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「千尋にもしもの事があったら・・・判ってるだろうな仁?」
『ヒィーッ!こえ~』
今朝9時に仁がこの部屋に来た時に出かける千尋とすれ違った。
「あれ、何処に行かれるんですか?買い物なら俺が」そういう仁に
「大丈夫直ぐだから、仁君は光輝の朝食の支度お願い」
そう軽く言って出かけた千尋はもう1時間以上も戻って来ない。
朝10時に起こせと言われていた仁は素直にその言葉を守ったのだ。

『千尋さーん、早く帰って来て下さいよ~』
仁は光輝の射抜くような視線を避けながら必死に祈るだけだった。
部屋の中をどしどしと熊のように歩き回る若頭の逆鱗に触れないように小さくなりながらも、
やはり仁も千尋の事が心配だった。

「本当に何処に行ったか判らないのかっ!?」
「はいっ判りません!!」光輝の声に自然と背筋がピンと伸び直立不動のまま答える。
「ったく・・・」
「携帯を鳴らせっ!」
「若頭だから、さっきから言ってるじゃないですか・・・携帯はソファの上に置きっぱなしだったって・・・・」
「煩い!判ってる!」
『ヒィーーッ!』朝から生きた心地のしない仁と、仁に当り散らしている光輝のせいで部屋の中の空気がピリピリと張り詰めていた。



その頃・・・・・

「クリスマスなのに墓参りですか・・・お若いのに感心だ」
墓前に手を合わせる千尋の背後から住職の声が掛かった。
「あ、おはようございます・・・今日は伯父の誕生日なんです」
「ほう、あの男らしからぬ誕生日ですなぁ」
住職はおかしそうに声を上げて笑っている。

「あの、伯父をご存知なのですか?」
「少しですがね・・・後でゆっくり話してあげましょう、墓参りが済んだら私の所にお出でなさい」
千尋にそう声を掛け、そして雅の墓よりも2列前でやはり墓参りをしている中年の婦人にも同じように声を掛けてから住職は寺の方に戻って行った。

千尋は斉藤の墓は千葉にあるのに、どうしてこの神奈川の墓を雅が生前に買っていたか、その訳を知りたかった。機会があれば住職に尋ねようと思っていたのだ。
千尋は墓の掃除をすると、カップの日本酒の蓋を開け置き、そしてその横に雅の大好きだったキンツバを置いた。
『伯父さん・・53歳の誕生日おめでとう・・・
今日は報告があって来たんだけど、住職さんと話をしてからにするね』
千尋は心の中でそう呟いて雅の面影を思い出し偲んでいた。

少しして千尋が住職の元に行くと、先にさっきのご婦人が住職の隣に腰を下ろしていた。
「さあ熱いお茶で温まりなさい」
「ありがとうございます」千尋は一礼して住職の隣に座った。
暫くは3人黙って熱いお茶をすすって静かに墓の方を眺めていた。

「あの男はなぁ・・」突然住職が口を開いた。
「もう5年ほど前だ、いきなり訪ねてきて檀家でもないのに此処に墓を建ててくれと言いよった。」
思い出しても可笑しいのだろうか、住職は過去を思い出し目を細めている。
「斉藤の墓は千葉にあるんです、僕の両親もそこで眠っています・・・
だから伯父がどうしてこの地を選んだのかが不思議でした」

「面白い奴じゃった・・・此処に墓を建ててくれなきゃ死んだら化けて出ると言いよった」
「そんな・・・そんな失礼な事を・・・申し訳ございません」
雅の非礼さを甥の千尋が代わりに詫びた。
「いやいや、面白い奴だ、あの真っ直ぐな目にわしも心が動かされた。
雅なんて奥ゆかしい名前なんぞ付けられて正反対じゃ」
そう言うとまた住職は声を上げて笑った。
だいぶ伯父の事を気に入っていたらしい事がその言葉から感じられる。

千尋の反対側で茶を飲んでいた婦人の様子がおかしいのに住職が気付き。
「どうされました?具合でも悪くなりましたか?」と声を掛けた。
「い・・いえ・・・すみません他人様の話を黙って聞かせてもらっていました・・・」
その語尾が震えているのに千尋も気付いた。
何か気に触る事でも言ってしまったのだろうか?と心配になり
「申し訳ありません、勝手に騒いでしまって、お気を悪くされたのでは?」と声を掛けた。

「あの・・・」その婦人は思いつめた顔で千尋に声を掛けた。
「あの、失礼ですが・・あなたの伯父様という方は・・斉藤雅さんとおっしゃるのですか?」
住職との会話に苗字も名前も出てきているから、その婦人は雅の名前を知ったのだろう。
「はい、斉藤雅といいます」

「お幾つで亡くなられたのですか?」
「52歳です、今日が53歳の誕生日なんです」
「間違っていたらすみません・・・もしかして彫物を・・・?」
「伯父をご存知なのですか?」
今度は千尋が驚く番だった。
だけど千尋の問いに婦人は答えることが出来なかった。
ただただ溢れる涙を抑えるのが必死な様子だった。

「雅さん・・・優希っ・・」その名前を繰り返しながらその婦人は嗚咽を洩らした。
千尋も住職もその婦人が泣き疲れるまで辛抱強く口を噤んだまま待った。
そしてその婦人は開口一番「雅さんのお墓に参らせて下さい」と言う。
まだ何か判らない事ばかりだが、千尋は雅の墓に案内した。
すると「あぁ優希がよく見える・・・」そう言うとまた涙を零す。

「あの、優希さんというのは?」千尋がそっと尋ねる。
「私の弟です、今から17年前35歳の若さで交通事故で亡くなりました」
「35歳でですか・・・・」まだ人生真っ只中の死に千尋も言葉を続けられなかった。
こいう時に何と言うべきなのか、何と言っていいのか千尋にはよく判らなかった。

「雅さんは通夜の夜遅くに優希と別れをして下さいました。」
優希の両親が一時帰宅した時に1時間ほど二人っきりで別れを済ませたと婦人は言った。
「私の両親は自分の息子に・・ヤクザでもない真っ当な生活を送っている息子の体に
刺青を彫った雅さんを許さなかったんです」
「刺青!」千尋は悲鳴のような声を上げた口を両手で押さえた。

「・・・もしかして観音菩薩?」
「どうしてそれを?・・・あぁ雅さんに聞いたのね?」
「いえ、伯父は何も話してくれませんでしたが、どんなに頼まれても観音菩薩だけは彫らなかったんです。」
死の宣告を受けてから千尋の体に彫った事は言う必要はないだろうと千尋はそれ以上は話す事はしなかった。

「優希が死んで、雅さんも新しい人生を送っているのかと思ってた・・・」
だから自分が雅に会いに行くのも優希を思い出させるようで躊躇っていたのだった。
「伯父がこの場所を選んだのは優希さんが眠る場所だったからですね」
ずっと謎だった事がようやく千尋にも判った。

そして伯父がここで一人で眠っている訳じゃない事にも安堵した。
その婦人は伯父の墓の前で長い間手を合わせていたが、
立ち上がると何だか晴れ晴れとした表情で
「ありがとう、優希の骨を拾わせてあげれなかった事がずっと心に重くのしかかっていたの・・・」
そして眠る雅に向かって「雅さん、優希をよろしくお願いします」と深く頭を下げて帰って行った。

千尋も何だかすっきりした気分だった。
そしてもう一度雅の墓の前で手を合わす。今なら遠慮せずに報告できそうな気がした。
その時背後から人の気配と共によく知る声が聞こえて来た。
「雅さん、あんたに話がある」千尋は振り向きもせずに、その声に耳を傾けた。
「千尋はこの墓には入らない、悪いが一人で眠ってくれ」
それを聞くと千尋はそっと振り返り「光輝、こっち来て」と光輝の前に立って案内した。

「この墓は?」
「この人がもう一人の観音菩薩を背負っている人だよ」と千尋は優希を紹介した。
それだけで光輝には全てが判ったような気がした。
雅の墓が此処にある訳と、そして今まで謎だった先の観音菩薩の刺青・・・
「そうか、じゃ千尋が此処に入らなくても問題ないな」
という光輝に千尋が呆れた視線を投げ「どっちにしろ、僕の両親の墓は千葉だから」と言った。
「え?あ・・・」考えてみれば千尋の両親の墓は別にある・・・
ちっと小さく舌打ちした光輝は「どっちにしろお前は斉藤の墓には入らないんだから」
と負け惜しみのように言い放った。


