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天使が啼いた夜(修正版)4

 28, 2015 02:44
「賢介さん、お願いがあるんですけど今夜会えませんか?」
紫苑は弁護士の南條賢介に電話していた。
「いいよ、紫苑のお願いを断れる訳ないだろう、今夜マンションへ行くから」
 紫苑はバイトに必要な保証人を賢介に頼もうと思っていた。唯一の血縁者祖母は長野の老人ホームだ。いらぬ心配は掛けられない。賢介とは物心付いた頃から見知っているし、今の紫苑にそういう事を頼める者は彼しかいなかった。
 基本的に紫苑は一人暮らしのマンションで自炊生活していた。両親の遺産など管理していたのは祖母だったが、紫苑が二十歳になった時全てを弁護士に託した。成人しているのだから本人が管理すべきなのだろうが、まだ若い紫苑が管理するには、あまりにもその額は多すぎた。
 弁護士である賢介の話だと、マンションの管理費から水道光熱費税金に至るまで、全てのライフラインは一冊の通帳からの引き落とし、紫苑の手を煩わせる事などひとつもない。笑いながら「三十年は何もしなくていいぞ」と賢介に言われている。そうして社会人になるまでは、毎月十万円の生活費を現金で貰っていた。
 ライフラインが確立されている上では、学生の紫苑が必要なお金などたかが知れている。元々派手に生活している訳ではないので、毎月かなりの額が残ってしまい今月は必要ないと言っても、決め事だからと渡される。出来る事なら必要な生活費は自分でバイトして稼ぎたい。自分の全てが祖母の負担になっているのではないかと、不安になってしまう紫苑だった。

 紫苑と一緒に生活を始めた時はまだ祖母の咲は四十九歳だった。自由に生きていた祖母にとって紫苑はお荷物だったのではないか? と紫苑はいつも考えてしまう。だが、紫苑は優しくて厳しく、そうして美しい祖母が大好きだった。早く一人前になり再び一緒に暮らしたいと紫苑は願う。
 紫苑は十二月の祖母の六十歳の誕生日に、自分で稼いだお金で記念の贈り物をしてあげたいと思っていた。
夕飯の準備をしながら、明日からのバイトに夢を膨らませていた時に玄関のチャイムが鳴った。賢介だと思った紫苑は確認もせずにドアを開けた。
「早かったですね?」
 だが、ドアの前に立っていたのは見も知らずの男性だった。
「あのぉ、どちら様でしょうか?」
「はぁ? 明日から君の雇用主の堂本です!」
 と、かなり憤慨している様子の男性に紫苑は驚いた。秘書の浅田とはあの後色々打ち合わせや話をしたけれど、社長とは五分程度しか顔を合わせてない上、緊張していてきちんと見ていなかった。
(あぁ失敗、もしかして働く前に首?)
「申し訳御座いませんでした!突然の事で面食らってしまいまして・・・スミマセン」
「まぁいい、突然で悪いのは俺の方だ」
(俺、今まで忘れられた事があったっけ?)
「部屋には上げて貰えないのか?」
 紫龍は自分でも随分非常識な事を言ってしまったと思ったが、忘れられてたショックで思わず脅すように言ってしまった。だが紫苑は、そんな事も気にせずに中に招き入れる。紫龍はダイニングの様子を伺い口を開いた。
「悪い食事中だったのか?」
「いえ、料理中です。もし宜しければご一緒にいかがですか?」
 いくら雇い主とはいえ、一度会っただけの男を確認もせずに部屋に入れ、挙句には食事に誘う? 何か無用心じゃないか? と思いはしたものの、テーブルに並ぶ懐石のような和食を見ると、紫龍の腹の虫が急に騒ぎ出した。
「これ全部櫻井君が作ったの? 凄いね」
「はい、祖母に料理を習ったもので、和食が中心なんです」
 はにかむような笑顔が色っぽいと思いながら、紫龍は紫苑の顔を見詰める。
 その時「ピンポーン、ガチャ」と何の為のチャイムかと思うような音がした。
「紫苑!元気だったかぁ?」
 声も大きいが体も一八五センチの紫龍よりもまだ大きい男が入ってきた。
(えっ? 一人暮らしじゃ? もしかして同棲?)
 同棲という発想が出てくること事態がもうおかしいのだが、それに気づかない紫龍を鋭い目で男が睨む。
「誰だ?」
 紫苑が慌てて大男に紫龍を紹介する。
「賢介さん、この方は明日から僕がバイトする所の社長さんだよ。彼は今度保証人になってもらう古くからの知人で南條賢介さんです。弁護士をなさっています」
「堂本です」
「南條です」
 剣呑な雰囲気の中、お客が増えた事に紫苑だけが嬉しそうである。
「賑やかな食事になりそうですね。一人で食べてもあまり美味しくないですから」
「そうだな、久々に紫苑の手料理頂こうかな?」
 そうして三人でテーブルに着いた。
「本当に紫苑の作る料理は美味いなぁ、嫁さんに来いよ」
「ふふふ・・・賢介さん、酔っ払っている? 僕はお嫁さんを貰う方だよ」
「いや、お前は俺の嫁さんになれ!」
「すみませーん、そこの体育会系弁護士先生、それセクハラじゃないんですか?」
 堂本も結構酔っている。だが、この弁護士よりも先に潰れる訳に行かないのだ。紫龍は自分ではかなり酒に強いと思っていたが、この大男なかなか潰れてくれそうになかった。
「ふたりとも仲良しだね・・・・・・嬉しいな」
「誰がこんな奴!」
 二人同時に口にして面白くない様子で紫苑を見るといつの間にか、小さな寝息をたててソファに凭れ掛かっていた。
「紫苑・・・こんな所で寝たら風邪ひくぞぉ」
 もうその声はさっきの酔っ払いの声ではなかった。紫苑を寝室のベッドへ寝かしてくると、その後の行動は機敏だった。食べ残しを片付けたり、汚れた食器を洗ったり大男らしからぬ器用さで、あっという間にテーブルは綺麗になった。
「酔った振りだったのか?」
「いや、酔っていたけど、俺ザルだから」
 笑う顔はもう弁護士の顔をしていた。

