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1周年記念 「彼方から・・・」11

 22, 2011 00:00
秀人は2度訪れた事のあるマンションの前に立っていた。
2度と言っても1度目は意識がなかったから覚えてはいないが、それでも3度目には違いない。
外観からもこのマンションに住む者の収入が窺えるような立派な造りだった。
もう10分もこの建物の前でうろうろしている、この扉を開ければ何かが判るかもしれないのに・・それはとても厚かった。

30分・・・もう帰ろうと背を向けた時に背後から自分を呼ぶ声が聞こえて来た。
「秀人君?」
その声に秀人は歩みを止めた・・・止めたというよりも動けなくなった。
振り返る事も出来ないで立ち竦む秀人の前に回りこんだ蓮が
「もう来てる気がして迎えに来た」と言う。
「あ・・あの僕・・やっぱり帰ります」気持ちは帰ろうとするのに体は動いてはくれない。

「待って」肩に置かれた手が・・そっと置かれただけなのに凄く重く感じられた。
「折角来てくれたんだから、お茶でも飲んでって」
肩に置かれた手が秀人の手を掴んだ。
「・・・はい」言葉にならない感覚の中、秀人は静かに頷いた。

部屋に入り落ち着かなかった秀人が本棚を見て歓喜の声を上げた。
「凄い・・・」
その本棚には中国漢方に始まり世界のさまざまな国の言葉でかかれた、その国に伝わる色々な薬草の本が所狭しと並べてあったからだ。
「これっ、全部蓮さんの本ですか?」
「そうだよ、苦労して集めたんだ・・」
「手に取って見てもいいですか?」
「どうぞ、ごゆっくり」

蓮に許可をもらい秀人は嬉しそうに本棚の前に座り込んで、1冊1冊丁寧に開き始めた。
こうなったらもう淹れてもらった紅茶が冷めようが秀人には関係なかった。
貪るように珍しい書物を読み漁っている。

秀人が医者になろうと決めたのは父の跡を継ぐ為だったが、本来の興味は医学よりも薬学の方にあったのだ。

ふと、秀人の指が古い日本語で書かれた書物の背表紙に触れた。
「あ・・っ」
その時凄い勢いで血が逆流した・・・
「れ・・蓮さん・・・助けて」
「どうしたの?また具合が悪くなった?」
「ちがう・・・この本を読みたいのに・・体がいう事を効かない」

蓮はまず本棚の前から秀人の体をソファに移し座らせた。
そして、少し震える指で蓮は秀人が読みたいと言った書物を本棚から抜き取り、秀人の隣に並んで腰を下ろした。
「ほら、俺が頁を捲るから隣で見てて」
「はい・・・」
まるで親子の読み聞かせのような姿勢で二人肩を並べて座っている。

何頁か進んだ頃に秀人が青ざめた顔で蓮を見詰めて口を開いた。
「蓮さん・・僕これを以前に読んだ事があるような気がする・・」
「それはいつ?」
「判らないけど・・ずっと昔。もしかしたら父の本棚にも同じ物があるのかもしれない」
「これは・・これはね・・ほら色々小さく書き込みがしてあるだろう?この書物を持っていた人が書き留めた文字だよ。だからこれは世の中に1冊しかない・・」

蓮は覚醒してから、ありとあらゆる人脈と時間とお金を掛けてこれらの書物を探した。
もっと多くあったはずだが、蓮の手に入ったのはこの1冊だけだ。
価値を見出せなかった者が処分したかもしれない、もしかしたら戦火で焼けてしまったのかもしれない。
だからこの1冊だけでも手に入ったという事は殆ど奇跡みたいなものだった。

これは蓮三郎という男と秀麗という男の形見であり、愛し合った記録でもあった。

「秀人君、外はもう暗いから今日はこのぐらいにしておけば?」
「えっ?」
このマンションに到着した時はまだ夕方だった、自分がどれだけ夢中になって本を読み漁っていたのだろうか?と秀人もさすがに顔を赤くしたが、まだ帰りたくはなかった。

「僕、泊まったら駄目ですか?」
「俺は構わないけど、お家は大丈夫なの?」
「電話します」秀人は自分の口から信じられない言葉がどんどん飛び出してくるのに自身驚いてはいたが、この書物の前から離れられない気分の方が大きかった。

携帯を取り出し時間を見るともう夜の9時になろうとしていた。
「僕、ずっと?」3時間近くも部屋の主である蓮を無視するように本を読んでいた事実に呆れながら尋ねた。
「そう、お茶も飲まずにね」蓮がからかうようにそう言った。
「ごめんなさい。僕帰った方がいいですね」
「いいよ、家の方の許可がおりたら泊まっても」

蓮の優しい言葉に秀人が嬉しそうな顔で電話を掛けている。
最近では大学生の男がいちいち外泊の電話を家に入れるほうが珍しいだろうが、秀人は母親に電話を掛けた。
「今日は隆弘の家に泊まるから」と。

母親の許可をもらった秀人は悪戯が見つかった子供のように蓮に向かって「母の知らない人の家に泊まるって言ったら心配するから・・・」母に吐いた嘘の言い訳をした。
「そうか・・今度秀人君の両親にも会わせてくれるかい?」
「はい」

「蓮さん、続きが読みたい」
「いいよ、その代わりお願いがある」
「はい?」
「俺は昔・・・恋人を膝の上に抱いてこの本を読んでいた・・・ちょっと当時を思い出させてはくれないか?」
「・・・・・」秀人が思った昔と蓮のいう昔には大きな違いがあったが、秀人は蓮が以前に付き合っていた人との思い出に浸ろうとしているのなら、そのくらいはお返しをしようと思った。

