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「やっ・・・紫龍、恥ずかしい・・・」
紫龍の指に後ろの蕾を解され
そしてその唇は紫苑の勃ち上がったペニスに絡み付いている。
何度されても、恥ずかしくて、そして気持ちいいこの行為に紫苑は全身を震わせながらも、
心では抗い、そして体はもっとと求めていた。
そんな自分が恥ずかしくて、いつまでたっても慣れはしない。

舌先で尿道口を突付かれると、それだけで射精感がつのり足の指に力が入る。
「あん紫龍・・そんなにしたら駄目ぇ・・・」
今にも達してしまいそうなのに紫龍の左手が根元を掴みそれを阻んでいた。
「あぁっ紫龍ぅ・・・あぁぁ」
指が3本に増やされたのだろう、孔が拡げられる感覚に自然と力が入ってしまう。

「紫苑、力抜いて」
3本の指が体の中でバラバラに動き、敏感な部分も掠めてしまう。
もう少し強く触れて欲しいと自然と腰が浮き、それに気づきまた息を吐き出す。
達しそうで達しない苦痛の中、紫龍の指が去り、唇も去った。

ごそごそと、取り出した物にローションを塗っている気配を感じ紫苑は更に体を強張らせた。
「大丈夫だよ、そう大きな物じゃないから」
紫龍はそう言うが、以前使われた事のあるピンクの蚕みたいなのに比べたら、
それは充分に大きく小ぶりながらも、しっかりとペニスの形をしているのだ・・・
ぐいっと入り口に当てられた。指とも紫龍とも違う形状を紫苑の体は受け付けない。

再び紫龍が紫苑のペニスを咥え紫苑が「あっ」と小さく喘いだ瞬間に
その異物は紫苑の中に頭を沈めた。
「やぁっ・・・」
解された孔はローションの力も借りて、ゆっくりと中に異物を受け入れる。
そして玩具の太い部分が紫苑の敏感な部分に当たる所で止った。
当たっているだけでかなり刺激が強い「あぁっ・・あぁ紫龍・・」

「どう?気持ちいい?」
左手で紫苑のペニスを扱きながら、右手はその玩具をゆっくりと挿送させている。
何度かそれを繰り返した後、それはもう一度前立腺の辺りで動きを止めた。
だがその瞬間にスィッチが入れられモーター音と共に内側から激しく前立腺が揺さぶられた。

「やぁぁぁあぁぁぁぁっだめぇ・・・紫龍イっちゃう」
「いいぞイっても、もう少し強くするぞ」
紫龍がそう言うとその異物は紫苑の中を掻き回すように暴れだした。
「あああぁぁっだめっ・・・イっちゃう・・あぁぁ・・紫龍イッ・・」

四肢を強張らせ小さく開いた唇の隙間から甘い吐息が漏れている。
初めての経験に紫苑も興奮してしまったのか、普段よりも艶かしく見えてしまう。
『くそっ』そんな紫苑を見て自分で使っておきながら、こんな玩具にも嫉妬を覚えてしまった紫龍は、紫苑に負担にならないようにそっと抜き電源を切った。
「はぁ・・はぁ・・」そしてまだ息の整わぬ紫苑の膝裏を抱え上げ、ひくひくと震える孔に己をぐぐっと埋めて行った。

「あぁっ紫龍まだ・・駄目」
「駄目じゃない、もう紫苑の中絡みついてきているから」
熱く潤んだ孔から出て行けと言われてもそれは到底無理な話だ。
「凄い、紫苑の中凄いよ」
「やっ・・恥ずかしい事ばかり・・・言ったら駄目ぇ」
「あぁ紫苑の中最高だ・・・」
「紫龍のも熱い・・・凄い・・あっ奥に当たる・・・」
紫苑も最大限の紫龍を体いっぱいに感じていた。

「紫龍・・・愛してる?」淫らに喘ぎながらも愛を確かめる紫苑をきつく抱きしめ
「ああ、愛してる紫苑だけだ」と囁く。
そう囁きながら紫苑の色に染まった顔を覗きこみ、
その桃色に染まる頬に唇に何度も唇を重ねる紫龍だった。

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櫻井紫苑(さくらい しおん)は学生課の掲示板の前で溜息を漏らしていた。条件の良いバイトを紹介してもらっても、二、三ヶ月で首になってしまう。イヤ実際首になっている訳ではないのだが、辞めざるを得ないのである。

 そんな紫苑が不意に後ろから肩をポンと叩かれ、振り向くと学生課の職員の山口が立っていた。
「そろそろ来る頃だと思っていましたよ」
この山口には、条件の良いバイトを幾つも紹介してもらったのに本当に申し訳なくて合わせる顔が無い。

「高校の中間考査の結果が出る頃だと思いまして……又ダメでしたか?」
「はい、僕は人に勉強を教えるのは向いていないみたいです」
実際今まで三人教えてきたが、成績が上がった生徒は一人も居なかった。上がるどころか、大幅に下がってしまい家庭教師を続けられる状況ではなかったのだ。
「でも生徒には辞めないで、って泣かれたのでしょう?」
「えっ?どうして判るのですか?」

ふふっ判ってないのは櫻井君だけなのだけどね。二十八年生きてきたけど、今まで見知っていた全ての中で三本の指に入るだろうと思われる美人だ。そんな家庭教師に教わる年頃の男子生徒が平静で居られる筈がない。
きっと教科書など見もしないで、端正な横顔を眺め、口から発せられる公式を愛の囁きと聞き「わかった?」などと見つめられると「愛している?」と聞こえているのだろうな?
内心その生徒達に同情してしまうよ、と山口は心の中で呟いていた。

「又家庭教師お探しかな?」
揶揄するような山口の問いに力なく紫苑は答える。
「イエ、もう家庭教師もコンビニもファミレスも無理です。工場の流れ作業とか、倉庫整理とか、そんな黙々とやれるのがいいです」
紫苑は本当に人と関わるバイトは避けたいと思っていた。自分のせいで成績が下がったり、今までいい雰囲気だったりした職場が、剣呑とした雰囲気になるのはもうイヤだった。世間では自分の力など通用しないのだ、と思い知らされているようで辛かった。
早く大人になりたいのに。ならなければならないのに。

「いい所がひとつありますよ、アパレル関係で棚卸とか入庫してきた製品のチェックとかの軽作業が」
山口が言い終わらないうちに「お願いします!!」と紫苑はそのバイトに飛びついた。
「昨日求人が来たばかりだから、まだ貼り出しはしていなかったのですよ。櫻井君は運が良かったですね」
山口の言葉に紫苑の顔が嬉しそうに輝いた。

「ちょっと十分程待っていてくれる?紹介カードを切って来るから」
そう言い残して、山口は事務室へと消えて行った。そんな山口を待ちながら紫苑は初夏の兆しを見せる空を見上げた。

―――もうすぐ一年。

紫苑が二十歳の誕生日を迎え数日経ったある日、祖母に呼ばれて部屋に行くとそこには弁護士の南條賢介が鎮座していた。
「南條先生ご無沙汰していました。お元気でしかた?」
「ああ、紫苑も元気そうだな?」
などと挨拶を交わしていると傍でにこにこ様子を見ていた祖母が、全く思いもしなかった事を口に出したのだ。

「紫苑、私はこの家を売って有料老人ホームに行くことにしました。あなたには大学の近くにマンションを用意してあります。来週からそこでお暮らしなさい」
さも来週からちょっと旅行に行ってくる、って感じの気軽さで祖母は言った。いったい何を言われたのか、紫苑は暫く理解できなかった。
「全て南條先生にお任せしてありますから」
「何ですか?老人ホームって?どうして?おばぁ様は、まだそんなお年ではないじゃないですか!」