「あれ?それよりどうして此処にいることが判ったの?」
考えてみたらここに光輝がいるのが不思議だった。
「ああ、キンツバが無くなってるって仁が騒いだから気付いた」
「そう・・・迎えに来てくれたの?ありがとう」
そう言って微笑む千尋の顔はこの場所に似つかわしくない程の色香を放っていた。

勝手に出かけた事を叱るつもりだった光輝はそのきっかけを失ってしまった。
最後に住職に挨拶をして墓地を後にした。
入り口には光輝の黒塗りの車が停めてある。

「仁待たせたな」機嫌のいい光輝に仁も安心したように
「若頭、千尋さん、お疲れ様です」と頭を下げて後部座席のドアを開けた。
「仁君・・顔色悪いよ」何も知らない千尋がそう言うと
「俺死ぬかと思いましたよ、あんなスピードで飛ばすから、もう生きた心地はしませんでした」
余程光輝が乱暴な運転をしてここまで来たらしい。
「ダメだよ光輝・・交通事故で亡くなる人だって沢山いるんだから・・」
35歳の若さで事故死した雅の恋人を思うと胸が苦しい。

そして千尋と光輝を乗せたベンツは安全運転でマンションに向けて走り出した。

「千尋・・」後部座席で千尋を引き寄せ顔を近づける光輝に向かって
「仁君いるのに・・」と運転席の仁を気にして腕を突っ張る。
「仁、後ろ見たら命は無いと思え」
『ひぇ~朝から3度目の命の危険・・・』ハンドルを握る手にも思わず力が入ってしまう。
「全くもう・・・仁君冗談だから気にしないでね」
千尋は光輝の言葉に呆れながら、ハンドルを握る仁にそう言って声を掛けた。


「大人しくしてないと、クリスマスプレゼントあげないよ」
耳元で妖しく囁く千尋の言葉は鉛の玉のように光輝の動きを止めた。





4000文字弱です・・・読みやすい長さだと思います。
昨日のはちょっと長すぎたみたいですネ。

え・・っと一応読切なんですが・・・^^;
駄目ですかねぇ?

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「あの・・千尋さんバレンタインのチョコ買わないんですか?」
仁は今日何気なく千尋を食材の買出しに誘った目的を口にした。
「えっ?何で僕がチョコ?仁君チョコ食べたいの?」
「いや・・俺が食いたいというよりも・・・えっと・・」

仁は自分の予感が当たってしまって、内心溜息を吐いた。
雅という浮世離れした男に育てられた千尋が、バレンタインなどという行事を意識しているとは全く思っていなかったが、これだけは予感が外れて欲しかった。

毎年色々な付き合いで大量のチョコを貰っている光輝が今年は
「余計な気は使わないでいい」と事前に釘を刺している様子だった。
この世界で『気を使わなくていい』という事は、『やめろ』というようなものだ。
これで仕事絡みの水商売などのチョコレートが届く事は無いだろう。
そうなると、義理で貰うチョコなど一つも無い事を仁は知っていた。

「千尋さん・・あの・・若頭にチョコとかあげないんですか?」
ここで千尋が考え直してくれれば仁の心配は無くなるのだが・・・
「僕、女子じゃないから」少しむっとした感じで千尋に言われ仁は内心頭を抱えてしまった。
「若頭は千尋さんからチョコ貰いたいんじゃないのかなぁ・・・」
「まさか?」取り付く島がないとはこのことだ・・・

「俺、チョコレートか・買おうっかなぁ~?」
仁はわざとらしく、チョコ売り場に行って綺麗に包装された箱を手にした。
「誰にあげるの?」ちょっと千尋が興味を持ったのかそう聞いてきた。
「虎太郎兄貴に・・・ちょ・ちょっと世話になったし・・」
あの日の事を思い出し仁の頬に朱が走った。

そしてあの日以来頻繁にちょっかい出されて、何度か世話になってしまった事があった。
それ以上の関係に進むような事は無いが、仁の心の中に兄貴として慕うだけではない部分がある事に戸惑いも感じていた。
だが、構成員にもなれない自分が虎太郎に何かを感じているなどとは言えない。
だけど日頃の礼にチョコを渡すくらいなら許されるだろう・・・

「そう・・・」千尋は少しだけ興味を持ったように仁と一緒にチョコの箱を手にしている。
「喜ぶのかな?・・・・」
「喜ぶに決まってるじゃないですかっ!」仁は千尋の変化に心の中で拳を握った。
「別にチョコくらいあげてもいいけど・・・」その言葉に仁も安心してほっとした顔になった。

「仁君はどのチョコ?」
「俺は・・これにします」ブルーのリボンが掛けられた1000円程度のチョコだった。
「ふーん。じゃ僕も同じでいいや」
「いや、同じは拙いでしょう?立場ってもんがありますし・・・」
「そう?じゃこれでいいや」今度は仁が手にしたのよりも少し値段の高い物を手にしたので仁は本当に安心して、千尋の気が変わらないうちにと、レジに急いだ。

別に光輝に何か頼まれた訳ではないが、千尋からチョコを貰えなかったら絶対仁にシワ寄せが来るのは必須。
何よりも光輝が貰えないのに、仁が虎太郎に渡す訳にも行かなかったのだ。
千尋がチョコを買った事に安心しながら、仁は帰りを急いだ。
あまり長く外に千尋を連れ出している事がバレたら自分が怒られてしまう。

マンションに着き、食材を冷蔵庫にしまいながら、夕飯の準備を始めた仁に
「僕も料理覚えようかな?」と千尋が声を掛けてきた。
千尋とて雅と二人暮しだったから、料理が全く出来ない事は無かったが、質素な生活だった。
光輝の望むような料理は作った事がない。
「時間はたっぷりあるし・・・」そう言うと千尋は寂しそうな顔をした。

この春大学を卒業する千尋は就職していなかったのだ。
千尋は一生懸命に仕事を探していたが、全部光輝にダメ出しをくらい挙句の果てには就職試験に行かせてもらえなかったりして何の職も決まっていない。
「就職なんかしなくていい」
の一点張りで未だに何の進展もしていない事に千尋は内心酷く落ち込んでいたのだった。

「仁君・・・僕はこのままずっと籠の鳥なのかなぁ・・・」
ダイニングの椅子を跨いで逆向きに座っている千尋が背凭れに顎を乗せながら聞いてきた。
「若頭まだ就職認めてくれないんですか?」
「うん・・その必要は無いって・・・」
「若頭は外に千尋さんを出して危険な事にでも巻き込まれたらと心配なんですよ」
「僕は子供じゃないし・・でも僕には何の力も無い・・・男なのに情けないなぁ」

仁には千尋のその気持ちがよく判っていた。
自分も、構成員にもしてもらえず、使いっ走りの中途半端な立場だ。
極道には向いてないという周りの言葉も有難いが、やはり自分の進む道が見えなくて辛いものがあった。

「仁君は夢ある?」
「お・俺は・・・やっぱり若頭や虎太郎さんの手助けになることを何かやりたいです」
「そう、偉いね仁君は・・」
「千尋さんの夢は?」
「僕?僕の夢は・・将来光輝と同じ墓に入る事だよ・・・
だから光輝の傍にずっといたい・・だから仁君と同じかな?
何か光輝の役にたつ事を探したい・・」
「千尋さん・・・」仁は千尋の言葉にひとり感動しているようだった。

「俺ら結局同じ思いですね」立場は違うが、行く着く所は一緒だ。
「僕もまだこの環境に慣れたわけじゃないけど、じっくりとその何かを探すよ」
「千尋さん・・その気持ちだけで若頭は喜んでくれますよ」
「ありがとう、仁君に愚痴ったら少しすっきりしたよ」
そう言って千尋は優しい目で仁を見た。
「千尋さん・・・俺も嬉しいです・・」
仁も千尋を『やっぱり綺麗だなぁ・・』と内心思いながらその笑顔に見惚れてしまっていた。

