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目が覚めて瞳を開くまでの数秒間・・拓海は昨夜の出来事が夢だったのではないか?
という恐怖を感じた。
カーテンの隙間から差し込む朝の光に向かって、左手を翳した。
『あった・・・』その指には昨夜填められたプラチナの指輪があった。

そっと指輪を抜いて中の刻印を見てみると『eternity』の文字と並んで
『with love』と彫られていた。
瀬田の指輪には無かった文字だ。
『愛を込めて・・・』
拓海はその指の隙間に父と母の顔が浮かんだような気がした。
『拓海、幸せか?』父の優しい言葉に「はい、幸せです」と答えると
「そうか良かった」と現実の世界で言葉が返って来た。
「えっ?」
驚いて横を見ると瀬田が穏やかな笑みを浮かべている。

「えっ?い・今の・・」
父の言葉だと思ったのは横で眠っていたはずの瀬田の言葉だったのだ。
瀬田は拓海の起きる気配で目が覚めていたのだったが
黙って拓海の様子を伺っていた。
とても幸せそうな拓海を見ているだけで瀬田も幸せな気分に浸っていたのだ。

「体は辛くないか?」
そう尋ねられ改めて昨夜の事を思い出し、顔が熱くなるのを感じた。
「はい・・・大丈夫です」
「そんな色っぽい顔をするな・・・」
揶揄されているのかと思って瀬田を見ると口元に笑みは浮かべていたが
からかっているふうでは無かった。

拓海は慌てて話を逸らそうとして「俺、朝食の準備します」
とベッドから降りようとしたが、瀬田は拓海の肩に手を回し
「まだいい、もう少しゆっくりしておけ」
と言いながら回した腕に力を込め拓海の体を自分の方に向かせた。

とても近い距離に瀬田の顔がある・・・
直視など出来ずに、視線を逸らしたと同時に体を引き寄せられ裸の肌と肌が密着した。
背中に回された手の温かさに一瞬強張った体から力が抜ける。
優しく背中を撫でられると、朝なのに・・・そこから熱が発生してしまう。

「社長・・・くっ付き過ぎです」
浅ましく、はしたない自分を知られたくはなかった。
「凌牙って呼べって言っただろ?」
名前を呼ばなかった罰だと言わんばかりに瀬田は拓海の鎖骨に噛み付くようなキスを
仕掛けて来た。

「あ・・っ」
強く吸われ痛みと熱さを感じ思わず声が出てしまう。
鎖骨を離れた唇がゆっくりと首筋をなぞり拓海の細い顎を吸い上げる。
その後下唇を啄ばむように突付いたかと思うと深く重ねられた。
瀬田の激しい口付けに拓海は朦朧となりそうだった。

密着した体の間で拓海のペニスが形を変えてくる。
恥ずかしくて拓海が体を離そうとするが瀬田はそれを許さない。
「駄目・・・離して」
「駄目だ」そう拒否すると瀬田は拓海の脚に脚を絡めて来た。
「ダメ・・・そんな事したら・・」
「したら?」

「・・・あなたが欲しくなる」
「全く・・何処でそんな殺し文句覚えた?」からかうような瀬田に
「あ・・あなたが教えた・・」『欲しい物は欲しいと言え』と。
「そんな事を言われたらお前を壊してしまいそうだ・・」
「壊してもいい・・」
「くそっ!」呻くような言葉と同時に瀬田は拓海に覆い被さって行った。

次に拓海が目を覚ましたのは、もう昼近い時間だった。
隣にいるはずの瀬田はもう起きたのだろうか?姿が見えない。
拓海はゆっくりとベッドから降りた。
体の異物感と共に体中に筋肉痛を覚える。
特に酷いのは大きく広げられた太腿だった。

怪我をした事で殆ど体を動かさなかったせいだろう。
拓海は壁を伝わるように寝室から出てリビングに向かった。
そこまで行くとキッチンで物音がしているのが判った。
「あの・・・」何だか怖い物でも見るように拓海がキッチンに居るだろう瀬田に声を掛けた。
「おお、起きたか・・」
笑顔で振り返った瀬田の顔が曇った。
「痛むのか?」朝も繋がったのは、やはりやり過ぎだったのかと反省した。
「いえ・・・筋肉痛で・・」拓海の答えに少し安心した瀬田が
「そうか、筋肉痛か・・ちょっと激しかったかな?」

激しかったかなどと聞かれて返事など出来る訳が無い。
そんな拓海に「ほら座って、飯食べよう」
瀬田が用意してくれたのはスクランブルエッグにカリカリに焼いたベーコン、
サラダ、トーストの簡単なメニューだったが、拓海は瀬田の気遣いが嬉しかった。

「社長って料理出来るんですね」
「料理って程のもんじゃないだろう?だが、お前のを見てて覚えた」
たったそれだけの言葉でも拓海は嬉しかった。
ほんの少しでも瀬田のためになった・・・

「美味いか?」
「はい・・凄く美味しいです」
食事中も拓海は気になってちらっと自分の指に視線を走らせる。
「嬉しいか?」瀬田に自分の行動を知られ少し照れながら
「嬉しいです」と拓海は答える。

「指輪くらいでそんなに喜んでくれて・・次は何が欲しい?」
「何も要りませんよ・・俺が欲しかった物は全部此処に詰まってるから」
そう言った拓海はまるで女神のように微笑んだ。
「見たのか?」指輪の内側に彫られたもう一つの言葉を?
瀬田の問い掛けに拓海は黙って頷いた。

以前何かで読んだ・・・
人は生まれて来た時優しさなんか持っていないのだと
生きる為の欲望しか持って生まれてこない・・・
だから優しさの形も様々だと。
幸せだって、愛だってそれぞれの形があるんだ・・・

『俺はこの人と生きて行く・・』
誰が許さなくても、今、目の前にいるこの人が許してくれさえすれば良い。
「あ、珈琲俺が淹れます」
「そうしてくれるか?拓海の淹れてくれる珈琲よりも美味く淹れられる自信は無いからな」
瀬田の笑い声に釣られるように拓海も笑った。

『この人がこうして俺を必要としてくれれば、生きていける・・・』
カリカリと珈琲豆を挽きながら拓海は心から幸せを感じていたのだった。





33333HIT有難う御座いました。

遅くなりましたが、キリ番を踏んで下さってH様のリクエストで
「この世の果てで」の番外を書きました。

番外と言っても、最終回の翌朝ですネ。

楽しんで下されば嬉しいです。

「天使が啼いた夜の更新は少し遅れます、
明日の午前中までには何とか上げたいと思っています。
すみません^^;


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「す・すみません・・・このイチゴのショートケーキ・・・・1つ下さい」
16歳の俺は勇気を持って、ウィンドウの中のショートケーキを指した。
「はい、おひとつですね?他は何を差し上げましょう?」
ニコニコと笑顔の店員に「いえ、それだけでいいです」と消え入りそうな声で答えた。
たった1個のショートケーキ・・・
店に訪れる人の殆どが飾りつけの綺麗なホールケーキを買う中、ひとりショートケーキを、
それも1個買う惨めさと恥ずかしさで俺は店員の顔を直視出来なかった。

コンビニだとショートケーキ2つ入りのを買ってもお釣りが来る程の金額を支払って
そのケーキ屋を出た。
「ありがとうございました」今はその明るい声も背中に突き刺さるような気分だった。

街中クリスマス商戦の最終日で店頭にもクリスマスケーキの箱が並べられサンタの格好をした店員が呼び込みをしている。
12月24日、明日になればこのホールのケーキもだいぶ安くなるのは知っている。
―――――それでも手が出なかった。
ケーキ1個入った小さな箱を大事そうに抱え先を急いだ。
本当は最低でも2個入るのであろう箱の中でケーキが動かないように大事に抱えた。


6人部屋の病室の扉をそっと開けて、端っこのベッドに近づいた。
「拓海・・・来たの?」母が嬉しそうな顔を見せた。
拓海は静かにカーテンを引き外から見えないようにした。
「母さん、どう具合は?」
「ええ大分調子いいわよ、お正月までには退院できそうよ」
「良かったね、じゃ正月は部屋で一緒に迎えられるね」拓海も嬉しかった。

「これケーキ・・昨日先生に聞いたら小さいのなら大丈夫だって」
拓海は他の人に気付かれないように小声で話した。
「あ・・っ、今日はクリスマスイブだったのね」
入院していると日にちも曜日も疎くなって・・と母はすまなそうな顔をする。