普段物静かな紫苑にしては、珍しく興奮した口調だった。
「それにどうして僕が居るのに老人ホームに行かなければならないのですか?まだ僕は学生で力も経済力も無いけど……あと数年したら、ちゃんとお祖母様を支えて差し上げられます」

今にも泣きそうな紫苑を余所に祖母は微笑んだ。
「あら最近の老人ホームって凄いのよ?特にあちらは、病院も隣接しているしお食事も美味しいし、環境も素晴らしいのよ」
頬を上気させて愉しそうに語る祖母を見ながら紫苑は、まだこれは夢?何かの冗談?という顔をしている。
「じゃ、私はお友達と約束がありますから、詳しいことは南條先生に聞いて下さいね」
祖母は何か言おうとする紫苑に背中を向けて部屋を出て行ってしまった。


紫苑の母方の祖母の小山田咲(おやまだ さき)は気丈で上品な女性だった。娘夫婦を亡くして十歳の紫苑を引き取り育てて来たのだ。娘の忘れ形見というだけではなく本当に紫苑が可愛かった。
孫って目の中に入れても痛くないと言うけどまさにその通りだった。

でも甘やかしてばかりは居られない、人間いつ何時何が起こるか判らない。甘やかしたい気持ちを抑えて随分と厳しく育ててきた。男の子だけど、行儀作法、一般常識、書道、料理などと自分が教えられる全てを教えて来たと思っている。お陰で何処に出しても恥ずかしくない青年に育ってくれた。
頭も良い、咲に負担を掛けないように国立大学にも受かってくれた。実際経済的には何の心配も要らない資産を咲は持っていたが、多分紫苑はその事を詳しくは知らなかったのだろう。


―――三ヶ月前に咲は癌の宣告を受けたのだ。初期の段階なので、一度の手術とあとは抗癌治療で五年再発しなければ……。
但し、このことは紫苑には打ち明けていないし、そのつもりもなかった。絶対紫苑には知られないようにと、それが咲の願いだったのだ。
それから今は二代目になった南條弁護士や隠居している南條の父、恵吾の尻を叩いて大急ぎで色々な手続きをさせたのだった。

そんな祖母咲の胸中を知らぬ紫苑は(お祖母様は僕から解放されたかったのだ)と寂しく思っていた。でもそのうちに自立して迎えに行くから。それだけが紫苑の支えだったのだ。


そんな状況で紫苑が一人暮らしを始めてもうすぐ一年……また暑い夏がやって来るのだ。

「櫻井君待たせたね」
事務室から出て来た山口は紫色のカードらしき物を手にしていた。


山口は自分の机の鍵付きの引き出しから更に鍵のかかった小さな金庫を取り出すと
中から5色に分けられたカードを取り出した。
迷わずに紫のカードを抜き、他は又大事に閉まって鍵を掛けた。

そして携帯電話を掛ける。
「あー山口だけど、今いいかな?紫切るけど何時がいい?」
と唐突に用件だけを話し出す。
電話の相手、堂本紫龍は銜えていた煙草を「えっ?」と言う言葉と一緒に
落としそうになった。

「紫?随分突然だなぁ?」
「そうか?俺は2年前から決めていたけどな。時期を見計らっていたのさ」
「そうだなぁ、じゃ明日の午後3時に寄越して」
「了解、綺麗なパンツ履いておけよ」
「なんだそれ?」
「まぁそれくらい覚悟しておけって事さ」
そう言うと山口はさっさと電話を切ってしまった。


一方ここ株式会社DOMOTOの社長室では
秘書の浅田哲也が銀縁の眼鏡をずり上げるように
「紫ですか!」と。普段冷静な男に似合わない声を発した。

「あぁこの5年で初めてだ」

若干28歳で株式会社DOMOTOの社長である堂本紫龍と
学生課の職員の山口は高校からの同級生であった。
2代目である紫龍が会社を継いだのが23歳、晩婚だった父が35歳の時に
やっと紫龍が生まれたのだった。
お陰で、大学を卒業して会社に入り2年目で社長の座を言い渡されたのである。

中学の頃から経営学を学び大学生になる頃には親から借りた資金を元に
IT企業を立ち上げ、在学中に返済も済ませている。
そんな2代目を年齢だけで反対する重役も居なかった。
社長だった父が会長の座に納まりまだ充分に威光があったというのもあるが、
5年過ぎた今では、誰一人と文句のつけられない実績を上げていた。
安心した会長も最近は夫婦で旅行三昧の生活を送ってるようだ。


T大学の学生課に配属された友人に5色のカードを渡してあるのだ。
白、黄、青、赤、紫
ここ5年で赤と紫は切られていない。
白は本人が希望してるから、面接だけでもしてくれ程度
黄色は少しは使えるかな?青は使えると思うよ程度の色分けである。
実際青でバイトに来た学生は今までに6人居るがその全員が
今正式に就職して駆け上がろうとしている。

山口の目はとても厳しいと思ってる。
いくら本人が希望しても気に入らない学生は白のカードさえ切らない。
だから白でもカードを切ってもらえる学生は他の会社でも充分上位で通用する人間だ。

それが赤を飛び越えていきなり紫となると
どんな学生が来るのか楽しみでない筈がない。
紫の意味は「絶対」である。
山口の人を見る目の自信とプライドに掛けてのカードである。


その裏の裏があるようなカードを渡された櫻井紫苑はその意味を知る筈もなく、
山口は「明日の午後3時にそこに書いてある住所の会社に行って面接しておいで、
受付に行けば分かるようになってるから、一応簡単な履歴書持って行って。」
とその重みも感じさせない、お気楽な発言をしている。
勿論何の説明も助言もない。

「はい、ありがとうございました。受かったら今度はクビにならないように頑張ります」
渡されたカードをちらっと見て、紫苑は丁寧にお辞儀する。

「おお、頑張って」内心愉しくて仕方ないのだが、
顔には出さずに激励してあげた山口だった。



まだ7月になってにのに暑いなぁとブツブツ言いながらエントランスに入ると
程よい空調の効き具合にほっと息をつく。
自分の担当する会社を回って社に戻った深田は
昼も食べ損ねてしまったのだが、それよりも今は冷たい飲み物が飲みたかった。

ここは1・2階に幾つものテナントが入り、社の受付は3階になっている。
一流の店が出店しているブランドビルのようになってるが
2階には買い物に疲れた人たちの喉を潤すためのカフェが入っている。
一般にあるカフェよりも少々高めではあったが、
それでも厳選した豆で美味しい珈琲が飲めるとなると、社の人間も結構利用していた。

深田も毎回は無理だが、仕事が上手く行った時や
給料後には自分にご褒美にと足を運んでいる。
なんか俺安上がり?と思わない訳じゃないが、
他の店に2度行けてしまうのに、と考えるとやはり贅沢な気分にもなってしまう。

このカフェは会社の直営だ。
社長もやり手だよなぁ、数十万もする買い物をした後じゃ1杯千円の珈琲でも
高いと思わない客が大勢いる。
そして社長の凄い所はカードが使えない店にしている事だ。
ブランドショップでは散々カードで買い物をさせ、ここのカフェは現金オンリー。

「カードしか持ち歩かない人間は信用してない」それが社長の考えだ。

俺もその意見には賛成。
たまに居るんだよなぁ、
「君、私は現金を持ち歩かない主義なんでなぁ、ここ立て替えておいてくれないか?」
などと、自慢げに言うせこいオヤジが。
そしてその立て替え金が返ってきたためしがない。

そんな事を考えながら、残り少なくなったアイスコーヒーの氷を掻き混ぜていると
斜め後ろの席に座った客が「珈琲お願いします。」とオーダーしていた。
声の感じで若い男だと判ったが、今時珍しく丁寧な奴だなぁと思い
何気に振り返ると黒の半袖のポロシャツを着た色白の美青年が座っていた。