「お前らっ!そこで何見詰め合ってる!?」

『ひぇーっ!』
何時の間に帰って来たのか、ダイニングの入り口に光輝が仁王立ちしていた。
「お・お・お・お疲れ様ですっ!」
怯えながら仁は深く頭を下げ、顔を上げられずにいると
「あぁお帰り・・・ふふふっ僕と仁君の将来について話してたんだよ」
『あぁぁ千尋さん・・・』もう膝に額が着くほど仁の体が折れ曲がっている。
千尋が鈍いのか、それとも光輝の怒りなど何でも無い事なのか仁には理解できなかった。

「あっ!光輝、これあげる」
そう言うと千尋は買って来たばかりのチョコを光輝に差し出した。
「えっ?俺にか?」
「勿論、僕がチョコあげたい人は光輝以外にいないでしょ?」
「千尋・・・」たった一言で光輝の怒りを鎮めてしまう千尋をやっぱり凄いと仁は頭を下げたまま感心していた。

「それは?」テーブルに置かれたもう一つのチョコに気付き光輝が聞いてきた。
「あぁそれは仁君が虎太郎さんにあげるんだって」
「虎太郎に?へぇ・・・おい仁!今虎のやつは会社に居るから、さっさと持って行って来い」
「は・はいっ!!」
やっと開放された仁はそのチョコを掴むと、逃げるように部屋を飛び出した。

「へぇ、仁君そんなに虎太郎さんに会いたかったんだぁ・・」
仁の行動をそういうふうに受け取った千尋が呟いた。
「千尋・・あいつらの事は放っておけ、それより・・」
そう言うと光輝は千尋を抱き寄せ、唇を近づけたきた。
「もう、まだ昼間だよ・・・」
そう抵抗する唇は直ぐに塞がれてしまい、千尋も諦めたように体を預けた。

だが光輝に体を弄られ「まだ仕事終わってないんでしょう?夜まで我慢して・・」
と言って腕を突っ張り光輝の体から離れた。
「くそっ、じゃ夜まで待ったらもっと良い事あるのか?」
「うーん?バレンタインだから・・・光輝の好きにしていいよ」
「縛っても?」
「・・いいよ」
「玩具は?」
「・・いいよ」
「嘘吐け・・お前はいいって言う割には今までやらせてくれた事がない」

「以前に喫茶店で若い男と会ってた時も、クリスマスの時も『縛っていいよ』と
俺をそそのかしたくせに、いざとなったら・・・」
「それは光輝が我慢が足りないからでしょ?」
実際光輝は余計な物を使う前に、早く千尋と繋がりたくて機会を逃してしまっていた。

「言ったな?よし今夜は覚悟しておけよ」
そう宣言すると、光輝は嬉しそうな顔を近づけ千尋の唇に軽く触れると、名残惜しそうに
「8時には戻るから」と言って緩めたネクタイを締め直した。
「行ってらっしゃい」無事に帰って来てという言葉を千尋は呑み込み笑顔を見せた。

見送る度に『無事に・・』と願う千尋の心の中を光輝は知らない。
それでも一緒に生きて行く事を決めたのは千尋だ。
「光輝・・愛してるよ。行ってらっしゃい」
光輝の背中にもう一度声を掛けると、振り向かずに光輝は右手を上げ合図だけを送ってきた。
その顔を見なくても光輝が幸せそうな顔をしているのを千尋は知っていた・・・


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仁の運転で光輝と虎太郎が部屋を出て行った後、千尋は仁が戻って来るのを一人待っていた。
中々仕事に就く事を許してもらえない千尋は、毎日時間を持て余していた。
窓を開け春の暖かい空気と入れ替えようと、ベランダに立った。
遠くに救急車のサイレンが鳴り響いているが、この都心では聞かない日の方が少なく、千尋もその感覚が麻痺していた。

随分と近くでサイレンが鳴りやみ、千尋はベランダから外を眺めた。
目が眩む高さに、長くは覗いていられないが、小さく2台の車が見えた。
1台は点滅を続ける救急車、そしてもう1台は黒い乗用車だった。
だがその乗用車の角度に千尋は首を傾げた。道路での事故には見えない不自然な停車の仕方に胸騒ぎを覚えた。

(光輝……?)
黒い乗用車なら何処にでもある、と内心否定しながら千尋は部屋を飛び出した。
どう見てもあの角度は、このマンションの駐車場から出た角度だ。
千尋は部屋に鍵も掛けずに、エレベーターに乗り込んだ。
逸る気持ちで1階に到着したエレベーターから飛び出し、未だ救急車がいる現場に向かった。

そんな千尋の目に、さっきは気づかなかったトラックも見えた。
そしてその後ろにはっきりは見えないが、黒塗りの高級そうな乗用車が1台。
人混みを掻き分けるように覗き込もうとする千尋の耳に『うわっベンツ勿体ない』などと野次馬の声が飛び込んで来た。

「ちょっと、通して下さい」千尋がその野次馬の中に入ろうとした時に、後ろから声が掛けられた。
「君、斉藤千尋さん?」
「は……い」千尋は事故の様子も気になりながらも、呼ばれた方に振り返った。
事故の報告かと思い、もう足が小刻みに震えるのを止める事は出来なかった。

「あの……もしかして、あの車?」
「ちょっとこちらへ」
気が動転している千尋は全く警戒せずに、その男二人に着いて行った。
だがその二人はそれ以上何も語らず、千尋の腕を引いて駐車場へと歩き出した。
「ちょっと、何処へ?」
千尋は踏ん張ろうとするが、男二人の力に敵う筈もなく停車してあった車に押し込まれた。

そのスモークを貼った乗用車は、千尋を乗せると外の野次馬を、激しいクラクションで散らし走り出した。
ほんの1・2分の間の出来事だった。事故の様子に気を取られている野次馬や、通行人には誰一人気づかれる事なく、千尋の姿がマンションから消えた。


仁がマンションに戻って来たのは、それから2時間くらいしてからの事だった。
部屋に鍵が掛かっていない事を訝しく思いながら、仁は千尋の名前を呼んだ。
「千尋さーん?何処ですかぁ?」
部屋の中の様子は、朝仁が出かけた時と何ら変わりは無かった。
だが、ベランダに続く窓が開いていてレースのカーテンが、穏やかな風に靡いている事だけが変わっていた。

「ベランダですか?」
そう声を掛けながら覗いても千尋の姿は見当たらない。
自分のポケットから携帯を取り出し、千尋に掛けたがその着信音は寝室から聞こえて来た。
「何処に出掛けたんだ?」
そう声に出すが、その声が酷く不安な音となって自分の鼓膜に響く。

仁は急に落ち着かなくなって、今度は虎太郎の携帯に電話を掛けた。
『どうした?』
『いえ、あの……千尋さんが何処かに出掛けるって聞いているかな?って思って……』
電話口で虎太郎が光輝に確認している声が聞こえる。
仁みたいな下っ端は、本来なら虎太郎にだって直接電話を掛けられないのだが、部屋付のような形になっている今は、連絡を取り合うのは必須だった。

『どうした、千尋は部屋に居ないのか?』
急に別の声に変わり、仁は慌てながら「はい、何処にも姿が見えません」と報告した。
『携帯は?』徐々に声が低くドスの効いた声になるのに怯えながらも、仁は「携帯は寝室みたいです」と答える。
『今虎太郎をそっちに向かわせる』そう言って電話がぶつっと切れた。

「はぁ~っ」仁は携帯を片手に大きく溜め息を吐き、ソファに腰が抜けたように座り込んだ。
30分程して虎太郎が部屋を開けるまで、仁は一歩も動けずに座り込んだままだった。
「千尋さんは?」
「あぁ補佐……」仁は虎太郎の顔を見て、少し緊張の糸が解れたように「まだです」とだけ告げた。

