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悲願花 3

 06, 2011 00:27
「まだ終わらないのかな……」シロも時間が気になったのか、ポツリとそんな事を呟いた。
その時千夜の胸ポケットに入れてあった携帯が振動で着信を知らせる。
一瞬ギクリとして携帯を取り出し、液晶画面を確認すると弟千里からの電話だった。

「あ……」今頃になって千夜は、譲二の歓迎会をする約束を思い出した。
剛の事故のせいですっかり忘れてしまっていたが、その前に速水に拘束されそうになっていたので、どちらにしても参加出来なかったかもしれない。

「千里?」
『兄貴まだ仕事終わらないの?折角の料理が冷めてしまうよ』
千里が通常の生活を送れるようになってから、一番初にやりたがった事は料理だった。それまでは食事制限付だったので好きな物を思いっきり食べられないし、食べた事のない料理もあったのだ。
それを取り戻すように、料理を覚え好きな物を食べている。
100%完全ではないが、普通の生活は充分に送れていた。

「千里ごめん、急な手術が入って院長がまだオペ中なんだ」
申し訳ない気持ちで、千里に詫びた。
『そうなんだ、速水先生も大変だね……』
長い療養生活で、医師の大変さも患者の大変さも千里は身を持って知っていたから、そういう緊急の予定変更でも文句を言った事は無かった。

「だから、譲二には申し訳ないけど二人で始めていてくれないか?」
『うん、分かった。兄貴今夜は帰って来られるの?』
「……まだ分からない、もしかしたら帰れないかもしれない」
『そう。何か僕に出来る事があったら電話して』そう言って千里からの電話は切れた。

「シロさん、ごめん弟でした」
「うん、僕に構わないでいいよ。弟さん、もう大丈夫なの?」
「大丈夫。それに今夜はアメリカから知り合いが来ているから……」
いや正確には遊びに来ている訳ではない、一緒に暮らそうとしている譲二を思い出し、千夜は内心頭を抱えていた。


それから30分程して、速水が手術着のまま部屋に入って来た。
疲れた顔でソファに凭れ掛かっていたシロが勢いよく立ち上った。
「速水先生!!剛は?」
「ああ心配するな、大丈夫だ。ガラスで切った痕は残るが、命に別状はない」
「あぁぁ良かった」急に力が抜けたのだろう、シロが膝から崩れ落ちた。
そんなシロを支え、「病室に行きましょう」と声を掛けた。

「特別室だ。だがあと30分は目を覚まさないぞ。後はお前が何とかしろ千夜」
一先ず特別室に運び入れたようだ。その辺のやり繰りは、もうすっかり千夜に任せても心配はいらなかった。
この病院に正式に就職してから現事務長と速水から病院経営の何たるかは叩き込まれていた。

「特別室だなんて……僕らはそんなに金持っていないよ」
シロが情けない顔で呟いた。
「お前らから金なんか取れるとは思っていないから安心しろ。千夜俺はシャワー浴びて来る」
そう言うと、速水は奥にある部屋に入って行った。

速水の言葉は、自分がシャワーから出る前にここに戻って来いという、千夜にしか分からない意味が含まれていた。
「シロさん、行きましょう」
そう言って千夜は、シロを剛の眠る部屋に案内した。
まだ麻酔が効いて意識は無いが、そう辛そうな表情ではなかった。それはシロも感じたのだろう安心した吐息を吐いて、ベッドの脇の椅子に座り剛の顔を覗き込んだ。
「剛……」点滴の針の刺さっていない方の手の平を、労わるようにシロは撫でていた。

「シロさん、任せていいですか?剛さんの目が覚めたら院長の携帯に連絡もらえますか?」
「うん、分かった。千夜君ありがとう」
「いえ、俺は何もしていないし……」そう言って千夜が微笑むと
「千夜君のお陰で僕も落ち着いていられた……ありがとう」
「じゃちょっと院長の世話に行ってきます。また後で」
「千夜君も大変だね……早く行った方がいいよ」
逆にシロに後押しされるように、千夜は病室を後にした。

急ぎ足で院長室に戻ると、まだ速水はシャワールームにいるようで安堵した。
着替えを用意して、洗面所に行くと「千夜か?」と中から声が掛かった。
「はい……着替え用意しておきましたから」と言葉を返す。
「お前も入って来い」
「……」手術の後に繋がる事は度々あったが、今日のように知り合いの場合は何となく気が引ける。

ドアの前で躊躇っていると、ガタンとその扉が中から開けられた。
「え……あ……」突然の事で千夜は固まったままでいると「何俺とは入らないで、家に帰ってから譲二とでも入るつもりか?」などと聞かれる始末だ。

「どうして譲二が?」ここで出て来るのだろうか?と思ってしまう。

「風邪引きますよ……」扉を開けたままの速水に向かって言うと、突然服を着たままなのに引っ張り込まれてしまった。
「ちょ、ちょっと待って」千夜は携帯やメモ帳が入っている背広を慌てて脱ぎ捨て洗面台に放った。
「素直に入ってくれば濡らさなくて済んだものを……」などと溜め息混じりに言う速水に少し腹を立てる。
濡れたワイシャツが肌に纏わり付き気持ちが悪かった。
千夜は、濡れたシャツのボタンを上から順番に一つずつ外す。
もう以前のようにボタンを外す指先が震えて手間が掛かる事は無かった。

全部ボタンが外れたのを見計らっていたのか、速水がそのシャツを袖から抜いた。
千夜がベルトを緩めると同時に速水の大きな手がその中に差し込まれる。
「あっまだ……」下着の上からその形を確かめるように、速水の手の平が千夜を弄り始めた。
「あ……っ」千夜は反射的に腰を引くが、速水の指は適格に千夜の感じる箇所に触れてくる。

「千夜……俺の部屋に越して来い」
「え……?」驚いた顔を上げた千夜の足元に抜き取られたベルトが音を立てて落とされた。





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■すみません、やっと更新です。コメントのお返事相変わらず遅れています。

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COMMENT 1

梨沙  2011, 07. 06 [Wed] 15:30

ヾ(〃^∇^)ノわぁい♪

まさかまさか 続編をよめるとはとっても嬉しいですが
譲二やってきたんですね!! 速水さんはイライラモード全開ですね( * ^)oo(^ *) クスクス
今回は どんな展開が待っているのか楽しみです(*^^*)
けれど、タイトルの文字が何か哀しさを纏っているんですが(;´▽`A`` 気のせいかな!?

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