すぐに目線を戻したのだが、深田の心臓はバクバクしていた。
『何あれ!?男だよなぁ、何か凄くないかぁ?』
もう一度確認したい、振り返りたい、でもジロジロ見ちゃ拙いよなぁ?
などと自問自答していると、何気に周りも息を呑んでいるのが感じられる。
『良かった、俺だけじゃないんだ・・・』と妙に安心してしまった。

「お待たせ致しました」心なしかボーイの声も上ずってるように聞こえる。
「ありがとうございます、いい香りですね」
「ご・ご・ごゆっくり!!」上ずってるどころじゃないなこのボーイ・・・

とうとう飲み干してしまった・・・空のグラスを前に一大決心をするかのように
「アイスコーヒーお替り」言ってしまったよ俺。
その一言がきっかけのように、周りから「お替り」の声が相次いだ。

凄い、席に付いて5分かそこいらで
この美青年は5千円分の売り上げに貢献しちゃったよ。
もう一度盗み見るようにそっと後ろに目線を回せば
乳白色の陶器よりも白い細い指で何気なくカップの淵をなぞっている。
少し緊張した面持ちで小さい溜息をひとつ。
まるで映画のワンシーンのように、そこだけ空気が違うのだ。


その型の良い唇がカップに触れるたびに、『俺カップになりたかったかも?』
などと馬鹿な事ぼーっと考えてしまっていた。
ちらっと左腕の時計に目をやり、意を決したように伝票を掴み席を立つ青年を見て
慌てて自分も伝票持って、レジへと続く。

セカンドバッグから財布を取り出し、会計をしている青年を背後から覗くように見ると、
財布には銀行カードと並んで、ゴールドのクレジットカードが納まっていた。
『げっ、やっぱお坊ちゃまか?あの若さでゴールドだもんなぁ・・・・
何気に時計も高級そうだし・・・』

俺なんか視野にも入らないんだろうなぁ?
昼飯代4日分を支払ってもその価値あったけどな。
さぁ、あとひと頑張りしよう!!
そう自分にカツを入れて歩き出した。


2時50分櫻井紫苑はDOMOTOの受付に居た。
「すみません、3時に約束している櫻井と申しますが・・・」
受付嬢は社交的な微笑みを浮かべて
「少々お待ち下さいませ」と丁寧に答えてくれた。

「櫻井様ですね?伺っております。20階にも受付が御座いますので
そちらの方へお願い致します。」
そう言って左手のエレベーターを案内してくれた。

礼を延べてエレベーターに向かう紫苑の背中を頬を染めて見送る受付嬢に
「どうしたの顔赤いよ?」と慣れ知った深田が声を掛けてきた。
「あっ深田さん、お疲れ様です・・・だって凄い素敵な方なんですもの。
見惚れても仕方ないと思いません?」
「で?彼は何処へ?」
「うふふ・・・20階よ」
それが何を意味してるかは鈍い深田にでも判る。
20階には社長室と秘書課と役員室しかない。
平社員ではまず足を踏み入れる事が無い階だったのだ。

「なんだぁやっぱり雲の上の人だったのかぁ」
と意気消沈する深田に向かって、
「えーっ?深田さんって男の人が好きだったんですかぁ?」
と興味深々で言われるまで、自分が一目惚れしてしまったのが
同性だった事に気が付かないでいた。

次の来客に向かって営業スマイルを向けてる受付嬢に
言い返す事を諦めて、エレベーターに向かって歩き出した。


一方20階の社長室では、秘書の浅田が「もうそろそろですね?」と
ワクワクした面持ちで櫻井の訪問を待っていた。
多分今回の面接を社長である堂本よりも待ちわびていたのだ。
そろそろ自分の左腕を育ててみたいと。
勿論秘書課には優れた人材は居たが、自分が直接育てたいと思う程の者は居なかった。

「何か随分楽しそうじゃない?浅田?」
「だってあの山口が紫切ったんだよ、どんな素敵な女子学生が来るか期待大だよ」
「そう、その上俺が1週間で落ちるとまで言いやがった。」
「バカラのワイングラスだっけ?」
「ああ」
忌々しそうに煙草を揉み消しながら、堂本は窓の外の街を眺めていた。

その時秘書課の受付から「櫻井紫苑様がお出でです」と内線が入った。
「通して」

間をおいてコンコンとドアがノックされる。
「入りなさい」

「失礼します」とすーっとドアを開けて入って来たのは
美人の女子学生ではなく、超が付く程美麗な男子学生であった。

浅田は想像していなかった男子学生という事よりも
その立ち姿の美しさに思わず見惚れてしまった。
見た目だけじゃなくて、育ちも良いのだろう。

「秘書室長の浅田です。」
「櫻井紫苑です、宜しくお願い致します」
学生課からの推薦状と履歴書を持って来ましたか?」
はいと返事をして書類を手渡しながら、紫苑は内心
『倉庫の整理や検品だって聞いてたのに、もしかして間違えて来てしまった?』
黙って履歴書に目を通している浅田に向かい
「もしかして間違えて来てしまいましたか?倉庫の仕事だって聞いてたんですけど・・・」
どう見てもこの立派なビルと、その最上階に位置する社長室と倉庫が結びつかない。

「イヤ間違ってはいない」
といきなり窓の方から低音の声が響いてきた。
緊張していた紫苑は窓際に人が居たことすら気づいていなかったのだ。
ビクッと体がソファから飛び上がりそうになってしまった。

浅田はくすっと失笑しながら、
「あぁ紹介が遅れましたが、彼がここ株式会社DOMOTOの社長の堂本紫龍です」
紫苑はすくっと立ち上がり「T大学3年の櫻井紫苑です。宜しくお願い致します」
と綺麗な姿勢でお辞儀をした。

堂本は浅田から渡された履歴書の住所欄を見た時に少し眉を動かしたが
そこには触れず、「一人暮らし?家族は?」
「はい、1年前までは祖母と暮らしていましたが、今は一人です。両親は他界しました」

「そう・・・・大学は何か勘違いしたかな?倉庫の仕事は今間に合ってる。」
それを聞くとがくっと肩を落として「そうですか・・・・」と残念そうに呟く。
「ここでの書類整理のバイトならあるが?やるか?」
「えっ?はい、やらせて下さい」
『良かったぁ、倉庫整理も書類整理も同じような事だよなぁ』と紫苑は胸を撫で下ろした。

「ところで良い時計をしているね?」堂本の問いかけに
「はい、祖母が二十歳のお祝いに長く持てる物をとプレゼントしてくれた時計です」
右手でそっと時計を抱くように答えた紫苑の瞳は何故か寂しそうだった。
「その時計が幾ら位するか知ってる?」
「えっ?じ・じゅうまんはします?」自信なげに答える紫苑に向かい
「そうだな、とにかく大切にした方がいい、私は席を外すからあとは秘書の浅田に聞いて」

浅田は畏まりました、と頭を下げながら堂本を見送ると
「さて、櫻井君、今後の話をしましょうか?」
と紫苑に向き直った。


浅田と櫻井が社長室で話しを詰めてる頃
堂本は同じフロアの応接室で山口に電話掛けていた。
「おい!男だとは言わなかっただろう!」
「女とも言わなかったけど?」
「じゃ何で俺が1週間で落ちるんだよ?」
「おや?好みじゃなかったですか?」
「そういう問題じゃない!」
「櫻井綺麗だろ?何回綺麗って思った?
思った回数が多ければ多い程・・・・わかる?
じゃ、1週間後楽しみにしてるよ」とあっさりと電話を切られてしまった。