「なんか、昼間会社で会った時とは雰囲気が違うなぁ……思ったより子供っぽかった」
 じっと一点を見つめていた南條が重い口を開く。
「紫苑は、本来無邪気な子供っぽい子だったんだけどな。あの夜が全てを塗り替えてしまったんだよ」
「あの夜?」
「あぁ……火事で両親をいっぺんに亡くしちまった夜だ。紫苑は小山田の家に出かけていたから無事だった。
火災を知らされて一緒に駆けつけた時には火の海で手の施しようがなかった……紫苑も見た。たった十歳の子供の目の前で両親が焼け死んで行った。ガクガク震える体と心をまだ十歳の子供が支えきれる筈がない。そのまま気を失って、目が覚めたのは二日後の通夜の夜だった。そして、通夜でも葬式でも紫苑は涙を流さなかった。泣けば楽になるのに、泣けば現実を見つめられるのに……あいつはあの日から泣けない子になってしまったんだ」
「どうしてそんな大事な話を初めて会った俺に話す?」
「さぁな? でも紫苑を守る人間は一人でも多い方が助かるからな。ところで社長さん、そろそろ帰れば? どうせ同じマンションだろ?」
「知っていたのか?」
「当たり前だ、このマンションの購入手続きをしたのは俺だからな。セキュリティ、施設・設備は当然のことオーナー、施工会社、最上階の主まで調べるさ」
「へー、じゃあ此処に住んでいるって事は合格だったという事か?」
「まぁな……」
「なんだか煩い親父が付いているって感じだなぁ」
「五月蝿い! せめて兄貴と呼べよ」
「ふーん、兄貴で甘んじるのか?」
「ああ、一生傍に居られるからな」
「そっ、じゃ社長様は帰ろうとするかな? 弁護士先生はお泊り? あ、肝心な事を忘れていた、これ社員証渡しておいてくれ」
「ふーん、たったこれだけの用事で今まで散々飲み食いしたわけ? それと、紫苑の保証人には俺がなるから」
「なんだよ、弁護士先生もたったそれだけの事で俺以上に飲み食いしたわけ?」
「五月蝿いさっさと帰れ!!」
 賢介は罵声を浴びせながら、初めて会ったのに、紫龍に対して昔からの友人みたいな気がしたのは俺だけじゃないよな? などと思いながら紫苑の寝顔をもう一度確認に行き、その頬にキスをしてからクローゼットから毛布を引っ張りだし、大男には少し窮屈なソファに横たわった。




※未公開分を少しずつ加筆修正してアップいたします。
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COMMENT 4

よしこ  2015, 12. 28 [Mon] 22:01

待ってましたー!

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のんちゃん  2015, 12. 30 [Wed] 04:02

うれしぃ〜

2部をもう一回読み直そうかと来てみたら、1部が公開されてる!と大喜びしました。早速公開ありがとうございます。 同人誌あれば申し込みたいなーとまで思ってたので、嬉しいです。更新楽しみにしてます。

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kikyou  2015, 12. 30 [Wed] 06:07

よしこ様

おはようございます。

頑張ります(#^.^#)

他にも沢山あるんですよね……
マジ頑張ります(^^)

読んで下さってありがとうございます。

Edit | Reply | 

kikyou  2015, 12. 30 [Wed] 06:09

のんちゃん様

おはようございます。

今日から休みなので朝です。

一部も頑張って加筆修正しますね。

最初の頃は、書き方もよく分からなくて視点がバラバラで、その修正が多いのです。
よくこの状態で皆さま読んで下さったなぁ……って今更感謝です。

コメントありがとうございました。

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