壁がしっとりと絡み付いて紫龍を離そうとはしない。
「紫苑・・そんなに締めたらもたないから」
「だってぇ・・・あぁ・・っ・・・ぁ」

紫苑のこんな乱れて艶かしい顔を知ってるのは自分だけだと思うと
愛しい気持ちが止まらなくなる。
ゆっくりとした抽送から、だんだんと激しいものへと変わっていく動きの中
紫苑の体も揺れて髪も揺れ、紫龍の心を揺さぶる。

「紫苑・・・愛してるよ」
「あぁっ・・・僕も・・・」
紫龍に貫かれ喘ぐ紫苑の頭の中から、作りかけの生チョコの存在などすっかり消えている事を紫龍も気付かないでいた。

紫苑の手作りチョコよりも甘く幸せな夜はまだまだ終わりそうになかった。


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ああ・・すみません、何だかメリハリの無い話になってしまいました。
それなのに思いのほか長くなり、こんな時間になってしまいました。


こちらはFC2のランキングです。

申し訳ありませんが、本日「彼方から・・・」の更新はお休みです。
代わりにと言っては紫苑に失礼ですが^^;
途中まで書いて未完だった番外です。
時期が2部よりも前になりますが、少しでもお詫びにと思いまして・・・






一緒に暮らし始めてひと月が過ぎた。
相変わらず紫龍は忙しいようで、帰宅時間もばらばらだった。
でも、朝は紫苑の方が早く目覚めるから、紫龍の眠る顔を見て安心してから、朝の支度の為に起き出す。

これが毎日の日課になっていた。
日曜日の今朝・・・もう少し寝てようかな?などと考えていた時に背後から抱きしめられた。
「あっ、紫龍・・・おはよう」
だが完全に起きてた訳ではなさそうだった。

紫龍は意識が無くても、傍に紫苑の体温を感じるとつい羽交い絞めにしてしまう。
紫苑は紫龍が寝息をたてているのを確認するとそっとその腕を解きにかかった。

つるっとした素材の紫苑のナイトウエアの腰を撫で、その手が紫苑の中心に向かった。
「やっ!紫龍・・・・起きてるんでしょう?」
絶対これは確信犯だと思い、咎めると紫苑の項に顔を埋め唇を付けながら
「おはよう・・・紫苑」と囁やかれた。

だけど紫龍の手が紫苑の中心から外れる事は無かった。
「し・紫龍・・・手・・・駄目」
「どうして?」面白がっているような言葉に
「だって・・・・あ・・・動かさないでってば・・・・」紫苑は必死に足掻いた。

「日曜だし・・・最近してないし・・」
「で・でも・・・あっ!」
ナイトウエアの裾を捲って直接触られ小さな声が漏れた事に紫龍が気をよくして
「うーん・・・じゃこれはどうした?」
半ば立ち上がった紫苑のモノをそっと握り締めた。

「やっ!だって触るから・・・」
「紫苑・・・そういえば最近紫苑からしてくれないなぁ・・・」
紫龍は、わざと寂しそうに言ってみた。
「し・・しりゅう・・・して欲しかったの?」
「いいよ・・無理にとは言わないから」
「ごめんなさい・・僕ばかりいつもしてもらって・・・」
申し訳なさに紫苑は心の底から紫龍に詫びた。

純な紫苑を騙す事など紫龍にしてみれば、赤子の手を捻るようなものだった。
「いいよ・・でもその代わりお願いがある・・聞いてくれるか?」
「は・はい・・・僕に出来る事なら」
「紫苑にしか出来ない事だよ」まんまと紫龍の罠に嵌ってしまう紫苑だった。

「今夜ホテル行こう?ラブホテル」
「えっ?ラ・ラブホテル?」
紫苑にしてみればわざわざホテルなど行かなくても・・と思うのだが
「そういう所行った事ある?」紫龍に聞かれブンブン首を振る。
「だって、紫龍しか・・」
紫龍だってそれは勿論判っているが、つい聞いてみたくなるというもんだった。

「じゃ、今夜行ってくれる?」
「今夜!・・・はい」
ラブホテルという響きが凄く扇情的で淫蕩な雰囲気を紫苑に与えた。
「決まりだな、じゃこれは出さないで夜の為にとっておく?」
「は・はい」
紫苑は本当はもう少し触って欲しい気はしていたが、そんな事は恥ずかしくて言えなかった。

その日1日中紫苑は何をしてても落ち着かなかった。
ラブホテル・・・
その言葉を思い出すだけで、胸がドキドキしてしまう。
紫龍はそんな紫苑をただ口元を緩めて眺めているだけだった。

実は株式会社DOMOTOにラブホ経営の話が来ていた。
紫龍とてラブホテルを利用した事など数える程しかなかった。
(あ、勿論紫苑と出逢う前の話だが)
だが紫龍が利用したラブホとて、1泊3万円程するような高級なホテルだった。

今回話しが来ているのは、さほど料金の高いホテルではない。
ラブホは回転率で収入を得ている、そして人件費も安くすむ。
経営の手腕次第では良い金を生むわけだ。

その話を受けるか否かは、ちゃんとホテルを見ておかなければならない。
同性同士も利用出来る事を看板にあげれば、利用客は増えるわけだが・・・
トラブルも増えないとも限らない。だから市場調査は必須だった。

そしてその日の夕方、紫龍のジャガーがラブホテルの駐車場に停められた。
車の中で紫苑の口数が異常に少なかった事は少し気になったてはいたが・・・
こういうホテルはフロントで従業員と顔を合わす事は無い。
フロントに設置されているタッチパネルで気に入った部屋のボタンを押し鍵を受け取る。

紫龍は空いている部屋の中で一番料金の高い部屋を選んだ。
ブティックホテルと違い、シンプルな作りのホテルだった。
エレベーターに乗り込んで紫苑は緊張のあまり青い顔をしていた。
「紫苑大丈夫か?」
「は・はい・・・凄い緊張してる・・」
「別にやる事はいつもと同じだ・・」
「や・・やるだなんて・・紫龍はデリカシー無さ過ぎ!」