そして、仁が部屋に戻った時の様子を虎太郎に説明して聞かせた。
「おかしいな」虎太郎のその言葉に仁は顔を強張らせた。
「どうしましょう?」心細そうに言う仁に「大丈夫だ」と根拠のない言葉を虎太郎も吐いていた。
調べたら財布もある。
携帯も財布も持たずに遠くに外出する筈も無い、それが二人を余計に不安にさせていた。
「ちょっと向かいに行って来る」虎太郎はそう言って、同じ階にある光輝の会社に向かった。
「あ、俺も」心細くて虎太郎に着いて行こうとする仁を「お前はここで待っていろ」と言い捨てて虎太郎は部屋を出て行った。
「そんなぁ、虎太郎さん」二人だけの時に呼ぶ名前を口にすると、何か少し落ち着いた気がして仁はまた腰を下ろした。


光輝がフロント企業として幾つかの会社を経営していた。
そして同じマンションにある会社は、従業員を一人しか置かないパソコンだらけの事務所だった。
そこで働いているのは、三浦要25歳。
3年前までは、オタクと言われた類の男だった。
自分の家に引きこもっていた三浦が、たまたま外に出た時の帰り道、他の組のチンピラに絡まれていた所を、光輝が助けた事で懐かれ、今に至っている訳だった。

パソコンがあれば何も要らない、と言う程のパソコンオタクの三浦には、充分過ぎる報酬と仕事が出来る環境を与えてやった。
そして金にも執着を見せずに、ゲーム感覚でパソコンを操作する三浦にとって、光輝がヤクザだろうがそんな事は関係なかったのだ。
欲しかった機材もソフトも遠慮なく買える環境に狂喜すらしていた。
光輝のお陰で人生が楽しくなったと言い切る三浦は、ある意味組員よりも光輝に忠誠心を持っていた。


仁が部屋で待っていると、渋い顔をした虎太郎が戻って来た。
だが仁には何も言わずに、携帯を取り出し呼び出している。
「出来たら直ぐに帰って来い」虎太郎が上役である光輝にこういう話し方をする時は、非常事態だというのは仁にも判った。
「もう向かっている?正解だな」そう言って虎太郎が電話を切った。

「あの、いったい何が?」
だが虎太郎は仁の問い掛けには答えず「熱い珈琲淹れてくれないか?」と言っただけだった。
「はい……」それ以上仁には掛ける言葉が無かった。
光輝を呼ぶと言う事の重大さは、仁にも判る。

(千尋さん……)


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4日も更新を休んでしまいました。
その間もランクングのポチをして下さいまして、
本当にありがとうございました!

箱庭からの記事数と合わせて750余りあります。
(お知らせ記事も含んでいますが)
移動するだけでも、右手が痛くなりそうです。

コメントのお返事も放置しっぱなしで、本当に申し訳ございません。
今日は、以前少し書いて置いた千尋の話を更新致します。
駿平の方も気になりますよね^^;すみません。


HPを立ち上げても、ブログはこのまま残すつもりでいます。
文字数がブログだと2000文字を目安にしているのですが
サイトになると、やはり5000文字前後は普通らしいです。
一気には無理ですので、ブログで更新したものを、数話まとめる形になると思います。
現時点ではランキングもブログも変更はありません(*^_^*)
引き続き可愛がって下されば嬉しいです。





それから10分程して、光輝が部屋に戻って来た。
「千尋から連絡は?」
虎太郎と仁の顔を見比べるように聞くが、「まだだ」という虎太郎の返事に「そうか」と短く答えた。
その顔は怒っているようでもあり、不安そうでもあり、とにかく仁が初めて見る顔だった。
「他に情報は?」
「何もない」
ふたりの短い会話に割り込んで「もしかしたら、散歩に出ているだけかもしれませんよ?」と仁は言ってみたが何の返事も返っては来なかった。

「くそっ」唸るような声に仁の肩がビクンと震える。
今の所抱えているトラブルもない、完全に千尋の事を隠せていたわけでも無いが、千尋が巻き込まれるような、深刻なトラブルもあるようには思えなかった。
光輝も虎太郎も腕組みをしたまま黙り込んだ。
何か心当たりはないかと頭をフル回転させているようにも思えた。

こういう稼業と、いくつかの会社や店舗を抱えていれば、多少のトラブルはつきものだったが、千尋を巻き込む程の度胸のあるやつなどいないはずだ。
もしかして光輝とは関係なく、千尋側の問題か?とも考えてみても何も思い当らなかった。

長い静寂のあと、虎太郎がぽつんと言葉を発した。
「静岡か……」
「駒田組か?」
仁にはどういう意味か分からなかったから、黙って次の言葉を待った。
「まさか今頃?」
光輝はそう反論しながらも、千尋が何ら関係していない事を祈った。

そして今から3か月ほど前の事件を思い出していた。
事の始まりは単純な事で、静岡から遊びに来ていた女が、たまたま光輝の経営している店のひとつである、ホストクラブに通い詰めた事が発端だった。
一晩に100万の金を1週間毎晩落した上客だった。

ひとりのホストを気に入り、店の外でもだいぶ金を使ったらしい。
静岡に戻ってからも、2日に1度はタクシーを飛ばし店に通った。
それがひと月も続けば、周りも不安になる。
いったいどこの令嬢かと思いもするが、どうみてもそんな雰囲気はなかった。
本人は静岡の地主の娘だと言っていたらしい。

そんな女がホストと居なくなった翌日、静岡の駒田組の連中が乗り込んできた。
ホストクラブの店長から、女の様子を聞いていた虎太郎は内心やっぱり、と思った。
店で暴れるだけ暴れさせ器物破損と業務威力妨害で警察を呼んだ。
勿論、光輝も虎太郎も表に出る事はなかった。

聞く所によると、女が持ち出した金は現金で1億円。
そのうちの2千万はホストクラブに落しているわけだ。
残りは逃走資金と今後の生活費という所だろうが、もう辞めてしまったホストの事など店には何の関係もなかった。

女に金を持ち逃げされ、若い衆をブタ箱に入れられ男としても、組長としての面子も潰され、この世界ではいい笑い者になった男が、駒田組組長、駒田信一郎多分50歳を少し超えたぐらいだと思われる。
『いい年をして若い女に入れ込んでいるからだ。』などとあちこちから蔑む声が聞こえた。

駒田組のようなあまり大きくない組にとって1億という金は痛手だったのだろう。
その後にあまりいい噂は聞こえて来なかった。

その時、虎太郎の電話が鳴った。
「ああ俺だ」
電話の相手の言葉を頷きながら聞いていた虎太郎が難しい顔で電話を切った。
「山崎(ホストクラブの店長)に、ちょっと店の子に聞いてもらっていたんだが……」
言葉を切った虎太郎に「続けろ」と光輝は先を促した。
「最近店の周りで静岡ナンバーの車を頻繁に見かけたそうだ……」
店のホストたちは、例のホストが戻って来ないかと見張っているのだろう、くらいに考えていてあまり気にしていなかったようだった。
何かあったのかと察した山崎は、報告が遅れた事を必死に詫びていたらしいが後の祭りだ。

「向こうから動きがあるまで、待っているのか?」
「ああ、まだ憶測だけだ、今動くのは危険過ぎる」
二人の会話を仁は黙って聞いていた。
仁は、千尋がいなくなった事がまるで自分のせいのように感じていた。

千尋が自分たちが出た後、直ぐにいなくなったとしたら、もう3時間は経っているのだ。
仁の不安は募るばかりだった。
(千尋さん……早く帰って来て下さいよ)
多分泣きそうな顔をしていたのだろう、虎太郎に名前を呼ばれた。
「仁、大丈夫だ」
虎太郎の言葉に小さく頷きながら、光輝を見ると腕組みをしたまま、固く目を瞑ってソファに身を沈めていた。

息苦しい程の沈黙を破ったのは、10分以上その状態が続いた時だった。
虎太郎が自分の携帯を開いて耳に当てると、組事務所からの電話だった。
「何か変な奴から若頭はいるか、って電話あったんですがどうしましょう?」と。
「そうか、俺のこの番号を伝えろ」
また5分程したら電話するという伝言を聞いて、虎太郎は電話を切った。