拓海が持って来たケーキは小さいながらもクリスマスらしいトッピングがされていた。
「うんそうだよ、母さん・・メリークリスマス」
「ありがとう拓海・・・メリークリスマス」

拓海は器用に箱から取り出し皿に乗せ「可愛いケーキだよ」と嬉しそうに言った。
「拓海あなたのは?」
「俺?お腹好いてたから部屋で食べちゃった」子供っぽく肩を竦める拓海に
「そう・・・」と母は寂しげに微笑んだ。
そして小さな欠片をフォークで口に運び「凄く美味しい」と頬に手を当てる。
「本当?良かった・・・」
母の幸せそうな笑顔に安堵しながら拓海も微笑んだ。

「はい、拓海もあーんして」
次の大きめの欠片を拓海の口に入れようとする母に
「ちょっと、俺食べたし、それに何だよそれ?子供じゃないんだから」
そう言いながら拓海が慌てて身を引くと
「母さん全部食べ切れないわ、一緒に食べよう?」
そう言われ拓海は「仕方ないなぁ」と大袈裟に呟きながらあーんと口を開けた。
口中に甘い生クリームが広がり溶ける。
「美味いね」
「ええ母さんが今まで食べたケーキの中で一番美味しいわ」
拓海は母の笑顔の瞳が潤んでいるのを見て見ぬふりをした。

『母さん待ってて、俺早く大人になるから・・・』




「拓海聞いてるのか?」
「あ・・はい」
瀬田に声を掛けられ現実に引き戻された。
明日の24日は、ディナーショーに出席しなくてはならないから、
遅くなると今瀬田から告げられた。
衣装提供している関係で外せない付き合いらしい。
その芸能人が瀬田の会社のブランドの服を好きで着てくれている事から付き合いが始まり、
CM効果絶大だそうだ。

拓海とて来年には瀬田の会社に入社する人間だ、それくらいは知っていた。
いくらディナーショーだといっても仕事の一環であることは間違いないのだ。

「じゃ夕飯の用意は要らないって事ですよね?俺適当に済ませますから」
明るく振舞う拓海にすまなそうな顔で「ああ、そうしてくれ」と瀬田が言う。
拓海も瀬田もクリスマスの事など口に出さなかった。
普通の恋人じゃないんだから・・・・
世間の恋人たちが一番盛り上がるイベントだけど、自分たちには関係ない・・・
拓海は自分自身にそう言い聞かせた。

12月に入ってからの瀬田のスケジュールは殺人的だった。
ファッション業界は今が一番の稼ぎ時であると同時に来年の夏に向けての準備もある。
丸1日休める日など無かった。
そんな瀬田の負担にならない事が今の拓海の一番の仕事でもあった。


そして翌日の午後拓海は予約していたクリスマスケーキを受け取りに出かけた。
その店は以前拓海がショートケーキ1個しか買えなくて、丸い綺麗なケーキを横目で見てた店でもあった。
やっと買えた・・・明日の事を気にしないで丸いケーキを買えた。
それを喜んでくれ一緒に食べてくれる母は居ないけど、夢がひとつ叶ったようで嬉しかった。

『母さん・・・メリークリスマス』
拓海は冬の空を見上げ心の中でそう呟いた。


帰り道花屋の店先に並んだポインセチアの鉢も買った。
金粉のようなものが花びらに散らされ、それはまるで小さなツリーのようだった。
眺めているだけで小さな幸せをくれる。
『俺は幸せなんだ・・・』
瀬田が自分を大事にしてくれて、愛してくれているのは身を持って感じている。
クリスマスの夜を一緒に過ごせないからって何かが変わる訳でもない。

拓海はケーキを冷蔵庫にしまい、セインポチアの鉢をテーブルの上に飾った。



風呂に入った時に少しだけ自分で準備した。
今夜そうなるとは限らない、どっちかといえば無理なような気もしたが
いざ行為に及んだ時に疲れている瀬田の手を煩わせたくなかった。
だけど・・・充分に準備するのも期待してたと思われて引かれるかもしれない・・・
迷った挙句に入り口だけを少しだけ解した。

風呂から上がって鏡に映る自分の顔を見て自分で呆れてしまった。
湯に逆上せたような火照った顔に潤んだ瞳・・・
「俺って恥ずかしい奴」
良かった瀬田が戻る時間までまだ充分ある。
こんな顔を見せたら何と思われるのだろう・・・
拓海は冷たい水で火照りを冷ますように何度も顔を洗った。

パジャマのズボンだけを穿き頭からタオルを被ってリビングに戻ると、
驚いた事にそこには今帰って来たばかりって感じの瀬田が立っていた。
「え・・っ?」まだショーの真っ最中のはずだった。
「どうし・・あっ!」突然瀬田に抱きすくめられ驚いて声を上げてしまった。
「どうしたって聞きたいのは俺の方だ、どうした?何かあったのか?」
拓海の裸の背中に大きな手が回された。

「別にどうもしないから・・」
「じゃどうしてそんな辛そうな目をしている?」
「あ・・っ」冷たい水で顔を洗ったぐらいでは目に浮かんだ色は消せなかったのだろうか?
そう思うと、恥ずかしくて首筋まで熱くなってきた。
解した孔が何故かしらきゅーっと締まるような感じがして自身戸惑う。

瀬田の肩越しに見えるリビングのテーブルの上に沢山のプレゼントの箱が乗っていた。
プレゼントされたのか、それともこれからプレゼントしに行くのか?
「あ、ディナーショーは?また出かける?」
「ディナーショーは挨拶だけして帰って来た、もう出かけない」

「ふ・・ん?」本当は一緒に居られるのが凄く嬉しかったが、あまり興味がないような返事をすると
「冷たい奴だなぁ、もっと喜んでくれると思ったのに」
『もしかして俺の為に早く帰って来た?』それとも揶揄されてる?

「本当にもう出かけない?」
言ったそばから今の発言は幼児のようだったと自分で恥ずかしくなった。
「ああ、こんな色っぽい恋人をイブの夜に一人にしてたら危ないからな・・」
瀬田の意地悪な言葉に、両腕を突っ張り瀬田を軽く睨み腕から逃れようとした。

「馬鹿、そんな顔で誘うな、我慢出来なくなるだろ?」
「――――さ、誘ってなんかいないから」
『貴方の方がずっとセクシーだ・・・』
ショーに出席してきた今夜の瀬田はいつもの3割り増し男っぷりが上がっているように思えた。

拓海と視線を絡めたまま瀬田は指で拓海の尖りを弄った。
「あ・・・っ」その時自分がまだ風呂上りで上半身裸だという事に気付いた。
片方の手で強く抱き締められたかと思うと、瀬田の顔が近づいたので、拓海は素直にそっと目を閉じた。
舌を絡め取りながらも瀬田の指は器用に拓海の尖りを刺激し続ける。
「あぁっ、はぁ・・・」息継ぎの合間に漏れる声にまだ慣れきった訳じゃない。

そのうち瀬田の舌の動きは口腔を犯すような激しい動きに変わってくる。
そしてそれと同時に胸から指が離れ、その手が背中をなぞり、ズボンのゴムを潜った。
「駄目・・・」身を捩って逃げようとしても瀬田の力には敵わない。

「やだっ・・・」瀬田の指先が窪みを伝わり秘所に辿り着いた。
「ん・・?」瀬田がにやりと嬉しそうに拓海の顔を覗きこんだ。
拓海は潤んだ目を伏せて恥ずかしそうに、そっぽを向く。
「拓海?」今度は甘く名前で呼ばれたけど、恥ずかしくて顔を戻す事は出来なかった。
もう首筋まで赤くなっているだろう自分が想像できたし、
瀬田の指はそこから離れようとしなかった。
だが、ゆるゆると撫で回される後ろは確実に拓海の体に刺激を送って来ていた。

「拓海、欲しい?」
『どうしてこの男は恥ずかしい事ばかりを言わせようとするのか?』
「あ、俺ケーキ買って来たんです、丸いの!」
誤魔化すようにケーキの話を持ち出した。
「そうか、あとで一緒に食べような」
その言い方がとても優しかったから・・・拓海はふいに目頭が熱くなり、
あっと思った時にはもう涙が滲んで零れ落ちたあとだった。