ちょっとむくれる紫苑の肩を抱きながら、そっと耳元に口を寄せて紫龍が囁いた。
「ごめん、俺ちょっと興奮してる」と。
その言葉を聞いて紫苑の顔が真っ赤になってしまった。
丁度エレベーターが止まり、ふたりは複雑な思いで小さな箱から出て、番号の書かれた部屋を探した。
実際紫龍は、こんな安っぽい(紫龍感覚)ホテルで紫苑を抱くことは、何となく自分たちが堕ちてしまったような気分になり、今まで感じたことのない奇妙な興奮を覚えていたのだった。

部屋の番号を確認してキーを差込みその扉を開いた。
紫龍のあとから、小さな声で「お邪魔します・・」と紫苑も部屋に入って来た。
ふたりの目の前には、薄暗く何となく淫蕩な匂いのする空間が広がった。
「ふ・・ん?部屋の広さはまぁこんなものだろうな・・・」
中堅クラスの料金の一番高い部屋だ、それなりの広さと設備は整ってはいるようだった。
値踏みをするように部屋を見渡す紫龍と違って、紫苑は借りてきた猫みたいに大人しく2人掛けのソファに行儀良く座っている。

紫苑は何処かで水の音がするのに気付き、姿の見えない紫龍を探した。
「おーい、紫苑ちょっとおいでー」
紫龍の声にほっとしてその紫龍の元に行くと、そこは想像以上に大きい浴室だった。
紫龍が湯を溜めているみたいだ。

「一緒に入ろうか?」紫龍の誘いに紫苑は「いい」と首を横に振る。
何となく、この場所で一緒に風呂に入る事は恥ずかしくて紫苑は拒否したが、
にやっと口元を緩めた紫龍に
「一緒に入った方が恥ずかしくはないと思うがね・・まぁそれも楽しみかな?」
などと紫苑にはあまり理解出来ない事を言われた。

とても勢い良く飛び出す湯は、あっという間に浴槽に溜まっていく。
「ほら、紫苑もう入っても大丈夫だよ、俺は色々見て回るから」
そう言って紫龍が浴室を出て行ったので、紫苑も脱衣場で着ている服を脱ぎシャワーの蛇口を捻った。
軽く体を濡らしている時に、何処からともなくコンコンと音がする。
その音に釣られるように紫苑は振り向き、青ざめるように固まってしまった。
「し・・りゅう・・」壁の向こう・・・と思ったが違う!その時初めて紫苑はこの浴室がガラス張りになっていて、ベッドルームから浴室の中が見える事に気付いた。

紫苑はあまりの驚きにその場に座り込んだ。
知らずに見られている事は一緒に入る事よりも恥ずかしい・・・
すると今度は浴室のドアが開けられ、紫龍が顔を覗かせた。
「どう?やっぱり一緒に入る?」からかうような言葉に涙目の紫苑は黙って何度も頷いた。

紫龍が嬉しそうに服を脱ぎ捨て、浴室に入ってくるのを紫苑は恥ずかしそうな顔で招き入れた。
「さぁ俺が体を洗ってやるから、それに座って」と言われたが紫苑は?という顔をしている。
浴室の隅に置かれたそれが椅子だったとは紫苑は全く気付かないでいたのだった。
金色の普通よりも大き目の椅子、だがその椅子の中央が大きく凹んでいた為に、紫苑は何かの飾り物だと思っていたらしい。

「これ椅子だったの?座れるの?」紫苑の問いかけに
「普通に座ればいいから」と紫龍はとても嬉しそうな顔を向けた。




本日は集中して同人誌の修正をしていたのですが、
集中しすぎて、「彼方から・・・」を書く余裕がありませんでした。

そして、大変申し訳ないのですが、本日から少し落ち着くまでの間、
コメント欄を閉じさせて下さいね。

本当は更新もストップして、校正に全力を注ぎたい所ではありますが
何かしらの形で更新は頑張りたいと思っております。
我が儘申しますが、宜しくお願い致します^^


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紫龍に言われた椅子のようの物に紫苑は恐る恐る腰を下ろした。
「あ・・ちゃんと座れるんだ」やっぱり椅子だったのかと紫苑は少し安心して紫龍を見上げた。
「ほら、背中洗ってやるから」もうスポンジに一杯の泡を作った紫龍が待機している。
「はい、すみません」紫苑は申し訳ないような気持ちで紫龍に背中を明け渡した。
背中を擦るというよりも撫で回すような動きに、くすぐったいのを我慢しながら紫苑は背中を洗ってもらっていた。

「あっ!」突然の感覚に紫苑はまさに椅子から飛び上がらんばかりに驚いた声を上げた。
「えっ、何?やあっ・・」
背中を洗っていた筈の紫龍の掌が双丘の割れ目にそって、滑り込んで来たのだった。
紫苑は普段は隠されている部分が無防備に晒されている事に初めて気がついた。

「やっ紫龍・・やあぁぁぁぁ・・・」
「どうして、やなんだ?気持ちいいだろう?」
紫龍は窄まった部分に指を這わせながらそんな言葉を嬉しそうな顔で囁いてくる。
「しりゅう・・・やっ恥ずかしい」
そう言いながら閉じようとした腿を紫龍の手でもう一度開かされた。
後ろから、前から紫龍の手が紫苑の下半身に伸びている。

「いやっだめっ出ちゃうっ」
紫龍の巧みな指技であっという間に紫苑は高みに追いやられてしまっている。
今まで浴室で繋がった事は何度もあったけど、こんな恥ずかしい体勢は初めてだった。
その事が逆に紫苑に違う興奮を与えていたのだった。

「いいよ出して、何度でも出していいから」
優しく言いながら後ろに当てた指をぷつっと紫苑のまだ解さない後孔に差し入れた。
ボディソープの滑りはその指に少し力を込めただけで、紫苑の奥まで到達させる事が出来た。
「やぁん・・いっちゃう・・紫龍・・あぁぁっ」
滑りを帯びた手は紫苑のペニスをぬるぬると扱いている。
前と後ろを同時に攻められたら紫苑などひとたまりも無かった。

