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飛行機雲

 11, 2010 15:00
BL観潮楼秋企画に参加させて頂きました。
お借りしたイラストはundercooled pio様の「飛行機雲」です。
お話のタイトルも同じものを付けさせてもらいました。

イラストの版権及び著作権はpio様に属しますので、
無断転写等はお控えくださいませ。

素敵なイラストありがとうございました。





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「忍、帰るぞ」
「あーんちょっと待ってよ」
「ったくトロいんだから」
クラスは違うけど幼馴染の左近竜馬は毎日僕を迎えに来て一緒に帰宅する。

ふたり並んで廊下を歩いていると、あっちこっちから声が掛かる。
「左近先輩、さよなら~」
「先輩今度部活に顔出してくださいね」
「竜馬今度カラオケ行こうぜ」

そんな掛け声にも「おう」とだけ返事をして具体的に話を進めようとはしない。
「いいよ、いつも僕とばかり一緒にいなくても・・・」
「俺がお前と一緒にいたいんだから、何か問題でもあるか?」
「ううん、ないけど・・・」

無いけど・・いつも僕とばかりいてもつまらないのでは?と危惧してしまう。

そんな時に廊下の向こうから2年の図書委員の山崎が走って来た。
「おいこら!廊下は走るなって習わなかったか?」
竜馬が睨みを効かして山崎に言った。

この山崎が忍の事を探して来た事は聞かなくても竜馬には判っている。
はぁ・・はぁ・・呼吸を整えながら山崎は
「忍先輩、ちょっと教えて欲しい事があるんですが・・」
「おいこらっ!忍先輩じゃないだろ?ええっ?」
「す・すみませんっ!藤原先輩」

「いいよ、忍先輩でも」そう山崎に笑顔を向けてから竜馬を振り返り
「竜馬うるさい!」と釘を刺した。
このやり取りは毎度の事で、忍も心得たもんだ。

「あの・・この書類の書き方なんですが・・」
山崎の差し出した用紙を覗き込みながら、忍が丁寧に教えている。

山崎なんぞは忍の手元など見てはいない、
一生懸命に話す忍の顔だけを眺めている。
そしてそんな山崎を竜馬は忍の後ろから睨みつけていた。

暫くして「ああ判りました、本当にありがとうございました」
そう言って山崎が忍に礼を述べる頃には竜馬の機嫌は噴火寸前のように悪い。

「絶対あいつは忍に惚れてやがる」
帰る山崎の後ろ姿を見ながら竜馬が呟いた。
「えーっ?何それ、男同士なのに」
笑って取り合わない忍の手を引いて
「おい、帰るぞ」

そう言って竜馬が歩き出したのは何時もの帰宅コースではない道だった。
「りょ・竜馬・・何か怒ってる?」
「別に・・・」
ずんずんと歩く竜馬に引きずられるように忍も歩いた。

しばらく歩くとそこは広い空き地で、ススキが風になびいていた。
「わぁ~もう秋なんだね」
忍が嬉しそうに空き地の中に駆けるように入って行った。
「おい、転ぶなよ」
「へっ?子供じゃないんだからぁ」そう言ってくすくすと笑う忍の後に続いて歩いた。

ススキを触ったりしてはしゃぐ忍と違って竜馬の口数が少ない。
「竜馬、まだ何か怒ってるの?」
「別に・・怒ってる訳じゃないさ」
「でも不機嫌・・・」

竜馬は内心、今日こそはキスしようと思っていた。
そのタイミングを計っているから口数が少ないだけで、怒ってる訳じゃない・・

「竜馬?」突然下から忍が顔を覗き込んできた。
「し・・忍・・・キスしたい・・」
「え?誰と?」目をまん丸に驚いた顔で忍が聞いてきた。

「忍と・・」
「ぼ・僕と・・・キス?」
「ああ、ほら目を瞑れよ」
突然キスしたいから目を瞑れと言われても、どうしていいか判らない。

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それなのに返事をする間もなく竜馬の顔が近づいて来た。
「あ・・・・」
拒否するつもりだったのに自然と目が閉じてしまう。

優しく触れるだけのキスが次第に激しいキスに変わって来た。
「竜馬ぁ・・・」
やっと離れてくれた竜馬の腕の中で小さく呟いた。
「忍・・何だか凄くエロイんだけど・・」

忍のうっすらと涙の浮かんだ瞳は若い性を刺激してしまう。
竜馬はそのままぎゅっと忍を腕に抱きしめてたかと思うと
「忍、ヤバイ俺・・勃ってきちゃった」
揶揄するように耳元で囁かれ、忍が首まで赤くなりながら
「ばか・・あ・当たってるから・・」

「ああ、俺のデカイからなぁ・・忍ん中挿るかなぁ?」
真面目な声で言うから、忍が驚いて飛びのいた。
「そんな恐い顔すんなよ、今すぐって訳じゃないんだから」
竜馬が余裕たっぷりの顔で言うから
「そ・そんな勝手に決め付けないでよ」と抗議すると

「12ん時から決めてたから、絶対お前と一つになるって
それに、ずっと俺のオカズはお前だからなっ」
「お・オカズって・・・」
オカズの意味を聞くほど忍だって子供じゃない。
自分がずっとそういう対象で見られていた事が逆に恥ずかしくなってしまう。

「ところで忍のオカズって」「あっ!飛行機」
忍の視線の先に飛行機雲が見える。
話の腰を折られた竜馬も振り返って高い秋の空にたなびく雲を見ていた。

「帰ろっ」忍が足元の鞄を拾って竜馬に声を掛けた。
「ああ、そうだな帰ろうか・・」

「また・・時々来ようね」
俯くように歩く忍がそっと呟いた。

先を急ぐ必要は無い、今はまだこの爽やかな秋の風のようなままでいい・・
そう思いながら忍の手をとり繋いだ。
ぎゅっと忍が力を込めて握り返して来た。


『うっ!』
急がないと心に誓ったばかりなのに、
忍の態度に決心が早くも揺らいでしまう竜馬だった。




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すみません・・駄文長文になってしまい申し訳ないです。
最後までお読み頂きありがとうございました。


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それは突然の出来事と呼ぶには衝撃過ぎた。
「真田・・?」

最近後輩の真田が元気が無いと感じて、仕事の帰りに飲みに誘った夕暮れだった。
「僕・・先輩が結婚するって聞いて・・祝福しなくっちゃと思って・・それで・・」
支離滅裂な真田の言葉に驚きながら「とりあえず、行こう」
そう言って「帰る」という真田を引っ張るようにチェーン店の居酒屋に連れて行った。

完全個室では無いが、中に居る者の顔も外からは見えない、
外を歩く足元だけが見えるタイプの個室に二人通された。
最近の居酒屋はこういう作りの方がトラブルも少なくプライバシーが守られるから流行っていた。
「とりあえずビール」と従業員に注文して、何も言わない真田の代わりに
適当にツマミを注文してビールが先に運ばれて来るまで黙って待った。

「失礼しまーす」とビールグラスを2つ持って来た従業員が部屋を去ると
「とりあえず乾杯しようか?」と俯いている真田の顔を覗き込んだ。
「はい・・」小さく返事をしてグラスを手にやっと正面に座る先輩である諏訪の顔を見た。
「はい乾杯、お疲れ」
「乾杯、お疲れ様でした・・・」と諏訪のグラスに合わせた。

グラスのビールを半分ほど一気に飲んで
「はあーっ!やっぱ仕事の後のビールは旨いな」諏訪が機嫌良く言っている。
真田も同じくらいの量を飲んでまた目を伏せた。

「真田、さっきのあれは何?」
「あれは・・その・・諏訪先輩が結婚されるって聞いて・・」
「へえ、じゃ真田は結婚が決まった先輩にはああやって祝福してるんだ?」
真田は揶揄してるのか、軽蔑しているのか諏訪のその言葉だけでは図れなかった。
「・・そんな事ないです」
だけど、否定しないと諏訪までを貶めるようで嫌だったから素直に否定した。

「じゃどうして?」
「・・・すみません!さっきの事は忘れて下さい!」
諏訪に向かって頭を下げた。
「いいよ忘れても・・・でもこの唇の感触は忘れられないなぁ・・」
今度は完全にからかわれている。

「すみませんっ!男の僕にあんな事されて・・不快な思いさせてしまって」
「不快じゃなかったって言えばもう一回してくれる?」
「・・からかわないで下さい」
真田はぎゅっと唇を噛んだ。
そしてこの場から一刻も早く逃げ出したかった。

「先輩・・僕そろそろ帰ります」居たたまれなくなって真田が口を開いた。
「どうして?私と一緒に飲むのは苦痛か?」
「・・今は苦痛です」
真田はきっと自分がどういう気持ちを抱いているか見抜いているはずだと思った。

入社して3年、そして同じ課の係長の諏訪をいつの間にか目で追い
気がついた時はどうしようも無いくらい好きになっていた。
男を好きになった事など初めてだったけど、
この気持ちは先輩に対する男としての憧れじゃない事は自分で判っていた。

つまみが運ばれ諏訪がビールのお代わりを2杯注文した。
これでこの場から逃げ出す時間が延びてしまった。
諏訪に「飲みなさい、食べなさい」と言われ真田はやけのように飲みだした。
ああいう事をしてしまった事実は消えないのだ、開き直るしかなかった。

そしてビールを5杯ほど飲み、少し呂律が回らなくなった真田は
「飲み過ぎだぞ」と言われても
「先輩が飲めって言ったんじゃないですか」逆切れのような言葉を吐いた。
「それに・・・先輩が結婚したらもう・・」
ゆっくり二人で飲む機会など無いじゃないですか、と言おうとして止めた。

『そうだ・・これが最後のチャンスかもしれない』
酔った頭は平常心と羞恥心を失わせた。
「先輩、先輩の部屋に連れて行って下さい」
真田の言葉に少し驚いた顔をした後、優しい顔になり
「いいよ、じゃ私の部屋で飲みなおそうか?」
真田と同じ量を飲んでいるのに諏訪の顔色も態度も全く変わらなかった。

タクシーで諏訪のマンションに着いたのはそれから30分した頃だった。
そう強くないのに、5杯飲みタクシーの揺れにすっかり体調が悪くなった真田は
諏訪の部屋に着く頃には一人で上手く歩けないような状態だった。
諏訪に抱えられるように部屋に入り、トイレに飛び込んだ。

『僕って最悪・・・』このままトイレから出て行きたくなかった。
「真田大丈夫か?」ドアの外から諏訪が心配そうに声を掛けてきた。
「す・すみません・・大丈夫です」
真田の顔が真っ青だったのは、気分が悪いばかりでは無かった。
少し冷静になって今日の自分の行動を思い返すと指が小刻みに震える程だった。

ゆっくりトイレのドアを開け、外に出ると心配そうな顔の諏訪が立っていた。
「すみませんでした・・帰ります」
「まだ顔色が良くない、今夜はここに泊まりなさい」
「いえ・・大丈夫です、ご迷惑お掛けしました」
初めて訪れた好きな人の部屋をゆっくり見る事もなく帰ろうとする自分がちょっと可哀相になったけど、これ以上ここに居られないと思った。

「いいから、少し休みなさい、ほら水」
そう言ってミネラル水のペットボトルを差し出してくれた。
「ありがとうございます・・その前にちょっと洗面所借りていいですか?」
図々しいと思ったけど、口の中が気持ち悪かった。
「ああ、そうだね、こっちへ来なさい」
浴室の隣にある洗面所に連れて行ってくれて
「もし入れるようならシャワーでも使えばいい、すっきりするから」