全く腹立たしい・・・・そりゃ白くて長い指、形の良い爪見て綺麗だと思ったさ。
頬のラインも良かったなぁ、寂しげな目元も・・・きりっとした口元も・・・・
短い時間しか一緒に居なかったのに、いくつ綺麗さを上げるつもりなんだよ?
やばい、山口の策に陥ってしまう。
カフェで珈琲でも飲んでこよう堂本は気分を変えるべくカフェに向かった。

2階のカフェは自分の珈琲好きが高じてオープンしたような店だから頻繁に足を運んでいる。
一般席の奥にきっちりVIPルームも作ってある。
勿論一般には使用されない堂本だけの専用シートである。

カフェに入ると、「冷たいのを、それと店長を呼んで」と言いながら奥へと消える。
ノックの後「失礼します」とアイスコーヒーを運んできた店長に向かい
「客足はどうだ?」
「そうですね、最近暑くなってきてますし、
冷たい飲み物を求めるお客様も多くなりましたし
夏の賞与も出てる企業も多いですので、結構繁盛しております」
「そうか、まぁ頑張ってくれ」

「そういえば、今日の午後に凄い美青年客があって、近くの席のお客様がこぞって『お替り』を申されてたそうですよ」
楽しそうに報告する店長に向かって堂本は
「もしかして黒のポロシャツ?」と聞いてみた。

「えっ?流石社長、もう情報が入ってきましたか?珈琲を運んだ菊池君なんか
後で鼻血出してましたよ、白い項が官能的だとか何とか言って」
それを聞て『俺は項なんて見ていない!』何故か不機嫌になってしまう堂本だった。


もう少し置いてからアップしようと思っていたのですが
9月4日に開設したeternityも3ヶ月目に突入致しました。
ご覧下さり本当にありがとうございました。

「永遠の誓い」が不定期更新になってしまいますので、
「天使が啼いた夜 堂本紫苑」のアップに踏み切りました。

小冊子が届く予定の方は内容が被ってしまいますので一応お知らせしておきますネ。
冊子を先にと思っておられる方は、今回は目を閉じて下さい^^


では、堂本紫苑を楽しんで下さいませ♪♪


  ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「どうしても駄目なの?」
「ああ駄目だ・・今更新入社員扱いする事は無いだろう?」

ここの所ずっと同じ話で紫苑と紫龍は揉めていた。
「きちんと4月の新入社員として改めて採用してくれ」と言う紫苑と
「去年から社員扱いなのだから、その必要は無い」という紫龍

そんな二人のやり取りを浅田は溜息を吐きながら聞いていた。
だがその話し合いも紫苑の一言で形勢逆転になった。
「そんな事したら、僕には同期と呼べる仲間が居ない・・」
寂しそうに肩を落とす紫苑を見る紫龍の目の色が変わった。

浅田は心の中で『紫苑君の勝ち』と呟いた。

「同期・・・そうか・・・判ったよ」
「紫龍ありがとう」嬉しそうな紫苑の顔に一抹の不安を覚えない訳では無いが
実際同期が会社に居ないのは拙い、そう紫龍も思った。
「その代わり何かトラブルが起きたら即刻此処に戻すからな」
「はいっ!」
その紫苑の笑顔にもう腑抜けになってしまってる紫龍だ。

「ありがとうって礼を述べるって事は、お返しを期待していいのかな?」
紫龍の言う『お返し』の意味はひとつしか無いのに、相変わらずの紫苑は
「はい、何がいいですか?僕の出来る事なら何でも!」
「ちょっと耳を貸して」
そう言われ、紫龍に近寄り身を寄せる紫苑の耳元で囁いた。

その途端に紫苑の頬が染まり目がうるうるして来た。
「駄目っ・・出来ない」
「大丈夫だよ、やれば出来る」
「駄目・・そんな上になって自分で挿れるなんて無理っ」

浅田の耳を意識してわざわざ耳元で囁いたのに
動揺のあまり紫苑は、すっかり内容を口にしてしまっている。
「そういう事は家に帰ってからにして下さい、そろそろお客様がお見えになりますから」
浅田に釘を刺され「あれ何か約束あったか?」と確認していると
部屋の外が急にざわついているようだった。

コンコンとノックの音に浅田がドアノブに手を掛け
「いらしゃいませ、会長、奥様」と恭しく頭を下げていた。
「おやじ、じゃない・・会長如何されました?」
今は会長職に就き会社に顔を出す事などめったにない父だった。
それが母親まで同伴とは何事だろうと紫龍が考えていると

「紫苑ちゃん、久しぶり~」
「紫龍まま、久しぶりです、お元気でしたか?」
相変わらず女の友達同士のように、ひしっと抱き合っていた。
そして呆然としている息子に向かい
「今日は紫苑ちゃんの就職祝いのスーツを買いに行くのよ」
「はぁ・・だから二人でいらしたのですか?」
「あぁこの人は何の役にも立ちそうにないけど、来たいって言うから」
全く夫婦して紫苑には激甘な二人だった。

「さあ紫苑ちゃん行きましょうか?」
「あ、俺は?」
「あなたはしっかり仕事なさい」
母の冷たい言葉にがっくり肩を落とすが、午後のスケジュールも詰まっていた。

「あ、紫苑ちゃん今夜はうちに泊まりなさい」
「え?いいんですか?はい!嬉しいです」
その会話に口を挟もうとして、会長である父に目で『何も言うな』と合図を送られた。

会長夫妻と紫苑が出て行くと、紫龍は・・・
「あ~あ、上にさせて挿れさせて・・・あ~あ」と一人項垂れていた。
「そんな事言ってないで、さっさと仕事して下さい」
浅田に叱責されながらも、紫苑の居ない夜を考えると気が滅入る。

だが紫龍は主の居なくなった部屋のプレートをちらっと見て口角を上げた。
先月までは其処には「SAKURAI」のプレートが掛けてあったが
今は「D・SION」のプレートに掛け変えられていた。


結局その夜紫龍は夜遊びもしないで、仕事が終わって真っ直ぐに帰宅した。
紫苑のいない部屋に帰るのは1日たりとも我慢出来ない気がしていたが
最近は外で飲んでも面白くも無い、部屋で紫苑の手料理で酒を飲んだ方がずっと旨い。

紫龍が部屋を開けて一歩足を踏み入れると、暗い筈の部屋が明るかった。
「お帰りなさーい」エプロン姿の紫苑に出迎えられ、
思わずその場で押し倒したくなったのを抑えながら
「あれ?泊まって来るんじゃなかったのか?」と聞いてみると
「だ・だって・・・お返しが・・・」
『やっぱり押し倒していいですか?』

「紫苑ベッドに行こう」
いきなり紫苑の手を引き歩き出すと
「駄目ですっ!食事をきちんと済ませて、お風呂に入ってから」
と思った通りの言葉が返ってきた。

「今日の飯は?」
「まだ寒いから湯豆腐です」
「おお良いな・・日本酒?」
「鱈は入ってる?春菊は?」
子供のように問い掛ける紫龍に向かって
「勿論」にっこり笑う紫苑をやっぱり押し倒したい・・・

食事をしながら、スーツを紫龍ママとパパに買って貰った報告を受けた。
「スーツに20万円も・・・こんなスーツ見た事も無い」
そう言う紫苑に『お前が普段着ているのも3万円で買える吊るしじゃないから』
と言いたいぐらいだった。
だが自分の親と張り合っても仕方ないから、言うのを止めた。
『俺はあなた達の知らない紫苑の顔を知ってるんだ・・』
結局何処かで親に張り合って優越感を感じている紫龍だった。

湯豆腐を突付きながら紫龍が感慨深げに言った。
「いよいよ来月から本格的に社会人か・・・楽しみだな」
「はい、宜しくお願いします」

去年の夏にアルバイトに来た紫苑をひと目で気に入って、傍に置くようになり
そして紫苑の辛い過去も全部受け止めたいと思った。
それ以降も辛い経験もしたが、思った以上に紫苑という人間は強かった。
他人の苦しみを自分の立場で受け止め、自分に出来る精一杯の事をやるような奴だった。
自分が傷ついても他人を守ろうとするような紫苑だから、俺が紫苑を守って行く。
そんな愛しい紫苑とずっと一緒に居られる。

