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「千尋にもしもの事があったら・・・判ってるだろうな仁?」
『ヒィーッ!こえ~』
今朝9時に仁がこの部屋に来た時に出かける千尋とすれ違った。
「あれ、何処に行かれるんですか?買い物なら俺が」そういう仁に
「大丈夫直ぐだから、仁君は光輝の朝食の支度お願い」
そう軽く言って出かけた千尋はもう1時間以上も戻って来ない。
朝10時に起こせと言われていた仁は素直にその言葉を守ったのだ。

『千尋さーん、早く帰って来て下さいよ~』
仁は光輝の射抜くような視線を避けながら必死に祈るだけだった。
部屋の中をどしどしと熊のように歩き回る若頭の逆鱗に触れないように小さくなりながらも、
やはり仁も千尋の事が心配だった。

「本当に何処に行ったか判らないのかっ!?」
「はいっ判りません!!」光輝の声に自然と背筋がピンと伸び直立不動のまま答える。
「ったく・・・」
「携帯を鳴らせっ!」
「若頭だから、さっきから言ってるじゃないですか・・・携帯はソファの上に置きっぱなしだったって・・・・」
「煩い!判ってる!」
『ヒィーーッ!』朝から生きた心地のしない仁と、仁に当り散らしている光輝のせいで部屋の中の空気がピリピリと張り詰めていた。



その頃・・・・・

「クリスマスなのに墓参りですか・・・お若いのに感心だ」
墓前に手を合わせる千尋の背後から住職の声が掛かった。
「あ、おはようございます・・・今日は伯父の誕生日なんです」
「ほう、あの男らしからぬ誕生日ですなぁ」
住職はおかしそうに声を上げて笑っている。

「あの、伯父をご存知なのですか?」
「少しですがね・・・後でゆっくり話してあげましょう、墓参りが済んだら私の所にお出でなさい」
千尋にそう声を掛け、そして雅の墓よりも2列前でやはり墓参りをしている中年の婦人にも同じように声を掛けてから住職は寺の方に戻って行った。

千尋は斉藤の墓は千葉にあるのに、どうしてこの神奈川の墓を雅が生前に買っていたか、その訳を知りたかった。機会があれば住職に尋ねようと思っていたのだ。
千尋は墓の掃除をすると、カップの日本酒の蓋を開け置き、そしてその横に雅の大好きだったキンツバを置いた。
『伯父さん・・53歳の誕生日おめでとう・・・
今日は報告があって来たんだけど、住職さんと話をしてからにするね』
千尋は心の中でそう呟いて雅の面影を思い出し偲んでいた。

少しして千尋が住職の元に行くと、先にさっきのご婦人が住職の隣に腰を下ろしていた。
「さあ熱いお茶で温まりなさい」
「ありがとうございます」千尋は一礼して住職の隣に座った。
暫くは3人黙って熱いお茶をすすって静かに墓の方を眺めていた。

「あの男はなぁ・・」突然住職が口を開いた。
「もう5年ほど前だ、いきなり訪ねてきて檀家でもないのに此処に墓を建ててくれと言いよった。」
思い出しても可笑しいのだろうか、住職は過去を思い出し目を細めている。
「斉藤の墓は千葉にあるんです、僕の両親もそこで眠っています・・・
だから伯父がどうしてこの地を選んだのかが不思議でした」

「面白い奴じゃった・・・此処に墓を建ててくれなきゃ死んだら化けて出ると言いよった」
「そんな・・・そんな失礼な事を・・・申し訳ございません」
雅の非礼さを甥の千尋が代わりに詫びた。
「いやいや、面白い奴だ、あの真っ直ぐな目にわしも心が動かされた。
雅なんて奥ゆかしい名前なんぞ付けられて正反対じゃ」
そう言うとまた住職は声を上げて笑った。
だいぶ伯父の事を気に入っていたらしい事がその言葉から感じられる。

千尋の反対側で茶を飲んでいた婦人の様子がおかしいのに住職が気付き。
「どうされました?具合でも悪くなりましたか?」と声を掛けた。
「い・・いえ・・・すみません他人様の話を黙って聞かせてもらっていました・・・」
その語尾が震えているのに千尋も気付いた。
何か気に触る事でも言ってしまったのだろうか?と心配になり
「申し訳ありません、勝手に騒いでしまって、お気を悪くされたのでは?」と声を掛けた。

「あの・・・」その婦人は思いつめた顔で千尋に声を掛けた。
「あの、失礼ですが・・あなたの伯父様という方は・・斉藤雅さんとおっしゃるのですか?」
住職との会話に苗字も名前も出てきているから、その婦人は雅の名前を知ったのだろう。
「はい、斉藤雅といいます」

「お幾つで亡くなられたのですか?」
「52歳です、今日が53歳の誕生日なんです」
「間違っていたらすみません・・・もしかして彫物を・・・?」
「伯父をご存知なのですか?」
今度は千尋が驚く番だった。
だけど千尋の問いに婦人は答えることが出来なかった。
ただただ溢れる涙を抑えるのが必死な様子だった。

「雅さん・・・優希っ・・」その名前を繰り返しながらその婦人は嗚咽を洩らした。
千尋も住職もその婦人が泣き疲れるまで辛抱強く口を噤んだまま待った。
そしてその婦人は開口一番「雅さんのお墓に参らせて下さい」と言う。
まだ何か判らない事ばかりだが、千尋は雅の墓に案内した。
すると「あぁ優希がよく見える・・・」そう言うとまた涙を零す。

「あの、優希さんというのは?」千尋がそっと尋ねる。
「私の弟です、今から17年前35歳の若さで交通事故で亡くなりました」
「35歳でですか・・・・」まだ人生真っ只中の死に千尋も言葉を続けられなかった。
こいう時に何と言うべきなのか、何と言っていいのか千尋にはよく判らなかった。

「雅さんは通夜の夜遅くに優希と別れをして下さいました。」
優希の両親が一時帰宅した時に1時間ほど二人っきりで別れを済ませたと婦人は言った。
「私の両親は自分の息子に・・ヤクザでもない真っ当な生活を送っている息子の体に
刺青を彫った雅さんを許さなかったんです」
「刺青!」千尋は悲鳴のような声を上げた口を両手で押さえた。

「・・・もしかして観音菩薩?」
「どうしてそれを?・・・あぁ雅さんに聞いたのね?」
「いえ、伯父は何も話してくれませんでしたが、どんなに頼まれても観音菩薩だけは彫らなかったんです。」
死の宣告を受けてから千尋の体に彫った事は言う必要はないだろうと千尋はそれ以上は話す事はしなかった。

「優希が死んで、雅さんも新しい人生を送っているのかと思ってた・・・」
だから自分が雅に会いに行くのも優希を思い出させるようで躊躇っていたのだった。
「伯父がこの場所を選んだのは優希さんが眠る場所だったからですね」
ずっと謎だった事がようやく千尋にも判った。

そして伯父がここで一人で眠っている訳じゃない事にも安堵した。
その婦人は伯父の墓の前で長い間手を合わせていたが、
立ち上がると何だか晴れ晴れとした表情で
「ありがとう、優希の骨を拾わせてあげれなかった事がずっと心に重くのしかかっていたの・・・」
そして眠る雅に向かって「雅さん、優希をよろしくお願いします」と深く頭を下げて帰って行った。

千尋も何だかすっきりした気分だった。
そしてもう一度雅の墓の前で手を合わす。今なら遠慮せずに報告できそうな気がした。
その時背後から人の気配と共によく知る声が聞こえて来た。
「雅さん、あんたに話がある」千尋は振り向きもせずに、その声に耳を傾けた。
「千尋はこの墓には入らない、悪いが一人で眠ってくれ」
それを聞くと千尋はそっと振り返り「光輝、こっち来て」と光輝の前に立って案内した。

「この墓は?」
「この人がもう一人の観音菩薩を背負っている人だよ」と千尋は優希を紹介した。
それだけで光輝には全てが判ったような気がした。
雅の墓が此処にある訳と、そして今まで謎だった先の観音菩薩の刺青・・・
「そうか、じゃ千尋が此処に入らなくても問題ないな」
という光輝に千尋が呆れた視線を投げ「どっちにしろ、僕の両親の墓は千葉だから」と言った。
「え?あ・・・」考えてみれば千尋の両親の墓は別にある・・・
ちっと小さく舌打ちした光輝は「どっちにしろお前は斉藤の墓には入らないんだから」
と負け惜しみのように言い放った。


