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悲願花 5

 10, 2011 10:27
「あ……」速水の声に千夜は、手にした携帯を今更戻す事も出来ないで、固まった。
「ごめんなさい、シロさんかと思ってつい出てしまいました」
千夜は、そう言って携帯を速水に向けて差し出した。

「見たのか?」真っ直ぐに目を見る事が出来ない千夜は、その声だけでは速水の感情を読み取れなかった。
「……はい、ごめんなさい」
少しの沈黙が、千夜にとってはとても長い時間に感じた。

「まあいい」吐息混じりの声に千夜の身が竦んだ。
「あの時、俺はお前に惚れた」
「え……っ」
千夜はどさくさに紛れて、とんでも無い告白を聞いた気がした。
お互いの気持ちは2年前に伝え合っていたが、まさか画像として当時の千夜が今でも残されている事に驚きを隠せなかった。

「自分でも……いい顔で笑っているなぁって思いました。けど……」
「けど?」
「いえ……」
奨学金で大学に通い、空いた時間の殆どはアルバイトに精出していた。
幽霊部員の千夜は、その実力を買われ大会にはどうしても出場してくれと頼まれる。
千夜も、人並みに大学生としての思い出も欲しくて、時間を作って出場していたのだ。
苦学生だったが、充実した時間は過ごしていた。

剣を振っている時は何もかも現実を忘れられた。ましてや、試合ともなれば熱も入る。そんな中、良い結果を出せれば自然と笑顔も輝くのだろう。
―――もうあの笑顔は無理だ……
そう思った瞬間に速水に腕を取られ引き寄せられた。
「心配するな、お前の笑顔は曇ってなんかいないから」
千夜の不安を見透かしたような言葉に苦笑してしまう。
「外科医じゃないのかよ……」千夜には珍しく悪態めいた言葉を吐いた。
「ああ、千夜専用の精神科医だ」
「ばか……」
千夜は、そう呟いて速水の背中に腕を回した。

「千里君の事は心配するな、あの子は千夜とは違って真正だ」
「何それ?」
千夜は速水の肩に顔を乗せたまま聞いた。
「まだ千里君が中学生の頃に相談を受けた事がある。『僕、若い看護師さんよりも若いドクターにドキドキするんだけど、病気かなぁ?』って」
「千里がそんな事を……?」
千夜は自分には何も言っては来なかった事を少し不満に思った。

「他人だから聞ける事もあるんだ」
「やっぱ外科よりも精神科が合っているんじゃない?」

「千里君よりもお前の方が心配だ……」
「え……?」
「お前は……俺が無理に開発した。いつか気持ちが女性に戻ってしまうんじゃないかと、俺はいつも不安だ」
初めて聞いた速水の不安な声に千夜は驚いて顔を引き、速水の顔を正面から見た。
「速水さんでも、そんな事思うんだ?」
自信家の速水とは思えない言葉に率直な意見を述べた。

「当たり前だ、俺だって今は人間だ」
その言葉に、以前に聞いた速水の告白を思い出した。
この男は父親に機械のように育てられた事を……

「ごめん……でも俺も、他の男をそういう目で見た事もないけど、女の人をそういう目で見た事もない」
そう答えながら千夜は改めて、誰かを性愛の対象に見た事はない事に気づいた。
「俺も相当だ……」自嘲気味の言葉が自然と千夜の口から零れた。

「何が相当なのだ?」訝しがって速水が尋ねた。
「俺も相当……速水さんに惚れているって事だよ、うっ」
言い終わらないうちに、千夜の口は速水に塞がれてしまう。

何度も絡められた唇が離され「鎮まったのに、火を点けるお前が悪い」と速水が耳元で囁く。
「先生、剛さんの所に行かなくていいんですか?」
千夜は理性を奮起して、そう囁き返した。
「くそっ……」
そう呻いて千夜を乱暴に離し、速水は身支度を整える準備をした。
「俺が戻って来るまで帰るんじゃないぞ」
「シロさんに何か必要な物が無いか聞いてきて下さいね」
「全くお前もお人よしだな……」
呆れたような言葉を残し速水が部屋を出て行った。
(貴方には敵わないよ……)心の中で千夜は呟いた。

千夜は事務長に見せてもらった帳簿に孤児院への寄付があるのを知っていた。
今夜シロから聞いた孤児院と同じ名称だった。

速水が居ない間、千夜は千里に電話を掛けた。
「ごめん、今夜は帰れそうにない、知り合いが怪我をして担ぎ込まれた」
「そうなの、で大丈夫なの?」
先に怪我人の心配する弟が好きだと、千夜は思った。
「ああ、無事手術も終わって、意識も戻った。今院長が様子を見に行っている」
「良かったぁ。じゃ帰れないのも仕方ないね、先生にもお疲れ様って伝えておいてね」
「分かった。……それで譲二は?」
「変わろうか、ちょっと待って」

電話口で譲二を呼ぶ声の甘さに千夜は気づいた。
「もしもし、あれから緊急オペだったんだ?」
譲二も病院関係の人間だ、緊急オペの大変さは知っている。
「はい、だから今夜は帰れません。せっかく譲二が来たのに」
「俺の事はいいよ、速水ドクターのケアを頼むよ」
その声に厭らしい気持ちは含まれていない事に千夜は安堵した。

「はい、今度ゆっくり飯食いましょうね」と千夜は電話を切った。
携帯を握り締めソファに深く腰を下ろした。
千夜は、速水に言われた千里の事が気になって仕方ない。
自分の事はすっかり棚に上げているとは思っても、やはり諦めきれない千夜だった。




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COMMENT 1

梨沙  2011, 07. 10 [Sun] 12:36

( ̄~ ̄;) ウーン

悩ましいですね~ 千夜にとってみたらね(^-^;
でも、こればっかりは2人の問題ですからねポリポリ (・・*)ゞ
千里は幸せを掴むと思いますよ!!

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