変な汗を掻いたから本当は言葉に甘えてシャワーを借りたかった。
その一瞬の躊躇いを諏訪は見逃さなかった。
「ごく普通のシャワーだから説明しなくても判るね、はいタオルはこれ
着替えは真田がシャワー使ってる間に見繕っておくから」
そう言葉を残すと諏訪はさっさと洗面所を出て行った。

手に置かれたバスタオルを暫く眺めていたけど、意を決したように
タオルを一度置いてシャツのボタンに手を掛けていった。
脱いだ服を小さく丸めて足元に置いて浴室に入った。
熱めのシャワーを浴びて、だんだんと頭もすっきりしてきた。
一つ溜息を吐いてから浴室から出て置いたバスタオルに手を伸ばす。

用意してくれてるはずの着替えが無い事に気付いたのは顔の水気を拭いた後だった。
そこには真新しいバスローブが1枚置かれていただけだった。
そしてさっき足元に置いた脱いだ服を探しても見つからない。
音が静かで気付かなかったが洗濯機が僅かに動く気配を感じて中を確認すると
自分の着てたであろうシャツや下着が入っていた。

仕方ないから置いてあったバスローブを羽織って出て行った。
そんな真田に気付いて「ああ、悪かったねそれしか無くて」
「すみません・・・あの僕の着てた服洗濯して下さってるんですか?」
「ああ、直ぐに乾くからそれまではそれで我慢してて」

バスローブ1枚という格好に慣れてない真田は何となく居心地が悪かった。
この下には下着1枚着けていないのだ・・
「すっきりしたらお腹空いただろう?」
そう言って目の前に出されたのはお茶漬けだった。
吐いたために腹の中は空っぽだった・・諏訪の出してくれたお茶漬けは美味しかった。
インスタントの茶漬けに焼いて冷凍しておいた鮭を足し三つ葉を添えたそうだ。
見た目も味も今まで食べた中で一番美味しかった。

「美味しい・・・」
「やっといつもの真田らしくなった」少し安心したような顔で言われて
「すみませんでした・・」改めて頭を下げた。
真田は今夜一緒に飲めて部屋まで訪問できた・・・それだけでいい、と思った。

体も心も落ち着き、改めて諏訪の部屋を見回してみた。
何だか違和感を感じてしまう・・・何だろう?
2LDKのゆったりとした間取りは、新婚生活にぴったりの雰囲気だった。
綺麗に片付いた部屋だけど何か足りない気がした。

「どうした?」諏訪の問いかけに思い切って聞いてみた。
「結婚されたらここに住まわれるんですか?」
「いや・・・」
その言葉にある意味納得した、何故だかここに女性の影が見えない。
「ああ・・じゃ違う所に新居を構えるんですね」

「う・・ん・・今更だけどちょっといいかな?」
珈琲をいれながら諏訪が言いにくそうに口を開いた。
「結婚するのは私じゃないから・・多分噂は弟だと思うけど?」
「へっ?!」
来春に2つ下の弟が結婚すると教えてくれた。
「何処でどう変わったか知らないけど、私にはそういう予定は無いから」

どうして今頃になってから本当の事を言うんだろう?
もっと早くに教えて欲しかった。
そしたらこんな見っとも無い自分を晒す事も無かったのに。

「僕・・本当にからかわれてたんだ・・・」
今度こそここから逃出したかった。
だけどバスローブ1枚で外に出るわけにもいかない。

「からかってないよ」
「じゃどうして?」
「・・・私にああいう事をしたって事は・・自惚れていいんじゃないかな?って思って」
その言葉を聞いた途端真田の胸がドキドキしてきた。
自分から諏訪にキスをした夕暮れを思い出した。

珈琲をテーブルの上に置くと、諏訪が真田の背後に回りこんだ。
後ろから肩に手を置き、耳元で「嬉しかったよ」と囁かれた。
「え?」
それは自分にキスをされて嬉しかったって事?

「あっ!」耳元で囁いた唇はそのまま真田の耳たぶを甘噛みしたのだった。
背中がぞくっとし、体が強張ってしまった。
「私はね、君が他の人にもあんな事をするのかと思ったら凄く腹が立ってね」
その誤解は直ぐに解けたがと笑って言う諏訪を振り向いて見る事が出来なかった。

「真田の事をずっと可愛いと思って見てた、一生懸命仕事をする姿も
私の笑いかける笑顔も全部可愛いと思ってた・・・」
肩に回された腕でぎゅっと抱き締められ
「だけど、真田をこっちの世界に引き入れる勇気が無かった・・・」
「え・・?こっちの?」
「私は男性も愛せるんだよ」
「そ・それって・・・」
「私はバイセクシャルなんだ、嫌だと思ったらこの腕を解いてくれ」

真田は自分の体の前で交差している諏訪の腕をそっと解いた。
途中から諏訪の腕の力が抜けたようでその腕は簡単に解けた。
頭の上で諏訪の小さな落胆の溜息が聞こえる。

諏訪の腕を解いて立ち上がり諏訪の真正面に立ち
そして真田は自分から諏訪の唇に向かって顔を近づけて行った。
「あ・・」諏訪の驚きの声は直ぐに消されその腕は改めて真田の背中を強く抱き締めた。





BL観潮楼秋企画に参加させて頂きました。
お借りしたイラストは希咲堂の慧さまの「それは野分のように」です。

もうイラストのタイトルからして萌えますね!


イラストの版権及び著作権は慧様に属しますので、
無断転写等はお控えくださいませ。

素敵なイラストありがとうございました。

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<18禁です>

唇を離した真田に向かって「二度も先を越されたな」と苦笑している。
「10分・・・シャワー浴びてくるから・・
心配しないで直ぐに体を繋げるような事はしないから
でも真田に触れたい・・・もし嫌だったらこの部屋に居て
嫌じゃなかったら、隣の寝室に居て・・・」
そう言い残すと諏訪はバスルームに消えて行った。

「10分・・・」諏訪の体内時計の正確さは社内でも有名だった。
諏訪が10分と言えば必ず10分だ。
真田はへなへなとその場に座り込んだ。
体は繋げないと言われたけど、寝室って事はそれに近い行為がある?
諏訪の事だ、このままこの部屋に居ても何も言わないだろう。

『どうしよう・・・』望んでいた事だけど胸がドキドキして考えがまとまらない。
体も小刻みに震えている『どうしよう』
喉がカラカラに渇いてきてさっき煎れてもらった珈琲に口を付けた。
美味しいのだろうけど今の真田には味も判らなかった。
『でもこのままじゃ嫌だ・・』

もう7・8分は過ぎただろう・・・真田は意を決して立ち上がり寝室のドアに手を掛けた。
そっと伺った寝室はモノトーンで統一され、お洒落なベッドが置いてあった。
ごくっと喉が鳴る。
この部屋がとても淫蕩な部屋に感じてしまい、脚がガクガク震えて止まらない。

そのベッドに腰掛ける事も出来ずにただベッドを前に立ち尽くしていた。
カチャっと言う音と共に人の気配を感じた。
「真田・・・」諏訪の呼びかけに引き攣ったような笑顔を向け
「先輩・・・僕」
「そう緊張するなよ、とって食おうとしてる訳じゃないから」
そう言いながら立ち尽くす真田の体をそっと押してベッドに座らせた。

「緊張してる?」揶揄するような余裕ある言葉に
「先輩は・・慣れてる?」
「う・・ん?慣れてなくは無いけど、この部屋に来たのは真田が初めてだよ」
「・・でも他の人としたんだ・・・・」
言葉にした途端真田の胸の中がキリキリ痛んだ。

「それってヤキモチ?大丈夫だよ、もう他の人とはしないから」
「本当に?」それがこの場限りの言い逃れでも嘘でも良いと思いながらも
諏訪の胸に誰かが抱かれるのは考えたく無いほど嫌だった。

「真田・・・」諏訪の手が肩に掛かり引き寄せられた。
黙って諏訪の胸に凭れかかり顔を埋める。
そっと顔を上に向かされ熱い唇を受けた。
さっき自分からしたのとは比べようもない程の熱い口付けだった。
閉じた唇を舌でこじ開けられる頃には息も上がり目もとろんとしてきた。

歯列をなぞられ、舌を絡められる『もう好きにして』と叫びたくなるほど
自分の体が官能の渦に巻き込まれていた。
「真田・・可愛いよ」
前がゆったりしたバスローブに手を忍び込ませるなんて簡単な事だった。

「ぁっ」諏訪に触れられただけで甘い声が漏れてしまい顔が熱くなる。
乳首を引掻くように弄られるだけで、蕩けそうに気持ちが良かった。
「ここ感じるの?」
諏訪の言葉にこくんと頷いた。
「ああぁ・・・」他人に触れられるそこがこんなに気持ちいいなんて知らない。

諏訪の手がバスローブの紐に掛かった。
下着も履いてない体はもうベトベトに濡れバスローブの前も汚してるだろうと思い、
それを見られるのは凄く抵抗があり、そして何より恥ずかしかった。

「いやっ!」思わず声が漏れてしまうが諏訪の動きは止まらない。
「感じてるの?」
「・・・恥ずかしい」
「恥ずかしくは無いよ、感じてくれて嬉しいよ」
普通の男がこんな言葉を甘く吐いても気持ち悪いだけかもしれないが
諏訪の甘いマスクと優しい声で囁かれると、
それだけで真田は自分の体が余計に熱くなってしまい仕方なかった。

「ここ舐めるよ」
信じられない諏訪の言葉に被りを振った。
「ダメッ!そんな事・・・」
真田の前に回りこみ体勢を整えた諏訪の手が真田の性器を握り
あっという間にその昂ぶりを咥えた。

「ああっ!」熱い口腔に包まれた真田の性器は一層膨らみ快感を体で表している。
諏訪の舌の動きも指の動きも慣れない真田を直ぐに追い込んでしまった。
「もっ・・あぁ・・もう止めて・・先輩」
諏訪はそんな真田の脚を大きく開かせ、奥の密かな場所に指を這わせた。

咥えられたまま体の奥に今まで知らなかったゾクっとする感触を与えられ
真田はその瞬間に諏訪の口腔に全てを吐き出してしまった。
諏訪がそれを飲み干すのを呆然と眺めていた。
声も出ず体を動かす事も出来なかった。

「真田って凄く感じやすい体をしているね」
淫乱だと言われたようで諏訪の顔を見る事が出来なかった。
「真田があまりに可愛いから・・ほら」
諏訪の視線の先を追うように見ると、バスローブの前が酷く膨らんでいた。

真田はそれを『欲しい・・』と思った。

「先輩・・・僕の中に挿れて下さい」
「何を・・?」口角を上げて諏訪が聞きなおす。
「先輩意地悪だ・・・先輩の・・ペ・ペニスを」震える声で答えたのに
「どこに?」などと、諏訪の意地悪は続いた。

「ぼ・・僕の・・・お尻の中に・・・」
知識があった訳じゃないけど本能がそう言わせた。
あまりの恥ずかしさと諏訪の意地悪な言葉に涙が零れて来る。
そんな真田を見て慌てたように
「ごめん、真田があまりに可愛いから、つい苛めたくなった、ごめん」
そう言って零れた涙を優しく拭いてくれた。

「本当に挿れていいの?一度抱いたら真田を離したくなくなるけど?」
「先輩・・・」離したくないと言われて嘘でも嬉しい。
「それに私は意外とヤキモチ妬きだ」
「先輩が?」いつも余裕のある諏訪がヤキモチ妬きだとは思えなかった。