「動き出したか?」光輝の怒りを抑えたような声に、虎太郎が頷いた。


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組の者にそう告げると、虎太郎と光輝は立ち上った。
「ど・どこへ?」仁が不安そうな顔で聞くと「会社だ」とだけ返事が返って来た。
仁も二人にくっ付いて、同じフロアにある会社に向かった。
仁にしてみれば、ここは何か落ち着かない……初めて虎太郎に弄られたのもここだった。

だが、今日は唯一の社員の三浦がいた。
「おい、携帯の逆探知出来るか?」光輝の問いかけに三浦がにゃっと笑った。
「30秒繋いでくれれば」
そう言って三浦は奥の部屋に、三人を案内する。
仁がこの部屋に入るのは初めてだった。

踏み入れて先ず驚いたのは、訳の分からない機器が所狭しと並んでいた事だった。
「すげぇ……何ですかこの部屋は?」
薄暗い部屋に機器の電源ランプだけが目立ち、仁は薄ら寒い気分になってきた。
「携帯貸して」三浦は横柄な口の聞き方で、虎太郎に手を伸ばした。
組の者が聞いたら目を吊り上げて怒るだろう物言いに、光輝も虎太郎も何も文句も言わないのが仁には不思議だった。

「いいんだよ、こいつは」と仁の顔色に気づいた虎太郎が、耳元でそう囁いた。
「で・でも……」
「今はそれどころじゃない」囁いた声の甘さなど微塵も感じさせない声が返された。
「はい……」

三浦が、虎太郎の携帯をパソコンに繋ぎ準備が終わったと同時に、着信音が響いた。
3回程コールさせた後、難しい顔をした光輝が通話ボタンを押した。
「もしもし」
「豊川組の若頭で?」
「そうだ」
やはり狙いは自分だと確信を持った光輝の目が更に厳しく光った。
「どなたさんで?」と素知らぬふりして光輝は言葉を続けた。
「まぁ、田舎のちょっとした筋のもんですがね……」

まだ自分の本性を明かそうとしない電話相手に苛々していると
「お宅の部屋住の若い衆を保護しているんだけど?」
「保護?拉致の間違いじゃないのか?」
「随分と酷い言われ方だな、うちの事務所の前に拘束された状態で放置されていたのを、わざわざ保護してやったと言うのに……」
「そうですか、でもうちの者だという確証もないですからね?」
光輝がそう言うと、電話の向こうでバタバタと人が動く音が聞こえてくる。

「……すみません……わ・若頭……」
その声は紛れもなく千尋の声だ。
自分の事を若頭と呼ぶ状況を考えると、光輝は心臓をぎゅっと鷲掴みにされたように痛かった。
(千尋……)
「この野郎!何ドジ踏んでるんだよっ」
心を鬼にして、光輝は怒鳴った。
「ごめんなさい……」

その言葉を最後に電話の相手が変わった。
「で、どうするんだい?保護料は払ってくれるのかい?」
「幾らだ?」
「ま、このお兄さん綺麗だから、そっちで払わないってなれば、何処かその手の所に行ってもらうだけだけど?」
「だから幾らだと聞いているんだ?」
試すような言葉に光輝も声を荒げた。

「1億ってことで?」
「直ぐには無理だ」
「まぁそうだろうな?いくら二代目って言っても簡単に用意出来る金じゃないよな?」
ニヤニヤしている顔が見えるようで、光輝は携帯を握り締める手に力を篭めた。

「夕方にもう一度連絡を入れるよ、それまでに用意しておくんだな」
「ああ、何処に運べばいい?」
「取りあえず、東名高速に直ぐ乗れるように」
「金は必ず用意する、その代わりそこにいる奴の身の安全は保障しろよ」
「ああ」くくくっと笑う声と共にその電話はぶつっと切られた。

「あいつ等……千尋さんを組の人間と勘違いしてる?」
そういう仁の頭をぺちと叩きながら「そんな訳ないだろう?ただの部屋住の人間に1億もの金を吹っ掛けるか?普通」と虎太郎に言われ、仁の顔が青ざめた。

「これ住所」話の腰を折るように三浦がメモを差し出した。
そのメモを見て、光輝が口角を上げ「虎、キャッシュだ」とだけ言った。
「1億ってそんな大金どこに?」と仁はおろおろするが、5分もしないうちに虎太郎が大きめのジェラルミンケースを運んで来た。

「えっ?えっ?」事態が呑み込めない仁を見て、三浦が見下すように言う。
「無いなんて時間稼ぎでしょう?あんたヤクザのくせに、そんな事も判らないの?」
「時間稼ぎ……」
「そんな事はどうでもいい、さあ出かけるぞ」

駐車場で、3人は2台の車に分乗した。
仁は光輝を乗せ、そして虎太郎は自分で運転だ。
「自分で運転する」という光輝を諌めたのは虎太郎だった。
「今のお前は普通じゃないからな……」
光輝は冷静そうに応対していたが、虎太郎から見たらとても普通ではなかった。
気が急いて、スピード違反て捕まってもシャレにもならないのだ。


一方千尋は、いったい自分の身に何が起きているのか判らなかったが、電話の相手が光輝だと知った時点で、自分が光輝の足を引っ張り弱点になってしまった事に気づいた。
数時間しか離れていないのに、長い間離れていたような気持ちだった。
そして、もしかして光輝の声を聞くのは、最後になるのかもしれない、とさえ思ってしまった。


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<通販のお知らせ>

ここで小さな声でお知らせです。
(あまり気づかれなければ、別記事を上げますが……)
6月からリアル忙しくなりそうです。
同人誌が出来てから、随分と温めてしまいました。

表紙含めて202ページです。

内容は、「僕の背に口付けを」本編  -雅- 【それぞれのクリスマス】千尋からの贈り物
    空を見上げれば(書き下ろし)虎太郎×仁
    桜咲く(天使が啼いた夜の紫苑がゲスト出演)
   先日ここで公開した「桜咲く」の千尋バージョンです。

価格 1200円(送料別)になります。

重大告知:各頁に頁番号が印刷されていません・(ノД`)・゚・。
(そこまで自分で入れないとダメってのを知りませんでした、ごめんなさい)

現在手元に36冊。多いのか少ないのかは、初めての経験なので判らないのですが……


簡単な説明で申し訳ありません。
もし紙媒体で読んでみたいな、と思われる方がいらっしゃいましたら
コメント欄にてメールアドレス、お名前(ハンドルネームでも大丈夫です)
入れて下されば、こちらから折り返しメール入れさせて頂きます。

発送先の住所氏名はその時に伺います。


一番多く聞く声が「隠し場所が無い」という声です^^
隠し場所のある方は検討してみて下されば嬉しいです。

先にメールとかで問い合わせ下さった方も念のために、コメ入れて下さいませ。

では、宜しくお願い致します。

(お申し込のコメントは、鍵コメにてお願い致します)


 
「それにしても、二代目が囲っていたのが男とはねぇ……」
駒田は千尋の頬に手を掛け、顔を左右に動かした。
「僕は、関係ない。お前たちが思うような関係じゃない……」
千尋は駒田の顔を見据えて、そう言った。
「ほう、随分と気が強そうな……どういう関係じゃないって言っているのかい、お兄さん?」
「……囲われているんじゃない」
シラを切りとおすしか千尋には、方法が無かった。
自分と光輝の関係を、こんな輩に踏みつけにして欲しくは無い。

駒田組は、静岡ではそう大きい組では無かった。
だが、観光地という事でそれなりの利益は上がり、その金を使って上に登ろうとしていた矢先に、女に裏切られたのだ。
駒田組にとって、1億という金は取り戻さないと組の存続にもかかわる程の金額だった。

組長、駒田信一郎は若い頃からこの道に入り、いわば下積みを経験した苦労人。
光輝のような、二代目でインテリやくざが一番憎かった。
殆ど逆恨みだが、自分の女がその二代目が経営する店のホストと出奔したかと思えば、憎さは募るばかりだった。

「僕に1億の価値はない」
駒田から目を逸らす事なく千尋は訴えたが「それならそれまでさ、お兄さんの体で返してもらうだけだから」と薄気味悪い笑顔を千尋に向けて駒田は答えた。
「……体で…………」
それがどういう意味なのか分かっている千尋は、それ以上口を開く事は出来なかった。