紫龍は一度吐精して脱力した紫苑を抱えて湯船に体を沈めた。
「あの椅子便利だなぁ、うちも買おうか?」
「いやっ」紫苑にしては即答で拒否の言葉を吐いた。
「どうして?紫苑だって椅子の上で気持ち良さそうに善がってただろう?」
「いやなものはイヤッ」あんな椅子が家にあったら、きっと毎日あの椅子の上に座らせられ自分はあられもない姿を紫龍の前に晒してしまう、それが紫苑にはどうしてもイヤだった。

買ってしまえばこっちのものだ、などと紫龍が考えている事など紫苑は気づきもせずに、場所をベッドに移された。
風呂の中で丁寧に解された後孔はもういつでも紫龍を受け入れられるだろう。
「紫苑、うつ伏せになって」優しく言葉を掛けながら、紫苑をうつ伏せの体勢にさせた。
「直ぐ挿れるよ、俺もちょっと我慢出来ない」
紫龍の声に紫苑は両肘をベッドに突いたまま、こくんと頷いた。

ぐぐーっと膨れ上がった紫龍の性器が押し当てられ、慣れてきたとはいえ紫苑は体を強張らせてその瞬間を待っていた。
「あぁぁぁ・・・ぁぁ・・・」
吐き出す嬌声に合わせるように、紫龍は押し当てた性器をぐいっと中に埋めた。
全てを埋めきった所で紫龍は動きを止め、馴染むのを待ちながら「紫苑、顔を上げて」と耳元で囁いた。
紫苑が俯いていた顔を言われた通りに上げると、その正面に自分の姿を映した大きな鏡がある事にやっと気づいた。

「いやぁ―――っ」まさかこんなあられも無い自分の姿を見せ付けられるとは思わなかった。
「ほら、ちゃんと見てて自分がイク所を」
そう紫龍に言われるが、到底顔を上げられそうになかった。
「いや・・紫龍・・恥ずかしい・・」
「恥ずかしくないよ、だからちゃんと見て、凄い綺麗だから・・」
どんなに優しく囁かれても、紫苑は顔を上げようとはしなかった。

「仕方ないなぁ・・動くよ」馴染んだのを確認した紫龍がゆっくりと抽送を始めた。
「あっあっ・・あっ・・」紫龍の腰の動きに合わせるように紫苑の口から喘ぎ声が漏れる。
仰け反った瞬間に見える自分の姿や顔を見る度に紫苑は目をぎゅっと瞑った。
紫龍もこの雰囲気に興奮しているのか、いつもよりも動きが性急だった。
「やっ・・あぁっ・・紫龍ぅ・・」紫苑の甘えるような声を聞いただけで、押し入った性器が容積を増してしまい、余計に紫苑を喘がせてしまう。

「紫苑・・中凄いよ、食い千切られそうだ・・」
「あぁ――っ、しりゅうぅぅぅ」再び絶頂を迎えそうな紫苑の良い所を執拗に擦ってやった。
「だめっ、いやっ、あぁぁっ、イっちゃうからぁ」
シーツにぽたぽたと零れる雫はその染みをどんどん広げていった。
「いいぞ、イって、後ろでイけばいい」
そう言うと紫龍はぐいっとその箇所を笠の部分で強く擦った。
「あぁっだめぇ――っ、もっ・・いやぁ――――っ」
紫苑の嬌声と共に、孔の中が激しく蠢き後ろで達した事を紫龍に教える。

紫苑はもう肘で体を支えている体力もなく、シーツに肩を突いてあえいでいた。
程なくして紫龍も蠢く孔の中に全てを吐きだした。
「はぁっ、はぁっ、」後ろでは達したがまだ吐精していない紫苑のペニスを扱いてやると、とろとろと甘い蜜を吐き出した。
ビクンビクンと震えるペニスと体はピンクに染まって、綺麗だと紫龍は疲れた頭で思っていた。
「紫苑、良かったよ」背中に口付けしながらそう囁くと
「紫龍・・嫌い」とぼそっと紫苑が呟いた。

「えっどうして?」まさか嫌いだなんて言われるなんて想像もしていなかった紫龍が慌てて聞くと
「僕の嫌がる事ばっかり・・・」
今まで散々甘やかされて来た紫苑は、今日の紫龍のとった行動はとても考えられない事だったみたいだった。
「ごめん紫苑・・」紫龍は未だ繋がったままの紫苑の体勢を変え上を向かせた。
紫龍と目が合うと、ぷいっと横を向いた。
そんな紫苑が可愛くて、下半身の熱がぶり返して来て紫苑の中で育ち始めた。

「やっ・・」そんな紫龍の体から逃げようとする紫苑を抱き上げ膝に座らせ
「紫苑、好きだよ」と囁くと紫苑が少しだけ視線を絡めてきた。
「紫苑、大好きだよ愛してる・・もう紫苑の嫌がる事はしないから」
「本当に?もうこんな事しない?」
「ああ、もうしないよ、明日からは・・・」
「紫龍・・僕も好き」
肝心な台詞を聞き逃した紫苑は、自分からそっと紫龍の唇に近づいて行った。

絡めるキスを何度も交わしている間も、紫龍は下から突き上げてくる。
紫苑が上になることで、その繋がりは一層深いものになっていた。
「ぁぁぁぁ・・・」何度も突き上げられ紫苑はみたび絶頂を迎えた。

初めて来たラブホテルのベッドの上で紫苑が疲れたようにうつ伏せていた。
「紫苑、泊まる?」
「いやっ帰る、部屋に帰りたい・・」
どうしてもこういう雰囲気に紫苑は馴染めないでいた。
「じゃシャワー浴びてから帰ろうか?」
「・・・・・ひとりで入るから、絶対見ないで」
「判ったよ、連れて行こうか?」
「大丈夫・・・」そう言って紫苑はよろけながらひとりで浴室に向かった。