「あれ?それよりどうして此処にいることが判ったの?」
考えてみたらここに光輝がいるのが不思議だった。
「ああ、キンツバが無くなってるって仁が騒いだから気付いた」
「そう・・・迎えに来てくれたの?ありがとう」
そう言って微笑む千尋の顔はこの場所に似つかわしくない程の色香を放っていた。

勝手に出かけた事を叱るつもりだった光輝はそのきっかけを失ってしまった。
最後に住職に挨拶をして墓地を後にした。
入り口には光輝の黒塗りの車が停めてある。

「仁待たせたな」機嫌のいい光輝に仁も安心したように
「若頭、千尋さん、お疲れ様です」と頭を下げて後部座席のドアを開けた。
「仁君・・顔色悪いよ」何も知らない千尋がそう言うと
「俺死ぬかと思いましたよ、あんなスピードで飛ばすから、もう生きた心地はしませんでした」
余程光輝が乱暴な運転をしてここまで来たらしい。
「ダメだよ光輝・・交通事故で亡くなる人だって沢山いるんだから・・」
35歳の若さで事故死した雅の恋人を思うと胸が苦しい。

そして千尋と光輝を乗せたベンツは安全運転でマンションに向けて走り出した。

「千尋・・」後部座席で千尋を引き寄せ顔を近づける光輝に向かって
「仁君いるのに・・」と運転席の仁を気にして腕を突っ張る。
「仁、後ろ見たら命は無いと思え」
『ひぇ~朝から3度目の命の危険・・・』ハンドルを握る手にも思わず力が入ってしまう。
「全くもう・・・仁君冗談だから気にしないでね」
千尋は光輝の言葉に呆れながら、ハンドルを握る仁にそう言って声を掛けた。


「大人しくしてないと、クリスマスプレゼントあげないよ」
耳元で妖しく囁く千尋の言葉は鉛の玉のように光輝の動きを止めた。





4000文字弱です・・・読みやすい長さだと思います。
昨日のはちょっと長すぎたみたいですネ。

え・・っと一応読切なんですが・・・^^;
駄目ですかねぇ?

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「あの・・千尋さんバレンタインのチョコ買わないんですか?」
仁は今日何気なく千尋を食材の買出しに誘った目的を口にした。
「えっ?何で僕がチョコ?仁君チョコ食べたいの?」
「いや・・俺が食いたいというよりも・・・えっと・・」

仁は自分の予感が当たってしまって、内心溜息を吐いた。
雅という浮世離れした男に育てられた千尋が、バレンタインなどという行事を意識しているとは全く思っていなかったが、これだけは予感が外れて欲しかった。

毎年色々な付き合いで大量のチョコを貰っている光輝が今年は
「余計な気は使わないでいい」と事前に釘を刺している様子だった。
この世界で『気を使わなくていい』という事は、『やめろ』というようなものだ。
これで仕事絡みの水商売などのチョコレートが届く事は無いだろう。
そうなると、義理で貰うチョコなど一つも無い事を仁は知っていた。

「千尋さん・・あの・・若頭にチョコとかあげないんですか?」
ここで千尋が考え直してくれれば仁の心配は無くなるのだが・・・
「僕、女子じゃないから」少しむっとした感じで千尋に言われ仁は内心頭を抱えてしまった。
「若頭は千尋さんからチョコ貰いたいんじゃないのかなぁ・・・」
「まさか?」取り付く島がないとはこのことだ・・・

「俺、チョコレートか・買おうっかなぁ~?」
仁はわざとらしく、チョコ売り場に行って綺麗に包装された箱を手にした。
「誰にあげるの?」ちょっと千尋が興味を持ったのかそう聞いてきた。
「虎太郎兄貴に・・・ちょ・ちょっと世話になったし・・」
あの日の事を思い出し仁の頬に朱が走った。

そしてあの日以来頻繁にちょっかい出されて、何度か世話になってしまった事があった。
それ以上の関係に進むような事は無いが、仁の心の中に兄貴として慕うだけではない部分がある事に戸惑いも感じていた。
だが、構成員にもなれない自分が虎太郎に何かを感じているなどとは言えない。
だけど日頃の礼にチョコを渡すくらいなら許されるだろう・・・

「そう・・・」千尋は少しだけ興味を持ったように仁と一緒にチョコの箱を手にしている。
「喜ぶのかな?・・・・」
「喜ぶに決まってるじゃないですかっ!」仁は千尋の変化に心の中で拳を握った。
「別にチョコくらいあげてもいいけど・・・」その言葉に仁も安心してほっとした顔になった。

「仁君はどのチョコ?」
「俺は・・これにします」ブルーのリボンが掛けられた1000円程度のチョコだった。
「ふーん。じゃ僕も同じでいいや」
「いや、同じは拙いでしょう?立場ってもんがありますし・・・」
「そう?じゃこれでいいや」今度は仁が手にしたのよりも少し値段の高い物を手にしたので仁は本当に安心して、千尋の気が変わらないうちにと、レジに急いだ。

別に光輝に何か頼まれた訳ではないが、千尋からチョコを貰えなかったら絶対仁にシワ寄せが来るのは必須。
何よりも光輝が貰えないのに、仁が虎太郎に渡す訳にも行かなかったのだ。
千尋がチョコを買った事に安心しながら、仁は帰りを急いだ。
あまり長く外に千尋を連れ出している事がバレたら自分が怒られてしまう。

マンションに着き、食材を冷蔵庫にしまいながら、夕飯の準備を始めた仁に
「僕も料理覚えようかな?」と千尋が声を掛けてきた。
千尋とて雅と二人暮しだったから、料理が全く出来ない事は無かったが、質素な生活だった。
光輝の望むような料理は作った事がない。
「時間はたっぷりあるし・・・」そう言うと千尋は寂しそうな顔をした。

この春大学を卒業する千尋は就職していなかったのだ。
千尋は一生懸命に仕事を探していたが、全部光輝にダメ出しをくらい挙句の果てには就職試験に行かせてもらえなかったりして何の職も決まっていない。
「就職なんかしなくていい」
の一点張りで未だに何の進展もしていない事に千尋は内心酷く落ち込んでいたのだった。

「仁君・・・僕はこのままずっと籠の鳥なのかなぁ・・・」
ダイニングの椅子を跨いで逆向きに座っている千尋が背凭れに顎を乗せながら聞いてきた。
「若頭まだ就職認めてくれないんですか?」
「うん・・その必要は無いって・・・」
「若頭は外に千尋さんを出して危険な事にでも巻き込まれたらと心配なんですよ」
「僕は子供じゃないし・・でも僕には何の力も無い・・・男なのに情けないなぁ」

仁には千尋のその気持ちがよく判っていた。
自分も、構成員にもしてもらえず、使いっ走りの中途半端な立場だ。
極道には向いてないという周りの言葉も有難いが、やはり自分の進む道が見えなくて辛いものがあった。

「仁君は夢ある?」
「お・俺は・・・やっぱり若頭や虎太郎さんの手助けになることを何かやりたいです」
「そう、偉いね仁君は・・」
「千尋さんの夢は?」
「僕?僕の夢は・・将来光輝と同じ墓に入る事だよ・・・
だから光輝の傍にずっといたい・・だから仁君と同じかな?
何か光輝の役にたつ事を探したい・・」
「千尋さん・・・」仁は千尋の言葉にひとり感動しているようだった。

「俺ら結局同じ思いですね」立場は違うが、行く着く所は一緒だ。
「僕もまだこの環境に慣れたわけじゃないけど、じっくりとその何かを探すよ」
「千尋さん・・その気持ちだけで若頭は喜んでくれますよ」
「ありがとう、仁君に愚痴ったら少しすっきりしたよ」
そう言って千尋は優しい目で仁を見た。
「千尋さん・・・俺も嬉しいです・・」
仁も千尋を『やっぱり綺麗だなぁ・・』と内心思いながらその笑顔に見惚れてしまっていた。

「お前らっ!そこで何見詰め合ってる!?」

『ひぇーっ!』
何時の間に帰って来たのか、ダイニングの入り口に光輝が仁王立ちしていた。
「お・お・お・お疲れ様ですっ!」
怯えながら仁は深く頭を下げ、顔を上げられずにいると
「あぁお帰り・・・ふふふっ僕と仁君の将来について話してたんだよ」
『あぁぁ千尋さん・・・』もう膝に額が着くほど仁の体が折れ曲がっている。
千尋が鈍いのか、それとも光輝の怒りなど何でも無い事なのか仁には理解できなかった。