諏訪が2人の名前を出し「彼らにはもう触れさせないで」と言ったのには驚いた。
同期と1つ年上の先輩は何かと理由を付けて真田の体に触れて来ていた。
肩に手を置いたり、大袈裟に首に腕を巻きつけたりの高校生のような戯れだったが
それすらも諏訪は本当は苛々して眺めていたと言う。

「それって・・・?」
「ヤキモチだよ」そう肩を少し竦めて言う諏訪に驚いた。
思い返すとそういう事をしていると必ず「真田君ちょっと」と呼ばれ
仕事を言いつけられたりしていた気がする。
「鈍いな真田は・・・」
週のうち3回は昼飯を一緒に食べていた・・・
月に二度程は飲みに誘われていた・・・

ちょっと待っててと一人部屋を出た諏訪が戻って来た時には
洗面所にあったベビーオイルを手に持っていた。
この部屋に誰も入れた事が無いというのは本当なんだ・・・
ぼうっとその手にしたオイルを見ながら真田は思っていた。

「大丈夫?怖い?」
諏訪の労わるような言葉に首を横に振った。
体の奥から湧き上がって来る熱を早くどうにかして欲しかった。

「うつ伏せになって」そう言いながら真田の体をひっくり返して行く。
すらりと伸びた体を眺めた後に真田の背中に唇を這わす。
「あぁ」背筋に性感帯があるなんて知らなかった。
つつーっと背筋を這う指先に背中が仰け反ってしまう。
「真田亮太」突然フルネームで呼ばれ驚いて「はい!」と返事をしてしまった。
「亮太・・・」今度は甘く名前で呼ばれ枕に顔を埋めたままコクンと頷いた。


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BL観潮楼秋企画に参加させて頂きました。
お借りしたイラストは希咲堂の慧さまの「それは野分のように」です。

今回はイラストを下に持ってきました。
何だか「きゃーっ」って感じです。
今真っ最中のお二人さんです!


前後編で終わる予定が・・・後編が既に5000文字を超えてしまい
前中後編に分けてしまいました^^
18禁って何故にあんなに長くなってしまうのだろうか・・・・・


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<ひき続き18禁です・スミマセン>

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諏訪は腹の下に手を差し込みぐいっと亮太の腰を持ち上げた。
「あっ!」必然的に動物のような体勢に変えられ途端に体が強張る。
「最初はこっちの方が楽だから・・・亮太の顔は後でゆっくり見せてもらうからね」
「は・恥ずかしい・・・」
顔が見られないのはいいが、この体勢がとても無防備に後ろを曝している事は判る。

「可愛いお尻だな・・・」そう言いながら諏訪の大きな手の平が尻たぶを撫でている。
撫でる力がだんだんと強くなり、揉みしだかれるように左右に広げられていく。
「あぁ・・先輩」
恥ずかしくて恥ずかしくて・・・耳まで赤くなりながら亮太が抗った。
広げられたままの状態で諏訪の動きが止まった事に気付いた。
『見られてる・・・や・・見ないで』
言葉にしようとした途端にぬるっとした感触を恥ずかしい部分に感じた。

「ひゃーっ!」思わず飛び出した声は色気も何も無い声だった。
生き物のように動く舌先にびくんびくんと背筋が撓る。
「あぁん・・あん・・」信じられないような嬌声が零れるが止められなかった。
「そんなに可愛い声で啼かれたら私が我慢できなくなる・・」
揶揄するように言う諏訪の言葉を背中で聞いた。

諏訪はさっきのベビーオイルの蓋を開け手の平にオイルを垂らしている。
オイルを馴染ませた指先で入り口を揉み解すように触られる。
「・・はぁーっ」亮太の深く吐かれた吐息は小さく震えていた。
「怖い?」
「恥ずかしい・・」
「亮太のここに早く挿れたい・・」
「恥ずかしい・・」
「ここ触られて気持ちいい?」
「恥ずかしい・・」
何を言っても恥ずかしいとしか答えない亮太の孔に指をぷつっと押し込んだ。

「あぁ・・っ」ゆっくりと侵入する指を体を強張らせて受け入れた。
「亮太、痛い?」中で指をそろりと動かしながら聞いてくる。
「だ・大丈夫・・・」
諏訪は中を弄りながらも背中や双丘に唇を這わすのも忘れなかった。
一度抜かれた指が新たなオイルと共に増やされて侵入してきた。
「あ・・・・」言葉にならない声が漏れるがじっと我慢して堪えた。
ゆっくり中を擦られ自然と腰が揺れてしまっていたのを亮太は知らない。

「気持ちいいの?」諏訪に聞かれ素直に頷いた。
「じゃもっと気持ち良くしてあげるから」
そう言うと探るような指があるポイントを押さえた。

「やあっ!」首ごと背中が弓なりに反ってしまう。
自分の体の中にこんなに刺激的なポイントがあるとは思いもしなかった。
集中的に攻められるポイントに腰を揺らしながら、喘ぎ声を漏らしてしまう。
「先輩・・・もうイキそう・・いっちゃう」
前を触られてないのに射精感でいっぱいになってしまう。
「ああぁぁ・・・」感じ過ぎて涙がボロボロ零れてしまっている。

「亮太・・君は可愛い過ぎだ」
心なしか諏訪の声も上ずって聞こえてくる。
「先輩・・・もう・・早く・・」
このぐつぐつと煮え滾るような疼きを止められるのは諏訪だけだ・・・
指を増やされ拡張され続ける孔の疼きは諏訪を求めていたのだ。
自分がこんなに快楽に浅ましい人間だったとは思わなかった。

「亮太・・私にキスをしてきた理由をはっきり聞かせてくれないか?」
諏訪が全ての指を抜き去り、亮太を仰向けにして聞いてきた。
指だけであんなに乱れてしまった自分を恥ずかしいと思いながらも
「僕は・・先輩が好きなんです」
そうだ・・好きな人にされる事だからこんなに気持ちいいんだ・・・
「ありがとう・・私もずっと前から亮太が好きだったよ」
思いもしない諏訪の告白に驚いた顔を向けると
「やはり君は鈍いな・・」口元を緩めて微笑んだ。

そして照れたように「後ろからって言ったけど、やはり君の顔を見ながら繋がりたい、いいかい?」と聞いてきた。
黙って頷いた、亮太だって諏訪の顔を見ていたかった。
諏訪が体勢を整え、熱く太い楔の先を濡れそぼった孔の入り口に押し当てた。
労わるようにその先が孔の中に沈んでくるのが判る。
「あぁ・・っ」
「最初は少し苦しいけど我慢して」
「だ・大丈夫です・・・」
諏訪の太い部分が入り口の肉を巻き込むように埋められた。
「ううっ!」圧迫感と痛みに声が漏れるがその唇を塞がれた。

亮太の快感を引き出すような口付けは甘く長く続いた。
太い部分を受け入れた感覚に声が漏れるがそれも諏訪の唇で消される。
諏訪の唇が離れたのは殆ど亮太の中に挿入しきった時だった。
「はぁっ」小さく息を吐きながらその質感に堪えていた。

唇が離れた途端に亮太は腕で顔を覆った。
「亮太全部入ったよ・・顔見せて」
黙って首を横に振る亮太の耳たぶを甘噛みし、その耳の中に舌を差し込んだ。
「ああん」
ぞくりとする舌の感触にいつの間にか亮太の腕は下に落ち、
その手はしっかりとシーツを握り締めていた。
亮太が甘い声を漏らす度に後孔がぎゅうぎゅうと締まってくる。

「亮太・・そんなに締め付けて・・私を煽っているのか?」
揶揄するように言われるが亮太にそんな意識は無かった。
亮太の耳たぶを弄っていた諏訪がふと漏らした。
「亮太若いのにピアス付けてないんだね・・・」
そういう諏訪は係長のくせに何時も綺麗なピアスを付けていた。
そんな事を亮太に指摘され「そうだね、だから係長になって半年経つのに亮太は今でも私の事を先輩って呼ぶね?」
「あっ!」
この会社に就職してから諏訪が同じ大学出身と知った。
それ以来「先輩」と呼び可愛がってもらったのだ。

「すみません・・僕・・諏訪係長・・・」
「ふふっ冗談だよ、でもベッドの中では琢磨って呼んで欲しいな」
少し拗ねたように強請る諏訪が何だか可愛いかった。
「亮太の耳にもピアス開けようか?」
「ピ・ピアスですか?」拘って開けなかった訳じゃないが今更とも思ってしまう。
「私とお揃いのピアス付けようか?」
諏訪のその言葉が何だかとても嬉しかった・・まるで恋人の印みたいで。

「でもどうせお揃いなら、こっちに付けようか?」
「ひっ!」
そう言いながら諏訪が亮太の小さな尖りを引っ張った。
「乳首ピアス亮太になら良く似合いそうだ」
亮太の尖りを引っ張ったり、捏ねたり、転がしたりしている。
「あぁ・・・」その乳首が疼くと、連動したように貫かれた孔も疼く。

「先輩・・・」潤んだ瞳で見上げる亮太に
「そのうち開けるからね、いいね亮太?」と念を押され亮太は頷いてしまった。
亮太は乳首ピアスの意識よりも諏訪とお揃いの物を身に付けられる事が嬉しかった。
(ちょっとこれは後で後悔するのだが・・・)
そんな亮太に満足な笑みを見せた後「動くよ、私も限界だ・・」
そう言って諏訪がゆっくり腰を引いた。

「ああっ・・・」まるで波に体を持って行かれるような感覚に喘ぐ。
そしてそれは再び亮太の体に埋まった。
「ああん・・・」今度は波に押される。
何度かそれを繰り返され亮太は息をするのも苦しくなった。
『あ・・っ・・お・溺れる・・・』
亮太の不安を見てとった諏訪が亮太の指に指を絡めぎゅっと握った。

「ああっ・・・」亮太もその指に力を込めて握り返した。
「亮太・・・好きだよ」
「ぼ・僕も・・・あぁん・・」動きの止まらない諏訪に翻弄されながらも
亮太自身もどんどん高みに追い上げられて行く。
「はぁっ・・ああぁぁ・・・」
自分の下で悶える亮太が可愛くて仕方なかった。
そして亮太は諏訪に少し扱かれただけであっけなく絶頂を迎えてしまった。
ひくつく後孔の奥に諏訪のぐんと大きく膨れたモノから放出された熱を感じた。

「ごめん・・もっと優しくするつもりだったのに・・」
諏訪の言い訳も嬉しかった。
どんなトラブルも冷静沈着に対応する諏訪の理性が少し崩れた事が・・
「大丈夫です・・・僕も」乱れてしまった事を言葉にするのが恥ずかしい。
そんな亮太の髪を撫でながら「好きだよ」と、その微笑に亮太は見惚れてしまう。
「嬉しいです僕・・」
はにかむような亮太の笑顔に中に入ったままの諏訪の分身が跳ねた。
「あ・・っ」
「亮太が可愛いから・・」
それはまるで野分の後のような
爽やかで優しい風に包まれた気持ちにさせる笑顔だった。

「先輩が好き・・」

亮太の言葉に体勢を立て直した諏訪だった。
そしてその笑顔は野分の後ではなかった事を亮太に思い知らせた。
まだまだ野分の最中であったことを・・・






BL観潮楼秋企画に参加させて頂きました。
お借りしたイラストは希咲堂の慧さまの「それは野分のように」です。

慧さまの「それは野分のように」というタイトルがとても素敵で
最後に引用させてもらいました。
タイトルごとお借りした形ですねぇ^^;

10000文字と少し、私の普通の5話分を3話でまとめましたが
キスから始まりエチで終わるという構成になってしまいました。
慧さまのイラストのイメージを壊さなければいいなぁと思っています^^

読んで下さった方が最後に「にやっ」と笑って下されば幸いです。

最後になりましたが、慧さま!今回エチくて美麗なイラストを貸して下さってありがとうございました!