「絶対見ないでよっ!」紫苑に念を押され、溜息を吐きながら「見ないよ」と答え、紫龍は備え付けの冷蔵庫からミネラル・ウォーターのペットボトルを2本取り出した。
その横に小さな自販機のような物が備え付けてあった。
何気なくそれを見た紫龍の顔が綻び、背広のポケットからサイフを取り出し札を入れた。

見られる事を心配したのか、即効で上がって来た紫苑が背後から声を掛けてきた。
「紫龍もシャワー使えば?何してるの?」
「ああ、俺もシャワー使うよ」
とだけ答えて紫龍は今買ったばかりの箱を背広の下に隠して浴室に向かった。

紫苑は開けてないペットボトルに手を伸ばし、キャップを外すと口に付けゴクゴクと喉を鳴らした。
「あぁあ、こんな所に背広置きっぱなしにしてぇ」
そう呟きながら、紫龍の脱ぎ捨てた背広を持ち上げ、
その下から現れた箱を見て引き攣った顔で固まった。

そして紫苑がきっちりと服を着込むとその箱を前に正座して
浴室から出てくる紫龍を待っているとは、さすがの紫龍も思いもしないで鼻歌混じりで浴室から出てきて、紫苑の前に置かれた箱を見て、ちっと心の中で小さく舌打ちしてから口を開いた。
「ごめん・・・」と。




ス・スミマセン^^;
内容のあまり無いエチだけの話になってしまいました。


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◇はじめに◇

今回の地震の被害は未だに落ち着く事なく、被災された方もとても苦しい思いをされていると思います。(私にできること・・)節電も頑張っています、微々たるものですが募金も致しました。

被災された方も、余震が続く地域の方も(私を含めて)全く落ち着かない日々が続いていると思います。でも、今は無理でも環境が少し整い、精神的にも現実逃避したいと思われた時、趣味のBLをちょっと読みたいと思われた時に、1分でも2分でも妄想の世界にご招待出来たらいいな、と思って更新させて頂きました。

「更新ありがとうございます」と言うコメントをよく頂いておりました。
とても嬉しいお言葉です。今は、読んで下さりありがとうございます、と私は言わせてもらいます。

私の方も落ち着かない日々が続いておりますので毎日の更新は無理かもしれませんが、私に出来る事を私なりに見つけていきたいと思っております。

不幸にも震災で帰らぬ人となった方々のご冥福を心からお祈り致します。
そして1日でも早くに穏やかな日々を取り戻される事を心から願っております。





この話は、「僕の背に口付けを」の同人誌に載せました「桜咲く」の紫苑バージョンです。
「僕の背に・・」の2回目の校正で、改行を詰め6頁空きました所に書いた短い話です。
千尋バージョンは同人誌でしか読めませんが、今回喜んでもらえる物をと考え、紫苑バージョンを書きました。
タイトルはこの時期に相応しくありませんが、お許し下さい。
少しでも不快に思われる方は、閉じるか、または後日お読み下さいね。

前半3000文字、後半4000文字のお話になります。
後半は日付が変わり準備が整いましたらアップいたします^^






「いったい何時から起きているんだ・・?」
呆れたような声が背後からかかり振り向くと、流石に今朝は早起きしたのだろう紫龍が、
パジャマのまま立っていた。
「おはようございます」天使は、やり遂げ充実した顔を見せて微笑んだ。

「おはよう、紫苑・・それにしても凄いなぁ・・・」
「だって8人でしょう?これくらいないと足りないから」
「イヤあいつ等だって自分の分の弁当くらい作っ・・・・・て来ないか?」
「僕は大丈夫だよ、皆が喜んでくれるのなら嬉しいから」
紫苑はそう言いながら、3段重を2つ風呂敷で包み、更に果物が入っているらしい容器も2つ用意した。

「それにしても、よくこんな・・・」まだ納得しない顔の紫龍に向かって
「早く顔洗ってきて」と紫苑は紫龍をキッチンから追い出した。
1週間前に紫龍から「伊豆に花見に行くぞ」と言われ、紫苑は今日の日をとても楽しみにしていた。
2日前から食材を用意したり仕込みをしたりして、大忙しの紫苑を文句言いながらも紫龍は優しい目で見ていた。

「大勢で花見なんて行った事がない!」と紫苑は喜んでいる。
亡くなった紫苑の祖母なら風情を楽しみそうだが?と思ったが
「お祖母様の家には庭に桜の木がありましたから、桜の時期は毎日がお花見でした・・」

きっと紫苑は心静かに縁側に腰を下ろし桜の花を眺めていたのであろう。
幸せそうな風景ではあるが、若い紫苑には物足りないものがあったのかもしれない。
「お祖母様の大好きな花でしたから」
今は無い家と居ない祖母を偲んでいる紫苑をぎゅっと抱きしめて「思いっきり楽しもうな」と言うと紫苑は嬉しそうな顔で頷いた。

そしてクロワッサンと珈琲の洋風の朝食をしっかり済ませた頃に玄関のチャイムが鳴った。
「紫苑君準備出来た?」インターフォンから聞こえるのは広海の声だ。
紫苑が玄関に迎えに行くと、そこには軽装に旅行バッグを持った深田と広海が立っていた。
「おはようございます、お二人とも早いですね」
「おはよう、うん紫苑君の珈琲飲んでから出かけようかな?って思って」

「おい、お前ら図々しいぞ、弁当はどうした?弁当は!」
紫龍は不機嫌に言うが部屋に上り込んだ二人は紫龍の顔を見るより先にテーブルの上に置かれた重箱に目が行ったみたいだった。
「わお、凄いこれ紫苑君が作ったの?」と広海は歓喜の声を上げるが
「社長、おはようございます。今日はお招きありがとうございます。」
親戚の広海と違って深田は勤務先の社長である紫龍を無視する事も出来ずに、先に礼を述べた。

「ああ、お前らもついでに楽しめ」
「ついでですか・・」深田は苦笑するが「ついででもいいじゃない圭、温泉に1泊出来るんだから、そういうついでも大好き」と広海は物怖じもせずにそんな事を言っている。