「あっ!光輝、これあげる」
そう言うと千尋は買って来たばかりのチョコを光輝に差し出した。
「えっ?俺にか?」
「勿論、僕がチョコあげたい人は光輝以外にいないでしょ?」
「千尋・・・」たった一言で光輝の怒りを鎮めてしまう千尋をやっぱり凄いと仁は頭を下げたまま感心していた。

「それは?」テーブルに置かれたもう一つのチョコに気付き光輝が聞いてきた。
「あぁそれは仁君が虎太郎さんにあげるんだって」
「虎太郎に?へぇ・・・おい仁!今虎のやつは会社に居るから、さっさと持って行って来い」
「は・はいっ!!」
やっと開放された仁はそのチョコを掴むと、逃げるように部屋を飛び出した。

「へぇ、仁君そんなに虎太郎さんに会いたかったんだぁ・・」
仁の行動をそういうふうに受け取った千尋が呟いた。
「千尋・・あいつらの事は放っておけ、それより・・」
そう言うと光輝は千尋を抱き寄せ、唇を近づけたきた。
「もう、まだ昼間だよ・・・」
そう抵抗する唇は直ぐに塞がれてしまい、千尋も諦めたように体を預けた。

だが光輝に体を弄られ「まだ仕事終わってないんでしょう?夜まで我慢して・・」
と言って腕を突っ張り光輝の体から離れた。
「くそっ、じゃ夜まで待ったらもっと良い事あるのか?」
「うーん?バレンタインだから・・・光輝の好きにしていいよ」
「縛っても?」
「・・いいよ」
「玩具は?」
「・・いいよ」
「嘘吐け・・お前はいいって言う割には今までやらせてくれた事がない」

「以前に喫茶店で若い男と会ってた時も、クリスマスの時も『縛っていいよ』と
俺をそそのかしたくせに、いざとなったら・・・」
「それは光輝が我慢が足りないからでしょ?」
実際光輝は余計な物を使う前に、早く千尋と繋がりたくて機会を逃してしまっていた。

「言ったな?よし今夜は覚悟しておけよ」
そう宣言すると、光輝は嬉しそうな顔を近づけ千尋の唇に軽く触れると、名残惜しそうに
「8時には戻るから」と言って緩めたネクタイを締め直した。
「行ってらっしゃい」無事に帰って来てという言葉を千尋は呑み込み笑顔を見せた。

見送る度に『無事に・・』と願う千尋の心の中を光輝は知らない。
それでも一緒に生きて行く事を決めたのは千尋だ。
「光輝・・愛してるよ。行ってらっしゃい」
光輝の背中にもう一度声を掛けると、振り向かずに光輝は右手を上げ合図だけを送ってきた。
その顔を見なくても光輝が幸せそうな顔をしているのを千尋は知っていた・・・


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この話は、「僕の背に口付けを」の同人誌初版に掲載した作品です。
紫苑バージョンは春にアップ済ですが、同人誌再加筆修正に伴い、千尋バージョンをアップする事にしました。
加筆修正した結果、10ページ程余裕が出来てしまったので今回(間に合えば……)違う番外を書こうと思っています。

ちょっと季節外れですが、千尋バージョンの「桜咲く」を楽しんで下さいね。






「千尋用意は出来たか?」光輝の声に「はい」と返事をしながら、千尋がリビングに行くと、先に着替えを済ませた光輝が驚くような恰好で座っていた。

「光輝?」普段は髪をワックスで撫で付けているのに、今日の光輝はサラサラ髪のままで、その姿にベッドの中での光輝を重ねてしまい、千尋は少し緊張してしまった。

 ジーンズにチェックの綿シャツ姿はスーツよりも若く見え新鮮だった。千尋も珍しく今日はジーンズ姿だ。
ダイニングでは仁が重箱に弁当を用意してくれている。千尋は仁の近くに行き「仁君も一緒に来ればいいのに……」と誘うが仁は「補佐も留守番だから……」とちょっと照れたように言った。

 今日は総勢八人での花見だった。伊豆で河津桜を見て、一泊して帰って来る予定だった。
 以前世話になった南條弁護士から、その話があったのは、三日前の事だった。その話を聞いて「桜を見たい」と言う千尋の願いに予定をやり繰りして光輝が叶えてくれたのだった。

 光輝も虎太郎も不在という訳にはいかないので、虎太郎と仁は留守番を買って出た。そんな二人に遠慮する千尋に「いいんだよ、あいつ等は邪魔者がいない方が……」と光輝は言う。付き合い始めた二人なら、その方がいいかもしれないと、千尋も花見を楽しむ事にした。

 仁が持たせてくれた重箱を下げて、光輝の車に乗り込んだ。にこにこと見送る虎太郎と仁を見れば、これで良かったのだと千尋も安心していた。

「みんな忙しい奴らだからな、現地集合だ」と言う光輝の運転する車は高速に乗り、一路伊豆を目指した。
待ち合わせの場所に到着すると、先に二台の車が停車していた一台は南條弁護士が運転するワンボックスカー、そしてもう一台は千尋も好きなジャガーXJだった。その車の横に光輝のベンツも静かに滑り込んだ。

「すまん、遅くなった」これでも光輝にしては珍しく丁寧な言葉使いだった。
「いや、俺たちも今到着したばかりだ、千尋君久しぶり」と南條は千尋に向かい笑顔を見せてくれた。

 あまり思い出したくない事件だったが、南條には世話になった。「お久しぶりです、先日はありがとうございました」と礼を述べる千尋の肩を光輝がそっと抱いてくれた。
 そして南條と一緒にいるメンバーは千尋にとって皆初対面だった。自分とそう年齢が変わらないだろうメンバーを見て千尋も少し安心した。

「こんにちは僕、堂本紫苑です」その中の一人の青年が千尋に話しかけてきた。
(綿菓子みたいな子だ……)千尋は紫苑という綺麗な青年に少し見惚れてしまった。
 自分の棲む場所が日陰ならば、この青年は間違いなく日の当たる場所だろうと思った。それほどに醸し出す雰囲気が暖かかった。

「こんにちは、斉藤千尋です」千尋も笑顔を返した。

「おーい、場所確保したぞ」と手を振りながら二人の青年が戻って来た。「よし、移動しよう」と言う南條の掛け声で皆それぞれの荷物や弁当を持って歩き出した。

 千尋は、仁が持たせてくれた重箱を抱えているが、紫苑が持っている物に比べたら遥かに小さく思えた。
「紫苑、随分と頑張ったんだな」南條がそう言いながら紫苑の持つ重箱を受け取った。
「そうだよ、南條夕べから大変だったんだから」と言う男は紫苑の背に手を添えて歩き出す。
「このくらい平気だよ、桜の下でいっしょに食べるんだもん、全然苦じゃないよ」と明るく答える紫苑を見て、あの大量の弁当をこの青年が作った事を知った。

(凄い……)仁に任せっきりで何も出来なかった自分が少し恥ずかしく思えてきた。
「楽しみだね、お弁当」紫苑が笑顔で千尋に話しかけてきた。
「凄いですね、あんなに沢山、一人で?」と言う千尋の問いかけに「料理好きだから」と紫苑は明るく答えた。
仁みたいに料理が好きな青年もいるのだ、と思っていると千尋の持つ重箱に視線を投げられたから「これは、友達が作ってくれて……」と千尋は罰が悪くて言い訳をした。

「そういいね、僕にも少し分けてもらえるかな?人が作ったお弁当って美味しいんだよね」と言われ千尋は頷いた。暖かい日差しの中、紫苑の薄茶の髪がきらきら輝いて見えた。
(きっと穏やかな人生を歩いて来たのだろう……)と千尋は思っていた。
自分が特別に苦労をしたとは思っていないが、特殊な人生を歩いて来ている。そしてその道はこれからも続く。

「ここだ」という誰かの声に桜の下を見て驚いた。
 青いビニールシートを想像していたが、そこには薄いピンク色のカーペットが敷かれクッションまで置いてあり、折り畳みなのだろうか?座卓まで置いてあった。アルコールやソフトドリンクがその座卓に並べてあり、千尋は普通と違う花見に戸惑いを隠せなかった。