「堂本紫苑・・・」紫龍はそう呟いた。
「はい」3月に入って念願の養子縁組を終えたばかりだった。
本当は紫苑の祖母の喪が明けてからが良かったのだが、
社会に出る時の方が色々な意味で都合が良かったから、
少し早いが回りの勧めもあり、入籍を済ませたのだった。

「紫苑・・・ベッドに行こうか?」
「ん・・・此処片付けたら」何度からだを重ねても紫苑の恥じらいは、
初めての頃と変わらなかった。片付けをする紫苑の後ろに回りぎゅっと抱き締めた。

「紫苑・・・早く欲しい」
「だ・駄目・・片付けが終わって、お風呂に入ってからじゃないと無理だから」
「じゃ風呂一緒に入る?風呂の中で解そう?」
その言葉に紫苑が顔を染めながら
「こ・こんな明るいキッチンでそんな事言わないで」と抗う。

もう耳まで赤くなってる紫苑の項に唇を這わせる。
「あっ」小さく喘ぐくせに洗い物の手を止めようとしない紫苑の体を改めて
後ろからそっと抱き締めた。



        2010-11-1-sion.jpg
         
 イラスト undercooled pioさま
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「社長、もう少し顔を引き締めて下さい」
斜め後ろから浅田が紫龍に注意をしている。
こんなしまりのない顔が我が社の長たる者だとは思いたくはなかった。
「今日は役員の方々も、会長も出席されてるのですから」
そんな事を言いながらちらっと会長に視線を投げかけた。
「・・・・ふぅ」
浅田が見た会長の顔はこの堂本紫龍に負けず劣らずしまりのない顔だった・・・

「浅田文句ばかり言ってないで、舞台の上を見てみろ」
そう、その舞台の上で新入社員代表の挨拶を緊張する事なく
綺麗な言葉で語っているのは『堂本紫苑』であった。
毎年入社試験でトップを取った者だけが上がれる壇上だ。

来賓席に目を向けると、会長婦人と名古屋の相田夫妻も列席している。
『はぁ・・・幼稚園の入園式でもあるまいに・・』
関係者ではあるので来るなとは言えないが、多すぎる・・
去年は会長婦人の顔は見なかった。
そしてその会長夫人は『うちの子偉いでしょう?』と自慢げな顔をし
相田夫人は心配そうに両手を胸で当てていた。

浅田が人間観察をしている間に入社式はつつがなく終了した。
殆どの会社が入社式の時に配属先を通達するが、ここDOMOTOでは
3ヶ月の研修期間を経た後に配属を決めるのが慣わしだった。
全ての部署で研修を受けながら、自分の希望の部署を選ぶ。
それは雇う側も同じであった。
まるで集団見合いみたいなものだった。
研修期間に新人の仕事ぶり人柄を見て人選をするのだった。

だからここDOMOTOでは五月病という言葉を聞くことが無い。
他の会社の新人が『こんなはずじゃ無かった・・』とか
逆に下手に慣れて簡単な仕事だと思い込み、
そして直ぐに壁にぶち当たってしまうような事は無かった。

研修期間の3ヶ月の間に希望の部署に自己アピールするのも大事な事だ。
『下克上』という言葉が一番ぴったりくる会社であった。
力のある者は上に上がれる。それがこの会社の魅力であり活力なのだ。
だから新人も既に社員になっている者もこの研修期間が勝負であった。


入社式が終われば解散だ。
先輩社員を訪ね社内を案内してもらうも良し、
新入社員同士で親睦を深めるも良し・・・
殆どの者が大学の先輩を頼って案内してもらったり、場合によっては
使いっ走りさせられる者も出てくるようだ。

来賓客に挨拶をする堂本社長について回る。
手短に済まそうとする社長の脇腹を突付いて浅田はゆっくりと会場を回った。
だがそこには会長夫妻も相田夫妻も姿は見えなかった。
既に社長室に戻っていると思われる。
紫龍は早く紫苑に会って今日の事を褒めてあげたいのに、
なかなか体が自由にならない。

紫龍が開放されたのは式が終わって1時間も過ぎた頃だった。
「おい、浅田もう少し気を利かせてくれよ」情けない声の社長に向かって
「あなたは今日がどんなに大事な日か判っているのですか?」
来賓の殆どが大株主か、主要取引先だったりしてるのだ。

「判ってるさ!今日は紫苑の晴れ舞台の日だ」
『やっぱり判ってない・・・・』
そう思いながら急ぎ足で社長室に向かう堂本の後について行った。
社長室を開けてもシンとしていたが隣の紫苑の部屋から賑やかな声が聞こえてくる。

「すまん紫苑遅くなった」
紫龍が勢い良くドアを開けて中に入ると、
決して狭くない紫苑の部屋がぎゅうぎゅう詰めの状態になっている。
「あ・・会長ここにいらしたのですか?」
挨拶回りの時にどうりで顔を見なかったはずだ。

テーブルの上には紫龍の母である会長夫人と相田夫人が持ち込んだのだろうか?
和食洋食とデザート、フルーツと所狭しと並べられていた。
「何だか凄いご馳走ですね・・・」
紫龍と浅田が同時に腹を鳴らした。

「お疲れ様です、さぁどうぞ」
紫苑が嬉しそうな顔で席を用意してくれた。
「紫苑、今日は代表の挨拶立派だったぞ」
『あぁ二人きりならぎゅっとしてチュッとするのに・・・』
「ありがとうございます。緊張しました」
そう答える紫苑に向かって「そんな事ないじゃないか、堂々としてたぞ」と
声を掛けたのは統括の深田だった。

「ふ・深田!どうしてここに?・・・広海もいたのか・・・」
「・・今頃気付く?」広海が呆れたような声で肩を竦める。
「どうしてお前らまでここに居る?」不機嫌そうな紫龍に向かって
「だって櫻井君にお呼ばれしたんだもん」平然と広海がそう言ってのける。

途端に紫龍の顔が曇った。
「櫻井じゃないだろう?」
「あ・・っごめんなさい」素直に広海が謝った。
「でもとうとう社長の養子になったのか・・」ちょっと寂しそうに深田が呟くと

「あ・・僕社長の養子じゃなくて・・・・」
言いにくそうに紫苑が口ごもった。
「そうよ、紫苑ちゃんはうちの子になったのよ」
会長夫人の言葉に紫苑と紫龍以外は驚いた。
皆の視線が次の言葉を促すように会長夫人に集まった。

「紫苑ちゃんはね、紫龍の立場を考えて養子にはなれないって言ってたの・・
だから色々話し合って、私と主人の養子って事にしたのよ。
ま、紫龍と義兄弟になっちゃったけど今の日本の法律ではどちらにしろ結婚は出来ない。
もし出来るようになったら、また戸籍を弄ればいい事よ」

簡単に言っているが4人で一番良い方法を時間を掛けて話し合ったのだろう・・・
「要するに、縁が切れなきゃいいのよ」
会長夫人のその一言に全てが凝縮されている気がした・・ここにいる誰もがそう感じた。





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深田は会長夫人に近寄った。
「はじめまして、統括の深田です」
「あら、こんにちはお若いのに統括?」
「あ、はい宜しくお願いします」
機嫌の良い会長夫人に深田は言葉を選びながらも聞いてみた。

「あの・・理解あるんですね・・その社長と櫻井・・いえ紫苑の事に」
男同士の付き合いに眉を顰めるどころか、応援している紫龍の母親だったから。
「あの二人は、生まれた時から縁があったのよ、
紫苑ちゃんの名前も紫龍の紫を使ってるほどにね」
そう言って、紫苑の母親と自分たちの関係を説明してくれた。

