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悲願花 7

 14, 2011 01:08
翌日千夜は、だるい体に鞭打ちながら仕事をこなした。
「大丈夫か?」すれ違いざまに速水が耳元で囁いて行くのが、腹立たしくもあり恥ずかしくもある。
何かを忘れるように強請った自分の全てを速水は受け入れてくれた。
揚句の果て「悩んでいる千夜は可愛いな」などと言われてしまった。
逃げても仕方のない事なのに、千里と向き合わない日々が続いた。

そして、明日から譲二が勤務するという夜、千夜は譲二に呼び出されバーのカウンターに並んで腰を下ろしていた。
勿論速水には、譲二と会う事は伝えてある。

「俺は、千夜とゆっくり話がしたいと思っていた」
「すみません……」
「千夜は、俺があの部屋に住む事は反対なのか?」
「反対という訳ではありませんが……」
「が?」はっきりしない千夜にアメリカで育った譲二はイライラしているかもしれないと千夜は、申し訳ない気持ちと、そう感じるのなら出て行って欲しいという気持ちが交差していた。

「譲二さん、正直に答えてくれますか?」
「俺はいつでも正直だよ、可愛い千夜」
からかいながら、千夜の頬をツンと突く譲二にあからさまに不快な顔を千夜は見せた。
「ああ、悪い、あまりにも千夜が真面目な顔をしているから苛めたくなった。続けて」

「譲二さんは、千里の事をどう思ているのですか?」
「千里の事?勿論可愛いと思っているよ」
「それだけですか?」
もしかしたら、千里の片思いなのかもしれないと、千夜は淡い期待を持った。

「可愛いくて、愛しい……」
「……」
「俺たちは愛し合っている」
(愛し合って……)
譲二の言葉は、千夜の一縷の望みを粉砕してしまった。

「千夜?君もドクター速水を愛しているのだろう?」
「……千里には、普通の生活を送って欲しかった」
「どうして?男同士愛し合う事が悪いと千夜が言えるのかい?」
「悪いとは言っていません、ただ……」
千夜とて自分の気持はエゴや我儘で、勝手だとは重々承知しているのだ。
そんな千夜の肩に譲二が腕を回して来て、千夜を抱え込むように話し始めた。

「でも、まだ抱いていないから」
「え……?」
不規則な千夜に比べて時間は充分にあったはずだ、千夜はもうとっくに二人はそういう関係になっていると思っていた。
「何もしていないとは言わないよ、でも最後までは行ってはいない」
「それは、千里の体の事を考えての事ですか?」
もしかしたら、まだそういう行為は体に負担が掛かり、良くないのかと違う意味で心配をしてしまう。

「いや、体はもう問題は無い」
「じゃ何故?」
千夜の素早い質問に譲二が含み笑いをしている。
「千夜、君は賛成なのかい?それとも反対なのかい?」
そう揶揄され、千夜は顔が熱くなるのが分かった。
自分の言っている事は支離滅裂だ。

「千里がね……」
もしかして、千里がそうなる事を拒んでいるのかもしれない。
また千夜の気持ちが期待に膨らんで、譲二の次の言葉を待った。

「千里が、兄貴に……許してもらうまでは、駄目だって」
「千里がそんな事を……」
「『兄貴には返せない程の恩がある、償いきれない程の罪がある……僕は兄貴が駄目と言えば、生きる事も愛する事も止められる』って言うんだ……」

自分の前では、とても明るく朗らかな弟がそんな事を考えていたとは、千夜は驚くと同時に胸が締め付けられるような痛みを感じた。
自分以上に罪の意識を感じている千里が、不憫で仕方なかった。
「千里……」ずっと病弱で、好きな事も出来なかった千里に、好きな事をさせる為の手術じゃなかったのか?
千夜は理想だけを押し付けようとしていた自分を責めた。
千里には誰よりも幸せになって欲しかったのに、危うくその幸せを一番望んでいる自分が壊してしまう所だった。

「譲二……幸せの形は色々だよね。千里は千里の幸せを見つけて欲しいって伝えてくれないですか?」
「千夜……許してくれるのか?」
「許すなんておこがましい事だと気づきました。千里の人生だから……今まで辛かった分幸せになってくれって伝えて下さい」
「オッケー!千夜ありがとう」
「譲二……千里を宜しくお願いします」
千夜は立ち上り譲二に頭を下げた。

カラン―――優しい音が来客を告げる。

「千夜、話は終わったか?」
まるで会話を聞いていたかのように速水が店に入って来た。
「はい、終わりました」
「そうか、じゃ帰るぞ。譲二明日から仕事だ、色々慎めよ」
速水はそれだけ言うと、千夜を促した。
「譲二さん、俺は近いうちに速水院長のマンションに引っ越します。」
「千夜……俺たちが追い出した事になるのかい?」
言葉は真摯だが、譲二の目は笑っていた。
「いいタイミングだ」千夜の代わりに速水が答える。
そんな速水をちらっと見て、千夜は複雑な笑みを浮かべた。

「幸せにならなきゃ生きている意味は無いからな」
その速水の言葉は誰に向けた言葉なのだろうか?と千夜は思ったが、きっと全員だ。
皆が幸せになれる方法があるのなら、素直にそれを受け入れればいい事なのだ。

速水がドアを開け、千夜の背中に手を添えさり気無くエスコートする。
鬼畜な癖に紳士で、冷たい目をしているのに触れると暖かくて……

千夜は速水に並び車まで歩きながら、「迎えに来てくれてありがとう」と呟くように言った。
少し飲んでいる千夜が今夜は助手席に座った。
「すみません、飲んでしまって……」
「珍しいな」普段殆ど飲まない千夜に速水は、そんな言葉を掛けた。

「まあいい、ほろ酔いのお前もまた違う味がするだろう」
「え……?」部屋に戻ったら、きっちり喰う気満々の速水の横顔を眺めた。
その時千夜の携帯が胸ポケットで震動した。
見ると千里からのメールが届いていた。

『お兄ちゃん、ありがとう。僕は譲二が好きだよ。
生きていて良かった……許してくれてありがとう。僕凄く幸せだよ』
(千里、幸せになろうな……)
千夜は、流れるテールランプがまるで彼岸花のように見え、窓の外をじっと眺めていた。
(母さん、ありがとう。俺と千里を産んでくれて……ありがとう)




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■悲願花は今回の話で終わりになります。
読んで下さってありがとうございました。

譲二と千里もちゃんと出来るか……見届けなければなりませんので(笑)
悲願花の番外として、1・2話書こうかな?と思っています。

最近夏バテ気味で、更新時間が不定期になるかもしれませんが、
時々チェックして下されば有難いです。


■お知らせ■

「小さな愛の芽吹き」のくっく様が、7月に目出度くブログ開設1周年を迎えられました。
1周年おめでとうございました!

最近は更新をさぼりがちな彼女ですが(笑)学業が忙しいかと思いますので
皆様も暖かい目で見守って下されば私も嬉しいです。
お若いのに、とてもしっとりとした素敵な話を書かれます。
が!まだ数が少ないですwww

今回私が以前ここでリレー小説として書いた話の、そのまた続きを
お祝に書かせてもらいました^^
ファンタジーと呼ぶにはあまりにも稚拙なので、ファンタジーもどき?とでもいいましょうか?

お恥ずかしいですが、くっく様がブログで公開して下さいました。
漆黒の黒天使「魅羅」というタイトルです。
宜しかったら、読んで下さいネ!

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COMMENT 1

-  2011, 07. 14 [Thu] 18:24

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