イラストの版権及び著作権は慧様に属しますので、
無断転写等はお控えくださいませ。


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2010-aki-sigo.jpg
イラストの版権及び著作権はSSshigo屋しご様に属しますので、
無断転写等はお控えくださいませ。




「空が高いなぁ・・・」
「うん、天高く馬・・・馬・・・あれ?馬・・・お腹空いて来た」
じっと空を見上げている千夜(せんや)の腹の上で視線を上げる事なくそんな事を言っている
真純(ますみ)の体に腕を回した。
「全く、数学以外はからっきしだな・・」呆れたように千夜が言う。
そしてその数学が問題なのだ・・・
「留学決めたのか?」千夜の問いかけに
「行かないよ僕・・・」と真純は意図も簡単に答える。
「どうして?せっかく、その何とか賞ってのを狙えるチャンスなんだろう?」
「フィールズ賞?」
馬肥ゆる秋が言えなかったくせに、フィールズ賞の名はすらっと出てくる辺りが流石だと妙な所で感心してしまう。

「千夜は僕が留学しても寂しくない?」指で千夜のシャツのボタンを弄りながら真純が拗ねたように聞いてきた。
「お・・俺は別に・・真純が好きな事に没頭できるチャンスを掴めるのなら応援する」
神に誓って本心かと?問われたらNOだったけど、それでも千夜は応援すると言い切った。

「そう・・・僕は寂しいよ」その口調が本当に寂しそうで、千夜は胸がチクンと痛む。
昔からそうだった・・真純は心を隠す事をしなかった。
「俺だって寂しいさ、だけど仕方ないだろ?!」
俺に行くなと止める権利など何も無いんだから・・
親友の未来ある旅立ちを温かく見守るしかないんだから、と自身に言い聞かす。

「僕さぁ・・あっちに行って外人にレイプとかされたらどうしよう?」
突拍子も無い事を言い出した真純に向かって
「そんな危険な所に行かなきゃいいだろっ」と突っぱねる。
「じゃあさぁ・・同室の男に寝てる間に襲われたらどうする?」
アメリカに行ったらルームシェアする事になるだろう。
「どうしてさっきから対象が男なんだ?金髪美人に言い寄られるとかは思いつかないのか?」
千夜は呆れるを通り越して妙な怒りさえ覚えてきそうだった。
それは、一瞬でも男と抱き合っている真純を想像してしまった自分への怒りだったのかもしれない。

「千夜の体って温かいね」ぎゅっとしがみ付く真純の体も温かった。
「話を逸らすなよ」真純の冗談のような言葉に答えを求めてしまう千夜だった。
「う~んどうしてだろう?じゃ千夜は僕が女性を抱いているのを想像出来る?」
「・・・そ・そりゃ・・・無理だ、俺だって経験ないし」
半ばやけくそのような答えだった。
「でしょう?じゃ僕が男に組み敷かれているのを想像出来る?」

それは千夜にとってハードルの高い想像だった。
だけど、脳裏に閃光のように流れた映像は真純に圧し掛かる自分の姿だ。
「そんな想像出来る訳ないだろっ!」
その想像を打ち消すように厳しい口調で否定の言葉を吐いた。

その瞬間にびくっと真純の肩が震えたのが判った。
千夜の口調に驚いたのか、体の強張りが肌を伝って千夜の胸に響いた。
「・・・そうだよね、想像出来ないね」
自嘲気味に真純が呟いた。

「そうだ、想像出来ない・・・」千夜は同じ言葉をもう一度吐いて目を瞑った。
真っ赤に色づく紅葉の残像の中、真純の白い裸体が浮かぶ。
それは夏に一緒にプールに行った時に見た映像だった。
そしてその白い裸体に、真純よりももっと白い腕や、そして黒い腕が伸びて来る。
数人の男が真純の体に纏わり付き、そして絡まる。
真純の顔を確認すると、苦痛では無く穏やかで淫蕩な顔をしていたように見えた。

「真純っ!」かっと目を見開き名前を呼ぶと千夜の心情とだいぶ温度差のある声で
「なぁに~?」と返って来た。
「い・いや・・・何でも無い・・」
「そう?でも千夜の心臓バクバクしてるよ?エロイ事でも考えてた?」
揶揄するような真純の言葉にバクバクしていた心臓が今度は跳ね体も熱くなってしまった。
「な~んだ図星?」くすくすと笑いながら真純は脚まで絡めて来た。

「くっ付き過ぎだ」
「いいじゃん、もしかしたらもう直ぐ会えなくなるかもしれないし・・・」
そうだ、真純が留学したら何年も会えなくなるんだ。
もしかしたら、真純がそのフィールズ賞とかの勉強で忙しくなって、
そして有名になって俺の事など忘れてしまうかもしれない・・・
そんな感傷に浸っている千夜の腰にあつい熱を感じた。

「?・・・真純、何熱くしてるんだよ、当たってるって」
「あっ判った?いいじゃん・・・こうしてると気持ちいいんだから」
天才と呼ばれる輩は下半身も天才的に自由なのか?
とひとり突っ込みを入れながら黙って真純の好きにさせておいた。

「ねぇ千夜・・・ちょっと腰動かしてもいい?」
「ふざけんなっ!」
そんな事をされたらこっちの方が変になってしまう。
「えぇっ、いいじゃんよぉー」
不満気に零しながら、真純がより深く脚を絡めて来たために真純の熱も強く感じられる程密着して来た。

「あぁー気持ちいい~」
真純の言葉は体と裏腹に例えば背伸びをして気持ちいい時のような穏やかなものだった。
千夜は自分だけが真純に振り回されているような気がしていた。
真純の熱はもう完全に自分にも感染しているのに、素知らぬ顔で平静を装っているしかなかった。

「ってか、何で真純勃ってんの?」
自分の事を棚に上げて千夜はその感染源に問い掛けた。
「う~ん?気持ちいいから?」可愛く言われたが
「て、どっちが先なんだよ?気持ちいいから勃起したのか、勃起したから気持ちいいのか?」
言っている千夜すら訳が判らなくなりそうだった。

「そういうお年頃だからっ」
拗ねるような真純の言葉に含み笑いをしながら、真純を抱き締める腕に力を入れた。
「で、千夜はどうして?」
「くっ・・・ばれてた?」軽くかわしたつもりだったけど、
自分の声が掠れてしまっていた事に内心舌打ちしたい気分だった。
「俺もそういう年頃なんだよ」真純の真似をして若さのせいにした。

「そうだよね、僕達はまだ若い・・・これからの人生の方が長いんだよね・・」
何かを諦めたような真純の口調が気になるが、千夜はその言葉に頷いた。
「ねえ僕の事好き?」
「どういう意味で?」
「う・・・ん、友達としてとか、人としてとか?」
自分の胸の上で首を傾げる様子が見なくても千夜には判った。
「好きだよ」友達として人としてと聞かれたらそれはYESでしか無かった。

「やったぁ50%GET!」
「何だそれ?随分単純な数字だなぁ・・」呆れる千夜に
「そうだよ、好きか嫌いかしか無いでしょ?」
その中間が無い事が数学の天才らしいというか・・・

突然真純が体勢を変えて千夜の上に覆いかぶさるようにしてきた。
腕で体を支えながら、至近距離で千夜の瞳を覗き込んだ。
「じゃもうひとつ、男でも愛せる?」
真純の熱い吐息が掛かり、一瞬頭がくらりとした。
瞬きもせずにじっと千夜の瞳を見下ろす真純の瞳とぶつかる。
「愛せるって・・・そういう意味でか?」
男同士で愛し合うって事はさっき自分がちらっと想像した通りなのだろう。
千夜の問いかけに黙って真純が頷いた。

どのくらい見詰め合っていたのだろうか?
多分自分の体を支えている真純の腕が限界に近づく間そうしていたような気がする。
逸らさない真純の瞳の中に色づいた紅葉が映し出されるのをただ綺麗だと思って見ていた。
千夜は頷きながら「愛せる」とぽつりと呟いた。

「はぁーっ良かった、これで75%GET!」
腕が疲れたのか、再び千夜の胸に寄りかかるように寝そべる。
「・・・次の質問は無いのか?」千夜がその先を促す。
「無い!」きっぱりと言い切る真純に驚きの視線を投げた。
そんな千夜に微笑みながら「僕、アメリカに行って来るよ」
その言葉は潔かったが、声は寂しさを隠せないでいた。

「真純・・・・」
「だから、5年・・5年後に最後の質問をしていい?」
「ああ・・・」
若い二人の5年後なんて想像も出来なかった。
環境も変わるだろう、そして人としても男としても変わるだろう・・
それでも5年後の約束をふたりで交わした。






そしてそれから4年8ヵ月後、フィールズ賞最有力候補として真純の名前が世界に知れ渡った。
日本のメディアからのインタビューで「頭の中を覗いてみたいですね」と言われ
「僕の頭の中は75%恋で出来てます」
と数学者らしからぬ答えで皆を驚かせた。

千夜と真純が会う機会に恵まれたのはそれから3日後の事だった。
5年会わない間に千夜は一回り大きくなったような気がした。
想像以上の千夜の男っぷりに真純は改めて胸がドキドキしてきた。
メールでのやり取りはあったものの、直接会うのは本当に4年8ヶ月ぶりだったのだ。

「真純、おめでとう」少し照れたように言う癖は同じだと思いながら
「まだだよ、決まった訳じゃない・・」と答える。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
お互いに次の言葉が出て来ない。
真純の中には、今黙っていれば75%を失う事も無いという計算があった。
そして千夜は優秀過ぎる真純に戸惑いを隠せなかった。

長い沈黙を破ったのは千夜の方だった。
「真純・・俺に質問はもう無いのか?」
真純が聞かないのならそれでも良いと思っていた。
アメリカで恋人が出来たかもしれない・・・
質問の事など忘れているかもしれない。
だがあのインタビューの言葉が自分へのメッセージだとすれば・・

「いい?質問してもいい?」
「ああいいよ・・・」
「ぼ・・僕の事を好き?残りの25%の意味で・・」

ずっと・・5年の間、聞きたかった言葉を口にした。
やっと言葉にした途端ぐらっと体が傾いた。
気がつけば千夜の腕の中にすっぽり抱き締められている。
千夜は安心したように、そして少し揶揄するように真純の耳元で囁いた。


「100%GETおめでとう・・」と。






※このお話はフィクションで御座います(*^_^*)
 フィールズ賞が簡単に取れるものでは無い事は判っていますので^^;

BL観潮楼秋企画に参加させてもらいました。
お借りしたイラストはSSshigo屋しご様の「埋もれる」です。

深い秋を感じさせるこのイラストは幻想的でもあり、官能的でもあります。
先に書かれたブロガー様方の純文学のような素敵なお話には及びませんが、
私らしく書かせてもらったと思っております。

イラストのイメージを壊さないか心配ですが、楽しんで読んで頂けたら嬉しいです。

最後に今回素敵なイラストを貸してくださったしご様に感謝です。
ありがとうございました(#^.^#)