「紫苑ちゃんが男でも女でもそういう運命にあったと思うわ」
「そうですね・・女性の紫苑も捨てがたいですが、あの二人は違和感がないですね」
深田の言葉に頷きながら「あなたは広海の良い人ね」と断言された。

「え・・あ?バレてましたか・・俺は広海と付き合ってます」
真っ直ぐ夫人の目を見て答える深田に優しい眼差しを向け
「広海が最近変わったのは貴方のお陰なのね」
「いえ・・俺っていうか、元々は紫苑のお陰なんですが・・」
「広海も何かあったみたいで・・・ずっと荒れてたけど、良い子になったわ」

広海が荒れてた理由までは知らないみたいだが、変わった事は気付いていたみたいだ。
「はい、明るくていい奴です」
「深田さんも広海と生涯を共にしたいと思ってるのかしら?」
「はい」即答に夫人は頷いた。

「そう、別に籍を同じにしなくても、気持ち次第よ」
「・・・・俺はまだ親に打ち明ける勇気が無いんです」
「普通はそうよ、気に病む事はないわよ」
自分達は紫苑を気に入って、紫苑の育った環境も家族も知っていたから
受け入れやすかったし、受け入れる事に何の違和感も嫌悪感も無かった。
深田は、そう言う夫人からずっと視線を外せなかった。

「焦る事は無いわよ、本当に縁のある相手なら必ずその時は来るわ」
「ありがとうございます。そうですよね」
会長夫人の言葉に深田は癒される気がした。
このまま広海とずるずると長く付き合う事に少し不安を持っていた深田は
その言葉のままに時を待とうと思った。

「深田さん、食べてますか?」
そう言って紫苑が近づいて来た。
「ああ、凄いご馳走だな、呼んでくれてありがとう」
そう言いながら、深田は背広の内ポケットから包みを取り出した。

「これ、俺と広海からの就職祝い」
「えっ?深田さんと広海さんから?そんな・・気を使わないで下さい」
そう言いながらも紫苑の顔は嬉しそうに綻んでいた。
「そんな遠慮するような高価な物じゃないから」
深田と紫苑の様子を見て広海が近寄って来た。
「そうだよ、僕達からのお祝いの品だから遠慮なく受け取ってよ」

「ありがとうございます、開けていいですか?」
紫苑が丁寧にその包装を解いていった。
「ああ、万年筆だ!」
紫苑が手にしたのは万年筆で有名なM社の製品だった。
「ああ嬉しい・・・欲しかったんですこんなのが、でも高くて手が出なくて・・」
相変わらず自分の持ち物に関しては、贅沢をしない紫苑だった。

今にも頬摺りをしそうな勢いで万年筆を愛でていた。
「あ、名前が刻んである・・・堂本紫苑・・」
本当は深田と広海にとって少々痛い金額ではあったが、
こんなに紫苑が喜んでくれるのなら安いもんだと二人心の中で思った。

「どうしたんだ?」なかなか二人っきりになれない紫龍が様子を伺いに来た。
「紫龍・・見てこれ!深田さんと広海さんからの就職祝い」
紫龍は喜ぶ紫苑の顔を見れば、その万年筆をどんなに気に入ったか判る。
「良かったな、大事にしろよ」そう言いながら紫苑の頭を撫でている。
そして深田と広海に向き直り
「二人とも、ありがとう!」
その姿はまるで父親のようだ・・・
深田と広海は多分同じ事を考えてるな、
とお互いの心中を察して目で言葉を交わして微笑んでいた。

深田たちが仕事に戻った後も暫く会食は続いたが
流石に3時を過ぎると相田夫婦も会長夫婦も予定が入っていると
名残惜しそうな顔をして帰って行った。

「この荷物・・・」紫苑が困ったような顔で紫龍を見た。
相田夫妻からの贈り物であるスーツが入っているだろう箱が5箱もある。
それ以外にネクタイやワイシャツも山ほどあった。
紫苑には判らないだろうが、その総額は100万を超えているだろうと
思いながら紫龍も溜息を吐いた。
「彩子さん凄い張り切りようだな・・」
「・・はい、こんなにしてもらって僕は本当に幸せ者です」
紫苑は10歳で亡くなった彩子の息子を思うと切なくなった。

「紫苑・・」紫龍の手が優しく肩に置かれた。
何も言わずともお互いの気持ちが判る二人だった。
「紫龍・・・」肩に置かれた手をそっと握った。

「あー!折角の所お邪魔しますが?この荷物は社長の車に運べば宜しいんですか?」
こんな所で熱い視線を絡ませ合ってもらったら
困ると言わんばかりに浅田が声を掛けてきた。
「あ、すみません・・僕運びます」
そう言って立ち上がった紫苑に向かって浅田は
「誰かに運ばせますから、堂本君はいいですよ」
ここへは相田夫妻の運転手が二度ほど行き来して運び入れた。

流石秘書室長という立場か紫苑を「堂本君」と呼ぶ切り替えは早かった。
「いえ自分で運びますから、今日は時間もありますし」
自分で頂いた物を他の人に運んでもらうのは申し訳ない。
「社長車の鍵貸して下さい」
堂本君と呼ばれた事で紫苑の頭もここが会社だと切り替えが出来た。

そんな紫苑に頼もしいような寂しいような思いで車の鍵を渡した。
「社長は仕事が待ってます、ここの片付けは堂本君にお願いして構いませんか?」
「はい勿論です!」
「じゃ紫苑、夕方には俺も終わるから、ゆっくり片付けろ」
そう言い残して紫苑の部屋を出て、自分の机に座りながら

「浅田、お前ちょっと紫苑に厳しくないか?」
「社長が甘過ぎるんです」
きっぱりと言い返され反論できない紫龍だった。
浅田は紫苑を自分の後釜となる立派な秘書に育て上げたかった。
社会人としての自覚を持って欲しかった。
だがその自覚は紫苑本人よりも、この堂本紫龍という男に持たせるべきたとも思っていた。


そして3ヶ月の研修が終わる頃には、
その浅田の思惑も、紫龍の楽しみも全部泡となって消える事態が起きたのだった。





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研修期間が終わった6月の末日。
明日正式な人事が発表される。
人事部はここ1週間残業しながら配属先を決める仕事に追われた。
研修終了1週間前には、新入社員が希望の配属先を書いた書類を提出する。
そして各部署からの指名と照らし合わせ、なるべく希望に沿うように配置するのだが
これがなかなか一致しないのが毎年の悩みの種だった。

やはり地味な部署は人気が無く、そこに配属する為に新人をある程度納得させなければならないのも人事の大きな仕事だった。
やはり1番人気は営業1課だった。
営業部は大きく3つに分かれている。

新規開拓が主な営業1課と、取引がある会社の更なる開拓とフォローの2課。
そして深田などが居る営業1課と2課を取りまとめ、
そして営業成績の悪い下請けや系列会社のフォローに当たる
権限の大きな統括課に分かれている。

営業1課は実際キツイ職場だったが、やり甲斐もある上に
出世しやすい部署でもあった。
ここで力を認めて貰えれば一気に統括に上がれる。
だから自分に自信があり、やる気のある者は1課を希望する者が多い。

問題は地味な部署だった。
新人を入れる事はあまり無く、そういう専門の知識を持った2年目3年目
で初めて経験するような部署でもあった。
だが今年は珍しい事に総務部でも新人を1名希望していた。

7月からの配属先が記載された書類が秘書課に届けられた。
これは秘書課にというよりも、社長の堂本宛の書類であった。
いくら社長とはいえ人事不介入は決まりきった事だった。
だが一足先にその結果を見せる事は例年通りの事だ。