「僕、こういう花見は初めてなんだ……イメージしていたのとは、ちょっと違うけど紫龍、あっ紫龍って僕のパートナーなんだけど……その紫龍が色々セッティングしてくれたみたいで……」と少し恥ずかしそうに紫苑は説明してくれた。

「花見初めてなんだ?僕も初めてかもしれない……」
「かも?」
「小さい時に行った事があるような気がするけど、あまり覚えていないんだ……」少なくても雅と一緒に生活するようになってからは一度も花見などした事は無かった。だが紫苑も初めての花見というのには少々驚いた。

千尋と紫苑がそんな話をしている間に花見の席の準備が終わったようだった。光輝が一緒になって動いていのを見て千尋は驚き、そして嬉しかった。ヤクザである光輝が嫌いな訳は決してないが、こういう明るい場所での光輝も好きだと思った。
「紫苑、弁当広げていい?」体格の良い青年が早速そう聞いて来た。「いいですよー」紫苑も元気に返事をしている。
 千尋が持ってきた弁当も広げ、一緒に並べた。
「凄い……」紫苑が千尋の弁当を見て感嘆の声を上げていた。千尋も部屋では見る事が出来なかったから、初めて見る仁の弁当に驚きの声を上げた。「仁君、凄い」心から仁に感謝した。

「凄いね、千尋君のお友達、調理系のお仕事しているの?」紫苑の言葉にまさか、ヤクザの使いっぱしりだとも言えなかった。「好きみたいで……」「驚いた、素人さんなんだ」そういう千尋の弁当も仁の弁当以上の出来栄えだった。

「紫苑さんこそ、何か?」
「ううん、僕も趣味、僕は普通の会社員だよ」と答えた。

 そして周りの花見客からは少し浮いたような団体の花見が賑やかに始まった。千尋も紫苑の暖かい雰囲気に釣られるように沢山笑った。
 千尋と紫苑、そして深田と広海、同年代の四人で話はおおいに盛り上がっていた。普段なら直ぐ嘴を挟む光輝も黙って見守ってくれていた。それほどにこのメンバーは信頼出来るメンバーなのだと千尋は悟った。

 そして光輝達少し大人な四人も酒を飲みながら盛り上がっているようだった。
「千尋君の彼って紫龍の大学の後輩なんだってね?」紫苑の言葉に千尋は驚いた。
(光輝って大学出ていたんだ……)仕事柄どうも大学とは結びつかなかったから、今まで気にもしなかった。驚く千尋に「知らなかったの?」と紫苑も驚いていた。
「はい……大学出ている事すら知らなかったです」と千尋が正直に答えると紫苑はまた面白そうに笑った。

「あの……ちなみにその大学って?」
「あ、T大だよ、僕も彼らの後輩だよ」と言う紫苑に「僕もだ」とは就職も決まっていない今、千尋は言えなかった。少し沈んだ千尋を気にして、紫苑は「僕何か気に障る事言ってしまった?」と聞いて来た。

「違うんです、僕まだ就職先が決まっていなくて、ちょっと落ち込んでいるだけですから、紫苑さんは気にしないで下さい」と言った。
「そう?僕は紫龍の会社で働いているんだよ、勿論きちんと試験受けたけどね、千尋君は豊川さんの仕事は手伝わないの?」と紫苑に聞かれた。

 紫苑は光輝の職業までは知らないようだったので「それは無理なんです」と当たり障りの無い返事を返した。
「でも焦る事は無いよ、そのうち自分のやりたい事が見つかるから」と慰めてくれた。紫苑の優しい笑顔を見るとそんな気がしてくるから不思議だ。
(この人は一緒にいるだけで、暖かい……)そう感じて千尋も微笑んだ。

「おい、ちゃんと食っているか?」突然光輝が話しかけて来て紫苑と二人驚いた。アルコールが入っているせいか、さっきの爽やかさが消え剣呑なオーラを醸し出していた。

「光輝、飲み過ぎないでよ」と言うと傍で紫苑が笑っていた。「千尋君って強いね」
「そう、こいつは気が強い、だから危なくて目が離せない」などと酔っ払いの光輝が言っている。
「光輝、そんなに酔ったら運転出来ないでしょう?」と責めると「もう車はホテルに移動させてもらった」と平然と言う。
 考えてみたら、光輝は気が抜けない仕事をしているのだ、何も考えずにただ酔いたい時もあるだろう。背負った物の大きさ重さは人それぞれだが、皆それなりの物を抱えているのだろうと千尋は思った。

 そして、自分は光輝の庇護の元でぬくぬくと暮らしている雛鳥みたいな物だと思った。東京に戻ったらきちんと今後の事を話し合おうと思ったら少し心が軽くなった気がした。

「紫苑さん、僕も頑張れるような気がしてきた」
「そう、何かあったら僕も相談に乗るし、ここにいる人たちは皆良い人ばかりだから、僕じゃなくても相談に乗ってくれると思うよ」と言われ千尋は心強かった。
 
 きっと紫苑という人間の傍にいるから、皆良い人になれるのでは?と千尋は思った。それほどに紫苑の持つ癒しの力は大きいような気がした。

 昨日まで忙しくてあまり寝ていなかった光輝がいつの間にか千尋の膝枕で眠ってしまっている。
そんな光輝を見て「僕も眠くなった……」と紫苑は横にあったクッションを抱えていた。考えてみればあれだけの量の弁当を作ったとなると、殆ど眠ってはいないだろうと察しがついた。

 そしてこのカーペットもクッションも、そんな紫苑の為に用意されていたと気づいた。
 とうとうクッションを抱えて横になった紫苑を見ると、直ぐにパートナーの堂本紫龍がやってきて、ブランケットをそっと掛けていた。そんな紫龍と目が合った。
「千尋君も大変だね、こんなやんちゃな男のお守で」と言われたが「そうでもないです」と答えた。
一瞬驚いた目をした紫龍に「こいつを支えてやってね」と優しく言われ「はい」と頷き紫龍が持って来てくれたブランケットを光輝の体に掛けてやった。
「千尋……」寝言で呼ばれただけでも千尋は嬉しかった。


 一行は日が陰る前に予約してある旅館に向かった。
八人は旅館からの迎えの車に乗り込み、沢山の荷物は南條が運転してきたワンボックスカーに積み込まれるが、運転席に座ったのは旅館から来た従業員だった。

 千尋は何という殿様一行なのかと驚いていた。だが、それは旅館に到着し離れに案内された時に納得できたような気がした。五部屋ある離れを全室この堂本という男は貸切にしていたようだった。
 どれだけ贅沢な花見なのだろう?と千尋は内心呆れてしまっていた。

 花見の席で眠っていた紫苑も楽しそうに部屋の中を見回している。「大露天風呂があるんだって、千尋君一緒に入らない?」と声を掛けられたが、千尋は少し残念な気持ちでその誘いを断った。
 飲み過ぎた連中はそれぞれの部屋で寛ぎ、若い二人は先に大きな露天風呂に行ったらしい。「僕も」と言う紫苑は堂本に反対され、部屋に付いている露天風呂に連れて行かれたようだった。

光輝は一般の露天風呂に入れない事情がある。南條と堂本はその理由を知っていたが、千尋の事までは知らないようだ。
「光輝、部屋の露天にでも入って来いよ」と声を掛けてくれる。きっとこういう造りの旅館にしたのも光輝の事情を考えてくれての事だと思った。

「よし!千尋風呂行くぞ」突然立ち上がった光輝に驚きながらも、千尋も露天風呂に入りたかったから、喜んで光輝の後に続いた。

「ああ、気持ちいいなぁ」
「お酒飲んでいるんだから、長風呂は駄目だからね」
「千尋こっちに来いよ」千尋の注意など聞いていないような光輝に溜息を吐いてから、言われた通り光輝の横に身を沈めた。
「光輝、今日は連れて来てくれてありがとう」
「楽しいか?」
「うん凄く楽しい」千尋の答えを聞いて光輝も嬉しそうに笑った。
「ほら、こっち」と千尋の体を抱き上げ向い合せで膝の上に座らされた。
「ちょっと……」
「いいだろ、誰も見ていないんだから」
 だからと言ってこういう場所で膝に跨っているのも、変な感じだし、変な気分になりそうだ。

「千尋……」甘く囁かれたあと光輝の唇が付けられた。それはいつもの貪るようなものでは無く、穏やかな優しい口付けだった。

「これからの人生をゆっくり生きて行こうな」
「うん」
 そう、ゆっくりでいい。焦る事無くゆっくりと……
その道は決して平たんではなく、棘の道かもしれないけど
それでも光輝となら一緒に歩ける、と千尋は思っていた。

「僕を捨てたら殺すよ」笑顔で言う千尋に
「上等だよ」と光輝も笑顔で返した。

 互いの目の中に映る自分の姿を確認しながら、また二人は唇をそっと合わせて行った。

                      おわり




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愛おしそうに千尋の肩に口付けるこの光輝が大好きです^^

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更新がままならないのに、ご訪問下さってありがとうございます。

先日「十六夜」をこちらでアップすると書きましたが、ソネットのブログでまだ掲載されていましたので、移動はなしになりました^^;勝手申しますがご理解宜しくお願い致します。

それと……先日「冷し足りない」の再掲載の時に「某企画」と書いていまして……
読み手様を不愉快にするのでは?
イラストを使用する場合は観潮楼のテロップを付けるようにとご注意頂き、書き替えました^^;

イヤな気分になられた方がいらっしゃいましたら、この場を借りてお詫びいたします。
申し訳ございませんでした!