「本当に綺麗な顔をしている……」駒田の目が厭らしく光り、千尋は顔を背けた。
「ま、夜まで待とう。金さえ手に入れば後はこっちの思うツボだ」
そう言って楽しそうに笑う駒田に千尋は唇を噛んだ。

後手に拘束されたままの千尋は、今の状態では逃げ出す事も抵抗する事も出来ない。
(光輝に迷惑を掛けるのだけは嫌だ……)
「おい、向こうの部屋に閉じ込めておけ。あいつ等が来る前にあれを使え」
何かとても恐ろしい事を指示しているようだが、千尋は気づかないふりをしていた。
今の自分が何を言っても、相手を挑発するか、光輝を窮地に追い込むかどちらかになると思っていた。

そして千尋が連れて来られたのは、小さな窓がひとつあるだけ、家具も何もない部屋だった。
水のペットボトルだけ渡され、縛られていた手は解放された。
それは、この部屋からは容易に出られない事の裏付けでもある。
鍵の掛かった部屋の隅で、千尋は膝を抱えて座った。

自分の愚かな行動を責めてみても始まらないが、どうして飛び出すより先に電話の1本を入れなかったのか、後悔してしまう。
(光輝……ごめん)
千尋の前ではやくざな顔を見せない光輝に、つい油断していたのだ。
千尋は閉じた瞼の奥に、光輝の背中で蠢く竜を思っていた。
大好きな竜の絵……大好きな伯父である彫雅が掘った千尋の大好きな竜……
千尋は、それだけは自分が守りたいと思った。

どのくらい時間が経ったのだろうか、小さな窓から見える外は薄暗かった。
こんなに簡単に時間の感覚が麻痺するとはと、妙な所で感心してしまう。
突然一人の男が、盆に乗ったスープとサンドイッチを持って来た。
「ほら、これ喰って」
「いらない……」
考えてみたら朝少し食べただけで、それ以降は何も口には入れてなかった。
「スープだけでも飲んだ方がいいぞ、体力温存って言うだろう?」
何の為の体力温存だよ?と突っ込みたい気分だが、千尋はとりあえずその盆を受け取った。

「毒なんか入ってないから、さっさと食えよ」
サンドイッチとスープという組み合わせが変だったが、コンビニのサンドイッチに少し安心して手を伸ばした。
この男の口車に乗る訳じゃないが、体力温存は実際に必要なのだ。
もし、無事ここから出してもらえなければ、いざという時に足を引っ張るかもしれない。

封を切った千尋を確認して、男は部屋を出てまた外から鍵を掛けた。
初夏とはいえ、薄手のシャツ1枚で何も無い部屋の中ではうっすら寒い。
千尋は、スープ口を付けた。それはごく普通のコーンスープだった。

外の様子が全く判らないから、千尋には今光輝が此処に向かっているのかさえ判らない。
10分程して再びドアが開いた。
「おい、出ろ」横柄な口調で顎をしゃくられ、千尋はのろのろと立ち上った。
連れて行かれたのは、さっきとは違う和室だ。
駒田は座椅子で寛ぎ酒を飲んでいた。

「8時にはここに二代目が来る予定だ」
千尋が周りを見回しても時計らしき物は見当たらなかった。
「今何時なんですか?}
「7時半だ」
(あと30分……)あと少しで逢える……

千尋がそう思い小さな吐息を漏らした時に、両手を捕られまた拘束された。
「そんな事をしなくても、僕は逃げないし、あと30分したら迎えが来るんだから」
あと30分という考えが千尋に余裕と油断を与えた。

千尋を縛った男が、その手を頭上に持ち上げ鴨居から下がったフックに掛けた。
足は畳に着いてはいるが、両手を上に拘束されれば動く事など出来やしない。
「こんな事しなくても……」
ぐるっと体を回転させ、駒田を睨み付けた。
「ふふふ……せっかく遠くからいらっしゃる客人に、余興を見てもらうんだよ」

「どうしてっ……」千尋がそう叫んだ時に、目の前の男が千尋のシャツのボタンを引きちぎり飛ばした。
「シャツは剥ぎ取れ」駒田がニヤニヤしてその男に命令すると、ビリビリと引き裂かれ、残った生地が千尋の腕に絡み付いた。


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「こんな事をして……1億もの金を要求していて……」
千尋は静かだが、厳しい口調でそう言った。
「ふふふ、二代目が来る頃は状況が変わっているさ」
自信ありげに言う駒田の、その根拠が千尋には判りかねた。

(あと30分……)

駒田は、まるで目の前の千尋を酒のつまみにするように飲んでいる。
その口元は嫌らしく薄ら笑いを浮かべていた。

千尋は、両手を頭上と捕えられているからなのだろうか、躰が次第に熱くなって来た事に気づいていた。
最初はこの体勢のせいかと思っていたが、その熱は躰全体に回ってくる。
そんな千尋の顔色を見た駒田が「そろそろだな」と言い放ちぐいっと杯の酒を飲み干した。

駒田の横で酌をしていた男が、駒田に何か耳打ちされ千尋に近づいた。
指の腹で俯いた顔を上げさせられると、その指の感触に千尋の皮膚がざわついた。
(え……っ?)
「どら、どのくらい敏感になったかな?」
揶揄するように千尋の顔を覗き込んだと思ったら、その指は千尋の首を撫でつつーっと鳩尾まで下りた。

「あっ……」
指がなぞった道筋が異常に火照ってしまい、千尋は男の顔を睨むように見た。
「お兄さん、随分と目が潤んでいるねぇ」
ここまでくれば、素人の千尋にも自分が何か薬を使われた事に気づく。
「あ……っ」コンビニのサンドイッチと一緒に出されたスープだ。
千尋は肌寒さのあまりに、口を付けてしまった事を今更ながらに後悔した。

「全く警戒心の薄い奴だな……今朝といい」
千尋の傍にいる男が、本心から呆れたようにそんな事を言った。
「……どうしてこんな?」
「あんな恥掻かされて、1億ぽっちで済まされると思う方がおかしい」
千尋はこの駒田という男がどんな恥を掻かされたかは知らないが、光輝がそんなあくどい事をするとは考えられなかった。
そしてこの駒田という男が、千尋に薬を使って何をさせようとしているのかも分からない。

「それにしても女みたいな綺麗な肌をしているなぁ……」
千尋の傍に立つ男が、間近で千尋の体を見て溜め息混じりに呟いていた。
「組長、ちょっと弄ってもいいですか?」
「勿論、元よりそのつもりだ」
駒田の承諾を得た男が、にやっと口元を緩め千尋の薄い胸に手の平を合わせた。

「やだ……やめろっ」
千尋は躰を捩って、その手から逃れようとするが、ただぐるぐる回るだけで反って不安定になるだけだった。
「無駄だよ」そう言うと男は楽しそうに、千尋の胸を弄った。
「やだっ!触るなっ!」
男が触れる度に、熱を帯びる面積が広くなり千尋は何度も唇を噛んで堪えた。
体中に広がりつつある熱を……知られてはならないと必死に抗うが、それはもう千尋の意思でどうにか出来る範囲を超えていた。

「おい、坂本!」
「へい……」
坂本と呼ばれた男は、今千尋の胸に手を這わせにやにやと笑っている男だ。
「ちょっと、こっちに背中を向けさせろ」
坂本は駒田の真面目な口調を訝しく思いながら、千尋の背を見せるように向きを変えた。

「……なんだ?」駒田の声が少し掠れている意味を千尋は知っている。
ぎゅっと目を瞑り、熱を発散させようと呼吸を早めた。
そして千尋は、すくっと駒田が立ち上がる気配を背中で感じた。
近くまで来て、千尋の体を舐めるように見詰めている。
千尋はその様子を痛いほど肌で感じた。

「これは、凄い拾い物だ。おいもう少し薬を飲ませろ」
「いやだっ、止めろ」
だが、千尋のそんな抵抗など赤子の手を捻るよりも簡単に防げる。
男二人に鼻を抓まれ小さな粒を放り込まれれば、呑み込んでしまうのも時間の問題だ。
ご丁寧に水まで含まされた。