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頭ではこの腕を振り解かなければならないと思っているのに・・・


「行くな廉也・・行くな」
「うっううっ・・諒先輩・・離して」
抗う言葉とは裏腹に、この心が・・・その腕に縋りついてしまう。
廉也の溢れる思いは嗚咽となりボロボロと零れ落ち諒の背広の袖までも濡らしている。

本当は立っているのでさえやっとだった。
昨夜の痴態は・・・最後だと思っていたから、最後にしようと思っていたから
あんなに乱れながらも貪欲に、諒を求める事が出来たのだ。

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        イラストの著作権は植木屋様に属します。無断転写・転載は固くお断り致します。
               イラスト 「UEKI-YA!」 植木屋様の「君だけが・・・」



宇都宮諒(うつのみやりょう)28歳
加納廉也(かのうれんや)25歳


二人は大学の先輩後輩で、廉也が社会人になったと同時にシェアを始めた。
『別々に7・8万のワンルーム借りるよりも、二人で10万の2DKを
借りた方がお互いに得だろう?』
と諒に言われ、諒を慕っていた廉也は天にも昇る思いだった。
だが可愛い後輩として声を掛けてくれた諒に対して、自分の気持ちを隠していた最初の1年は
廉也にとって結構辛いものがあった。

そしてとうとう諒を避けるような時間帯での生活を始めたのだ。
帰りも時間をひとり潰し遅く帰り、あまり諒と顔を合わせないようにした。
そんな生活をひと月続けた頃に廉也は精神的にも肉体的にも限界が来て、結果倒れた。

「顔も見たくないほど俺の事が嫌いか?」
「彼女でも出来たのかと思って知らん顔をしていたが、
そんなぼろぼろになって一体お前は何をやってる?」
「そんなに俺と一緒に住むのが嫌なのか?」

たて続けに問い詰められ、廉也は今のように泣きながら、諒に自分の気持ちを告げた。
こんな苦しい思いをするのなら、いっその事嫌われてもいい。
その方がすっきりするかもしれない・・・・
そう思いながら胸の中のどろどろした塊を吐き出した。

「体調良くなったら、僕・・ここを出て行きますから」
最後にそう言葉を続けた時に突然諒に抱き締められた。
「えっ?」
「ふざけるな、俺が今まで・・どんだけ我慢してきたと思うんだ?」
「だって先輩・・先輩は女の人が・・・僕が大学で知り合った時には彼女いたし・・・」
「そうだ廉也・・お前と会ってから俺は変わってしまったんだ」
「先輩?」
「俺はお前が好きだ、いや俺もって言ってもいいか?」
覗き込む諒の目に照れと、そして熱情を感じた。

あの日から2年、廉也は幸せだった。
だけど・・・諒に持ち上がった専務の娘との結婚の噂話。
廉也も知ってる相手だ、諒と同期で仕事も出来その上美人だ。
親の威を借るような事はなく、とても素敵な人だと思う。
きっとあの人と一緒になったら、専務の娘って事じゃなくても諒は幸せになれるだろう。
諒は自分と違い女性も愛せるはずだから・・・

28歳の健康なサラリーマンが独身を貫き通すのも不自然なものがある。
1年前に同じ課に配属され喜ぶよりもヤキモキする日が多かったのは確かだった。
実際仕事も出来、容姿も性格も良い諒がモテない筈はなかった。
毎日のように女性社員に食事や飲みに誘われているのを横目で見ていた。
それでも諒は誘いに乗る事もなく適当な理由をつけては、そんな誘いを断っていた。

一方廉也は女性に誘われる事はあまりなく、どちらかといえば男性社員に誘われてしまう。
「構いたくなるよな廉也って」同期や先輩にそう弄られるキャラだった。
最近では後輩までが廉也に構ってくる。
その度に諒は先輩として仕事を頼みその場から引き離してくれるのだった。

「ねぇ加納君って宇都宮さんと同居してるんでしょう?変な関係じゃないわよね?」
一番聞かれたくない事を一番聞かれたくない人に聞かれた。
廉也が給湯室に珈琲カップを下げに行ったのを狙ったように追いかけてきたみたいだ。
そう聞いて来たのは専務の娘の柘植小夜子(つげさよこ)だった。
「えっ?ち・違います・・・その方がお互いに安上がりだから・・・」
「そう、宇都宮さんも同じ事言ってた」
誰に聞かれても同じ嘘で繕ってきた、だが諒もそう答えていた事が何気なく廉也にはショックでもあった。
少し安心したように小夜子は言葉を続ける。
「私ね・・・」
『いやだ、言わないで・・・聞きたくない』
「彼が好きなの」

「そ・そうなんですか?」動揺を悟られないように廉也は乾いた声で答えた。
「最近父が結婚結婚って煩いから、好きな人がいるって言ってしまったのよ」
男顔負けの颯爽とした仕事をする小夜子が恥らう姿は、廉也から見ても可愛いかった。
「上手くいくといいですね」作り笑いは上手に出来ただろうか?
「本当?加納君が応援してくれたら百人力だわ」
『あぁこの笑顔はきっと諒を幸せにしてくれる・・・』悲しいけれどそう思った。
「ごめんなさいね、変な事聞いて・・宇都宮さんがあまりにも加納君を大事にしてるから・・
ちょっと変な想像しちゃった」
最後はそう言って照れたような、すまなそうな顔をして小夜子が去って行った。

小夜子が居なくなった給湯室で廉也は必要以上に時間をかけて珈琲カップを洗った。
ぽたぽたと零るる涙も一緒にシンクの中で泡となり流れていく。
何時かはこんな日が来るのは判っていた、そしてその何時かがずっと来なければいいと願っていた。

「廉也―――」背後から掛かる甘く自分の名前を呼ぶ声、振り向かなくても判る。
「珈琲のシミがなかなか落ちなくって」聞かれもしない言い訳をしてしまう。
「そう・・・今夜少し遅くなる、だから晩飯悪いけど一人で食って?」
「う・うん、適当に済ますからいいよ」有りもしないカップのシミはなかなか取れない。
「なるべく早く帰るようにするから」
そう手短に告げると諒は忙しそうに給湯室を後にした。

きっと小夜子と逢うのだろう・・・
聡明で美人・・彼女は諒が大学の時に付き合っていた女性に似ている。
嫌いなタイプではない事は廉也が見ても判っていた。
『どんな顔で、どんな声で彼女を抱くのだろう?』
まだそんな関係でない事は判っているのに、つい想像してしまう。




―――ベッドが広い

翌日の土曜日の朝、廉也は携帯電話を握り締めたまま眠っていたらしい。
一人で眠ったベッドは広い『帰って来なかった・・・』
「あはっ・・結構キツイや」
きっと一人暮らしを始めたらこんな独り言が多くなるんだろうな、
と苦笑しながら携帯をテーブルに置いた。
何の履歴も無いことは、色を変えぬ電話を見れば判る。、





BL・KANCHOROU冬の企画参加一覧


BL・KANCHOROU冬の企画に二次参加させてもらいました。

お借りしたイラストは皆様ご存知の「植木屋様」のイラストでございます^^
ひと目で魅入られてしまいました。
私の話を読みにきて下さってる方なら「kikyouさん好きそう」って思って下さってたと思います。

本当はもう文章要らないだろう?と・・・
皆さんの脳内で充分に妄想できるだろう!と思う程の切なくて温かいイラストです。

イラストの雰囲気と、皆様の期待を裏切らない話が書けたかは判りませんが
前後編としてアップ致します。

イラストを使わせてくださり、ありがとうございました。
そして植木屋様のつけられた「君だけが・・・」というタイトルもリレーさせてもらいました。
「君だけが・・・この温もりを知ればいい」と繋げて感じて下さいね。



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昨夜から何も食べてないけど、食欲は無く珈琲だけを淹れた。
廉也はカップ片手にパソコンの電源を入れ、マンスリーマンションの検索を始めた。
なるべく早くに此処を出て行こう。
先ずはマンスリーマンションを借りて、それからゆっくり探せばいい。
普段は決断力に欠けると言われる廉也だが、こういう時の行動は早かった。
一刻も早く諒を自由にしてやりたかった。
今まで3年間一緒に暮らし、そして2年愛し合った諒へのせめてもの恩返しみたいなものだった。

言い訳にしていた一緒に暮らす事のメリットは、本当にあった。
一人暮らしするよりもはるかに節約出来た。
諒は料理も上手かった、将来喫茶店を開くのが夢だと語ってくれた事がある。
お洒落なカフェじゃなくて、ほっとするような、ちょっと古風な喫茶店がいいと。
それが諒に合っていると廉也も思っていた。
『古時計も欲しいな・・・大きなのが』夢を語る諒は普段の数倍格好良かった。
諒の拘りの豆で淹れた珈琲は美味しかった。
―――調合ちゃんと聞いておけば良かったな、そしたら何時でも諒を感じていられる。

一番安い1Kで6万くらいだ、通勤するには1時間ちょっと掛かるが、
それ以上は予算が厳しかった。
廉也は取扱店に電話を入れ、もし契約する場合の必要書類等を聞いて、
来週早々部屋を見に行く約束をして電話を切った。

『これでいい・・・』

1日の用事を済ますと廉也はカレーライスを作り始めた。
あまり料理の出来ない廉也が一番得意とし、そして諒が一番好きなメニューだった。
契約が取れたとか、部長に褒められたとか・・・良い事があった日に作る廉也のカレー。
そして一番つらい日に作る最後のカレーだ。
うんと美味しいのを作ろう、諒が一生忘れないようなのを・・・
中くらいの玉葱を丸々2個みじん切りにして、焦がさないようにゆっくり炒める。
そして何よりもカレーライスの日は必ず諒が優しく廉也を抱いてくれる。
『いい事があった日は、もっといい事しよう』照れたように笑う顔も見納めかもしれない。

部屋中にカレーの独特の香りが広がる頃、玄関のドアが開いた。
充満する香りに意外そうな顔を諒が見せた。
「ただいま・・・ごめん夕べは連絡しないで・・・」
「ううん、いいって諒だって付き合い色々あるだろうから・・それよりお腹空いてない?」
「この匂い嗅いだら我慢できるわけないだろ?」
甘い香水の残り香が、また一つ廉也を傷つける。

「先お風呂入れば?もう少し煮込みたいし・・」
「ああ、そうしようかな?」
何も聞こうとしない廉也に諒も何も話さない。

廉也は諒が風呂に入っている間に簡単なサラダを作り食卓の準備を整えた。
『最後の晩餐?にしてはちょっと寂しいかな?』
随分とぼうっとしてたのだろう、背後から「何かいい事あったんだ?」
と諒に声を掛けられ驚き振り向くとタオルで髪を拭いている諒が立っていた。
「う・うん・・ちょっとネ」特上の笑顔を返す廉也に不可解な顔をするが、
直ぐに「腹減った」と諒は雰囲気を変えた。

「やっぱ廉也の作るカレー最高だな」目を細めるその顔には満足の笑みが浮かんでいる。
「うん、ありがとう」
結局諒は2杯もお代わりをしたが、あまり食の進まない廉也に怪訝な顔を向ける。
「昼いっぱい食べちゃったから・・・」と言い訳をする廉也にそれ以上言う事はしなかった。

食後テレビを観ながら、二人とりとめも無い話をしながらも、
諒の外泊の事にはどちらも触れなかった。
「僕もお風呂入って来る」立ち上がる廉也に「肩までちゃんと浸かれよ」
といういつもと変わらない言葉を諒は掛けた。