◇はじめにお断りとお願い◇

この話は同人誌「僕の背に口付けを」に掲載したサイドストーリーです。
作った3月以降ブログでアップするのは考えていたのですが、「僕の背……」を今後書き続けるには、必要な話なので、今回ブログでも公開する事にしました。
同人誌を購入して下さった多くの方には申し訳ないと思いますが、宜しくお願い致します。

他の番外はブログでの公開予定はございません。



全5話です。

虎太郎×仁





二月も終わりだというのに、寒さが緩むどころか、反って厳しくなって来たある日の午後、事務所に呼び出された仁は、この事務所では社長である、若頭の豊川光輝に仕事を言いつけられ、激しく動揺していた。

「虎太郎が風邪でダウンした、お前が行って身の回りの世話をしてやれ」と。
あの強靭な体を持った虎太郎が風邪?仁は信じられない気分で「風邪ですか……?」と聞き返した。
「ああ、鬼の霍乱ってやつだな」
目の前にいる若頭は心配するどころか、楽しんでいるかのように見えた。

「でも俺、千尋さんのお世話が……」
「いいんだよ千尋は、俺が世話するから」
そう、千尋も先日風邪を引いてしまい、昨日辺りやっと熱が平熱に戻ったばかりだった。日中懸命に看病して、おかゆなど作って身の回りの世話をしたばかりだった。平熱に戻ったとはいえ、まだ体力が元に戻った訳ではない千尋の事も気に掛かったが、それでも頭の中は虎太郎の容態が気になって仕方がなかった。
「若頭……ちゃんとお世話出来るんですか?」
「ああ、仁のおかげで、大分良くなったからな、後は俺だけで大丈夫だ」
仁のおかげなどと言われたら、嬉しくて仁の顔も綻んでしまう。

「じゃ俺虎太郎さんの所に行きます、先に買い物してから行くんで、千尋さんの分は冷蔵庫に入れておきますから、あとは大丈夫ですか?」
仁はこの若頭が料理など出来る筈もないと考えると不安になり、もう一度念を押した。

「ああ、俺だって料理くらいは作れるさ、愛しい千尋の為だと思えば何だって出来る」
さりげなく惚気られ、仁は想像して顔を赤くしてしまった。
若頭がどんなに千尋を甘やかし、愛しているかは見ていれば手に取るように判る。それも半端ない甘やかせ方に時々千尋と顔を見合わせ、苦笑いを零していた。


仁は買い物を済ませ千尋の分を冷蔵庫にしまってから、虎太郎のマンションに急いだ。沢山の食材と薬を手に提げ、虎太郎の部屋の暗証番号を押した。送り迎えでこのマンションを訪れる事は何度かあったが、部屋の中に入った事は今までなかったから、仁はちょっと緊張していた。
何度か虎太郎に体を弄られた事はあったが、それはいつも事務所の中だけで、それ以上虎太郎が何かを仕掛けて来る事はなかった。

(俺何か期待している?バカだ……相手は病人だぞ)などと、頭の中で悶々としてしまっていた。ドアの前からチャイムを鳴らし、名を告げるとガチャッとドアが開き、虎太郎が驚いた顔で立っていた。

「仁……どうしたんだ?」若頭には何も聞かされていなかったらしい言葉に仁は慌てて「あの、若頭に世話するように言われて来ました」と言い訳のように言った。
「そうか、悪いな手間かけて。大した事は無いんだがな」
珍しく虎太郎の言葉が優しかった。
「失礼しますっ」と言いながら、仁は中に入り、食材の袋を床に置いた。

普段はワックスで固めている髪がさらさらと頬に掛かっている虎太郎を見て、仁の胸はドキンと音をたてた。
「大した事ないって、ちょっと顔赤いですよ?熱は?」そんな心情を隠すように仁は虎太郎に問い掛けた。
「ああ、さっき計ったら三十八度五分だ、こんなの大したうちには入らない」
「三十八度五分……、」その熱の高さに仁は驚いた。
「千尋さんなら入院させられていますよ」と言うと虎太郎は苦笑して「そうかもな……」と呟いた。

「もう寝ていて下さい、飯は?薬は?」捲くし立てる仁に首を振る虎太郎に呆れて、「補佐に何かあったらどうするんですか?早く治して事務所出て下さいよ」心底心配した言葉を仁は吐いた。「何、仁も心配してくれるのか?」
「当たり前です!早く寝て下さい。俺何か消化の良いのを作りますから」と虎太郎を寝室に追いやった。

「全く……」自分の体を労わらない虎太郎に腹が立ってきた。仁は慣れた手つきでお粥を作り、小さめの土鍋に鱈と豆腐を入れた。とにかく簡単な物でも食べさせて薬を飲ます事が先決だった。

テーブルの上にそれらを並べてから、寝室のドアをノックした。
「あの、飯の支度出来ましたから……」
静かに声を掛けると中から虎太郎が出てきて、テーブルの上を見て少し驚いた顔を見せ、「さすが手早いな」と嬉しそうな目を仁に向けてくれた。
その目を見て、ここに来てから立場もわきまえずに仕切ってしまった事に恥ずかしさと、畏怖を感じてしまった。
「あ……すみません、俺……命令するような事言ったみたいで」
「仁なら許せるさ」逆にその虎太郎の言葉に身が縮む思いだった。
(やば……俺じゃなきゃ許さないって事か?)

「美味そうだな……」
虎太郎の言葉に我に返った仁は、せっせと給仕し、食後に薬を飲ませ安堵の溜息を吐いた。
温かい物を食べたせいか、熱のせいか虎太郎の額に汗が浮かんでいた。
「汗掻いている、体拭いて着替えた方がいいですよ」と仁が言うと「手伝え」と言われ、蒸しタオルをいくつか作った。

仁が蒸しタオルを作っている間に虎太郎は寝室に移動したようで、リビングにはその姿が無かった。
恐る恐る寝室をノックすると中から「入れ」と声がし、仁は初めて虎太郎の寝室に入った。

広い部屋の中央に大きなベッドが置かれていて、寝る為だけに帰る忙しい虎太郎の日常が窺い知れた。
サイドテーブルに数本のタオルを置いて次の動作を仁が躊躇っていると、体を起こした虎太郎が部屋着を脱ぎだした。
「ほ……補佐……何を……」間の抜けたような仁に向かって
「脱がなきゃ体拭けないだろう?」と虎太郎は口角を上げて言った。
(あ、そうか……俺何動揺しているんだろう……)

仁が呆然としている間に虎太郎は全ての服を脱ぎすて、ベッドの端に腰を下ろしていた。
(えっ!全部)
「早くしろ、風邪を引かせるつもりか?」
虎太郎の唸るような声が仁の耳に飛び込んだ。
「あ、いや、もう風邪引いているし……」
仁は虎太郎の全裸に動揺し、普段だったら怒られるような事を平気で言ってしまった自分の身をまた竦めた。




◇会話と地の文の使い方が相変わらず下手ですね。ごちゃごちゃして読みにくいですね。
今後の課題です◇


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「早くしろ」
もう一度虎太郎に言われ、やっと仁はタオルを手に取った。
「し、失礼しますっ!」
タオル片手に頭を下げ、虎太郎の横に立った。だが、どこからどう拭けばいいのか、判らず躊躇っていると、背中と短く命令された。