殆ど寝ていないだろう紫苑は二人の為にせっせと珈琲を淹れている。
遠足前の子供のように興奮している様子がよく判り、紫龍は目を細めた。
興奮するのなら夜に・・・と思わないわけでは無いが、紫苑が喜ぶのなら何でもしようと紫龍は思った。

二人の前にカップが置かれた頃に、今度はエントランスからの呼び出し音がした。
「あっ、賢介さんだ」立ち上がる紫苑に「悪徳弁護士も紫苑の珈琲狙いか?」などと予定よりも早い到着に悪態を吐いた。

結局それから30分後に南條が借りてきたワンボックスカーに重箱や飲み物を積み込んで、2台に分かれ一行は一路伊豆に向かった。
「ねぇあと二人は?」
「あいつ等は現地集合だ」
「そう、楽しみだなぁ、紫龍の大学の後輩なんでしょう?どんな人?」
「ああ、着いてからの楽しみだ、あいつの職業当てられたら何でも言う事聞いてやるぞ」
「本当に?」
「約束するよ、その代わり当てられなかったら俺の言う事を何でも聞くんだぞ」

その言葉を聞いた後部座席の二人が顔を合わせてニヤッと笑った。
「紫苑、今のうちに車の中で寝ていた方が良さそうだぞ」と深田に言われ紫苑は意味判らなそうな顔をしていたが、早起きが祟ったのかいつの間にか静かに寝息を立てていた。

「紫苑君寝ちゃった?」広海が小声で囁くと「ああ、殆ど寝てないから騒ぐなよ」と紫龍に釘を刺される。「判っているよ、あんなに沢山のお弁当作ってくれたんだもん」
「ああそうだ、それに初めての花見で興奮していたし・・」
「・・・僕も初めてだ」
ここにも一人辛い青春時代を送った青年がいた・・・
「お前らも本気で楽しめ」としか紫龍は言いようがなかった。

それから3人は少々の声では起きそうもない紫苑の様子を見ながらも、楽しく話しながら目的地に到着した。
「紫苑、朝だぞ・・」
「うう・・ん?・・おはよう・・」
「おはようのキスは?」
「・・おはよう紫龍」そう言って紫龍の首に腕を絡めた時に、自分がシートベルトに固定されているのに気付き紫苑は、真っ赤な顔をして怒った。

でもどんな悪戯でも皆の顔から笑顔が消える事はない楽しい旅行だった。
「あ、お弁当大丈夫かな」そう言うと紫苑は車から降り、先に到着している南條の車に向かった。
「ほら、お前らはシート敷いて来いよ」
「はい」深田と広海も肩を並べて荷物を積み込んである南條の車に急いだ。

「でも、こんな時間でいい場所が取れるのか?」深田が言うと
「何でもこっちの知り合いに場所取りは頼んでいるらしいよ」と広海は答えた。
「え、マジ?」まぁ堂本ほどの人脈があればそれも可能だろうと、深田は思いながら南條の車まで行き、再び驚いた。
「あの、花見って普通ビニールシートじゃないんですか?」
「そうか?」ここにも少々麻痺している奴がいると思ったが口には出さない深田だった。

深田と広海はビニールシートと畳まれたカーペット、クッション、ブランケットなどを抱えて予約してある場所を探した。
「堂本様ご一行」と書かれた幕を持った男は旅館の半被を羽織っていた。
「あぁそういう事ね」深田は今夜宿泊する予定の旅館がどれだけ堂本を上客として扱っているか判って苦笑した。

紫苑が車の所で待っていると、黒いベンツが紫龍のジャガーの横に並んで停まった。
「やっと到着か」独り言のように紫龍が呟いた。
このベンツに乗っているのが今日の花見の残りのメンバー2人らしい。
紫龍の後輩に会う事など紫苑にとって初めてだ、ちょっとドキドキして待っていた。

車から降りたのは、紫龍と同じくらいのすらっとした男性と、もっと若い青年だった。
『うわっ美人・・』漆黒の髪と黒い瞳の青年は憂いある雰囲気の綺麗な青年だ。
少し戸惑っている青年に紫苑は声を掛けた。
「こんにちは、僕堂本紫苑です」
「こんにちは・・斉藤千尋です」

そして色々話をすると、二人ともこんな花見は初めてと知り、急に親近感を覚えた。
席が変わり桜の下に座ってからも沢山話をした。
紫苑の作った弁当と千尋の友達が作ったという弁当を食べながら、お互いに「美味しい」と顔を見合わせた。

そんな中、千尋のパートナーが少し酔って膝枕で眠り、そして紫苑も車の中で眠っただけでは足りなかったのか睡魔が襲ってきて、クッションを抱えていつの間にか眠ってしまった。

『紫苑・・・紫苑、楽しんでいますか?』
『お・・お祖母様?』
『ここの桜はとても綺麗ですね』
『お祖母様もご覧になってらっしゃるのですか?桜を・・』
『ええ、私は貴方が楽しんでいるのが何よりも嬉しいですよ・・』
そう言ってとても幸せそうな顔をして祖母は微笑んでいた。


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コメントのお返事が遅れております、すみません。
書く方を優先させてもらいました。


「紫苑、そろそろお開きだ、旅館に移動するぞ」
「あ・・・紫龍、夢を見ていた」
「そうか、幸せな夢だったか?」
「はい、お祖母様が桜綺麗だねって」
「そうか、良かったな、お祖母様にも喜んでもらえて」
「はい・・連れて来てくれてありがとう」

「さあ、旅館に行って一緒に風呂に入ろう」
「皆いるのに・・一緒は駄目です」
「大丈夫だ、それぞれの部屋に露天風呂が付いているから」
「それでも駄目っ」少し恥ずかしそうに拒む仕草は紫龍の嗜虐心を煽ってしまう。