危ない物が自分の喉を滑り落ちる感覚に、千尋はなす術もなかったのだ。
「ふふふ……ははは……1億で渡すには惜しい」
「ふざけるな……あっ!」
言っている傍から坂本が、千尋の尖りをきゅっと摘まんだ。
予想しなかった動きと、異常に敏感になっている皮膚のせいで、小さな悲鳴が漏れた。
「おお、なかなかいい声で啼くな」千尋の反応に駒田が下衆な笑顔を見せた。

「組長、そろそろお時間です」
入口に控えていた男がそう声を掛けた。
千尋はその言葉に詰めていた息を吐いた。
「そうか、出るか?」
「え……っ?」
千尋はここに光輝が迎えに来るものと思っていた。
「ふふふ、残念だな。お前の男と会うのは組事務所だ。ああ二代目が来る頃には、お前は善がって誰彼にでも脚を開いているんだろうがな?」

駒田の恨みは金だけでは無いのだ、女を奪われ恥を掻かされた。
どうしても同じ思いを二代目に味あわせてやりたいと思っていた。
そして二代目の相手が男だと同業者に広く知れ渡れば、いい笑い者だとさえ考えていた。
だが、千尋の背中を見て欲を掻いた。

「おい、坂本ギリギリの所で止めておけよ。楽しみは後だ」
そう坂本に言いつけて、部屋に5人程残して駒田は出て行った。
「はい、いってらっしゃい」駒田の背中に深々と頭を下げる様子を千尋はぼんやりと眺めていた。

ずくずくと、躰の奥から熱いマグマが噴き出すようだった。
(光輝……)
顔を思い浮かべようと閉じた瞼からぽろっと涙が零れ足元の畳を濡らした。


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僕の背に口付けを 序章「-雅-」1

 07, 2011 00:00
「おい、ちょっと待ってよ」
「俺はもう決めたんだ!」
「僕に一言ぐらい相談してくれてもいいだろう?」
「お前が反対しても、俺の決心は変わらないから」

急ぎ足で歩く雅の後を追って歩いていた優希の足が、止まった。
「別に反対なんかしないけど……でも」
大学を辞める事を知人の口から聞くまで優希は知らなかった。
自分が雅の一番近くにいる人間だと思っていた。

「……やっぱり雅は僕の事、汚いって思っているんだね」
数歩前を歩いていた雅が戻って来て、優希の腕を乱暴に掴んだ。
「ふざけんじゃないぞ!誰がそんな事言った?」
ただでさえ、無愛想で冷たいイメージなのに、それが怒ったら身が竦むようだった。

だけど優希もここで負ける訳には行かない。
「あぁもういいよ、僕これから新宿にでも行って、慰めてくれる人でも探すから」
投げやりな言い方に雅が、その腕を放し「勝手にしろ!」そう言って、又足早に去って行った。

「……雅」残された優希は、もうこんな苦しい恋は止めよう……そう思って、ひとりトボトボ歩き出した。
門を潜って右に曲がると駅がある。新宿に行くのなら右に曲がらなくてはならない。
そして左に曲がると、自分が借りているアパートがある。だが優希は、ゆっくりと左に曲がって歩き出した。一分程歩くと、そこには塀に凭れて煙草を吸っている雅が居た。
「ま・雅……」
煙たそうな顔でふーっと紫煙を吐く雅に、「遅いぞ」と一言だけ言われた。
「うん……」そして優希は、ただ黙って雅の後をついて歩いた。

そして着いた先は優希のアパートだった。
「じゃあな」雅が片手を挙げて何でもないように別れの言葉を吐いた。
「……うんじゃあ」
このまま帰ろうとしている好きな男を止める言葉を優希は持ってなかった。
ぽろっと頬に冷たい物を感じ、自分が泣いている事に気づいた。そんな優希を見ていた雅が近づいて来て「全く面倒くさい奴だなぁ」と溜息を吐くように呟いた。

泣いた事を誤魔化すように優希は「アハッ……」とおどけて笑って「じゃ」と片手を挙げた。
「ちっ!」と雅の小さな舌打ちが聞こえ、打ちのめされる。
雅に背中を向けアパートの階段に足を掛けた時に「来い!」と腕を引かれ、雅に引き摺られる様に歩いた。

通りまで出ると、雅はやっと優希の腕を離し、そしてタクシーを留めた。「渋谷まで」一言だけ命令するように運転手に言うと、後は面倒くさそうな顔で又黙った。
優希も黙って雅の後に続いてタクシーに乗り込んだ。

タクシーを降りた雅は優希に何か言う事も無く、すたすたと歩き出した。その通りには点々とホテルが立ち並んでいた。
躊躇いもせずに雅がその中のひとつのホテルのビニールの暖簾を潜った。慣れた風に小さな窓を覗いて「泊まり」とだけ無愛想に言った。

会計を済ませた雅は部屋のキーを受け取り、エレベーターに乗り込む。
『早く来いよ』目がそう語っている。優希は雅の後に続き、雅と並んでその箱に納まった。

「此処か」部屋の番号を確認し、キーを差込み雅は扉を開けた。
優希はラブホテルなんて来るのは生まれて初めてだ……
だが一方慣れているような雅に少し気持ちが沈んでしまう。
「ビール飲むか?」
備え付けの冷蔵庫から缶ビールを出し、優希に尋ねる。
優希は黙って頷いた。酒でも飲まなければ……この状況に付いていけないような気がしていた。

缶ビールのプルトップをいい音をたて雅が開けた。ごくごくっと小気味良く喉が上下している。
早々に一缶飲み干すと、「シャワー浴びてくる」と言う雅に「どうして此処に来たの?」と思い切って尋ねてみた。その答えを聞かないと、優希はもう一歩も先に進めない気がした。

「お前を抱くためだ」潔い言葉に眩暈がしそうだった。
それだけ言うと、雅はシャワーを浴びに部屋を出て行く。
『お前を抱くためだ……』その言葉が優希の頭の中でリフレインしている。
五分もすると雅が腰にタオルを巻いた姿で出てきた。

「お前も入るか?」
「う……うん」優希は縺れるような足取りで浴室に向かった。
優希はシャワーを浴びながら自分の震える体を抱きしめた。
好きな男に抱かれる喜びと怖さ……
それでも優希は、自分が雑誌とかで得た情報の全てを思い起こし準備をした。
受け入れる器官では無い所に受け入れる準備を―――

優希も雅と同じように腰にタオルを巻いてシャワー室から出た。
だいぶ時間が掛かっただろうけど、それに対して雅が文句を言う事はなかった。
優希は、雅が腰掛けるソファの隣に腰を降ろした。
「優希、腹は減ってないか?」
こんな状況で腹が減っていても食べられる訳は無い。
「大丈夫……」と小さく返事をした。

「そうか……来いよ」雅が先に立ってベッドに向かった。
優希は温くなったビールを一口飲み、その後に続いた。

雅はベッドの縁に腰掛けているが、優希はベッドに上がって座った。
「優希……俺は彫り物師になる」
雅が大学を中退する理由も勿論それだった。
優希は雅がずっとその世界に憧れていたのも、そして勉強していたのも知っている。
「うん……」

「やっと弟子入りが認められた」
ずっと弟子にして欲しいと通っていたのも知っていた。
「うん……良かったな」
「ああ、だがこれで喰って行けるまで何年掛かるか判らない」
「厳しい世界だものな……」
「別に俺がヤクザになるわけじゃないが、ヤクザな世界に足を突っ込むのは確かだ」

それはそうだ、刺青なんて素人が入れる筈は無い。ヤクザ者と繋がりが出来てもそれは仕方ない。
「俺の傍に居たって何もいい事なんか無いぞ」
「別にいい事なんか望んでいない……ただ……」
「危険な目に合うかもしれないぞ」
「別に危険な目に合うのは素人だって同じだ」

そう言うと優希は一年前の忌まわしい事件を思い出し眉間に皺を寄せた。
女に纏わり付かれるのが嫌で、大学に入ると早々にゲイである事をカムアウトした。
告白してくる女を傷付けないで断るには、これが一番効果あった。
だが、そういう噂はあっという間に大学中に知れ渡る。

「別に本当の事だからいいや」くらいにしか思ってなかったし、逆に密かに自分もゲイである事を優希に打ち明けて来る奴もいた。ある日、優希は「好きな奴が男だ、相談に乗ってくれ」と言われ自分で判る事があれば、とその先輩のマンションに付いて行った。

「緊張しているから飲んでもいいか?」と聞かれ承諾をすると、優希にもビールを勧めて来た。優希は一杯だけと言って、そのビールに口を付けた。

その後優希はいつの間にか意識を失い、気が付いた時には全裸に剥かれ、ベッドに四肢を拘束された状態だった。




■同人誌掲載分ですが、ブログに再アップする際にもう一度加筆修正しました。
粗が多くて、本当に申し訳ございません!