「は、はいっ」
タオルが熱すぎないか手で確認して、その背中を拭き始めた。上半身裸は事務所で何度も見た事がある。
「虎……やっぱ何度見ても格好いいですね」
虎太郎の背中の虎の刺青に見惚れた。そして、ちょっとだけ何もない自分の背中を寂しくも思った。
タオルの温かさに「気持ちいいなぁ」と虎太郎が小さく漏らす。その言葉がまた嬉しくて、言われるがまま仁も虎太郎の体を拭いた。

背中から腕、胸、脚と全てを拭き終えて仁も満足そうに「全部拭きました。新しい着替えは?」と部屋を見回すと虎太郎に「まだ全部じゃねぇ」と凄まれ視線を泳がせてしまう。

「ぜ、全部じゃないって言われても……」
あと残すところは、男の大事な部分だけだ……まさかそこまで自分が拭くのか?と仁は言いたかったし、拭く勇気が無かった。

「ほら、ちゃんと前にしゃがんで拭け」
もう一度催促され、仁は新しいタオルを持って虎太郎の脚の間に身を置いた。
だが、そこから先は体が動かない。ちらっと虎太郎の股間に目をやれば、それはさっきより幾分か大きくなっているような気がした。

自分の物は何度か扱かれた事があるが、虎太郎のそこをマジマジと見るなんて仁には初めての事だった。いや、虎太郎の物だけじゃない、今まで男の脚の間に跪いた事など一度も無かった。
だがいつまでもこんな格好のまま虎太郎を放置しておけば、熱は下がるどころか酷くなってしまうと、仁は意を決してタオルをぎゅっと手で握った。

「失礼します!」
仁は気合をいれ、虎太郎の股間に手を伸ばした。
緊張と早く済ませなくては、という焦りで手に力が入ってしまい「もっと丁寧にやれ」などと注意されてしまった。

「はいっ、すみません」
仁は謝り、今度は丁寧に優しく拭いてやった。
(何だかドキドキする……)もしかして今熱を測ったら虎太郎よりも高いんじゃないかと、火照る顔で何気なく虎太郎を見上げた。

その途端手の中の分身がぐんと嵩を増した。
「お、終わりました」
虎太郎の脚の間から逃げるように仁が立ち上がった時にその手を捕られた。あっ!と思った時にはもう仁は獰猛な虎に組み敷かれた後だった。

「くそっ!」(結局光輝の思うツボか……)
虎太郎の呻きを聞き、身を潜めていた仁は抵抗も出来ないうちに衣服を剥がされ、あっという間に全裸に剥かれてしまった。
「えっ?あっ?補佐ちょっと……」

虎太郎はバレンタインに仁から貰ったチョコを食べもせずに、会社の机の上に飾っていた。
組事務所と会社との二足の草鞋を履いた虎太郎には気の休まる時があまりなかったが、疲れた時仁から貰ったチョコを眺めているだけで、何となく心が穏やかになっていた。

そんな虎太郎を見た光輝に「食っちまえよ」と何度か言われた。光輝の言葉はチョコを食べろと言っているのではないと虎太郎は、光輝の言葉の意味を判っていた。

「俺は傷ひとつ付けないで、あいつを元の世界に帰してやりたいんだ」
「帰した途端食われるのがおちだ」
光輝にそんな事を言われ多少焦っていた感はあった。そして今日まさか自分の世話に仁が来るとは思ってもいなかった。ちょっとからかうつもりでとった行動が自分の抑えた気持ちに火を点けてしまったのだ。

「仁、俺のもんになれ」
「へっ?」
虎太郎の言葉の意味も判らない仁は素っ頓狂な返事を返したが、言うと同時に耳たぶに噛み付かれドキンと体を震えさせる。
「ほ……補佐っ……あっ」
耳の中まで舌を差し込まれ、ぞくぞくする感触に仁が喘いだ。熱が高いせいか、虎太郎の舌が凄く熱くて、仁はそれだけの事に自分の疼いていた体が更に熱くなってしまうのを感じた。

虎太郎の舌が項を這い、肩から胸に落ちる頃には仁の中心も大きく育っていた。
「感度いいな」
虎太郎の一言にまた追い詰められてしまう。
「ほさぁ……止めて下さい……」
虎太郎の舌の這う所全てがジンジン痺れてきて、喘ぎながら抗うが、虎太郎が育った性器に触れた途端仁の腰が大きく跳ねた。
「ああん……」
自分の吐いた甘い声に驚き目を見開くと、虎太郎と視線が絡み合ってしまった。

「仁……俺はお前を抱く」
「お……俺に拒否権は?」
「無い」
即答され、仁は小さく慄いた。
「嫌か?俺が嫌いか?」
嫌いかと聞かれれば仁は首を横に振るしかなかった。

「恥ずかしいっす」
もし、どれかひとつ感情を言葉にしろと言われたら恥ずかしい、としか言いようが無い気がした。
「恥ずかしくは無い、感じるままでいいんだ」
「補佐……熱は……?」
自分は風邪を引いた虎太郎の看病にここに来た事を仁、は自分にも虎太郎にも判らせたかった。

「お前を抱けば熱なんか下がる」
「ほ、本当っすか?」
「ああ、だから抱いていいか?」
それで虎太郎の風邪が治るのならば、と仁は覚悟を決めて頷いた。

「でも……酷くなるといけないから、ちゃんと布団掛けて下さい」
そんな仁の言葉に虎太郎が口元を緩め、ふわっと羽根布団を二人の上に引っ張った。晒された体が隠れて仁も安堵の息を吐いた。

「さあ、補佐……抱いて下さい」
仁は両手を広げ虎太郎の背中に抱きついた。
あまり状況を判っていないような仁に失笑しながらも、虎太郎は手の動きを止めなかった。

「補佐、ダメです……そんなに触ったら俺……」
虎太郎の体温の高い手で握りこまれたら、気持ち良くて直ぐに出してしまいそうで、仁は緊張しながらそう言った。
「出せばいいだろう?初めてじゃないし」
その言葉に自分が過去に何度か虎太郎に弄られ、その手の中に吐精した事を思い出した。
「でもマジやばいっすよ……あぁっそんなに強く動かさないで下さい……」
仁は今自分が吐き出したら、この高級そうな布団を汚してしまうと考え、必死に堪えていた。


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それでも虎太郎の動きが止まる事はなく、仁は必死に「布団が……布団が……」と訴えていた。
「全く貧乏性な奴め」と呆れたように言い、仁が気にしている布団を引き剥がした。すーっと篭っていた熱は引いたが、仁の体は射精体勢に移ってしまっていて、もう止められなかった。

「ほさっ……だめだ……出る、出そう……」
「ベッドの中で補佐なんて言うな、虎太郎でいい」
そう言いながら虎太郎は仁の胸の尖りをちゅーっと吸い上げた。
「うあああ……あ、あ」
新しい刺激に堪えられずに仁が虎太郎の手の中に熱い飛沫を飛ばした。
「あああぁぁぁ……」
ビクビクと体を痙攣させながら、仁の頭の中は真っ白になり、そして自分の粗相に青くなった。

「す、すみませんっ!俺……どうしよう?」
看病に来て、自分が気持ちいい思いをしてしまった仁は動揺を隠せなかった。
「じゃ何でも言う事を聞くか?」と虎太郎に言われ、大きく何度も頷いた。
「ここに四つん這いになれ」と言われて素直に両手両膝を突いた。
「補佐……何か恥ずかしいっす」仁がそう言うと、虎太郎の回した指が尖りをぎゅっと摘んだ。
「あっ、痛っ……」
「補佐じゃないだろう?」
「こ……虎太郎さん……」
(誰かに聞かれたら殺されるぅ……)

四つん這いになった仁の背中を熱く大きな掌が撫で回している。
「お前は、綺麗なままでいろ」と呟かれ「後悔しているんですか?」と仁は聞いてみた。
「いや、俺はこの世界が合っているし、ここ以外で生きるつもりは無いが、お前は違う……」

仁は以前に虎太郎に「ヤクザに向いてない」と言われた事を思い出した。
「俺って、そんなに頼りないですか?」と聞くと「そういう意味じゃない、お前は表の世界で俺達の役に立ってくれればいい」と虎太郎は優しく返事をした。

「表の世界で……それで役に立てるんですか?」仁は不思議な気持ちでそう聞いた。
「充分に役に立てるさ、お前は千尋さんと一緒に陽の当たる場所にいろ」

(千尋さんと一緒に……陽の当たる……)