「あ、そういえばあいつの職業判った?」
「あっ、ちゃんと観察するのを忘れていた」
「はぁっ?じゃ紫苑の負けだな、俺の言う事聞けよ」
「む・難しい事は無理ですから・・」
「大丈夫だ、いつもやっている事を少し突き詰めてやってくれればいい」
「いつも・・・」紫龍の言葉に紫苑の顔がぽっと染まった。
そしてニヤッと笑った紫龍の頭の上に、散るには早い桜の花びらがばさっと落ちてきた。
「あ・・咲さま、すみません・・・」
紫龍のその子供のような態度がおかしくて紫苑は声を上げて笑った時、
ふぁっと風が吹き、紫龍の髪に落ちた花びらが舞い上がった。

「社長、紫苑車出るよー」深田の声に我に返り、ふたり手を繋ぎ旅館からの迎えの車に乗り込み今夜の宿泊先に向かった。

旅館に着くと一度それぞれの部屋に引き上げた。
大露天風呂があると聞いた紫苑は早速千尋を誘ったが、ちょっと複雑な顔で断られてしまった。
恥ずかしいのかな?と思いつつもやはり自分は大露天風呂に行きたくて、深田たちに合流しようとしたけど、紫龍に阻止され諦めた。

考えてみたら紫苑は紫龍以外の人間と一緒に風呂に入る事などなかった。
ちょっと残念なような、ほっとしたような複雑な気持ちだ。
「ねぇ千尋君と一緒に入りたい、二人が駄目なら4人で入らない?」
「残念だけど4人は無理だな・・諦めて俺と入ればいいだろう」
紫龍の言葉に紫苑は仕方なく部屋に付いている露天風呂に入った。

「うわぁ素敵、結構広いね、あぁ気持ちいい」
すっかり機嫌を直した紫苑は露天風呂に大喜びだ。
「どうだ?」
「うん、凄く気持ちいい」
「そうか良かったな、出来たらもう少しこっちに来てくれればいいんだけど?」
「いや、紫龍絶対変な事するから・・」
「俺は紫苑と旅行に来られて嬉しいんだけどな・・・」
と、ちょっとだけ恩を売ってみる紫龍だった。

「僕も嬉しい・・・」紫龍の罠に掛かった紫苑がすーっと紫龍の近くに寄った。
「あん・・」すかさず紫龍に捕まり膝の上に抱え上げられた。
「今までは忙しくて旅行なんて来られなかったけど、これからは時間作って色々旅行しような」
「うん、嬉しい・・紫龍とだったら何処に行っても楽しいよ」
「紫苑・・・」紫龍はどれだけ自分が紫苑の笑顔に癒され、この笑顔を見たいと思っているのか、自分でも計り知れないと思った。

「俺は紫苑の笑顔が一番好きだ」
「紫龍・・僕も優しい顔の紫龍が一番好きだよ」
「でも、紫苑のあの時の顔も、イく時の顔も好きだ」
「・・・・変な顔していない?」自分のそんな顔など見た事がない紫苑が恥ずかしそうに聞いた。
「全然、とても幸せそうな顔しているよ」と紫龍が言うと
「じゃいいや・・紫龍だけが知っていてくれれば」それが殺し文句だとは紫苑は気が付かない。
「紫苑・・・」
「ん?」
「抱きたくなってきた・・・」
「ダ・ダメェ・・・」小さな声で紫苑が抗った時に室内から声が聞こえてきた。

「あれー?いないの、不用心だなぁ」
「もしかして露天じゃないの?」
『くそっ広海と深田か・・・あいつ等給料下げてやる』そんな紫龍の心の叫びなど知らない紫苑は「ほら、誰か来たからもう出よう」と紫龍の膝から降りてしまった。

「あー二人仲良くお風呂?何やってんの?」とうとう広海が露天風呂に顔を覗かせた。
「見れば判るだろう、風呂入っているところだ」紫龍の声もさっきの甘さはなく不機嫌そうだ。
「紫苑君顔が赤いよ、逆上せたんじゃないの?」
楽しんでいるように広海が言うと「広海さん、もう上がるからあっちに行っていて」と紫苑が潤んだ目で答えた。
「僕が体拭いてあげるから早く上がっておいで」
「じ・自分で出来ます・・・」
「ふ~ん?じゃ部屋で待っているからね」と広海が出て行くと紫苑はほっと溜息を吐いた。
さっきの紫龍の言葉に少しだけ反応してしまっている体を見られるのは、やはり恥ずかしい。

「続きは夕飯が終わってからな」と紫龍に耳元で囁かれ紫苑は素直に頷いた。
いつもと違う雰囲気にすっかり体が疼いてしまっている紫苑は、ちょっとだけ夜が待ち遠しい気分のまま風呂から上がった。

備え付けの浴衣を羽織り部屋に入ると、深田と広海は自分の部屋のように寛いでテレビを見ていた。
「紫苑、何だか色っぽいな・・・」紫苑の微妙な変化を見た深田が呆けたように紫苑の顔を見た。
そんな深田の視線に耐えられないように「ぼ・僕ちょっと千尋君の様子を見てくる」と紫龍が出て来るのも待たないで部屋を飛び出した。

千尋の部屋は反対側の端っこのはずだ、と思い紫苑は緊張した面持ちで部屋をノックした。
「はい」千尋の声に安心して「紫苑です」と声を掛けると中から風呂に入った様子の千尋が迎え入れてくれた。

「あぁ千尋君も露天風呂入ったんだ?」
「はい、凄く気持ちよかったです」
「そうだよね、僕も気持ち良かった。あれ千尋君は浴衣着ないの?」
「え・・っ、あ・・僕たちは浴衣は・・」
「あまり好きじゃなかった?」
「いえ・・ちょっと・・」
と口ごもりながら千尋はこれから風呂から出てくるであろう光輝の恰好を気にしていた。
話声がするから、誰か来ているのは判るはずだが・・体を隠す気が利くかは判らない。