本日は帰宅が遅く「悲願花」の更新が出来ませんでしたので、
「雅」を急遽アップしました。明日以降「悲願花」の更新が出来ても
毎日「雅」は上げて行きます。

「僕の背に口付けを」が下げたままで、読みたいというメールも頂くのですが、
今回は「雅」を先に上げる事にしました。ご理解お願い致します!
(文字数に関係なく、内容で区切りを入れて行きます)


スミマセン^^一応貼ってもいいですか?……
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僕の背に口付けを 序章「-雅-」2

 08, 2011 22:59
「目が覚めた?」そう声を掛けてきたのは、さっきまでオドオドと、真面目な青年を装っていた男だった。
「ちょっと、先輩これ何ですか?放して下さい!」
優希が身を捩って逃れようとするが、両手両足に填まった手錠のような物はガチャガチャと音をたてるだけで、ビクともしなかった。
「良かったよ、君が簡単に罠に嵌ってくれて」
「……信じられない」こういう事をするこの男も、簡単に罠に嵌る自分も。
「こんな事して、何をしたいんですか?」

優希の質問に呆れたような顔で「やる事は決まっているだろ?君だって本当は望んでいる筈だ」
確信を持ったような物言いに「冗談じゃない!僕が望んでいるのはお前じゃない!」
そう叫んだが、その男はそんな事は全く気にならない様子で「僕はずっと君みたいな綺麗な男の体が欲しかったんだよ」と微笑んだ。

「あんたはオカシイ!」と優希はもう一度叫んだが「君の体もおかしくしてあげるから」とその男は口角を上げた。
「止めろ、今すぐこの鎖を外してくれたら不問にするからっ!」
男は優希の悲痛な叫びには答えず、ベッドの空いているスペースに腰を降ろして来た。

手には何かの瓶を持っている。それを優希の胸の上で傾けた。
「ひっ!」冷たい液が優希の胸の突起に掛かる。
その液を胸に塗り付けるように、その突起の周りを指で撫でられた。

「やめろっ!気持ち悪い!」
「こういう優しいのは嫌い?もっと痛い方がいいのかな?」
そう言われて、優希は身が竦んだ。


男は優希の体を、玩具を使って弄り続けた。だが玩具を抜き取り男の熱い性器が宛がわれた時に優希は激しく抵抗を見せた。
「やだっ……やめろっ……お前のなんか入れるな!!」
まだ玩具の方がマシだ、好きでもない男の熱など受け入れたくは無い。

唇を噛み締め、目を瞑ると好きな男の顔が浮かぶ。
(雅……雅……)
心の中で好きな男の名を呼んだ時に、体に違う男の熱い楔が押し入って来た。
「ああ――――っ!」
メリメリと音をたてながら挿入されるそれは、体の痛みよりも優希の心に大きな傷を作った。
抵抗出来ない体は、時間をかけその男の全部を銜え込んだ。


その次に優希が目を覚ました時には、四肢の拘束は解かれてはいたが、今度は後ろ手に腕が拘束されていて、男は優希の腰を掴み、激しい抽挿を繰り返していた。
「ああぁぁぁ……もうだめ……」
「駄目じゃないよ、中凄い……熱くて蕩けそうだ……」

何度気を失っても優希が目覚める時は、男と繋がっているか玩具が挿入されているかの、どちらかだった。
「もっ……やめて、お願い……」抵抗する声も弱弱しい。もう心も体も限界だった。

「うっ!」小さく呻いて男が優希の中で果てる。
いったい何回分の精液が自分の体の中には溜まっているのだろうか?朦朧とする頭はそんな事を考えていた。
ずるっと男の物が引き抜かれた。そしてその感覚に優希も何度目か判らない精を放った。

(もう目が覚めなくてもいいです……雅ごめん……愛しているよ)
今一番望む事はこのまま死んでしまう事だった。
そう思いながら、優希は又意識を手放した。



次に目が覚めた時、優希は後孔に異物感がない事に安堵して目を開けた。
「えっ……?まさ……」
「おう気が付いたか……」
「ははっ、ここは地獄?あぁでも雅が居るから天国かな?」
力なく言う優希に向かって雅が「俺と一緒なら天国でも地獄でも構わないだろう?」と言う。

そう言われて「そうだね……」と答えたような気がした。そしてまた優希は深い眠りに堕ちて行った。

(今日は何日?あの悪魔のような男はどうしたんだろう?イヤあれは夢だったのかもしれない。)
だけど、体に感じる鈍痛と、左手に刺された点滴の針が、事実だった事を優希に教えてくれた。

「優希……大丈夫か?」珍しく雅が優しい言葉を掛けてくれる。
「ここは?」
「俺のアパートだ」
「僕はどうして此処に?あの男は?」
「全く質問の多い奴だな……」雅が眉間に皺を寄せながら答えた。

「あの男の事はもう忘れろ、もうお前の前には現れる事は無いから」
優希は雅がそう言うなら、もう何も聞かないでおこうと思った。
雅の手が優希の額に触れた。
「熱も下がったようだ」その声に深い安堵の色を見た。
「僕はどの位眠っていたの?」と優希が聞いた。

「此処に連れて来てからは三日だ、お前が行方不明になっていたのは二日間だ」
「そう……」優希は二日もあの男に拘束され暴行されていた事を知った。
どういう風に助けられ、あの男がどうなったのか……もうどうでも良かった。
ただ今目の前に居る雅だけが全てで、現実だったからだ。

「おかゆ食えるか?」
「ん……」
「点滴で痛み止めと栄養剤は投与してもらった」
知り合いの医師を引っ張ってきたから大丈夫だと、付け加えられた。
「雅……ごめん迷惑かけて」

「ああ」もういつもの無愛想な雅に戻っていた、逆に優希はそれが嬉しかった。
下手に同情されるのも辛かった。でも、もう少しだけ甘えてみたかった。「雅……おかゆ食べたい」と。

あの日から一年が過ぎて、優希と雅はそれでも友達を続けていた。
嫌われては居ないと思ってはいたが、それが男同士の友情なのか、もっと違う意味の情愛なのかは判らない。
―――聞くのが怖かった。



「大丈夫か?」
今、優希は渋谷のラブホテルで雅と向き合っている。
「俺と一緒だと地獄見る日が来るかもしれないぞ」
これが最後と言うような雅の言葉だった。

「あの日……あの日『天国でも地獄でも俺と一緒なら構わないだろう』そう言ったのは雅だ」
優希の言葉に「お前覚えていたのか?」と驚いた目を向けた。
「あ…当たり前だ……あんな事言われて忘れられる訳が無いだろう」

雅がふっと口元を緩めた。
優希は、そんな雅の顔が大好きだった。
「雅こそ大丈夫?僕を本当に抱ける?」優希のその言葉には色々な意味が含まれていた。

「ああ」
「男だし……それに……」
「男だろうが女だろうが、優希だから抱けるんだ」
「雅……ありがとう……僕初めてじゃなくてゴメン……」
「愛の無いSEXはSEXのうちに入らないんだよ」
「……まさ」

もう黙れと言わんばかりに雅の唇が優希に重なる。
その熱を感じながら、優希は黙って目を閉じた。


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■すみません、昨日はPCを開く間もなく寝落ちしてしまいました。
昨日分の更新です。
3話は急いで準備して0時に間に合わそうと思っております。

2話の内容が少し変わっています。
優希が男に凌辱される部分を1000文字程削除しました。
ずっとこの部分に違和感がありました。だから思い切って削除です。

かと言っても凌辱された事実は変わらないんですが……

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