千尋と同じ場所っていう事は自分も大事にされているってこと?そう考えると仁は急に嬉しくなった。
今まで自分は何の役にも立ってないと思っていたが、もしかして自分も誰かに必要とされている?と思うと嬉しくて仕方なかった。

母親に産まなければ良かったと言われて、傷つきながらも必死に生きて来た。そんな仁が誰かに必要とされる事は、生きている事を許されたような気がした。
「虎太郎さん……俺、生きていて良かったって……初めて思いました……」

虎太郎は仁の家庭環境は調べていたが、母親に投げられた言葉までは知らなかった。だが、幸せな家庭環境では無いことくらいは察しがついていた。

「当たり前だ、そしてこれからは俺の為に生きろ」
(虎太郎さんの為に……)
「判りました俺、鉄砲玉でも何でもやります」
全然判っていない仁の尻の上にローションを垂らしながら虎太郎は小さな溜息を吐いた。
「ひっ!何ですか?」
ローションに驚いて身を起こそうとする仁の背中を押し戻して「ただのローションだ、大人しくしておけ」と虎太郎は言う。

「はい……ローションですか……」
だが仁はローションが垂らされる理由は知らなかった。
仁は尻の窪みに何か違和感を覚え、それが虎太郎の指だとわかると大きく尻を振って逃げた。
「こら、大人しくしておけ」そう一喝され「でも、何?何でそんな所に指を……」
「解さないと入らないだろう?」
「はぁ……そうなんですか……て、入れるんですかっ!?」

「大丈夫だ、ちゃんと解せば痛くはないから任せておけ」
「ほ……本当に痛くしないで下さいね……」
知識だけでは知っていた男同士のSEXを今自分が経験しようとしている事も仁にはピンと来ていなかった。

ぷつっと虎太郎の指が孔の中に埋められ、「うわっ!」と身を仰け反らし驚いた。痛みや違和感よりもただ恥ずかしさが先に立って無意識に逃れようと腰を振った。 

「こら、大人しくしないと、解さないで突っ込むぞ」と虎太郎に脅されまた仁は大人しく身を潜めた。
「コ、コタロウさん……、」
「何だ仁?」
「あの……ここに入れるつもりなんですか?」
「他に入れる所があるのか?」
「いえ……俺の知る限り無いです……」

「あの……コタロウさん……」
「今度は何だ?」
「入れるのは、その……そ、それですよね?入りますか?そんなぶっといの……」
「ちゃんと入るように拡げるから安心しろ」
「あ、ありがとうございます……」

仁は儀式を前に自分の体の準備をしてくれる虎太郎に感謝した。
(そうだ、これは儀式だ、一人前の男になる為の儀式なんだ……)仁はそんな気がして、急にやる気を感じた。

「俺、いつでもいいですから、がっつり行っちゃって下さい」仁は自分の意思の強さを虎太郎に宣言したかった。
「ふっ、そうか……じゃ遠慮なく行かせてもらうよ」そう言って虎太郎は差し込む指を二本に増やした。
「ああっ!痛っ……つっ……続けて下さい」
虎太郎の太い指が二本、孔を弄り入り口を拡げている。ぐるっと指を回転させられ、「ううっ」と仁が唸り声を上げた。


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「苦しいか仁?」
「いえ……もう何本でも入れちゃって下さい」
そんな仁に口元を緩めた虎太郎が、仁の中を探るように指を動かしていた。

「やああっ、ああっ、そこ何か変……」
触られてもいない仁のペニスがぐんと上を向いてしまった。
「ここか……仁のいい所は」
呟くような声のあと、執拗にその場所を指で攻められ、仁はおかしくなりそうな気持ちの中喘いでいた。
「ああん……あっ……だめ……出ちゃう……出ますコタロウさん……そこ触らないで下さい」

「仁いい子だ、だいぶ拡がって来たぞ、もう一本指増やすから、大人しくしているんだぞ」などと言われ仁はコクンと頷いた。
「あっ……あ……っ……熱い」
三本の指を中でバラバラに動かされれば、不思議な感覚が体の奥から芽生えてきて、仁は戸惑った。
「コ……コタロウさん……どうしよう?」
「今度は何だ?」
「俺……何だか変な気分になってきました……」
「感じているって事だよ、素質あるよ仁は」
「素質……」
虎太郎に褒められ気を良くした仁は、口元を緩め、またその変な感覚に身を委ねた。

「そろそろいいかな?」
そう言って虎太郎は三本全ての指を抜き取った。強張っていた仁の体から同時に力が抜け崩れ落ちそうになったが、今度はその腰を掴まれ高めに引き上げられた。

そんな体勢が凄く恥ずかしくて「ああっ……それ恥ずかしいっす」と身を捩った時に、熱く質感のある物が今まで指を咥えていた後孔に押し当てられた。
その時になって仁は初めて怖いという気持ちが芽生えてきた。
「ああっ……コタロウさん……俺ちょっと怖いっす」
「大丈夫だ、全て俺に任せろ」

虎太郎の言葉が終わらないうちに、引き裂かれるような痛みが孔を襲った。
「あああっ!ダメっす、やっぱ痛いです。無理、無理、あぁ裂けるからっ!」
信じられないサイズに仁が慄き叫んだ。
「最初だけだ、我慢しろ。男だろ?」

(男だろ……男だろ……そうだ俺は男だ)すっかり虎太郎のペースに嵌った仁はその襲い来る痛みを唇を噛んで堪えた。
肉壁いっぱいに虎太郎の太いペニスが挿入され始めた。
「ううっ……」(やっぱ痛いよぉ)でもその泣き言は声に出す訳にはいかなかった。

男と見込まれての儀式、立派に済まそうと仁は堪えた。
ぎゅうぎゅうと内肉が拡げられて、全てが埋まった。と仁は思った。

「あと半分だ、もう少し頑張れ」
虎太郎に声を掛けられ、ぽたっと涙が零れた。それは生理的な涙だったのだが、仁は自分が泣いてしまった事が男として恥ずかしくて、強がった。
「遠慮しないで、一気にいっちゃって下さい」と。

「俺もちょっと我慢出来そうもないから、そうさせてもらうよ」
そう虎太郎は言い、残りを一気に奥まで突き刺した。
「うわぁぁぁぁぁ……っ」
仁の目の奥にチカチカと星が飛んだ。
「全部入ったよ」
その時虎太郎が耳元で囁いて一瞬飛ばした意識を引き戻す事が出来た。

「あ、ありがとうございますっ」
これで男になれた気がして仁は虎太郎に礼を述べた。
「仁……」
「はい?」
「俺以外とこんな事をするなよ」
(俺以外って……)考えた事も無かった事を言われ仁は驚いた。
「勿論です、仁義はちゃんと守ります」
などと訳の判らない事を言っている仁の背後で(いや、貞操を守ってくれ)と、虎太郎がまた一つ溜息を吐いた。

「仁、動くぞ」今までに聞いた事のない甘い声に仁の腰が疼いた。
「は、はい……思う存分にお願いします」
とは言ったものの、内蔵まで引き摺られるのではないか?と思う程の感触に仁は呻いた。だが何度かゆっくりと抜き差しされているうちに、何だか変な気分になってきて仁はそんな自分に躊躇った。

(やばい……気持ち良くなって来た……)

「あは……っ、あぁぁっ」声を出すまいとしていても、時々堪えられないで自分では無いような声が零れてしまう。
「仁、いいよ、お前の中、凄く絡んで来ていい」
虎太郎にいいと褒められ、仁も嬉しくなってしまう。

「ああっ!」
突然太い部分で中の変な所を擦られ仁は大きな声を出してしまった。
「やだっ……そこ気持ち良過ぎて……変」
「ここか?」
確認する虎太郎の声も普段よりも低く仁の鼓膜に響いてくる。
「ああっ……そこ……そこが……気持ちいいんです」

仁は今にも爆発しそうに膨れ上がっている自分のペニスに触りたくて仕方がなかった。体を揺らす事で、少しでも腹に当たればいいと、腰を振った。
「こら、そんなに動くな」また虎太郎に諌められる。
「だって……触れないんです」
「ふっ」
背後で小ばかにしたように虎太郎が笑ったかと思ったら、その手を仁のペニスに回してきた。