廉也はゆっくりと風呂に浸かり、丁寧に体の手入れをした。
諒に『綺麗だ』と言われた体に隅々までに磨きをかけ、そして自分で解した。
いつでも諒を受け入れられるように・・・でももう求めて来ないかもしれない。
だが風呂から上がった廉也を待ち受けるように諒はベッドに連れて行った。

「今日の廉也、少し変だ」
「そ・そんな事ないよ・・・」
「俺が夕べ帰らなかった事何故聞かない?」
「別に・・・お互いに大人なんだから・・いちいち聞かないよ、それより諒・・」
そう言いながら廉也は自らパジャマのボタンを外して胸を肌蹴け諒を誘った。
こういうふうに積極的に誘う事など今まで無かった。

廉也の白い肌は風呂上りで火照り、いつもよりも艶かしく諒の目には映った。
最後だと言う気持ちが廉也に妖艶さと哀愁を漂わせていたのだろう。
「いっぱいして・・」
「煽るな加減出来なくなる・・」
廉也の色に染められた諒の声も心なしか上ずっているような気がした。

全てを脱ぎ捨てた廉也は自ら脚をМ字に開き、半ば勃ち上がったペニスに手を添えた。
「廉也・・・」ごくと喉を鳴らす諒に微笑みながら
「お願い直ぐ来て・・・もう大丈夫だから」
本当は2本の指で解したぐらいでは諒の物を受け入れるには厳しいのだけど
それでも・・・無理にでも刻んで欲しかった。
傷が残るくらい自分に諒の印を付けて欲しかった。

「廉也・・・」諒は視線を外さずに自分も服を脱ぎ捨てた。
こんな廉也は今までに見たことが無かった・・・
多分自分の外泊が廉也を追い詰めているのだろうとは思ったが
今はもう少し淫らな廉也を見てみたい気分だった。
それが、どんな結果を生んでしまうのか諒は考える余裕がないほど廉也に魅せられてしまっていた。

いきり立つ諒の中心にちらっと目をやり『良かった・・まだ感じてくれてて』
廉也はそんな事を考えながら、一方では早くそれが欲しくて仕方なかった。
初めて大胆に誘う自分の淫らさが更に自分を淫蕩にしてしまう。

大丈夫だと言うのに、諒は丁寧に指を使ってきた。
「凄い・・・廉也の中熱くて蕩けそうだ」
「はぁっ・・ぁぁ・・だからお願い・・早く挿れて・・」
「くそっ」普段より多めのローションを垂らし、自身にも塗り付けた。
その切っ先をひくひくと誘う廉也の秘所に押し付け、少し撫で回した後にぐぐっと押し込んだ。

「ああぁぁぁっ!」悲鳴のような廉也の声は諒の欲望に火を点ける。
止まる事なく一気に奥まで貫き根元まで挿入しきった所で諒は動きを止めた。
ねっとりと絡んでくる廉也の内壁の熱を感じそれだけで達してしまいそうだった。
荒い息を整えながら馴染んでくるのを待った。
諒がゆっくりと抜き差しを始めると堪えきれないような廉也の喘ぎ声が零れる。

「廉也・・・凄くいい」
「あぁっあぁぁ・・諒・・気持ちいい・・」

激しく求める廉也に戸惑いながらも一緒に昇りつめ一緒に吐き出す。
その夜それは何度も繰り返された。
『朝が来なければいい・・・』
そう思いながら何度目かの吐精の後廉也はとうとう意識を手放してしまった。
そして昨夜小夜子に振り回された諒もさすがに体力が尽き廉也に覆いかぶさるように眠りに落ちていった。

朝方諒の腕の重みで目覚めた廉也は、その腕にそっと唇をつけてから、浴室に向かった。
熱いシャワーは余韻も諒の吐き出した物も全部洗い流してくれる。
湯船に浸かり手足を伸ばすと、体が軋むような感じだった。
「あっ」太ももの内側や胸の辺りに鬱血痕を幾つも見つけた。
何時の間に付けられたのか全く覚えていない、どれだけ自分が乱れていたのだろう?
とひとり湯船の中で赤面してしまう。
「諒・・ありがとう、今まで愛してくれてありがとう」
指で胸についた痣をなぞりながら廉也はそう呟いた。

そうしているとバタンと勢いよく浴室の扉が開いた。
「あぁ風呂か・・・」安心したような諒の言葉に
「うん・・結構凄かったから」廉也は揶揄するように言い軽く諒を睨んだ。
「あ、ごめん・・・俺も寝ちゃった。俺も風呂入る」
元々全裸だった諒はそのまま浴室に入り込みシャワーを使い出した。
「僕先に出るよ、朝食食べるでしょ?」
トーストと珈琲くらいなら料理の苦手な廉也にも支度は出来る。

「ああ悪いな・・・」
諒の脇をすり抜けようとする廉也の腕が掴まれた。
「えっ?」
「廉也・・ごめん、いっぱい付いちゃったな、俺の印」
『俺の印・・・』「うんビックリ」おどけたように返事をして廉也は浴室を出た。

その後一緒に朝食を摂っている途中で諒が「俺午後から出掛けるから」と言う。
「うん、僕も出掛ける用事があるから」廉也もそう言った。
お互いに何処に出掛けるのか?
などとは聞かないのは一緒に暮らし始めた頃からの暗黙の約束事だった。
お互いに社会人なのだから、いちいち干渉はしない事が長く一緒に暮らす為の秘訣でもあった。
「6時頃には戻る予定だから」「うん」
だが廉也は戻る予定の時間を諒に告げる事はなかった。

1時頃に出かけた諒を見送ってから、廉也は必要最低限の荷物をバッグに詰めクローゼットに仕舞った。
そして身軽な格好で部屋を後にした。
廉也が電車で向かった先はここ1年間ひと月に一度は通った時計屋だった。
「おじさん、こんにちは」
「おお、連絡しようと思ってたんだ」
すっかり顔馴染みになった時計屋の店主は眼鏡をずらしながら廉也の顔を確認すると
安心したような笑顔を向けた。

「昨日な飛び込みで腕時計の電池交換に来た娘さんの連れが・・
あの時計をいたく気に入ったようでなぁ・・・」
そう言いながら店の奥に飾られたアンティークの柱時計に目をやった。
「えっ!それで?」
「大丈夫だ、値段の確認だけで又来るって言っておったから」
「良かった・・・これ僕今日買って帰ります」
「無理しなくてもいいんだぞ、本当に買うつもりがあるのなら予約済みの紙を貼っておくから」
店主の優しい言葉に礼を述べてから廉也は財布から時計の値段の札を取り出した。

7万円という金額はこれから金が掛かる廉也にとって結構痛手だったけど、
今買っておかないと絶対後悔するのは判っていたから惜しみなく金を払った。
「そうか・・?」と言いながら店主はその時計を外し最後の調整をするから待ってなさいと言った。
その間廉也は店主の指先をずっと眺めていた。

店主は振り子を外し柔らかい布で包んでくれた。
「時計の命だからなこれは、傷つけたりしたらダメだぞ」
「はい・・・ありがとうございます」
明治時代頃にアメリカで製造されたというアンティーク時計だった。
時計の周りに施された流線形の幾何学模様が温かくて一目惚れした物だった。
きっと諒の淹れる珈琲の香りにぴったりだと思った。
1年前に初めてこの時計を見た時から、いつか諒が店を開く時にプレゼントしようと思って毎月足を運んでいた。
ちょっと予定より早い展開だけど、諒の喜ぶ顔は見れないけれど・・・・

店主は廉也が持ちやすいように丁寧に梱包してくれた。
別布で包まれた振り子はコートのポケットに仕舞った。
「気をつけてな、調子悪くなったら直ぐに連絡するんだぞ、私が生きている間は永久保障付きだからな」
「ありがとうございます」
何かひとつやり遂げた感じがして、廉也は晴れ晴れとした顔で店主に挨拶を済ますと大きな箱を抱えて店を後にした。

一度部屋に戻り、諒がまだ帰ってない事を確認して外箱の梱包を解いた。
中には時計が納まるのに丁度良いサイズの箱がもうひとつ入っている。
その上に振り子の包みと短い手紙を置いて、それを諒の部屋のベッドの上に置いてきた。

「これでいい・・・」
あとは、諒が帰宅する前にこの部屋を出て行けばいい事だった。
名残惜しい気持ちに鞭を打って、廉也はボストンバッグを片手にドアの鍵を閉めた。
鍵は残りの荷物を取りに来るまで借りておこう・・・

まだ5時を過ぎたばかりなのに、外は夕闇に包まれていた。
明日有給を貰い、不動産やに行きその足で荷物を取りに来ればいい。
同じ会社で仕事をするのがつらければ転職しても良かった。
専務の娘と結婚すれば実績のある諒がどんどん出世して口も聞けない存在になるのも遠くはないかもしれないし・・・

廉也はそんな想いを胸に以前この部屋に住む前に〆の関係で数日泊まる所が無くて諒と一緒に3泊したビジネスホテルに向かった。
ここから始まったのだ・・・思い出のホテルだった。
諒と一緒に暮らせる嬉しさに幸せ一杯だったあの頃の思い出が詰まったホテルなのだ。
廉也は電話で予約を入れてから何か夕飯を食べようと思って、街を歩いた。

その頃廉也と入れ違いに部屋に戻った諒は、何となく違和感を感じていた。
何も変わっていないようで、何かがおかしい・・
何となくイヤな予感がして、部屋中の違和感を探し回った。
最初に気付いたのは洗面所の廉也の歯ブラシが無い事だった。
「廉也?!」
廉也の部屋に入ると、特別に変わった様子はないが何もかも整頓され過ぎた部屋に逆に違和感を覚えた。
あまりにも生活感を感じさせない部屋になっている。

そして最後に自分の部屋に行くとベッドの上に見慣れない箱が置いてあった。
一緒に添えてあった手紙を読んだ諒は「ふざけるな」と呻くような声を上げた。

諒へ

今までありがとう。僕はここを出て行きます。
会社にはちゃんと行くから心配しないで下さい。
明日からは普通の同僚として接してくれたら嬉しい。

いつか諒が新しい時を刻む時に使って下さい。

                        廉也

「廉也っ!!」
諒は白い布をポケットに捻じ込むと部屋を飛び出し廉也の行きそうな所を探した。
携帯に電話を掛けても繋がらない。
焦る心で走り回っても廉也を見つける事など出来ない。
「いったいどうして?」
夕べの廉也は確かに少し変だった、きっと自分の外泊が原因かもしれない。
出ていくくらいなら何故責めない、何故理由を聞かない?!
諒は知らなかった、小夜子と会っているのを廉也が知っていた事を。

「何処に行った?」もう2時間も探し回っていた。
仕事にはちゃんと行くというメモを思い出した。
「まさか?」
諒は3年前今のマンションに引っ越す前に廉也と3泊したホテルを思い出した。
会社に近いビジネスホテルを見つけそこから会社に通った。
楽しかった・・・

諒は急いで携帯のアドレス張からホテルの番号を探し電話を掛けた。
廉也の名前で予約が入っている事を知り胸を撫で下ろし、そしてホテルに向かった。
逸る気持ちでタクシーを飛ばしてもらった。
3年前と何も変わっていないホテルの前で諒はタクシーを降りた。