「乾杯しようか?」突然瀬田がそんな事を言い出した。
「拓海の体はあとでゆっくりと頂くとして・・」
そう言いながら瀬田はしなやかな指の先で拓海の涙を拭った。
拓海もいつ瀬田が戻っても軽く飲めるように、簡単なオードブルは用意していた。

パジャマ姿の拓海と盛装の上着を脱いでくつろいだ瀬田とのアンバランスさに苦笑が零れる。
二人は微笑みながら音が出ないように優しくグラスを合わせる。
淡く綺麗なピンク色のスパークリングワインは目でも二人を楽しませてくれる。
口にする物全てに感謝しながら拓海は幸せを噛み締めていた。
もしこれが高級なワインやオードブルでなくても瀬田と一緒なら何でも美味しく感じるのであろう。

「拓海クリスマスプレゼントだ」瀬田はそう言うとあのプレゼントの山に視線を投げた。
「ありがとうございます、でもどれが俺の・・・?」
「全部だ」
「え・・っ全部って?」聞き違いかと思い驚いた目で尋ねた。
「だから全部拓海へのクリスマスプレゼントだ」

「全く・・一体いくつあるんですか?」
10以上はあるだろう箱を呆れた顔で見ながら拓海が言うと
「お前が寂しいと思った数だけある。」とあっさりとした答えが返ってきた。

「寂しいと思った数だけ?・・・・・」瀬田の言葉の意味が判らなかった。
それ以上は瀬田も何も言わず黙ってグラスを傾けている。

『寂しいと思った数だけ・・・?』拓海は心の中で自分に問うた。


『そういえば最後に貰ったクリスマスプレゼントはいつだったかな?』
子供の頃の事をふと思い返してみた。
9歳の時に父に買って貰ったラジコンカーが最後のプレゼントだった。
10歳のクリスマスはもう母と二人だった、そしてその年から拓海の家から祝い事が消えた。

拓海がプレゼントを強請る事も願う事もそれ以降なくなった――――。
『10歳・・11歳・・12歳・・・』
拓海は心の中で年を数えながら、プレゼントを数えて行った。
「20歳・・うっ・・21歳・・・・ううっうっ・・22歳・・」
肩を震わせながら最後まで数えた、もう溢れる涙は止まらなかった。

22歳まで数えきった拓海はぶつかるように瀬田の胸に飛び込んだ。
「拓海、メリークリスマス」
そんな拓海をしっかりと胸に抱き止めて瀬田はそう耳元で囁いた。
拓海の嗚咽が収まるまで、瀬田はずっと震える背中を撫でていた。

「――――瀬田さん・・・」
「今夜くらい恋人の名前で呼んでくれないか?」にやりとして瀬田が強請った。
「凌牙さ・・ん?」
いくら恋人と言っても目上であり雇い主である瀬田を名前で呼ぶのは抵抗があった。
「さんは要らないって何時も言ってるだろう?」
吐息が掛かるほどに瀬田の顔は近くにあるのに、その唇はまだ下りては来ない。
瀬田の目が早く言ってと促している。

「凌牙・・・ありがとう」
そんな拓海に満足そうに頷いた後瀬田の唇がゆっくり・・・
拓海を焦らすようにゆっくり重なってきた。
拓海は瀬田のシャツの袖に縋るように手を伸ばし、ぎゅっと掴んだ。

2010-12-24-2.jpg
illustration 45 forty five 乃榎さま
イラストの著作権及びに版権は乃榎さまにありますので、無断転写転載は禁止です。


「拓海ぃ・・・」長いキスのあと耳元で囁く低い声に拓海の体が粟立つ。
瀬田が欲しくて欲しくて・・・心が身悶えして狂いそうになる。
「―――――貴方が欲しい」
瀬田が緩めたネクタイをシャツから引き抜きながらも拓海から視線を逸らさない。
そんな仕草にさえ大人の色気を滲ませる瀬田が憎らしいくらいだった。

「プレゼントの数だけ抱かせてくれるのだろう?」
「――――13回も?・・・無理・・・・」
「頑張れ拓海」そう笑いながら瀬田は拓海のパジャマの裾から手を忍ばせ胸の尖りを弾く。
「ぁぁ・・・・あ・あなたが無理だから・・」拓海のささやかな反撃に瀬田は相好を崩す。

瀬田は拓海の頬を両手で挟みもう一度キスを試みる。
「世界中で一番あなたを愛している・・・・」
キラキラと冬の空に輝く星のような瞳で拓海は囁いた。

その甘い愛の囁きが終わりのない夜への誘い文句になろうとは拓海は気付いていなかった。


――――――メリークリスマス拓海幸せに―――――





今回【それぞれのクリスマス】拓海への贈り物に
45 forty five 乃榎さまより「瀬田と拓海」のイラストを頂きました。
幸せなキスシーンというリクエストに、本当に幸せいっぱいの二人の姿
そして、お気づきになられたと思いますが、拓海の左指に見えるeternityの刻印の指輪。

この指輪を見てじーんと来てしまうのは私だけでは無いと思います。
そして瀬田のセクシーな横顔に痺れるのも私だけではありませんよね?

乃榎さまからの私へと、そしてこの話を好きで読んで下さる皆様へと
素晴らしいクリスマスプレゼントとして戴きました。
しかと受け取りました、ありがとうございます!

お仕事でお忙しいなか貴重なお時間を割いて頂き、本当に感謝しております。


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そして愚かな私は、一番最初に書き上げたこの話をアップするタイミングを
間違えました(>_<)
イブの設定なのに、イブにアップしなくてどうするっ!!
せっかく一番力を入れたのに・・・・もう涙です。

気を取り直して、の更新でしたが、瀬田と拓海のラブラブぶりを堪能していただければ幸いです。

読んで下さってありがとうございました!

海に舞う花

 14, 2011 19:51
「どうだ?研修はきつくないか?」
「全然!楽しいです」
こんな会話がここ2週間繰り返されていた。
4月1日に入社式を済ませた拓海は毎日の研修に張り切って出勤していた。
「俺はあなたの部下である事が凄く楽しくて幸せなんです」
そう嬉しそうな顔で言われれば瀬田とて口元が緩むというものだ。
「あんまり張り切り過ぎて体調を崩すなよ」
「はい」拓海は自分が生きている幸せを噛み締めていた。

「何だか俺は会社に嫉妬しそうだ……」
「そんな……自分の会社でしょう?」
「お疲れのところ申し訳ないが?これから数時間俺だけの為に時間を割いてはくれないか?」
「そんな言い方しなくても……」
研修に差し支えると悪いと言って瀬田はここ2週間拓海に迫るような事はしなかった。


「あぁっ……激し過ぎ……凌牙」なかなか呼べなかった名前も回数を重ねるうちにベッドの中では言えるようになった。
「これでも遠慮しているんだ……」だが抱き壊してしまうのではないか?と時々不安になる程に瀬田は拓海に溺れていた。愛を測る秤があれば絶対自分の方が重いと自信を持って言える程拓海が愛しくて仕方なかった。
本当は研修後も人事に委ねないで自分の元に置いておきたかった。だがそれは拓海の為にもならないし、拓海もそういう事を望んではいなかった。

自分の目の届かない所で他の男から視姦されやしないか、誘惑されやしないかと心配は尽きなかった。そんな事を秘書に零すと「呆れてものが言えない」などと言われてしまう始末だ。
「拓海……浮気したら殺すぞ」
入社式の日から拓海の指にプラチナの指輪は嵌っていなかった。それはプラチナの細いチェーンに通され拓海の首に掛けられていた。瀬田の指輪も同様に胸元に輝いている。

「浮気?それは俺の台詞です……あなたが他の人にこんな事をしたら……俺は消えます」
殺すと言う瀬田に対して拓海はここからいなくなると言った。
それは思いの違いが言わせるのでは無く立場の違いが言わせているのだろうと瀬田は思い「大丈夫だ俺はお前を裏切ったりはしない」と囁いた。
「俺だって……」拗ねたような拓海の孔がぎゅっと瀬田を締め付けた。
「うっ……拓海、そんなに締めたらもたないから……」
瀬田のそんな台詞に感じてしまい拓海の先端からは先走りの露が零れ幹を伝った。