「やあああっ、ダメです、触ったら出るから……」
「いや、さすがに俺も持ちそうにない、一緒にイくぞ仁」そう仁に声を掛けると虎太郎は激しく動き出した。
「あぁぁぁコタロウさん……いい、気持ちいいです」
「俺も仁の中凄い気持ちいいぞ」
虎太郎の言葉に仁はズクンと胸が痛くなり、そしてそれとは別に嬉しくもなる。

「あっあぁぁ……あ――っ出るっ!出ちゃうよぉ、もっダメ」
ビクビクと内壁とペニスを震わせ仁は二度目の精をシーツの上に放った。
背後で「うっ」と呻いた虎太郎も釣られて仁の中に飛沫を放ったようだった。
二人して大きく喘ぐような息を吐いている。

「仁……」
甘い虎太郎の声を聞き、だるさの中仁が「はいと」返事をすると「も、ダメだ……さすがに……」とそれだけ言うと、虎太郎は動かなくなった。


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「へっ!補佐!しっかりして下さい」
こんな状態になって、仁は改めて虎太郎は、熱があった事を思い出した。

「ヤバイ!救急車?それとも若頭に電話?」
慌てる仁に向かって目を瞑ったままの虎太郎が、「大丈夫だ、朝まで寝ていれば治る、だからお前シャワー浴びて体綺麗にして来い、朝までベッドを離れるな」などと仁に向かって言ってきた。

「本当に大丈夫ですか?」
「ああ、心配するな」それだけ言うと虎太郎はもう小さな寝息をたてていた。
少し安心した仁はベッドから降りようとして、ベッドの下に崩れ落ちた。
「へっ?どうして?体が言う事を聞かない……」
腰も脚の付け根も、そして後孔も痛みとだるさがある。

それでも仁は這うようにゆっくり部屋を出て、検討をつけたバスルームに辿り着いた。壁に手を突きながら、やっと自分の精液でベトベトの体を洗った。
そっと腫れているような後ろにも手を伸ばすと、虎太郎の吐き出した精液が零れ腿を伝った。
「うっ、エロイ」
自分の体が淫蕩に思えてきて、仁はひとり顔を赤らめた。

そして腰に衝撃を与えないように、ゆっくりと歩いて、虎太郎の眠る寝室に入った。
さっき使ったタオルを手に戻り、もう一度蒸しタオルを作り、そのタオルで虎太郎の体を綺麗にしてやった。
熟睡しているのかビクともしない虎太郎に痛む体で三十分かけて服を着せ、額に買って来た冷却シートを貼って、やっと仁も虎太郎の横で小さくなって眠りに就いた。


翌朝、すっきりとした気分と体調で虎太郎は目覚めた。横を見ると、仁は小さくなってまだ眠っている。仁を起こさないようにそっとベッドから下り、浴室に行って鏡を見て驚いた。
まるで子供のように額に貼り付いている冷却シートに口元が緩んだ。そして、裸で寝たはずの自分がパジャマを着ている。

「仁……」
初めての行為のあとに、ここまでしてくれた仁が愛しかった。
「参ったな、手放せなくなった」とひとりごちる。

自分の額に手を当てると、もう体温計は必要ないだろう程度に下がっていた。軽くシャワーを浴びて寝室に戻ってもまだ仁が目を覚ます気配はなかった。
そんな仁の額に軽く唇を当てると、楽しい夢でも見ているのか仁はふふっと小さく笑った。

そっとドアを閉め、キッチンに行くと昨日仁が買って来た大量の食材を片手に虎太郎は調理を始めた。その料理が出来上がろうとする頃、玄関のチャイムが鳴った。

誰が訪ねて来たか、大体の想像がつき、ちっと小さく舌打ちしてから玄関の鍵を開けに行った。
「おう、どうだ具合は?」と言ってから元気そうな虎太郎の顔を見て「何だ、もう大丈夫そうだな……」と口角を上げる。

「おかげさまで……」
「ところで、仁を行かせた筈だが?」
ニヤニヤしながら言う光輝に「帰れ」と言おうとした時に光輝の背後から「果物持ってきました」と千尋が顔を出した。
「おや、千尋さんまで……たかが風邪くらいで大袈裟ですよ」と取り繕った。
「あれ?仁君は?」
二人に聞かれてしまい、虎太郎は観念したように「あっちで寝ている」と寝室に視線を投げた。

「へえ?まだ寝ているのか?躾の出来てない奴だな、叩き起こすか?」
揶揄するように言う光輝に向かって、もう一度舌打ちする。
「……多分、今日の仁は使いもんにならないから、今日まで休ませてくれ」と虎太郎は渋い顔で言う。

「えっ?どうして?仁君まで風邪引いた?」
何も気づかない千尋に光輝が耳打ちした。
一瞬驚いた顔をした千尋は、頬を染めて「そう」と呟く。


「僕たちはお邪魔みたいだから、もう帰ろう」と千尋に言われれば光輝も頷き、千尋の肩を抱く。
「あ、これ……では仁君に食べさせて下さい」と持って来た見舞いの果物の籠を虎太郎に手渡した。
「恐れ入ります」そう言って虎太郎は千尋から籠を受け取る。

「トラ、お前も今日までは仕事出なくていいぞ」そう言って光輝と千尋は早々に虎太郎のマンションを後にした。

「仁君と虎太郎さんが……」
千尋が嬉しそうな顔で呟いていた。バレンタインのチョコを嬉しそうな顔で買う仁を見て、千尋は仁の虎太郎を思う気持ちに気付いた。
当の本人が自覚しているかは判らないが……

「仁君幸せになれるよね?」
千尋が真剣な目をして光輝に聞いた。
「さあな、幸せなんて他人が量るもんじゃないさ」
「そうだね……」
「それより、今日は邪魔者がいないから……」
「はあ?光輝は虎太郎さんの分まで働かなくっちゃダメでしょう?僕だって、仁君の分まで働くから」

「何、今夜は千尋の手料理か?」
「……簡単なのでよければ……」
千尋達の口に入るものは殆ど料理上手な仁が作ってくれていた。
「千尋が作ってくれるんなら、ご飯と味噌汁だけでも俺は嬉しいけどな」などと言われれば、悔しくて「魚くらいは焼ける」などと千尋もムキになってしまう。

「俺は飯よりも千尋を……」と言いかける光輝を置いてさっさと千尋は車まで歩いて行ってしまう。
「おい、危ないから勝手に先行くな」などという光輝の声など千尋には届いてはいないようだ。
「ったく……」

「光輝、車の鍵貸して」そう言って千尋が手を差し出した。
「何するんだ?」
「仁君の代わりの僕が運転するから、今日一日僕を運転手として雇って?」

光輝は今まで千尋が車を運転する姿など見た事がなかった。
「運転って……運転出来るのか?」
「失礼な……ちゃんと免許は持っているから」
プイと剥れる千尋だが、運転に慣れない者が簡単に運転出来るような車ではなかった。

「僕って意外と器用なんだよ、知らなかった?」
「いや……知らないし……お前の運転なんて怖くて乗っていられないような気がするが……」
「酷いなぁ……」悔しそうに言う千尋に「最後に運転したのはいつだ?」と聞くと「二年前、教習場の卒検の時」と、とても怖い返事が返って来たので、光輝は丁重に千尋を助手席に案内した。

「僕だって、光輝の役に立ちたいのに……」運転を却下され千尋は寂しそうに呟いた。
「千尋……役に立つってのは、形に見えるものばかりじゃないだろ?俺にとって千尋の存在自体が有難いんだ」
「でも……」
「急がなくていいから、何かやりたい事を探してくれ」

光輝は千尋が今の環境に不満というか、不安を持っているのは判っていた、だからといってどこかの会社に勤める事を認める事は出来なかった。
小さくても一つの社会の中に入ったら千尋は必ず傷つけられてしまう……要らない傷など負っては欲しくなかった。
そう思いながら地下駐車場から地上に上がった。

「うあぁ良い天気」
千尋が眩しそうな顔で、久々に暖かくなった今日を喜んでいるようだった。
「ああ、良い天気だな」
光輝もそう言って、車が停車した一瞬の隙に空を見上げた。

「光輝……」
「ん?何だ?」
「何でも無い、ちょっと呼んだだけ……」
「千尋……」
「ん?」
「好きだよ」
「……もうすぐ春だね……」
そう答える千尋に苦笑しながら光輝はアクセルを踏み込んだ。


                        おわり


◇春に書いた作品ですので、季節が少しずれています^^;


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