人前で晒し慣れている光輝は千尋ほど背中の刺青を気にしてはいない。

「千尋、誰か来ているのか?」
案の定腰にタオルを巻いたままの光輝が露天風呂から上がって来た。
「きゃ」紫苑は上半身裸の光輝を見て、一度視線を逸らした。
それは単に紫龍以外の裸を見慣れないせいで、そんな自分が大人の男としてどうよ?と思った紫苑はゆっくりと顔を上げて「お邪魔しています」と挨拶をした。
「あ、ひとり?紫龍は?」
「多分、他の人に捕まっていると思い・・・ま・・・す?」

そう言いながら紫苑は光輝を正面から見つめ言葉を失くした。
千尋は内心「ああ」と思いながらも紫苑に向かって苦笑した。
「つまり、こういう事だから・・」
「・・・いい?」
「えっ?」あまりに小さい声だったから紫苑の言葉が聞き取れなかった。
「ねぇ、近くで見せてもらっていい?」
「う・・うん」思いもしなかった言葉に千尋の方が驚いた。

紫苑は上半身裸の光輝に近づき、前も後ろも息を詰めて眺めた。
「す・凄い・・初めて見た、凄いですね、綺麗・・」
「怖くないのか?」優しい声で光輝に聞かれ紫苑は大きく首を振った。
「怖くなんかありません・・感動しています。それに・・この竜の目貴方に似ていますね」
紫苑の言葉に千尋が口元を緩めた。
「前にもそんな事言った奴がいたな・・」揶揄するように光輝の視線が千尋に投げられた。

そんな中千尋がドアの鍵を閉めた。
紫苑は気づかないが光輝はその様子を目で追っていた。
そしてこれから千尋が何をしようとしているかを察したが、それを止めるつもりは光輝には無かった。

「紫苑さん・・」
光輝の背中を夢中で魅入っていた紫苑が振り向くと、風呂上りに着ていたシャツを脱いだ千尋が微笑んで立っていた。
「千尋君、何を?」紫苑の言葉に押されるように千尋が紫苑に背中を向けた。
『せっかく友達になれそうだったけど、もしかしたら失くすかな?』そう思ったが、だからこそ本当の自分を紫苑には見て欲しかった。

「・・千尋君・・・触れていい?」
「・・はい」
そっと紫苑の指が千尋の背中をなぞっている、千尋は黙って紫苑の好きにさせていた。
「とても穏やかな顔の観音様だ・・彫った方の思いが伝わるよう・・」
千尋はぽつりぽつりと彫った経緯を話した。
「そうだったの、だからこんなに魂のある観音様なんだ・・・」
上半身しか脱いでいない紫苑には『彫雅魂』の落款は見えないはずなのに、雅の思いを判ってもらえて千尋は嬉しかった。

「抱きしめていい?」紫苑の問い掛けに千尋は背中を向けたまま頷いた。
すると紫苑に背中からふぁっと抱きしめられた。
それはとても暖かくて不思議な気持ちになる感覚だった。
『父さま、母さま・・・おばぁさま・・・』
紫苑は千尋を抱きしめながら、亡き両親と祖母を思った。

「ありがとう、千尋君の大切な宝物に触れさせてくれて・・」
「僕も・・抱きしめてくれて、ありがとう」

二人の触れ合いを少し離れた所で光輝は黙って見ていた。
自分ですら間に入れないような・・・
汚してはならないような、同じような傷を持つ二人にしか判らない何かがそこにはあった。

「僕たちは、愛してくれた人を忘れてはならないね・・感謝の気持ちを持って生きて行こうね」
紫苑の言葉に千尋は振り向き笑顔を見せた。

静かに時が流れたが「うちの紫苑来ているか?」というドア外からの紫龍の声に二人は現実に引き戻された。
「うちの、だって」とくすっと千尋が笑った。
「もう、紫龍ったら・・」と紫苑が頬を染める。

光輝がドアの鍵を開けると紫龍が待ちきれないように部屋に入って来た。
「鍵閉めてお前ら何やっているんだよ?」
「ちっ!これから3人で楽しもうと思っていたのに、余計な奴が・・・」
「て、何で裸?」
そして紫龍が驚いたのは、千尋を抱きしめている紫苑の姿だった。
「紫苑・・・何して・・?」
「愛を語り合っていたの」
そう言う紫苑の顔は何か清々しくて今まで見たことのない表情をしていた。
少し大人になったような・・・そんな紫苑を見て紫龍も口元を緩めた。

「そうか・・・その愛をそろそろ俺にも分けてくれないか?」
「うん・・」
紫龍にそう答えてから、紫苑は千尋の耳元で「これからも宜しくね」と囁いた。
「はい」と頷く千尋の瞳が輝き、そしてとても嬉しそうだった。
何かよく判らない紫龍だったが、紫苑も千尋も幸せそうな顔をしているからいいか、などと思い「そろそろ夕飯だ空いている部屋に準備してもらっている」と声を掛けた。

「さあて、浮気者紫苑は今夜の覚悟は出来ているんだろうな?」と紫龍が言うと
「おっ、千尋お前もだ」と光輝が続いた。
「そんな事言うなら今夜は紫苑さんと寝るから」
と千尋がさっきとは違う雰囲気で光輝を軽く睨んだ。
「本当!僕も千尋君と一緒に・・・」
流石に二人のささやかな抵抗は「却下」と同時に腕を取られた事で終わった。

「さあ!飯だ、行くぞ」という紫龍の声に3人は笑みを零しながら従った。


そして翌朝、どのカップルも寝不足そうな顔で朝食の席に着いたのは言うまでもなかった。




お粗末様でした!

気づいたら昨日の更新が2週間ぶり・・・
色々忙しくて更新できなかったのに、毎日多くの方が訪れて下さって
本当に申し訳ないです。
そしてありがとうございました!