「厭らしいな……拓海の体……」
「あなただけだ、俺を抱くのも感じさせるのも」
「はぁっ、全くそんな殺し文句どこで覚えてくるのか……」
溜息を吐きながらも瀬田は腰を打ちつけた。
「あぁっ、はっはぁっ……」
瀬田は一度だけ研修中に拓海の顔を垣間見た事があった。
凛とした横顔が真剣な眼差しで講師の言葉を聞いていた。あんな近寄りがたい雰囲気の拓海が自分の下で喘いでいる事が不思議に思うほど会社での顔とベッドでの顔は違った。

「拓海、俺だけに見せてくれよ達く時の顔は……」
「あ・当たり前です。でも本当はあなたに見られるのも恥ずかしい」
「駄目だな今日はじっくり間近で見せてもらうよ」そう言うと瀬田は拓海を引き起こし対面座位の体勢に変えた。

「あうっ……はぁぁぁっ」
瀬田の膝に跨る事でより深く繋がり拓海にとってそれは苦痛ではなく完全に快感だった。
突き上げられ落される繰り返しは拓海の理性も何もかもを愉悦に塗り替えてしまう。
「あぁぁぁ……っ、だめ……もっ」
「拓海、愛してる」瀬田の熱い言葉に拓海は体を震わせる。
口付けを交わしながら瀬田に扱かれながら拓海は達した。

「拓海……」瀬田の甘い声を聞いているだけで幸せだと拓海は心から感じていた。それは囁く瀬田とて同じ事だ。
「明日車で少し出かけようか?桜が満開だ」今年の桜は通年よりも少し遅く咲いた。花見などという大袈裟な事はしないが、のんびり桜の木の下で時を過ごすのも一興だ。
「俺桜好きです」まだ艶めかしさの抜けない顔で拓海は返した。


結局瀬田の激しさに拓海は翻弄され続け、起きて軽い朝食とも昼食ともつかない食事を済ませ、車に乗り込んだのはもう昼をだいぶ過ぎてからの時間だった。

瀬田が車を止めた場所は都内でも桜の名所で有名な千鳥ヶ淵だ。
「凄い!」拓海はもう感嘆の声しかでない。
「綺麗だな……」
満開を少し過ぎた桜の花びらが舞い散る中二人はしばし立ち竦み桜に見惚れていた。

はらはらと名残惜しそうに大地に帰る花びらに、花の命の儚さを見た気がして口に出すと「だがまた来年も花は必ず咲く」と瀬田は力強く言った。
川面に浮かぶ花びらは海にも辿り着くのだろうか?
海に散った魂も桜の美しさに触れる事が出来るのだろうか?
そうであって欲しいと心から願った。

言いたい事は沢山あったけど拓海は黙って空を見上げた。
「来年も来るか?」瀬田の言葉に拓海は「はい一緒に……」と答えシャツの上から胸元の指輪の形を指でなぞりながら瀬田に向き直った。
「連れて来てくれてありがとう」
「よし、写真を撮ろう」瀬田は通りすがりの人に頼んで桜の木を背景に写してもらった。


後日その写真は二人の暮らす部屋に大きく引き伸ばされ飾られていた。
その写真を見るたびに拓海は頬が緩む。
そんな拓海を見て瀬田の頬はもっと緩んでいる事を拓海は知らなかった。


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幸せな顔は人にも幸せを連れて来てくれる……
辛かった拓海にも春は訪れたのだ。

早く本当の春が来ますように…………


拓海は自分が器用でない事を、最近は痛感していた。
同じベッドで軽い寝息をたてている男が、自分の勤務する会社のトップだと思うと、簡単に手を伸ばす事など出来なかった。
末端でも同じ側に立つと、この男の凄さと忙しさが良く分かった。
自分が入院したあの時、何日も付き添う時間を作る事が、どれ程大変な事だったか今になって思い知った。


拓海は新人の登竜門的な営業部に配属された。
ペアを組まされた四つ上の野村は優秀な営業マンだった。
野村に付いて歩くのは楽しかった。優秀な人間が優秀な指導員とは限らないが、野村に関しては両立している上に見た目も良かった。
二人社食で昼飯を摂っている時、女性社員の熱い視線を背中に感じるのも慣れた。

「おい、尾崎視線痛くないか?」
「痛いです。野村さん何とかして下さいよ」
「いくら新人とはいえ、自分のケツくらい自分で拭けよ」
「え……?」
「はぁ……これだからお坊ちゃまは……俺一人の時には感じないんだけど?」
予想していなかった野村の反応に、拓海はただ唖然とするだけだった。

やっと我に返り「お坊ちゃまって、誰が?」と呆れたように聞くと
「尾崎だよ」と言いながら、野村は拓海の上から下へと視線を投げた。
「俺?」
そう言われてみれば、瀬田の用意してくれたスーツは良い仕立てのオーダー品だった。
ワイシャツもネクタイも高価な物に違いないのだろう……
いくら仲良くしている先輩であっても、自分の立場や経歴をぺらぺらと喋る訳にはいかなかった。
「……そんな事ないです」
拓海はそれだけ言うのが精一杯だった。

「ま、尾崎がお坊ちゃまだろうが、なかろうが俺には関係ないけどな」
野村はそう言うと、残りの味噌汁を飲み干した。
「はい」そんな野村に頷いてから拓海も同じように味噌汁を飲み干す。

(いい先輩に恵まれた……)
拓海は素直な感想を心の中で呟いた。
半年は一緒に行動する先輩の当たり外れは、新人にとっては大きな問題なのだ。
気が合わなくて、会社に来る事すら億劫になると零す同期もいるくらいだ。

「尾崎、珈琲奢ってやるよ」野村は定食の乗ったトレイを下げながらそう声を掛けてくれた。
珈琲と言ってもしがないサラリーマン、カフェに行くわけでは無く、社内にある喫煙コーナーで飲む缶コーヒーだ。
煙草を吸わない拓海は、ご馳走になった缶コーヒーを片手に休憩室の椅子に腰を下ろした。
午後からも外回りだ。今日はそう辛いコースではない。
金曜日ともなれば疲れているだろう拓海に気を使って、野村は余裕を持ってスケジュールを組んでくれている。

拓海がプルトップを開け、一口飲み顔を戻した視線の先に瀬田の姿を見た。
「どうだ?」会社で拓海に声を掛けて来る事など、今まで殆どないことだった。
第一、こんな休憩室に社長である瀬田が来る事自体珍しい事で、その瀬田に声を掛けられる新人としては身が縮む思いだった。
「はい、何とか……」
「隣いいか?」
「はい……」
周りから見たらきっと新人の様子を伺う社長って見えているだろうと思う。いやそうでなければ困る。

「どうだ仕事は、慣れたか?」
ありきたりな言葉を掛けられ、拓海も「はい少しは慣れました」と答える。
「そうか、頑張りなさい」その声は少し大きかったが、その後瀬田は小声に切り替え「これから大阪まで行って来る。今夜は帰れないと思う」と拓海にだけ聞こえるように呟いた。
「メールでもいいのに、わざわざ……」忙しい身なのだからそんな気遣いしなくてもいいのに、と、拓海は思って少し抗議するような声で言った。
「拓海の顔が見たかっただけだよ」
「……はい、気を付けて下さい」
「じゃ、行くよ」立ち上る瀬田を拓海も立ち上り、頭を下げて見送った。

瀬田とすれ違うように野村が戻って来た。
「社長どうした?」拓海と話をしていたのを遠くで見ていたのだろう、野村がそう聞いて来た。
「あ、仕事慣れたかって」
「へえ……?わざわざ声を掛けるなんて、尾崎お前凄いな」
野村はそう言いながら、正面に座る拓海の顔を眺めていた。

清楚で整った顔は誰が見ても、苦労知らずで穏やかな優しい顔だった。
野村の視線を感じ「ん?」という顔で見返す拓海にどきっとした自分に野村は頭を振った。
「今日は飲みにでも行くか?俺奢るよ」
「割り勘なら行きます」
瀬田のいない夜くらい、同僚と飲みに行ってもいいだろうと拓海は思った。
「たまには奢られろよ」野村が呆れたように、拓海にそう言った。
「じゃあ焼鳥屋で……」拓海も負けてはいない。
「尾崎って本当は苦労人?」まさかそんな事はないだろう、という顔で野村が笑った。