「廉也っ!!」
片手にボストンバッグを持った廉也が今ホテルに入ろうとしていた。
「廉也っ!行くなっ」諒は走りより廉也を後ろから抱き締めた。

「どうして此処が?・・いやっ離して、離して諒」

頭ではこの腕を振り解かなければならないと思っているのに

2011-1-6-ueki-2.jpg


「行くな廉也・・行くな」
「うっううっ・・諒先輩・・離して」
抗う言葉とは裏腹に、この心が・・・その腕に縋りついてしまう。
廉也の溢れる思いは嗚咽となりボロボロと零れ落ち諒の背広の袖までも濡らしている。

「廉也お前は何か誤解している」
「今は誤解でも・・・諒は普通の人生を歩いた方がいいから・・
今が・・今がいいチャンスなんだから・・」
自分がいなくなれば小夜子と結婚して普通の人生を歩いて行けるだろう。

苦しそうな顔で廉也がそう言ってきた。
「さ・・小夜子さんがいる・・・」
「やっぱりそうか・・・小夜子にはちゃんと話した、勿論お前の事も打ち明けたよ」
「え・・っ?どうしてそんな馬鹿な事・・」
「大丈夫だ彼女は聡明だ、俺が彼女の想いを受け止められないのも判ってくれた。
勿論口止めの代償に一晩飲みに付き合わされたけどな」

「廉也こっちを向いて・・」
「駄目だよ、諒はちゃんと真っ当な人生歩いて行かなくっちゃ・・」
「お前は俺に一人で新しい時を刻めって言うのか?」
そう言うと諒はポケットから布に包まれた物を取り出した。
「そ・それは・・・」
廉也の体から力が抜けた瞬間に諒は廉也の体の向きを変えて胸に抱き寄せた。

「どんないい時計だって、これがなきゃ動かないんだぞ、お前は俺に永遠に時を刻むなって言うのか?」
「違う・・違うよ諒、諒の・・・あっ!」
諒が包んである布を取り去り裸の振り子を真上に振り上げた。
「何してるのっ!?」
「お前が俺の元に戻らないっていうなら、今すぐにこれを地面に叩きつけて俺の時を永遠に止めるだけさ」
「諒・・諒の馬鹿っ」

「今日、店の仮契約を済ませて来た。半年くらいかけてゆっくり準備をして夏には会社も辞めるつもりだ・・・俺と一緒にあの古時計の似合う店を作ってくれないか?」
「え・・っ僕でいいの・・僕で?」意外な展開に廉也は戸惑いながら諒の顔を正面から見上げた。
「お前しかいない、お前じゃなきゃ駄目なんだ」
「諒・・本当に?」
「廉也・・いい加減手がだるいんだけど、どうする?」
「・・・その手を下ろして僕をもっと強く抱き締めて」
諒の胸に改めて顔を埋めた廉也はその温かさにまた新たな涙が溢れ出した。

「諒・・あったかい・・」
「ああ、お前だけだから俺の胸の温もりを知ってるのはお前だけだから・・」
廉也は諒から振り子を受け取るとまた布に包み直し頬を寄せバッグに仕舞った。
諒と一緒に新しい時を刻む大事な振り子。
右に揺れ、左に揺れながら時を刻む。
時には調子が悪くて動かない日もあるかもしれない、
その時はどちらかがネジを巻けばいい。



――――あの日から半年後

『pendulum』と言う名のアンティークな雰囲気の喫茶店が開店した。

「お疲れ様」「ああお疲れ」そう言いながらカウンター越しにキスを交わす。

古い時計が10時を奏でる頃、それが合図のように二人は唇を離し
「邪魔したな?」って顔をしながら、そっと時計を睨む。
この時計は、これからもふたりの幸せな時を刻んでくれるのであろう。







零時には更新出来る予定でしたが、思った以上に長くなり・・・
今まで最長の1話7000文字超えです。
さすがに長かった・・・

半分に分けようかとも思いましたが、諒も一気に行ったので私も!(笑)スミマセン下品で^^;


途中で飽きてしまわれたかもしれませんね(笑)
すみません。
そして最後まで読んで下さり、有難う御座います。


今回使わせていただいたイラストは「UEKI-YA!」さまの「君だけが・・・」です。
今回のイラストだけでは無く、今まで拝見させていただいた植木屋さまの
数々のイラストからいつも感じていた『温もり』を今回のお話で
表現できたらいいなって思っていました。

イラストを貸して下さった植木屋さまには心から感謝致します。

読み終えた後に口元が緩む・・・度々言っていますが、これが私の小説の目標なんです。

最後の一文字まで読んで下さり本当にありがとうございました!



BL・KANCHOROU冬の企画参加一覧


BL・KANCHOROU冬の企画の二次参加作品です。


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1日掛かりっきりになってしまい、コメントのお返事が遅くなっております。
すみません、少し休憩したら、お返事入れていきます。
毎度毎度、亀レスで申し訳ございません^^;


「なぁいつまでも拗ねるなよ・・」
「だから拗ねてなんかいないって・・・」
「俺だって付き合いってもんがあるんだよ、お前とばっかり一緒にいたんじゃ、変な噂が広がるばっかりだろ?」
「だから、判ってるって!」

明日一緒に映画を見に行く約束をしてたのに、今夜合コンだから予定を変更してくれないか?と太陽に言われ、上映期間はまだあるから延期するのは構わないが、朝まで飲む気満々の太陽への不満が態度に表れてしまったのだろうか?

高校からの同級生で同じ大学、同じ会社とずっと一緒に歩いてきた沖本馨(おきもとかおる)を
あやすように話しているのは、長浜太陽(ながはまたいよう)23歳である。
「だから馨も断ってばっかりじゃなくて、たまには合コンに行けばいいだろう?」
馨は自分に合コンを勧める太陽の顔をじっと見た。

「うん、判った。僕も今度誘われたら行く事にするよ」
馨の言葉に太陽も安心したような笑顔になった。
「一度参加してみたら結構楽しいのが判るから、
あっ!でも馨は酒弱いんだからそれだけは気をつけろよ」
太陽も勧めてはみたものの、異常に酒に弱い馨に多少の不安はあった。

「酔っ払って目が覚めたらベッドの中に可愛い子が寝てたって事にならないようにな」
と太陽は酔っ払いにはよくありがちな冗談を言った。
途端に馨の顔が強張り血の気が引いていく。

馨の脳裏にたった一度だけ・・・そして取り返しのつかない苦い過去が蘇った。

あれは大学3年の夏・・・・
合コンなんてものじゃなく、仲間内の飲み会だった。
最初は飲めないと断っていたものの、食べ物も美味しい居酒屋だという事で渋々着いて行ったのだった。
めったに行く事のない居酒屋のメニューに馨も食が進んだ。
周りの仲間が5・6杯お代わりをする中、1杯の中ジョッキを最後まで目の前において、
どちらかといえば食べる事に専念していた。
水がわりにチビチビと苦いビールを口にしたが、結局そのジョッキを空にする事が出来たのだ。

何となくそんな自分が嬉しかったが、解散して皆と別れた後、そのツケは回ってきた。
胃がむかむかして、動悸も早い。
『調子づいて飲んでたから、やっぱり酔ったんだ・・・』
足元もふらつきながら、馨は必死に自宅へ向かって歩いた。
だが、結局一人になってから10分もしないうちに、ビルの影に身を顰める事になってしまった。
今日の飲み会には太陽は来ていなかったし、今更別れた仲間に電話をするのも躊躇うものがあった。

『少し休めば大丈夫』自分に言い聞かせるように、冷たいコンクリの壁に背を付けた。
「君、大丈夫?」目を瞑り眩暈と戦っている馨に声を掛ける者がいた。
「えっ?あぁ大丈夫です・・・」
声を掛けて来た男を見上げるが知った顔では無かった。
「君、あそこの居酒屋で飲んでた子でしょ?」
「え?」
「俺もあの店で仲間と飲んでたんだ」

同じ店で飲んでたという事実だけで、馨は何と無く安心して返事をした。
「あぁそうでしたか・・・ちょっと酔ったみたいで、でも少しこうやってたら大丈夫ですから」
と答えたが、その男は「うち近くだから来れば?」と誘って来た。
幾ら同じ店で飲んでたとはいえ、見ず知らずの奴の家に行くわけには行かない。
どう返事をしたもんか?と躊躇っている馨に更に続けた。

「君、W大だろ?俺先輩なんだけど?佐伯教授には俺も泣かされた口だよ」
「そ・そうなんですか?・・・」
さっき飲んでいた時に佐伯教授の話題で一時盛り上がっていたから、きっと聞こえていたんだろうと馨は思った。
そしてその言葉で馨の警戒が安心へと変わった。

そしてその男が近くだと言っていた家は本当に近くだった。
馨が凭れ掛かっていたビルの隣のマンション。
「えっ?ここだったんですか?」
「な、直ぐ近くだろう?」男につられて馨の顔にも初めて笑みが零れた。

何となく安心したせいか、さっきよりも幾分体は楽になっていた気がした。
「じゃ、30分くらいお邪魔します」
家族に迷惑を掛けないようにと小声で話しながら馨は玄関に入った。
「大丈夫遠慮しないで、俺ひとり暮らしだから」

馨は部屋のソファの前のラグに座った。
ソファを背凭れにして床に座る方が体が楽だったが、体調が落ち着くと今度は睡魔が襲ってきそうだった。
「ほら、水」
冷蔵庫からミネラルウォーターを出し氷を入れたコップと一緒にテーブルに置いてくれた。

「ああ美味しい」カランと鳴る氷の音が冷たさを強調している。
「そんなに気分悪くなるほど飲むなんて・・・一体どのくらい飲んだんだ?」
「あ・・あのジョッキ1杯です」
馨の情けない答えに一瞬目を丸くした後に大きな声で笑い声を立てられた。

「滝沢洋介・・・」コップの後に渡された名刺には大手損保会社の下にその名前が印刷されていた。一流企業だった。
年は馨よりは3歳上だ、たった3歳しか違わないのに学生と社会人はこうも雰囲気が違うものなのだ、と馨は落ち着きのある滝沢の顔をマジマジと見詰めた。

「そんなに色っぽい目で見るなよ」
揶揄するように言われ慌てて目を逸らした。

自分ではそんなつもりは無いが時々そういう台詞を言われてしまう・・・・そう太陽以外には。






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BL・KANCHOROU冬の企画に一次参加させてもらいます。

まだ何話になるか未定ですが、ぼちぼち復帰しないと・・・
まだ、少し忙しいのですが更新していないにも関わらず、
多くの応援ポチいただいて、ちょっと奮起致しました。
ありがとうございました!
凄く嬉しいです(#^.^#)


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【おしらせ】

先日のバトン記事の中で書いたSSをバトンとして受け取って下さった
小さな愛の芽吹きのくっくさんが、続きを書いて下さいました。

「漆黒天使」です。

とても丁寧に書かれた素敵なお話です。
楽しく読ませてもらいました。

くっくさん、ありがとうございました!