にこにこして開封する紫龍の前に浅田が立って様子を伺っていた。
その紫龍の顔がだんだんと険しいものに変わり、浅田が声を掛ける頃には
その怒りはマックスに到達していた。

「これはどういう事だ!」怒りを抑えた声で紫龍がその書類を投げ出した。
「失礼しますよ」そう言って浅田がその書類に目を通すと、
秘書課への配属は『斉藤麗華』と書かれている。
「これはどういう事ですか?」紫龍と同じ言葉が飛び出した。

「俺が聞いてるんだが?」
「・・・堂本君がここを希望しなかったって事ですか?」
「まさか!」絶対そんな事は無いと紫龍は思った。
「確認したのですか?希望を出す時に?」
「そんなの確認しなくても・・・・」
「しなかったんですね?」

黙った紫龍に向かって「で、堂本君は何処へ決まったのですか?」
「あっ!」それを確認する前に怒り沸騰した紫龍に
「全く・・・」呆れた顔で浅田がその先を見ている。

「総務部・・・福利厚生課、堂本紫苑」
「はあ?福利厚生?!」
紫龍の呆れたような驚きの声にその紙面を差し出して見せた。

「沖田清春・・・」忌々しそうに紫龍が呟いた。

この沖田という男は紫龍と浅田の同期でちょっと変わり者だった
『精神保健福祉士』という国家資格を持ってる。
だがこの会社に入社して最初の配属は紫龍と同じ営業1課だった。
入社2年目の頃から営業成績を競い合っていた。

紫龍には堂本という名前があった・・・
その名前を利用した事は無かったが、相手が影響されない筈が無いとも思っていた。
だから紫龍も必死に頑張ったが、必ず自分の後に沖田が居たのだ。
それも涼しい顔で・・・
成績では勝っていたが、本当の意味で勝ったような気がしていなかった。

そして入社4年目くらいに沖田は統括からの誘いを断って
総務部に配属を希望して今に至っている。
総務部部長代理と福利厚生課課長の兼任だった。
沖田の年齢を考えるとかなりの出世組だ。

沖田のスキルは今の部署は多少勿体無い気はするがピッタリでもあった。
だがそれが今回の人事とは関係ない。
どうして紫苑が沖田の下に付かなければならないのか、全く理解出来なかった。

「うちも堂本君を指名しました、でも堂本君が総務に配属されたって事は?」
「紫苑が総務を希望したから・・・か?」
そういう仕組みになっている。
そういう風に変えたのは社長になった当時の堂本本人だった。

紫龍は机の上で頭を抱え込んだ。
「信じられない・・・」
せっかく紫苑と一緒に仕事が出来ると・・・
公私混同していたのは紫龍本人だったわけだ。

「まあ決まった事ですから仕方ないでしょう、2・3年は諦めて下さい」
浅田の切り替えはいつの時でも早かった。
「部屋に帰ってもあまり堂本君を苛めないで下さいよ」
浅田に念を押され余計に不機嫌になる紫龍だった。

腕時計を見て時間を確認すると、それをしっかり浅田にチェックされ
「あと2時間は帰れませんから、早く帰りたかったら頑張って下さい」
「はぁ・・・本当にお前は冷たいなぁ」溜息混じりに言うと
「仕事は仕事ですから」
実際浅田も今回の人事には紫龍と違う意味ショックを覚えていた。

堂本という人間は仕事も出来、経営者としてのセンスも抜群だと思う。
紫苑が傍にいる事でより一層安定し落ち着いた仕事をしてくれると目論んでいた。
勿論紫苑自身にも魅力はある、彼の記憶力は抜群だ。
社長のスケジュールも1週間分なら分刻みで記憶できる。
大雑把な予定なら1ヶ月分は大丈夫だ。

そして何よりもあの癒しの力は最高だ・・・
『福利厚生課か・・・ぴったりかもしれないな・・・』
流石にこれは社長の前では言葉にするのは止めた。




あぁ・・・部屋に帰ったら大変な事になりそうですね・・・


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「ただいま・・・」
その声は幾分元気が無かった。
「お帰りなさい!」それに引き換え迎える紫苑の明るくて元気な事・・・
小さく溜息を吐いた紫龍に向かって元気が無いけどどうしたのか?と聞くが
「別に・・」返って来た返事は実に大人気ないものだった。

「食事は?」
「食欲無い」
「お風呂は?」
「後でいい」

「そうですか、じゃ僕は食事させてもらいますね」
そう言うと紫苑はさっさとキッチンに消えて行った。
今口を開くともっと大人気ない言葉を吐きそうで紫龍は口を噤んだ。
キッチンから何かを揚げる音が聞こえてくる。
食欲無いと言った手前顔を覗かせるのも躊躇われた。

暫くした後「頂きます」という紫苑の声が聞こえる。
リビングのソファに一人ふんぞり返っていても落ち着かなくて
紫龍はとうとうダイニングに顔を出した。
揚げ物の正体が判って、ごくっと唾を飲み込んだ。
それなのに紫苑はそんな事はお構いなしに美味しそうに天ぷらを口に運んでいた。

何も言わない紫龍に向かって
「今日は帰りにママさんの所に寄って、採れたての夏野菜を分けてもらって来たんです」
と言いながら、美味しそうに茄子の天ぷらを食べていた。
「ふ・・ん」
気の無い素振りで冷蔵庫からビールを取り出してプルトップを開けた。

「沢山揚げてしまったんだ・・・深田さん達に御裾分けしてこようかな?」
元々紫苑が住んでいた部屋には店子として深田と広海が住んでいたのだった。
「・・・俺が喰うから」
深田なんかに食べさせてなるものか・・・なんて言葉には出せない紫龍だったが
「はい、これ・・熱いから気をつけて下さいよ」
そう言いながら大根おろしと生姜の入った天ツユの小鉢を紫龍の前に置いてくれた。

紫苑の料理を目の前にすると意地も何処かに飛んで行ってしまった。
「美味い!」自然と出た言葉に紫苑が嬉しそうな顔を見せてくれた。
紫苑はそっと立ち上がり、紫龍の飲みかけの缶ビールをグラスに移している。

「ねぇ紫龍・・・僕はDOMOTOって会社がとても好きだよ。
だから一種の受験も止めて紫龍の会社に入ろうと思った。
僕に秘書の仕事はまだ早いと思う。
それよりも会社の事をもっと知りたい、いきなり上からじゃなくて
もっと社員に近い所から始めたいんだよ」

優しく諭すように言われるが紫龍がそれだけで納得した訳じゃない。
「それが福利厚生課か?」
「そうだよ、せっかく取った資格も生かしたいし・・」
「資格?」何の資格を生かそうと言うのか?
そもそも何かの資格を取ったなどとは聞いてはいなかった。

「メンタルケア心理士って資格を取ったんだよ」
「メンタルケア心理士?」
「紫龍だって企業のトップの人なら知ってるでしょう?
これからの企業はこういう事にもっと力を入れなくてはならない事を・・」
「それはそうだが・・・」
「僕は企業戦士の心をケアする仕事でこの会社に貢献したい・・・」

紫龍は紫苑が密かにそういう資格を取っていた事もショックだが
側面から会社の事を考えている紫苑にも感動もした・・・だけど
もう自分の助けなど要らないんじゃないか?
それくらい大人になった紫苑を少し寂しく思った。

「DOMOTOの社長としては凄く嬉しい・・・」
「紫龍としたら寂しい?」
「ああ・・・」紫苑の問いかけに素直に頷いた。
そっと立ち上がった紫苑が紫龍の椅子の後ろに回り椅子ごと紫龍を後ろから抱き締めた。