瀬田は拓海を徹底的に甘やかしていた。
「俺は拓海を甘やかしたいだけだ……」
口癖のように囁く瀬田を有難いとは思うが、五体満足な自分が経験した苦労など大した事は無いと拓海は思っていた。
両親が揃った同じ年頃の人間に比べたら、苦労したかもしれないが、今となっては過去の事だ。

脇腹の傷が少し痛んだ(明日は雨かな?)
「コーヒーご馳走様」拓海はそう言って、飲み干した缶をゴミ箱に捨てた。




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あれ?誘い受けは何処に?……


午後の仕事を無難に終わらせた拓海と野村は、会社を出る支度をしていた。
拓海は個人携帯がメールを受信した事に気づき、野村に気づかれないように開いた。
『お疲れ。やはり今夜は無理そうだ』たったそれだけの文面なのに、拓海は口元が緩んでしまう。
『はい、僕は先輩と少しだけ飲んでから帰宅します』
拓海は、正直に打ち込んでメールを送信してから、背広のポケットに携帯を仕舞った。

「おい、行くぞ」「はい」
そして行った先は、拓海のたっての希望であった焼鳥屋。
「本当に信じられない奴だな……」
野村が呆れるが、拓海は今まで一度もこういう店に来たことがなかったから、嬉しかった。
「俺、初めてなんです……」
「スーツに焼き鳥の臭いが浸みるぞ」
「明日休みだし、ちゃんと手入れすれば大丈夫です」

「だから坊ちゃんは……」
野村は焼鳥屋に来たかった拓海の思いをそういうふうに捕えていた。
「あの……野村さん、激しく誤解されていますよ?」
「うん?」野村はネギまと鳥皮を注文しながら、拓海を振り向いた。
「俺がこういう店が初めてなのは、苦学生だったからそんな余裕がなかっただけなんです」
「え……?尾崎が苦学生?」
「はい」
拓海は野村には、少しくらいは話しておいた方がいいだろうと思い言う事にした。

「俺は、もう両親いなくて奨学金で大学も卒業したし……だからそんな金持ちとかの息子じゃないですから」
想像もしなかった事を聞いた野村は、一瞬戸惑った表情をしたが、直ぐに何時もの顔に戻った。
「そうか……からかって悪かったな。やっぱ今夜は俺の奢りだ、一杯食えよ」
「……はい、ご馳走になります」
拓海も意地を張っても仕方ないと思って、甘える事にした。

拓海は学生時代バイトの行き帰りに、胃袋を刺激する焼き鳥の匂いに誘われても、店に入る事は一度も無かった。
「だが……」焼き鳥を頬張りながら野村が言葉を発した。
「尾崎みたいなのは、損なのか得なのか分からないな……とても苦労していそうには見えない」
今度は明らかにからかうような言い方だった。
拓海も苦笑して「そうですか?」と相槌を打った。

初めて飲んだホッピーも美味かった。
瀬田と飲む事はあっても、小洒落たバーやホテルのラウンジだ。
こういう素朴な店は気取らなくていい。拓海は普段より飲む量も多くなった。

「何か俺、野村さんの下に付いて仕事が出来て嬉しいです」
拓海は思っていた事を野村に言葉にして表し感謝した。
「俺もだよ、尾崎は真面目だし、要領が悪いから気に入っている」
「凄い所で気に入られているんですね」と拓海は苦笑したが、嫌な気分では無かった。
こういう風に仕事が終わった後に、同僚と飲む酒が美味い事を初めて知った。
(生きていて良かった……)
大袈裟かもしれないが、拓海は心の中でそう呟いた。

自分を生かしてくれたのも瀬田だし、今こうしているのも瀬田のお陰だ。
そう思うと急に瀬田の事が恋しくなってきた。

2時間程度焼き鳥を食べながら、仕事の話や学生時代の話をして時を過ごした。
「そろそろ帰るか?それとも、もう1件行くか?」
「いえ、帰ります。今夜は本当にご馳走様でした」
「そうか、又飲もうな」
「はい、今度は給料日後に、俺にご馳走させて下さいね」
「おう、期待しているよ」
そう言って笑う野村と駅で別れた。
酒豪の野村はもう1件寄ってから帰るそうだ、流石に拓海はそこまで酒に強くはなかった。
それどころか、普段よりも酒量が多かったから、これ以上飲んだら帰るのにタクシーを使う破目になりかねない。

拓海は誰も居ない部屋の扉を開けた。
「ふぅ……」
やはり調子に乗って少し飲み過ぎたみたいだ。ソファに深く沈むと小さな溜め息が出てしまう。
酔いと焼き鳥の臭いを消す為にシャワーを浴びて、ペットボトルの水を飲む。
アルコールのせいか、タレの濃い味のせいか喉が渇いて仕方なかった。

「はぁ……」
瀬田が出張する事はあったが、泊りはなるべく避けていたせいか一人の夜には慣れていない。
ただでさえ広い部屋が、余計に広く見えて何だか寂しく感じてしまう。
拓海は携帯を取り出し、着信メールを確認したが瀬田からのは入っていなかった。
おやすみのメールをしようか悩んでいる時に、携帯が鳴った。

「もしもし!」
「お、随分と早いな」
ワンコールで電話に出た拓海を、揶揄するような瀬田の声が聞こえたが、それでも良かった。
メールで我慢しようと思っていたのに、声が聞けたのだ、それだけでも嬉しかった。
「凄い歓迎されている?」瀬田は言葉を続けた。
「はい……」
アルコールのせいか拓海は素直に自分の気持ちを言えそうだ。
「会いたい……」
一人がこんなに寂しいと感じた事は今まで無かった。
「拓海……?」
「あ、ごめん。俺ちょっと飲んだから」

「飲んだから?」
「……だから、素直みたい」
拓海も自分の言葉に苦笑しながらそう言った。
「奇遇だな、俺も会いたいよ」瀬田もそう返す。
「それなら……来て、帰って来て」
拓海は、子供のような我儘も言ってみたりする。
「何?帰ったら何か良い事でもあるのか?拓海がリードしてくれるとか?」
「いいよ、俺だってそのくらい出来るから……」
酒の勢いとは怖いものである。

―――ガタッ

誰も居ないはずの玄関で物音がした。



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携帯電話を片手にネクタイを緩めながら、瀬田が姿を見せた。
「……どうし……て?」
「顔が少し赤いな、随分飲んだのか?」
拓海の問いには答えず、頬を指で触りながら瀬田が聞いてきた。
「あ、うん少し」
「そうか、同僚と飲むのはいい事だ」
瀬田は独占しているように見えても、拓海の自由を尊重してくれている。
学生時代に経験出来なかった事を、いっぱい経験すればいいと言ってくれているのだった。

「はい、楽しいお酒でした。でも今夜は帰って来られないんじゃ?」
「もう10日も拓海にちゃんと触れてない。そろそろ限界なんでな」
そう言って緩めたネクタイを、音を立てながら抜き取る姿に拓海は、一瞬見惚れた。
瀬田には到底敵わない大人の男としての色気がある。

「無理して帰って来て正解だな、拓海のリードってのもそそられそうだ……」
「あ……っ」
離れていたから言える事もあるのだ、それを分かっていて揶揄する瀬田を軽く睨む。
「おい、まだ誘うなよ。シャワー浴びて来るまで待っていて」
「さ・誘ってなんか……」
拓海の乾き切っていない髪をぐしゃっと掻き回してから、瀬田はシャワーを浴びて来ると言って、拓海の傍から離れた。

躰が火照る……アルコールと瀬田の男の色気に充てられたせいだろうか?そう思いながら拓海は、膝を抱えるようにソファに座り込んだ。
(参ったな……)
瀬田のあの調子じゃ、簡単に諦めてくれそうにない。
(誘うのは好きじゃない……)拓海の古傷がチクリと胸を刺す。
躰を売ろうとしていた自分を思い出してしまう。

ぼんやりしていた拓海は、瀬田が戻って来たのに気付かなかった。
難しい顔をしている拓海を斜め後ろから、じっと眺めていた。
「あぁさっぱりした」
瀬田はそう言って冷蔵庫から缶ビールを取り出し「お前も飲むか?」と聞いてきた。
拓海はゆっくりと首を横に振る。これ以上飲んだらもっと大変な事になりそうだ。