馨は酔っているせいか、ふと太陽が恋しくなった。
『太陽に会いたい・・・』
自分が太陽を特別な目で見ている事に気付いたのは、高校2年の時だった。
当時交際していた彼女とホテルに行ったと聞かされ、目の前が真っ暗になったのを覚えている。
今まで一番身近にいた太陽が、手の届かない場所に行ってしまったのだ。
自分のショックさに太陽に恋している事を知った。

いや、多分初めて同じクラスになった時から自分は太陽を特別な目で見ていたのだ。
高校2年の頃には、もう太陽の身長は180センチを超え、女子生徒のターゲットになっていた程だった。
だが、太陽はどんなに可愛い子と付き合っても長続きはしない。
そして何故か振られるのは、いつも太陽だった。

「ねえ、馨君って好きな子いるの?」
滝沢の突然の問いかけに、さっきまで思い出していた太陽の顔がクローズアップされる。

「い・いえ・・・」
「そうかな?何か苦しい恋をしてます、って顔に書いてあるけど?」
さすが滝沢は馨の深層の痛い所を突いてくる。
「そんなことないです・・・」

「俺が慰めてあげようか?」
「へっ?」思いもしなかった言葉に素っ頓狂な声が出てしまう。
「はっ、滝沢さんも酔ってるんですか?僕男ですよ?」
「俺は別に君が男でも構わないけど?」
そう言いながら滝沢はネクタイを緩めながら馨の傍までにじり寄って来た。

「やっ、滝沢さん・・・冗談は止めて下さい」
ソファを背にしている馨にはこれ以上逃げ場がなかった。
「馨君、君って本当に可愛いね」
「やだっ、こっちに来ないで・・・」



「あぁっ・・・やだっ・・・んぁっ・・・」
いつの間にか馨の両手首は滝沢のネクタイで一つに縛られていた。
Tシャツの裾から差し込まれた手は馨の薄い胸板を撫でた後、小さな突起を摘んだ。
「あぁん・・・やっ・・あぁっ」
滝沢を拒もうとしても、酔った体には力など入りはしなかった。
その上、摘まれた突起から、じわりと何か変な感覚が湧いてくる。
「はぁっ・・ぁぁぁ・・」

「可愛い声だね、ここ舐めるよ」
もうすっかり胸を全開に肌蹴られ、馨の慎ましやかな尖りがクーラーの冷気に晒される。
「あっ!」
ペロリと舐め上げられ、自分でも信じられないくらいの甘い声が漏れた。
「気持ちいい?」
「やだ・・・やめて・・・怖い・・」
馨は滝沢よりも、自分が快感に流されそうで怖かった。

「好きな人の指や唇だと思えばいいよ」
『好きな人・・・・』太陽の爽やかな顔が脳裏に過ぎる。
頭を振り懸命にそれを否定するが、何度否定しても思い浮かべるのは太陽の顔だった。

そう思い始めたら、そこからはなし崩しのように滝沢に縋ってしまった。
いくら思っても敵わぬ恋・・・・それならいっそのこと、このまま身を任せてしまおうか?
そして何よりも、他人から与えられる愛撫に若い馨は敏感に反応してしまっている。

「た・・滝沢さんは・・いつもこんな事してる・・んですか?」
与えられる快感から逃れるように、そんな事を聞いてみた。
「・・・俺も片思いだ、決して結ばれる事はない恋だ」
滝沢の顔が苦しそうに歪むのを馨は黙って見ていた。

「俺の好きな人はね、俺の上司なんだ・・・とても綺麗な人で
結婚して子供もいる・・」
そんな事を告白しながらも、滝沢の手が休む事は無かった。

「あ・・っ」小さく吐息を零した後に「その人は男の人なんですか?」と聞いてみた。
「・・・そうだよ、美人の奥さんと可愛い子供、俺の付け入る隙はないよ」
その状態は自分以上に苦しいものだろうと、馨は想像出来た。
太陽が彼女を作る度に、馨の心には傷がひとつ、またひとつと増え続けて来たのだから。


ふと、今まで拘束されていた腕が自由になった。
「えっ?」
「ごめん、馨君・・もう俺・・精神的に限界だったみたいで、君に酷い事をした」
その時の滝沢の顔が年上なのに、何だか傷ついた少年のように見えた。
みんな、苦しい恋をしているのだ・・・

「いいですよ滝沢さん・・・僕を抱いても」
馨は自分でも驚くような言葉を吐いた。
「馨君・・?」
「僕もさみしい・・・・」そう言うと堰を切ったように馨の目からボロボロと涙が零れた。


知識では知っていた行為も、いざとなると腰が引けそうだった。
恥ずかしい体勢で一番恥ずかしい所に指が入っている。
「あぁ・・っ」それでも何故か体は反応して、甘い声が漏れてしまう。
滝沢は壊れ物を扱うように優しく馨の体を解していく。

ソファの背凭れに両手を突いた姿勢のまま、今まで指が入っていた入り口に熱い塊が押し付けられた。
「馨君、本当にいいの?」
滝沢の問いかけに、ただ馨はコクコクッと首を縦に振るだけだった。
指で充分に解された体は、本能のようにもっと大きい物を求めてしまう。

後悔と期待とが入れ混ざる意識の中、馨は太陽の顔を思い浮かべた。
「ああーーっ!」それと同時に太くて熱いモノに体を貫かれる。
『太陽っ』心で好きな男の名を呼び、その顔を思い描くと痛みも愉悦に変わる。
滝沢も好きな男の事を思っているのだろうか?

暫くすると、馨の腰を支えるように、ゆっくりと滝沢が抜き差しを始めた。
「あぁっ・・あん・・・あぁ」
後ろから突かれるたびに声が出てしまい、そんな自分が浅ましく思えた。
「馨君、いっぱい感じて気持ち良くなって・・」
「馨って言って・・」

馨の言葉に刺激を受けたのか滝沢の動きがだんだんと激しくなった。
深い所を擦られ馨の体も蕩けてしまったようだった。
「馨、馨・・・中凄い、気持ちいいよ」
呼び捨てされる事で、馨の心も頭も麻痺してしまう。

「ああっ・・あぁぁぁぁ・・・」
揺すぶられながらも初めて知る男の顔が見えない事に馨は安堵していた。





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「馨どうした?何か心此処にあらずって感じだったぞ」
「あ・・うん大丈夫」ゆるっと笑った馨に太陽は一瞬魅入られ、そんな自分を瞬時に否定した。
「やっぱお前は合コン向かない、参加するな」
さっきとは全く反対の事を言う太陽を訝しげな顔で馨は見た。

「僕は機会があれば行くよ、太陽に決められる事じゃないから」
何だか腹立たしくなって馨は素っ気無く太陽の言葉に逆らった。
「酒に弱いくせに、行っても詰まらないだろう?」
「少しは強くなったし、素敵な出会いがあるかもしれないじゃない?」
売り言葉に買い言葉みたいな会話は二人揃って上司に呼ばれた事で終わりを告げた。

「お前らも入社してもう直ぐ1年だ、そろそろ旅程表作ってみるか?」
「えっ!本当ですか?是非やらせて下さい」
「ああ、やってみろ。二人で協力すれば何とかなるだろう?
まずは北海道3泊4日だ」上司の言葉に太陽が口を尖らせた
「ええっ?国内ですか?」
「太陽!」慌てて馨は太陽の背広の裾を引いて言葉を遮った。
「課長、僕たちにやらせて下さい」
馨の言葉に上司は頷き、そして太陽を見て「お前はやる気あるのか?」と聞いた。
「はいっ!喜んでっ!」
「ばか、どっかの居酒屋じゃないんだぞ。」
課長は呆れたように言うが、顔は怒ってはいなかった。
普段から明るくて元気の良い太陽は、上司にも同僚にも好かれていた。

席に着くと「3泊4日かぁ・・・」文句を言いながらも太陽は早速資料を集め始めた。
「馨、お前北海道に行った事ある?」
「うん、あるよ小学生の頃家族で雪祭りを見に行った」
「ふ~ん、俺行った事ないんだよなぁ・・・」
「行ったからって、僕だって小学生だもん、大した事覚えてなんかいないよ」
そう言う馨に向かって、太陽が嬉しそうな顔で聞いてきた。
「なぁ、今度週末利用して行かないか?北海道」
「え・・太陽と僕の二人で?」
「行こうぜ、やっぱ現地見ないと旅程表も作れないしな、俺らの初ツアーだよ?
良い企画にしようぜ」

「う・・うん」『太陽と二人で旅行・・・』内心馨は嬉しくて飛び上がりたい気分だった。
高校大学と、数人で小旅行には何度か行った事があったが、二人だけで旅行なんてした事は無かった。
嬉しくて、顔が自然と綻んでくる。

「おーーい、そこのお二人さん、企画は夏のだからな、今行っても状況違うからな」
太陽の声が大きいせいで、課長の耳にも入ったようだ。
「いいんですよ、夏でも秋でも。あの大地に足を踏み入れる事に意義があるんですから」
『良かった・・』
課長の言葉に太陽が旅行を止めるというのでは?
と内心がっかりしていたが、決行するみたいだ、自然と口元が緩んでしまう。

「馨よかったな、お前の好きなカニいっぱい喰わしてやるぞ」
子供にするように、馨の顔を覗きこみながらその手は馨の髪をくちゃくちゃに撫で回している。

「おーい、お前ら婚前旅行か?」一人の先輩が野次を飛ばした。
ドキッとしたのは馨だけのようだ、太陽を見ると
「いいでしょう?婚前旅行」と冗談を返していた。
旅行を旅行として意識しているのは馨だけで、太陽には単なる視察にすぎない訳だ・・・
寂しい気持ちを馨も冗談で紛らせた「先輩、そんな事言ったらお土産買って来ませんからね」
と軽く睨むように先輩に顔を向けた。

そんな馨を見て「おい、太陽俺が代わってやるよ、俺も馨ちゃんと旅行して、
一緒に温泉入りたい」本気なのか冗談なのか判らないふざけた事を言っている。
「何で馨が先輩と旅行して一緒に風呂入らなければならないんですか?」
太陽も冗談のように返していたが、その目を見て馨は、はっとした。
太陽の目が笑ってはいなかったからだ。

「馨はねぇ、いつか可愛い嫁さん貰って、幸せな家庭を築くんですよ。先輩なんかの手垢が付いたら大変だ」
「ははは・・お前は馨ちゃんの親父か?」
そう笑いながら先輩は、資料を抱えて部屋を出て行った。

『手垢・・・』太陽の言葉に胸がズキズキ痛むようだった。

あの時の滝沢洋介という男とは、あの時以来会ってない。
貰った名刺は、部屋に帰ってからビリビリに破いて捨てた。
お互いの意思で大人同士がSEXをした、ただそれだけの事なのだ、と自分に言い聞かせるようにその記憶も感触も馨は封印した。
一生この封印を解く日が来なければいいと願い、そして2年過ぎても変わる事は無かった。

「おーい、長浜、沖本午後から保険やが来るから、お前たちが打ち合わせしろ」
課長にそう言われ、二人で頷いた。
「何だか俺らも少しづつは成長してるんだな」
秋が過ぎた頃から、色々な事を任されるようになり太陽も上機嫌だった。
楽しそうに働く太陽を見てると、こっちまで嬉しくなる。
自然と馨の口元も緩んでしまう。


昼前に掛かってきた電話に梃子摺った馨は遅い昼食を摂ったあと、小会議室に向かった。
もう保険担当の人は来てるだろうか?
そう思いながら急ぎ足で、会議室の扉を開けた。

「すみません、遅くなりました。」
そう言って、太陽の隣に立ち、担当の保険会社の男の顔を見た。

一瞬眩暈がして、机の端を掴んだ。
「おい、大丈夫か馨?」
心配そうに尋ねる太陽の顔が見れない。

「明和生命の滝沢です」
「お・・沖本馨です・・・」
「あの頃と部署が少し変わりましたので、新しい名刺です」
その言葉に馨の顔から血の気が引いていく。

「え?馨・・・知り合い?」
「以前にちょっと・・・」馨の代わりに答えたのは滝沢だった。




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