「紫龍・・勝手な事してごめんね、本当は凄く怒られるんじゃないかと思ってた」
紫苑にそんな体勢で抱き締められるとは思ってもいなかったし、初めてだった。
「紫龍ありがとう・・・」そう言った後に小さな声で
「だから・・早く食事を済ませて・・・今日はいっぱいシテ」
紫苑の囁きに掴んだ茄子を落としそうなくらい驚いた。

『あぁこんなに誘い上手になって・・・余計に心配だ・・・』

「僕・・先にお風呂入ってくるね」

逃げ出すようにダイニングから出て行く紫苑の首筋が赤く染まっていたのは見逃さなかった。
自分からあんな事を言うなんて、紫苑にとっては本当は凄い勇気が必要だったらしい。
『神様・・今夜は獣になってもいいですか?』


それから40分後の寝室で紫苑が紫龍の上にさせられ必死に抗っていた。
「駄目ッ出来ない・・・」
「駄目だ、今夜は許さないから」
明日からの事を考えると紫龍の言う事を素直に聞いた方がいいのは判っているが
「あん・・・紫龍お願い・・降ろして」
泣きそうな顔で何度懇願しても降ろして貰えない紫苑は心を決めた。

紫龍の熱い杭に手を添え、そっと自分の解された蕾に当てがった。
「紫苑、ゆっくり腰を落としてごらん」
言われるがままに、ゆっくりと腰を沈める。
「あぁっ!」
何度も自分を貫いたそれは、位置が変わるだけで違うモノのように感じられた。
「紫龍・・・怖い」
「大丈夫だ、ゆっくり来てごらん」

「やあっ」紫苑の悲鳴のような喘ぎ声と共に頭の部分が紫苑の体の中に挿いった。
「ほら、後はゆっくり体重掛けて」
もう何度も体を繋げているのに、初めての相手に教えているようだった。
半分ほど飲み込んだ時点で紫苑が大きく息を吐き、そして紫龍を見つめた。
下から見上げながら紫龍は「愛してるよ」と囁く。

少しだけまだ強張った顔で「僕も愛してる・・」と紫苑が言葉を返す。
その顔を見て紫苑の中のモノが一回り嵩を増した。
「だめぇ・・・」そう言いながらも紫龍のモノを咥え込んで離さない。
少しだけ大人になった紫苑の夜は結局紫苑が意識を手放す事で終息を迎えたのであった。





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紫苑はいつものように朝6時前に目が覚めた。
そっとベッドを抜け出す。
「う・・・」床に足を着いた時に体の奥に鈍い痛みを感じた。
昨夜は自分から誘い、そして無理矢理上にさせられた・・・
だけど最終的に快楽の海に沈んだのは自分だった。

眠る紫龍の顔を眺め『僕がどんなに貴方を愛してるか知ってる?』と心で問うた。
毎朝先に起きるのは紫苑だ、そして毎朝紫龍の寝顔を眺める。
幸せな顔で眠る紫龍を見る事が紫苑の1日の始まりだった。

そんな紫龍が目覚める頃にはすっかり朝食の支度が整い
紫苑はワイシャツにネクタイを締めた姿だった。
ここ3ヶ月、毎朝見る紫苑のネクタイ姿
見慣れても見飽きる事は無かった。
紫苑の笑顔で迎えられる朝を紫龍はいつも幸せに感じる。
『俺がどんなに紫苑を愛してるか知ってるか?』

「おはよう」
「おはようございます」
「体・・大丈夫か?」
すっかり獣になった昨夜を思い出す。
「大丈夫です」はにかむ姿に紫龍の中の獣が目を覚まさないように抑えた。

「いよいよ今日からだな」
「はい!」満面の笑顔に紫龍も苦笑しながら
「頑張ってくれよ」と声を掛けた。

毎朝紫龍の車で通勤する。
最初は拒んだ紫苑だったが、朝の満員電車に紫苑を乗せる訳に行かないと
これだけは紫龍は譲らなかった。
結局会社の手前歩いて5分程の所で紫苑を降ろす。
3分程の所に地下鉄の出口があるから、そこで多くの社員と合流するような形になる。
本当はそのまま地下の駐車場に入ってしまえば誰にも気付かれる事は無いのに、そこは紫龍が折れた。

3階の会議室に配属先を記した一覧表が貼り出される予定だった。
その後配属先で正式な辞令を受け取る事になっている。
希望の部署に入れた者、入れなかった者たちが一覧表の前でざわついていた。
紫苑はちらっとそれを見ただけで、小さく頷き満足の行く顔をした。

他の新人も紫苑のそんな動きを見て、一覧に紫苑の名前を探す。
トップの成績で新入社員代表の挨拶も上手にこなし、更に一流国立大を出た紫苑の配属先が皆気になったようだった。

「福利厚生課!?」数人が口々に驚いた声を上げていた。
「何かの間違い?」とまで言い出す奴もいる。
でも当の紫苑はそんな視線も笑顔で跳ね返している。

「おっ、紫苑どうだった?」
紫苑の背後から深田の声がする。
つい先日まで『櫻井』と呼んでいた深田も流石エリート切り替えは早かった。
でも流石に『堂本』と呼び捨てするのには抵抗があったらしい。

「はい、希望の所に決まりました!」
「そうか、勿論秘書課?」紫苑が社長から離れるとは思わなかった。
「いえ、福利厚生課です」
「ふ・福利厚生?」
「深田さん、声が大きいです」紫苑が周りを気にして深田をたしなめる。
「ごめん・・・あんまり意外だったから」
そう言うと深田は声を潜めて紫苑の耳元で囁くように聞いた。

「社長知ってるのか?」紫苑が小さく頷いたが
「大丈夫だったのか?」と心配そうな顔で聞いてきた。
「は・はい・・・」深田の視線の先にある紫苑の耳が染まった事が
大丈夫になった事を物語っているようだった。
「そっか、頑張れよ、あそこの沖田部長代理凄い良い人だから」
ぽんと紫苑の肩を叩いて、じゃ又と行って深田が仕事に戻って行った。

紫苑も3階の奥の方にある総務部に向かった。
「おはようございます!本日からこちらに配属になりました堂本紫苑です」
そう頭を下げて、顔を上げ見回すと席に座っていた数名が立ち上がって紫苑を迎えてくれた。
「この課に新入社員なんて何年振りかしら?」
迎えてくれた女性社員は30代くらいの女性3名ともう少し上らしい女性、
それに20代だろうと思われる女性・・・

5人の先輩女性社員に囲まれて紫苑は質問攻めにあった。
「新入社員代表だって?」
「東大だって?」
「社長の親戚だって?」
「どうして総務部へ?」
などと答える前にドンドン質問され紫苑は女性パワーに圧倒されていた。

そうだ、ここでは堂本紫苑は社長の遠縁という事になっていたのだ。
会長の養子で、社長の恋人だとは絶対知られてはならなかった。
人事部長だけが、手続きの都合上、会長の養子だという事だけは知っていた。

「堂本って事は会長の方の親戚なのね?」
そう聞かれ「はい・・遠縁ですが・・」と言葉を濁した。
「社長のお宅に居候してるんですって?」
女性社員の好奇心と情報の多さに驚きながらも「ええ」と曖昧な笑みを浮かべた。
「すてきー!社長ってお宅でもあんなに格好良いの?」

そうだ、世の中の女性は本当の紫龍を知らない・・・
見た目も地位もある紫龍に興味を持たないはずは無かった。
そう思うとキュンと心臓が痛くなった。

紫苑が紫龍との養子縁組を望まなかった理由はそこにもあった。
『もし紫龍が将来誰かと結婚したいと思ったら・・・』
その時背後から「はーい、親睦会は後日やるからね」
と元気な声が聞こえた。
「あ、部長代理!おはようございます」一斉に皆が振り返り頭を下げる。
「はい、おはよう今朝も元気そうですね?」

紫苑はその声の主を振り返って息を呑んだ。






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