瀬田はごくごくと美味そうにビールを数口飲むと、拓海の隣に腰を下ろした。
「さっきの勢いはどうした?」
「あ・あれは……」帰って来ないと思ったから言えた言葉だ。
「でも、帰って来てくれて嬉しい」
素直な言葉を掛ける割には、拓海の体は微動だにしなかった。
「さあ、リードしてもらおうかな?」完全に揶揄されているのは分かっているが、拓海は指先ひとつも動かせないでいた。

そんな拓海の肩を抱きながら瀬田が囁いた。
「拓海、お前が誘うのは後にも先にも俺だけだ」
「何でも……お見通し?」
「当たり前だ、俺は拓海しか見ていないからな」
(狡い、狡い、狡い……)こんな事を言われたら、もっと好きになってしまう。

「来て……」拓海は覚悟を決めたように、瀬田の手を取り立たせた。
瀬田は、黙って拓海の手を握り返し立ち上る。
「寝室に行こう」拓海は、ベッドという直接的な言葉を使えなくてそう言った。

寝室に入り、ベッドに腰掛ける拓海の前に瀬田が立つ。
瀬田はただ口元を緩め拓海を見下ろしていた。
拓海は黙って、瀬田のバスローブの紐を解き、前を広げた。
目の前に見事な腹筋があり、視線を上げると逞しい胸板、そして男でも見惚れるような端正な顔がある。

「俺だけ脱がされるの?」瀬田に言われて拓海は、自分がまだしっかりとパジャマを着ている事に気づいた。
ベッドに腰掛けたまま、慌てて全てを剥ぎ取った。
くすりと頭の上で瀬田が失笑し、今度は脱ぎ過ぎた事に気づき顔が赤くなってしまった。
「潔いな」
ちょっとむっとした顔を見せて、拓海は立ち上り瀬田の肩からバスローブを落した。
「脱がされるのもいいものだな」
楽しそうな瀬田の顔が憎らしくて、その唇を拓海は自分から塞いだ。

拓海は塞がれたまま、仕掛けて来ない瀬田の唇を割って舌を差し込んだ。
もう数えきれない程交わしたキスでも、自分からこんなに積極的にした事は無かった。
瀬田の熱い昂ぶりが拓海の体に当たり、拓海は貪るように夢中になって瀬田の舌に絡めた。
どんどんと自分の息が上がり、気持ちが昂ぶって来る。

「あぁ……」甘い吐息を漏らしたのは拓海の方だ。

拓海の声に反応するように瀬田の躰も一層嵩を増したようだった。
だが、瀬田は自分からはまだ動かない。
触って欲しい……その言葉は恥ずかしくて言えないから呑み込み、瀬田の胸に手を這わせた。
「触って」自分が言いたかった言葉を瀬田に耳元で囁かれた。
拓海は、胸に這わせた手をゆっくりと下に下げた。

「あ……熱い」
拓海の手の中で、それは熱を持ちどくどくと息づいていた。
今までずっと瀬田のリードで繋がって来た拓海は、そうそう瀬田の躰に触れる機会が無かった。
機会というか、余裕が無かったのだ。
拓海は自分の目が潤んでいる事など気づかずに、瀬田に触れた手を動かすか迷った。
手の中の昂ぶりをどうすれば気持ちいいのか、同じ男なら判る。
いつもしてもらっている事を今夜は、自分がすれば……

拓海は瀬田の躰を押し、向きを変えベッドに座らせた。
そして、その前に跪く。
「拓海……?」瀬田は拓海がやろうとしている事にちょっと慌てて声を掛けた。
「うん、俺にさせて……」
拓海はそう言うと、瀬田の下半身に顔を寄せていった。



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こ・これって誘い受けじゃなさそうな気がしてきた・(ノД`)・゚・。



生まれて初めて咥える―――
何事にも動じないような瀬田が、自分に無防備な姿を晒してくれる事が嬉しかった。
愛おしいような感情が拓海に芽生えた。
瀬田の大きな手が拓海の頭に置かれた。そっと撫でられ拓海は深く呑み込む。
反射的に瀬田の手に力が加わるが、はっとしたように又力が抜かれた。

拓海は自分では上手に出来ているとは思わないが、それでも瀬田の反応を見れば喜んでいてくれるのが分かった。
「拓海……」
優しく名前を呼ばれ拓海は、手を休めずに視線だけを瀬田に向けた。
そこには拓海が初めて見る、余裕のない瀬田の顔があった。
その表情を見て拓海は反って余裕が出て、瀬田の達く顔を見てみたいと思った。

一度口を離し「俺で達って……」と煽ってみる。
「ば、馬鹿野郎……」瀬田は言葉では抗うが、躰は素直に反応を見せた。
拓海は、ふふと微笑み瀬田を達かそうとその楔に舌を這わせた。
「おい……拓海よせ」瀬田が拓海の肩を引き上げようとするが、拓海は黙って頭を振った。
(絶対顔を見てやる)だからと言って何かが変わるわけでは無いが、そうすれば少しは瀬田に近づけるような気がした。

何時の間にこんなに好きになったんだろう?
拓海は今自分がしている行為に恥ずかしさも、嫌悪も感じない自分を素直に受け入れていた。
ただ無心に瀬田を追い上げる拓海に瀬田は、これ以上抗う事を止め素直になった。
「拓海、達っていいか?」
瀬田の言葉に拓海はこくんと頷いた。
拓海とてこの行為に慣れているわけではないので、一生懸命に奉仕し瀬田を追い詰めた。
そしてその瞬間拓海は瀬田の全てを受け入れた。

(あ……っ)
本来の目的を忘れてしまった拓海は、肩を落とす。
そんな拓海を引き上げ「大丈夫か?悪かったな……」と瀬田が詫びて来た。
「ち……違う、顔を見ようと思っていたのに、忘れた」
ふっと鼻で笑われて拓海は再び肩を落としてしまう。
そして思い出したように「飲んだのか?」と聞いて来た瀬田に、黙って頷いた。

すると瀬田はベッドサイドにあったミネラルウォーターを拓海に手渡し「無理するな」と言った。
「別に無理していない、俺だって……あなたに喜んでもらいたいから」
言った途端に瀬田の胸に抱き寄せられた。
「拓海、お前が悦べば俺は嬉しいんだ」
「そんなの……知っている」
この広い胸はどんな時の拓海でも、優しく包んでくれてきたのだ。知らない筈がない。

「そろそろ抱きたいんだが?いつリードしてくれるんだ?」
「う……」
ここから先のリードなんか考えもしなかった。
「どうすれば?」戸惑う拓海を見て瀬田が口角を上げた。
「上になって?」
「む・無理……」

「じゃあ、一言だけ言ってもらおうかな?」
「な、何て?」
「挿れて……ってお強請りしてもらおうかな?」
瀬田は完全に拓海で遊んでいるみたいだった。
拓海は今まで言葉で強請った事もない、その必要はないほどに瀬田は拓海をいつも追い詰めていたから……

一度達した瀬田は余裕そうだったが、拓海はまだ一度も放出していない。
この状況で放置されっぱなしは、少々きついものがあった。
だが、簡単に言える言葉でもない。拓海は赤い顔をして言葉に詰まってしまった。
「拓海?」催促するように瀬田が拓海の名前を読んだ。
「甘やかせたい、って言ったくせに……」
拓海は苦し紛れに、本当はどうでも良かった事で誤魔化した。

「……ごめん、拓海」凄く辛そうな声で瀬田が言い、拓海をぎゅっと抱きしめてきた。
ちょっと意地悪のつもりで言った言葉が、瀬田を傷つけてしまった事に気づいた拓海は慌てた。
「あ、俺こそ……冗談だから」
「いや、俺が悪かった。俺はもう拓海に一点の染みも傷も作りたくなかったのに……」
「凌牙……」拓海は久しぶりに名前を呼んでみた。

名前を呼ばれ、その唇が落ちて来る。
改めてベッドの上で何度もキスをされれば、拓海の躰も簡単に反応してしまう。
なかなか先に進もうとしない瀬田に痺れを切らした拓海が言葉を発した。
「凌牙……挿れて」

拓海の言葉を聞いて、瀬田がにやっと笑ったのを目の端に捕えて、拓海は(やられた……)と思った。
急にしおらしくなって、拓海に詫びたのも全てこの言葉を言わせる為の、伏線だったのだと気づいた時には、もう遅かった。