「いいですよ、僕・・一応男ですけど、それでもよければ」
「充分だよ・・・おいで」
そう言うと蓮は長い脚を開いてその膝の間に秀人を座らせた。
項に息がかかるような体勢は少し恥ずかしくはあったが、何故かとても落ち着くのを秀人は感じていた。
そして、内心蓮が誰かとこんな時間を過ごした過去があることを少し恨めしく思った。

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COMMENT - 10

けいったん  2011, 02. 22 [Tue] 10:08

蓮、その調子で~

秀人の微妙な変化・・・蓮の 優しい誘導が 今の所は 成功♪
でも 兼兄”上様”が、隆弘が、黙ってはいないよね~σ(´ x `;*)んー

NKさま、よくぞ 兼兄上様の”上様”に 気づいて下さった!
おぬしも 中々 やるのぉ~( ̄ー ̄)ニヤリ...byebye☆

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ちこ  2011, 02. 22 [Tue] 10:10

お膝抱っこが刺激的~♪

kikyouさま~っ、動かない蓮さんへの刺激がお膝抱っこですかっΣ( ̄□ ̄;)き、危険なのではっ!←□四角いお口で今日も攻めてみました、えへっ(*^□^*)
二人の思い出の本から、秀人くんの記憶を蘇らせる作戦ですね~もう、こうなりゃ、なりふり構わず秀人くんゲット競争に参戦だあ~~~♪
がんばれ~蓮さん♪
って、忘れてた!ちこは上様大本命だった!←一応、小声で・・・こっそりですよ~♪
でも、秀人くんにもちらりと、嫉妬の炎がっ!
そして、なぜかお泊まり(//∀//)
いきなりですかっ(≧▼≦)
その、彼氏とお泊まりの時のお決まりのベタな言い訳は、いかにも『嘘』っぽくていいです(*^□^*)
いや~ん(//∀//)
早くも、抜け出した上様をさらに追い抜きざまに、あっかんべえーーーーっΨ(`∀´#)って感じの蓮さん、このまま無事に帰れるんでしょうか、秀人くん・・・上様~~~次なる作戦はいかがいたしましょうや!!

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此花咲耶  2011, 02. 22 [Tue] 10:21

kikyouさま

書き込みのある、和綴じの薬草の本。
仲良く本を眺める二人を、ほかの記憶のある誰かが見たら蓮さまと秀麗の(呼び捨てかよ~)過去の姿が二重写しになって見えたはず…と、思いました。
お兄ちゃんの記憶も戻るのかしら。
いっそ、戻らないほうが幸せかもとか、納得するためには必要かもとか考えます。
きっと薄っぺらな本だと思うのですが、それを手に入れた時の泣きそうな顔想像してしまいました。
きゅんきゅんします♪

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梨沙  2011, 02. 22 [Tue] 21:56

キャッ(^^*))((*^^)キャッ

蓮さん さりげなく攻めてますね!!
秀人も蓮さんと会ったことによって血がざわめくというか 何かを感じつつあるんですね(*^.^*)
良かった② 蓮さんの気持ちが秀人に届いて欲しいです うん!(^^)
蓮三郎と秀麗の思いが2人へと繋がっているのですから~o(≧∇≦o)(o≧∇≦)o 

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k.k  2011, 02. 22 [Tue] 23:36

kikyouさんの柔らかい文が大好きですョ。

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kikyou  2011, 02. 24 [Thu] 00:30

けいったんさま  蓮、その調子で~

こんばんは。遅くなりました(。-人-。) ゴメンネ

うふふ・・兼兄上様・・(*^_^*)

ここで重大な事実をひとつ。

まだ蓮と兼介は出会っていません!!( ; ロ)゚ ゚

そのご対面もちょっと楽しみなんですが・・・
いつになるのか?
ハイ頑張ります!

コメントありがとうございました。

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kikyou  2011, 02. 24 [Thu] 00:35

ちこさま  お膝抱っこが刺激的~♪

こんばんは。遅くなりました(*_ _)人ゴメンナサイ

はい!いきなりお泊りですねぇ。
ベッドはどうしましょう?(笑)

当時の魂が篭った本に秀人も何か感ずるものがあります。
そろそろヤバイです。
楽しみにしてて下さいネ。

兼介!この事を知ったらどうするのでしょう?
エヘヘ・・・どうしましょう?
相変わらずいい加減な作者で申し訳ないです。

コメントいつもありがとうございます(*^_^*)
(□文字、可愛いです)

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kikyou  2011, 02. 24 [Thu] 00:37

此花さま

こんばんは。遅くなりました^^;

実は外出していてこちらのコメントは電車の中で拝見しました。

携帯だと先にコメントが出るんですよね。
読みながら「あぁ此花さんだ」って(笑)
直ぐにわかりますね、やはり。

何というか、しっとりとした艶のある文体。
やはり独特の世界をお持ちだなぁって感じました。

いつも読んで下さって本当にありがとうございます*:.。☆..。.(´∀`人)

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kikyou  2011, 02. 24 [Thu] 00:41

梨沙さま  キャッ(^^*))((*^^)キャッ

こんばんは。
お返事遅くてごめんなさい(;´Д`A ```

蓮も攻めたり引いたり気持ちが定まっていません^^;
でも秀人がもう少し思い出さない限り、そんな事を告白しても
笑われてしまいますからね。

難しい所です。
でも頑張れ!蓮。
でもでも・・・兼介・・・・う~ん

私にも見えない結末を楽しみにしてて下さいネ。
コメントありがとうございました(*^_^*)

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kikyou  2011, 02. 24 [Thu] 00:43

k.k さま

こんばんは。

柔らかいですか?^^

いつも、本当に開設当時から読んで下さってる方にそう言われると
嬉しいです。

頑張って、でも楽しみながら書いていきます(*^_^*)

コメントありがとうございました。

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