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「誰からの電話?」
「ママさん」
短い会話は休日の早朝に寝室で交わされていた。
「全く……年寄は朝が早いな」と自分の親に向かって悪態を吐く紫龍を軽く諌めてから紫苑はベッドを降りた。
「まだ早いよ、もう少し寝ていれば?」昨夜も紫苑に無理をさせてしまった紫龍はそう言って紫苑の手を引いた。

「だめ、今日は出かける事にしたから。」
「あ、その電話だったのか?お袋……」
またも紫苑を母親に取られてしまうと、内心舌打ちしながら言うと
「あのね、ママさん足首捻挫したんだって、あ大丈夫、そう酷くはないらしいけど」
そういう報告を実の息子の自分よりも紫苑にする所があの母親らしいと紫龍は思いながら引いた紫苑の手を離した。

「じゃ実家に行くのか?」
「はい、今日は夜まで帰りませんから」と紫苑に言われてしまえば、慌てて身を起し「俺も行く」と言ってしまう紫龍だ。
「でも紫龍はもう少し寝いていて、僕お店が開いたらホームセンターで買い物をしたいから」
「送って行くよ」
「大丈夫、自転車で行けるから」そう言うと朝食の支度に紫苑は寝室を出て行ってしまった。

「くそっ春は嫌いだ……」今日はゆっくり映画でも観て外で食事をしようと考えていた紫龍はこの季節までも恨めしくなって呟いた。
春―――そう植物が芽吹く良い季節だ。
この時期の紫苑は、パートナーの紫龍よりも野菜の苗や種の方を愛している。
『こんな事なら夕べ抱き壊しておけば良かったな……』と良からぬ事を考えたりしていた。
そんな妄想しながら紫龍は再び眠りに落ちて行った。

「紫龍……紫龍……そろそろ起きてご飯にしよう?」
その声に紫龍は薄目を開けて自分の名前を呼ぶ天使を下から眺めた。
「紫苑、ベッドに戻ろう?」ダメ元で誘ってみたが「お味噌汁冷めちゃうから早く」と真剣に相手にされなかった。
「ふぅ」と零れる溜め息は本心からだったが、紫龍は潔くベッドを降りてダイニングに向かった。

落ち着いた朝の食卓に味噌汁の香りだけでも幸せだと思うのに、そこには朝から栄養バランスの良さそうな和食が並んでいた。
「最近手抜きしてたから……」と、はにかむ笑顔だけでもお代わり出来そうだと紫龍の口元も緩む。
紫苑の心尽くしの朝食が済むと紫龍は経済紙を広げリビングのソファで珈琲を飲んでいた。
その姿を紫苑はちらっと見ながら残りの家事を済ませてしまおうと、動いていた。
経済新聞に目を通す紫龍の顔は何処か厳しさがあって好き……などと思っているとは紫龍も想像していない事。

紫苑が時間を気にして壁の時計に目をやった。
9時45分―――「僕そろそろホームセンターに行って来るね。お昼までには戻れるから」
「本当に自転車で行くのか?送るぞ」紫龍はあの赤いママチャリを思い出しそう声を掛けたが「大丈夫、運動にもなるしね」と明るく拒否された。
『運動ならベッドの中でいくらでも……』と言ったら帰って来ない気がしてそれは呑み込んだ。
「気を付けて」と大人の顔を見せて紫苑を送り出した。


紫龍が時間を気にしだしたのは11時半を過ぎた頃だった。
「遅いなー」家事などやらない紫龍は気になる書類を読み返しただけで、それ以上はやる事が無い。
そんな時紫龍の携帯が着信のメロディを奏でる。
「紫苑、どうした?」先ず口に出るのはそんな言葉だ。
「あー紫龍、お願い。駐車場まで下りて来て」それだけ言うと紫苑の電話は切れた。

慌てて紫龍が地下の駐車場まで下りると、ゆったりとした駐車場の紫龍の愛車の傍に1台の車が留まっていた。
多くの高級外車が停められているこの駐車場に、とても違和感のある軽トラックがエンジンを切らずに停車している。
そして驚いた事にその荷台には紫苑の赤いママチャリが積んであった。

「紫苑!」怪我でもしたのかと思い慌てて軽トラックに歩み寄った。
「紫龍ー」紫龍の想像とは全く違い満面の笑みを浮かべた紫苑が助手席からひょいと降りた。
「どうした?大丈夫か?ケガしたのか?」と忙しなく尋ねる。

「大丈夫だよ、荷物が自転車に積み切れなかったから、お店の方に送ってもらったの」と報告される頃にエンジンが切られ運転席から人が降りて来た。
「三郎さん、本当にお世話になりました」
「さ・さぶろう?」
名前で親しそうに呼ばれた男は見た所25・6だろうか?
夏でもないのに浅黒く健康的な背の高い男だった。

「自転車下すよ」笑顔で荷台に登り自転車を止めてあった紐を外している。
「三郎さん、ありがとう」
紫苑に投げかける爽やかな笑顔が気に食わないが、世話になった以上は礼を述べない訳にも行かない。
紫龍も紫苑に合わせるように「君、わざわざ悪かったね」と言った。

「いえ、それよりこれどうするの?」と荷台に積まれた荷物を指してまた紫苑に向き直った。
少しむっとしながら紫龍が「どれ?」と聞いた。自分が運べる物は運ぼうと思って……
「これ全部です」
「え…………?」

紫龍が見た物は、荷台に積まれた10袋ぐらいの肥料と、野菜や花の苗がびっしり植えられた箱、他にも雑貨がありそうだった。
「ちょっと買い過ぎたみたい」とどう考えても自転車などでは積み切れない量の肥料を見て紫苑がのんびりした声を発した。
「お・俺の車に積み替えるしかないな……」呆れながらも紫苑に注意など出来ない紫龍がそんな事を言った。

「車って……?」三郎は見回した限り肥料が似合う車などこの駐車場に無い事は判っていた。
「これ」
覚悟を決めた紫龍がトラックの前に留まっている自分の愛車を顎でしゃくった。
「すげぇ……ジャガーXJ」若い三郎が今にも口笛を鳴らしそうな口調で言い、艶々と光るボディを眺めた。

―――後編へ続く

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本当は昨日アップしたかったのですが……
何かとりとめもない話になってしまいました^^;
後編までお付き合い下されば嬉しいです。

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