圧し掛かる瀬田に全てを委ねる。
心も躰も、人生も―――
瀬田の優しい視線に気づけば、拓海も口元が緩んでしまう。
「凌牙、好きだ。早く……欲しい」
満足そうに頷いた瀬田が、静かに拓海を貫く。
「はぁ……っ」焦らされた躰は、それだけで甘く蕩けてしまう。

「拓海、愛しているよ」
「俺も、だから……」貪欲になるのは、心なのか躰なのか拓海も分からなかった。
ただ自分が求める人がいなくならないように、その躰にしがみ付き脚を絡めた。
そして、繋がったまま再び落ちて来る瀬田の唇を、貪るように受け止めた。


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すみません^^;誘い受け勉強します。
何だか世間で言う「誘い受け」とちょっと違う気がします……
今後の課題って事で、頑張ります。

この話に多くの拍手や、ポチありがとうございました!
そして、リクエスト下さったNK様ありがとうございました。

ホームページにつきましては、だいぶ移行できました。
明日辺りには、現在非公開になっている【裏】大奥も全部移し終わると思います。
他の話など全部は移し終わってはおりませんが、とりあえず明日には
アドレスをご案内しようかな、と考えております。
多分単独記事で上げると思いますので、その時は宜しくお願い致します。


「おい拓海、昼飯何処にする?」
一度外回りから戻った拓海にそう聞いてきたのは同期で一番気が合う鹿嶋雄太だった。

「鹿嶋午後は?」
「俺の午後のアポは2時」
時間に余裕がある事が嬉しいのか、雄太がにぱっと笑う。
「あ、俺もそんなもん」
拓海も雄太に向けて同じような笑みを投げた。お互いに慌てて駅前の立ち食い蕎麦をかきこまなくてもいいことに安堵する。

「たまには洒落た所に行かね?給料も出たばっかだしさ」
入社一年目が考える洒落た所とはせいぜいカフェか小さな洋食屋だ。
「あ、俺オムライス食べたい…」
少々値は張るが、あのとろーり卵のオムライスが急に食べたくなった。

「いいね。たまには贅沢しようか?」
「うん」
「でもさ、俺ら可愛いな」
雄太の言葉に拓海はぷっと吹き出した。雄太の外見は可愛いとはほど遠い逞しいものだった。学生時代ラクビーで鍛えた身体は未だ健在である。その逞しい体躯からは想像出来ないような柔和な瞳で雄太は笑う。学生時代はさぞもてただろうと、聞かなくても想像がつく。自分とは違う環境で育ち陰の部分などひとつもないだろう。

「ん、拓海どうした?」
「いや、雄太は明るいな。悩みなんか何も無いって顔をしている」
「ああ、ひでぇなぁ、俺だって悩みの一つや二つ……無いな」
雄太の言葉に拓海は思わず吹き出してしまった。雄太と一緒にいると自分までが普通の人間のように思えて幸せになる。

「拓海こそ、悩みなんかないって顔してるけど?学生時代随分もてただろう?」
「その言葉はそっくり雄太に返すよ」
そんな軽口をたたきながら目指す洋食屋に到着して、二人掛けのテーブルに着いた。
注文を終え暫く冗談を言い合っているうちに、美味しそうなオムライスがテーブルに置かれた。
「卵ってさ、何だか幸せの色していると思わない?」
拓海の言葉に雄太が吹き出した。
「拓海って、子供みたいだな。そんなにオムライスが好きなのか?」
「俺の一番は、エビチリだ。二番目はエビフライ」
「あははは、やっぱり子供みたいだ。見た目は随分と色気あるのにな」
雄太が美味そうに同じオムライスを頬張りながら拓海を揶揄する。
「何だよそれ……色気なんかないから俺」
「自分が気づいていないだけだよ」
ちょっとだけ真面目な顔の雄太に言われ拓海は、それ以上言葉を繋げなかった。


拓海には愛する人がいる。それは雄太にも告白できない相手だ。自分が勤める会社の社長である瀬田との最初の出会いは最悪だった。そして5年後、二度目の出会いで拓海は瀬田に身も心も捕まえられてしまった。今はとても幸せな生活を送っている。

「なあ拓海は学生時代に彼女いなかったのか?」
「いないよ。遊んでいる暇もなかったし……」
嘘ではない、彼女は本当にいないのだ。
「へえ……遊ぶ暇なかったんだ。拓海って真面目そうだもんな」
「そうじゃなくて、真面目なの」
拓海は努めて明るく言い放った。辛かった過去を振り返るつもりも、予定も無いのだ。自分は瀬田と共に歩くと決めた。依存ではないが自分の幸せは瀬田の隣にあると思っている。

「美味いな」
雄太が話を変えるようにオムライスに舌鼓を打っている。その時拓海の背広の内ポケットの携帯が着信を知らせる。拓海は携帯電話を取出しその画面を確認した。瀬田からの電話は雄太の前では出られない。
「ちょっと失礼」
拓海は雄太に断って携帯を手に店の外に出た。

「今どこだ?」
「同僚と食事中です」
「ああ、悪かったな。帰ってからでも良かったんだけど……」
「あの何か?」
「次の裁判の日取りが決まったと弁護士から連絡があってな」
「あ……」
拓海の腹を刺した佐久間の二度目の裁判の日が決まったらしい。そのことに拓海は一気に過去に引き戻されてしまう。
「拓海、大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。詳しいことは帰ってから聞かせて下さい」
「そうだな、悪かったなせっかくの食事中に。ちなみに誰と一緒なんだ?」
拓海は瀬田の最後の一言に思わず口元が緩んだ。瀬田の声は責めているのではなく、何だか拗ねているように聞こえたからだ。
「営業の、鹿嶋雄太です」
「ああ、あいつか……」
「じゃあ切りますよ?」
「浮気はするなよ」
「な、何バカな事言って……浮気なんかしませんよ」
「ふふ、知っているよ。拓海は俺じゃないと満足させられないからな」
「昼間っからバカな事言っていないで下さい」
拓海は誰も聞いていないと知りつつも、携帯を耳に当てたまま周りを見回した。
「わっ!」振り向いた後ろに雄太がニヤニヤして立っていて拓海は思わず声を上げた。そしてそのまま通話を切断した。

「たくみ~~何だか怪しい会話してなかったか?」
雄太が人懐っこい笑みを浮かべながら近づいてくる。
「もう、びっくりするだろう。食事は?」
「もうとっくに食い終わった。食後の飲み物は珈琲でいいかって聞きに来たら、なんとまぁ拓海の色っぽい顔を見ちゃった」
「い、色っぽくなんかない!」
拓海は、口ごもりながら、それでも平静を保ちながら言った。雄太の出現で少し陰った心が浮上した気分だった。今まで誰かとこんなに親しくなったことは無かった。初めて出来た親友が雄太なのだ、瀬田とは違う意味で大事にしたいと拓海は口元を緩めた。



◇まだまだリハビリ中です。いや……リハビリという名の逃避ですが……


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「拓海、本当にあれで良かったのか?」
「はい……」
裁判所を後にしながら、瀬田が聞いてきた。
拓海は、自分も同じ立場なら佐久間と同じことをしたかもしれない……と佐久間を擁護するような発言をしたのだ。佐久間の罪状は殺人未遂ではなく、傷害罪である。おそらく執行猶予が付くだろうと弁護士は言ったが、拓海はそれで良かった。

拓海の母は病弱だったけど、拓海を愛しんでくれた。だが佐久間の母親は違った。もし自分が佐久間と同じ立場だったら同じように道を踏み外していたかもしれない。

「お前は強いな……」
瀬田はハンドルを握りながら溜息混じりに吐く。
「あなたの……あなたの血が俺の体の中に流れているから……」
刺された時に出血が多かった拓海に瀬田は輸血をしてくれていたのだ。

「拓海、午後半休にしてあるよな?」
「あ、はい。半休の届けは出してあります」
どのくらい裁判に時間がかかるか分からないので、仕事の予定は入れられなかったのだ。でも今から戻ったらまだ少しは仕事が出来そうな時間だ。

「よし、俺も半休だ」
瀬田はそう言うと、突然ハンドルを左に切り、ホテルの前に車を停車させた。
「どうしたのですか?」
「家まで持たない」
「体調でも……?」
「拓海があまり可愛い事を言うからだ」
「はい?」
さて自分は何か可愛い事を言っただろうか?と首を傾げてしまう拓海だ。

結局瀬田は部屋をリザーブして、その無駄に広い部屋の無駄に広いベッドに拓海を押し倒した。
「な、何……」
「何ってやる事は一つだろう?」
「明るいうちから……」
会社に戻って仕事しようかと考えていた拓海にとっては、瀬田の行動は全く予想しなかった事だった。

「お前の中の、俺の血は騒がないのか?」
至極真面目な顔で瀬田がそんな事を囁いた。
「あ……」
拓海はさっき自分が言った言葉が瀬田に火をつけてしまったのだと、やっと気づいた。
自分が刺した男が裁判に出廷した帰り道、まさか男と同衾しているなどとは佐久間も考えもしないだろう。佐久間は未だ拘束された身だ。


一瞬集中力を欠いた拓海の目を瀬田が覗き込んで来た。
「欲しがるのは俺だけなのか?」
そんな瀬田が可愛く愛おしいと思うと、拓海の口元も綻びてしまう。

「俺も、あなたが欲しいです。凌牙……あなたがいてくれるから俺は強くなれる」
「馬鹿……お前に挿れる前に俺をいかせるつもりか?」
拓海は、そんな瀬田の首に下から手を回し自分に引き寄せた。優しい唇が降りてくる。重なる寸前に愛を囁く唇に拓海は吸い寄せられる。

今まで何度も重なった唇が心地よくて拓海は静かに瞼を閉じた。
拓海の欲を引き出すように、口腔を蹂躙する瀬田の舌は優しくて熱い。
「あぁ……」
拓海の漏れる吐息までも絡めとられてしまい、だんだんと息が上がってしまう。

瀬田は唇を付けたまま、拓海のネクタイを緩めシャツから抜き取る。まだお互いに背広を着たままの状態で飢えたように貪り合いながら、お互いのシャツのボタンに指をかける。
まるで数年ぶりに再開した恋人同士のようだと拓海は口元を緩めた。

「余裕だな?」
そんな拓海が気に入らないのか、瀬田が不満そうに言った。
「いえ……一緒に住んでいるのに俺たち何やっているんだろう、って思って」
「そうだな……だけど俺は24時間365日、拓海に飢えている」
拓海は、瀬田の言葉と尖りを摘む指先に酔いしれた。
「あぁ……凌牙」
いつの間にか拓海の腕から抜かれた白いシャツがベッドの下に落ちていた。まだ乱されないズボンの中で拓海の欲望が頭をもたげ、窮屈そうに解放の時を待っていた。

「凌牙……」
瀬田の声や指先だけで感じるようになった拓海の体は、会社で遠くから垣間見ただけで熱くなる事もあり、拓海を悩ませている。
ネクタイをきっちり結んだ瀬田の姿は、凛々しくてとてもセクシーだった。
そのネクタイは抜き取ったが、シャツのボタンを外す事は途中までしか出来ていない。早く瀬田の素肌に触れたいと願いながらも、拓海は翻弄されっぱなしだった。

「あぁ……」
指先で弄られていた尖りが湿った唇で濡らされる。気持ち良くて縋るような視線を瀬田に向けた事が恥ずかしくて、拓海は目を伏せた。

瀬田は胸に舌を這わせながら器用に拓海のベルトを外し、前立てをくつろげる。
いつから自分はこんなに貪欲になってしまったのだろう、瀬田の次の行動が待ち遠しく腰が揺らいでしまう。
「欲しいか?」
「あぁ……あなたが欲しいです」
「いい子だ」
拓海の素直な言葉に、瀬田は満足そうに口角を上げながら、下着の中に手を差し込んだ。

待っていた瀬田の大きな手のひらに包まれた拓海のペニスからは歓喜の涙が零れる。
「拓海、すごく濡れている」
「いやだ、言わないで……」
恥ずかしさに拓海の腰が少しひけそうになったが、瀬田はそれを許さず零れる涙ごと口腔に収めた。

「ああぁっ」

拓海がシーツをぎゅっと掴んでその快感を逃そうとした。だがそれに気づいた瀬田がその指に自分の指を絡める。それだけで達してしまいそうになり拓海は瀬田から逃れようと腰を引いた。
「俺の前では何も我慢するなと、言っているだろう?」
そう言ってから改めて口腔深く咥えられ、拓海はあっけなく白旗を上げてしまった。

「凌牙……」
色々な意味泣きたくなる。
達したばかりの拓海の後ろに瀬田の指が這う。
「やあ……」
余韻の残る体に容赦ないように瀬田の指が入口をゆるゆると解しにかかった。



◇すみません、寝落ちしていました。中途半端ですが一度更新



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拓海が苦しさに手を伸ばすたびに、その手を握られる。どこに目が付いているのだろうかと思うほどに瀬田の手のひらは優しく温かい。

「凌牙……もう……」
拓海の体は指や唇で弄られているが、肝心の瀬田とはまだ繋がっていなかった。拓海の言葉を聞いた瀬田が、ゆっくりと熱い楔を打ち込んで来る。
全てを収めきった瀬田が、苦笑しながら拓海に囁いた。

「拓海、もう少し早く強請ってくれないと、俺も辛い」
挿入のきつさに眉根を寄せたままの拓海が、その言葉に微笑んだ。欲しがってくれて嬉しいと伝えるべきか考えたが、そんな事は照れが先に立って言えそうになかった。

馴染むまでじっとしている瀬田の、胸元のチェーンが微かに揺れていた。同じヘッドのペンダントが拓海の胸の上でも輝いている。

「凌牙……もう動いて」
囁いた拓海の唇に軽いキスを落としてから、瀬田はゆっくりと腰を揺らし始めた。
「あぁ……」
繋がっている箇所だけではなく、体のすべての細胞が熱く蠢いているようだった。
「あ……っだめっ」
瀬田が前立腺を狙って攻め始める。拓海にとってそこは弱すぎる場所で、不安にさせる場所でもあった。体と心がバラバラになってしまう。快感が大きすぎて怖くなるのだ。

「凌牙……そこは……だめ」
「拓海、何も考えなくていい。感じるだけ感じればいいんだ」
「あぁ……」
「もう俺無しでは生きられない体になればいい……」
言われなくても、もうとっくにそうなっているのに、瀬田も同じような不安を抱いているのだろうか。

抱かれながらも時々不安になるのは、瀬田を愛しすぎているせいだろうか。それとも過去のせいなのだろうか。
出会いも別れも知っているからなのだろうか……

「拓海、死ぬまでお前を離さないから覚悟しておけよ。いや……俺が死ぬ時にはお前も連れて行く」
「凌牙……嬉しい……」
父も、母も自分を置いて死んで行った。瀬田は連れて行くと言う。
拓海はその言葉が嬉しくて目頭がツンと熱くなった。

佐久間の裁判の後だからだろうか、自分がセンチになっているような気がする。でも零れた涙を留める事は出来そうになかった。
「凌牙、好きだ。だから今の言葉を忘れないで」
「ああ、果てまで拓海と一緒だ」

拓海の零す涙を舐めとったあと、瀬田の激しい抽送が始まった。拓海は背中に回した手に力を籠め何度も愛を囁く。いつもよりも甘えてくる拓海が愛しくて瀬田の動きも止まらない。

吐精を繰り返し拓海が意識を手放したのは、もう夕刻だった。
そんな拓海の乱れた髪を指で撫で付けながら、瀬田は同じ男の拓海をどうしてこんなに好きなのだろうと思っていた。何の発展もない繋がりだ。それでも拓海がいい、拓海じゃないと駄目だ。

多分自分はもう女は抱けないだろうとまで瀬田は思っていた。
もし、何かの間違いがありそれを拓海が知っても、きっと拓海は、怒る事はしないだろう。だがきっと隠れて拓海は泣く。笑顔を見せながら一人のベッドで泣くだろう。

「拓海、お前だけを愛している」
意識のない拓海の頬を指でつんと突きながらも愛を囁いた。そんな自分が何だか恥ずかしくなって、瀬田はバスルームへと向かった。

「凌牙……愛してる」
瀬田の背中に向かって、拓海の唇が微かに動いていたのを瀬田は知らない。
そして拓海は、再び深く幸せな眠りについた。






◇後編はかなり短い話になりました。
エチだけのハピエンです^^;
最後まで読んで下さってありがとうございました!


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